70頁目「討伐!!」
何人もの冒険者や妖精を犠牲にしながらも、浄域龍シガギュラドは討伐された。
シガギュラドのような龍種の遺骸は人間の手に渡ること無く自然界の動物や精霊、自然そのものが分解するのが古くからの決まり事になっているらしく、シガギュラドの遺骸はそのままそこに放置される事となった。
龍の血は大地を豊かにし植物の成長を促進させる。春になる頃には草木で溢れ、この自然に囲まれた環境でなら腐臭を出す前に自然の生物達が龍を骨にしてくれるだろうとの事だった。
「シルフィ……」
この世界の長距離交通手段は馬車や竜車といった動物を動力の源とした物ばかりで、人の死体を大量に運ぶのには適していない。
そこで、ログズバルトさんがここら一帯の土地の権利を持つ貴族に掛け合い、シガギュラドの遺骸とその周辺の範囲の土地を買い取り霊園とする事となった。
オレ達生き残った冒険者は、各々怪我の治療を終えると死した人達を埋葬した。
意外にもこの世界、というか大陸での埋葬方法は土葬なのかと思いきや主流は火葬であった。衛生面は勿論の事、そもそもこの世界ではキリスト教は存在せず死者の復活も一般的には信じられていないからだ。
「主よ。聖なる炎よ」
キリスト教は存在せず、主なんてものもオレのイメージするものはこの世界にはきっといないが。それでも、そもそもこういうのは相手を悼む心から言うもので、主の存在の有無なんてものは関係ない。
手を組み、目を瞑り祈る。一緒に戦ってくれた仲間達と、エドガルさんとシルフィさん。妖精さん達。皆の死後が善い物であるように。
「どうか、憐れみ給え」
魔法使いさん達が作った炉で死体が焼かれ、一人一人ちゃんと個別の墓穴に骨を収められていく。
「マルエル、修道女みたいめね」
「修道女コスしてるのはメチョチョだろ」
「……」
オレの仕草に突っ込むフルカニャルリに言葉を返し、何かメチョチョから言葉が返ってくるかと思いきやメチョチョは何も言わず俯いたまま黙りこくっていた。ヒグンが優しくメチョチョの頭に手を置いた。
「ぱぱ」
「うん?」
ヒグンを呼んだきり、メチョチョは何も言わず黙った。少し経って、再びメチョチョが口を開く。
「まま」
「あい」
「……フルカニャ」
「め?」
オレ達の事を順番に呼んでいくと、メチョチョはその場で胸を押えて膝を着いた。
「メチョチョ!? どこか痛いのか!?」
「んーん。……あたち、沢山お友達が出来たの」
メチョチョの声が段々震えてくる。オレもフルカニャルリも、気付けばメチョチョの傍に来て彼女にそっと身を寄せていた。
「みんな、みんな、死んじゃった……ゔぅっ、悲しい……がなしぃの……っ」
堰を切ったようにメチョチョの涙が溢れ、彼女は子供の悲しんでいる時にする大きな泣き声を上げた。オレ達三人はただじっと何も言わずにメチョチョを中心に抱きしめ合っていた。
「儂らはこれで失礼する。汝等の戦い、見事じゃったぞ人間共」
「ふどぅかでぁ、だのしそうでよがっだ。たまには郷にがえってくどぅんだよ」
「分かっており。二人ともありがとね、シャクラッチャ。ヒルコッコ」
魔力が回復しシャクラッチャさんが動けるように、ヒルコッコさんもこちらに来てフルカニャルリと少し会話を交わし別れる事となった。
「待ってくれ二人とも!」
お? ヒグンが空間に空けられた妖精ホールに入ろうとした二人を呼び止めた。不思議そうな顔でシャクラッチャさんとヒルコッコさんがヒグンを見る。
「よく見たら二人とも相当の美少女だ! どうだい、僕のハーレムに加わらないかい!?」
「「おい」」
「わー、仲間ー?」
急な仲間勧誘にフルカニャルリとハモって反応してしまった。唯一メチョチョだけ純粋な目でリアクションしている。ヒグンはまず奥にいたヒルコッコさんを見ながら口を開く。
「少女の姿をしながらも少しばかりのっぺりとした綺麗な流動美のシルエット! 人間の歯を模したその凹凸が組み合わさった口も一見人間離れしてはいるもののキュートだ! 是非とも指で触りたい!!!」
「へんだい?」
「変態じゃない紳士だ!!」
「いや普通に変態だろ」
「変態であり」
「変態だよ?」
「満場一致だんですけぉ?」
「おかしいね。僕の仲間はひねくれ者が多いようだ」
「……あだし、あだたの事あんまでぃタイプじゃない」
「はぐぅ!?」
わーお、バッサリフられてる。ヒルコッコさんは申し訳なさそうにヒグンに向けて頭を下げると、そのままズルズル音を鳴らして穴の中に入っていった。
「呵呵呵ッ、フられたのぉ。愉快じゃ愉快じゃ、愛い反応じゃの」
「シャクラッチャちゃん! 君のその、静電気によってなのか広がった頭髪は広がっていながらもツヤツヤしていてとても綺麗だ! 目隠れなのに美形が隠しきれていないところ、姿は子供なのに老人のような喋り方をする所も可愛さに溢れている! どうかな、君は!?」
「仲間にってやつか? よいぞ?」
「まじ!?」
「えっ、仲間になるめかシャクラッチャ!?」
「っしゃああああぁぁぁぁっ!!!!」
ヒグンが腹の底から歓喜の声を上げる。すごいな、ガッツポーズまで。そんなに嬉しいかね。
「儂も子を作ってみたいと思っていた所じゃし、うぬが良ければ子作りもしようぞ。どうする?」
「! 是非とも! 今日にでも作りましょう!!」
「「は?」」
「背後の二人が凄い顔で儂を睨んでおるのじゃが」
しまった、睨む方を間違えた。ヒグンを睨む。
しかし、何故こうもシャクラッチャさんはヒグンの喜ぶセリフばかり言うのか。そんな事を言われてはヒグンは乗り気になるに決まっている。否が応でも仲間に引き入れようとするぞ?
「目隠れのじゃロリぼさ髪美少女から夜のお誘いが来るだなんて! 最近の僕はツイてるなあ、モテ期到来かな!?!?」
「ちなみに、儂を抱くと1億ボルト程の電圧が肉体に流れるが、それでもよいかの?」
「えっ」
シャクラッチャさんの言葉にヒグンが凍り付く。そっかぁ、流石雷をつかさどる妖精さんですね、規模がデカすぎるや。
「えーと……人体って何ボルトまで耐えれるのかな」
「知らん。儂に聞くな」
「一説によると、50ボルト程だったような気がするぜ」
「僕が200万人即死してしまう計算じゃないか」
「最早肉体も残らなそうめね」
そうだねえ、体内の水分で大爆発起こす感じかな。まず跡形もないだろうねえヒグンは。
「あの……放電をしないというのは可能じゃない感じですか?」
「ふむ。どのみち儂のめこに入れるじゃろ? 感電は免れんじゃろ」
「そ、そうですか……」
「どうする? ちなみに、眠っている時やのんびりしている時にも時々放電するぞ。おかげで度々山火事を起こしておる」
「無かったことに……」
ヒグンが項垂れてそう言うと、その結果がわかっていたかのようにシャクラッチャさんは「呵呵呵ッ!」と楽しそうに笑いながら穴の中へ消えていった。
「久しぶりだな、ヒグン」
妖精さん達と別れ、馬車に向かって歩いていたら二人の男女がオレ達の前に現れた。片方はキュレルさん、もう片方は剣士として前線を駆けていた男だ。
「ゲェーッ!? アルデバラン……! キュレルちゃんも!」
二人を前にしてヒグンが珍しく狼狽していた。オレと出会う以前の仲間、つまりこの二人はヒグンを無能扱いしパーティーから追い出した二人。苦手意識を持つのも無理からぬ話だ。
「あれ、シスイは?」
「死んだ。お前の代わりに誘った奴も、大きな見せ場もなくやられたよ」
「それは……残念です」
言葉を選んだ結果、ヒグンは短くそう言った。アルデバランという男はオレ、フルカニャルリ、メチョチョを見てから改めてヒグンを見た。
「そっちは、全員無事なのか?」
「無事、ですね」
「そうかい。女子供を三人も抱えて、よく護りきれたな」
「護ったっていうか、はは……」
「魔獣を見たら逃げ出す臆病者が、大した成長をしたもんだな」
皮肉めいたことを言い出した。なんか嫌な空気。ヒグンは萎縮してるのかな、黙っていた。
フルカニャルリがヒグンの前に立ち間に入る。
「嫌な言い方であり。お前、なに?」
強い目でフルカニャルリがアルデバランさんを睨めつける。アルデバランさんは自分に向けられた感情に不快感を示した、気持ちよく突っかかりに来たのに邪魔をされたのが気にかかったのかな。
「無能だった元仲間が、幼い女子供に囲まれると途端に人並みに動けるようになるんだな〜と感心してたんだよ」
「無能? 人の才能を引き出す能力が無いんだ。信頼されるにも一定の人格がいるのめよ?」
「なに?」
「お前、懸命に斬りかかってたけど、お前の数発分の斬撃でやっと割れるバリアをヒグンはただの殴りつけで割ってため。有能無能っていう話、お前から話さない方が、恥ずかしい思いをせずに済むと思い」
「……ッ」
殴りかかってくるかなあって思って眉間にナイフを投擲する準備をしていたが、アルデバランさんは一度ため息を吐くだけに留まった。
「お前の言う通りだな。すまなかった」
「め。素直であり、肩透か」「フルカニャルリ、そういう物言いは良くないぞ」
ヒグンがフルカニャルリの頭に手を置いて注意する。そのままアルデバランさんに軽く会釈し「すいませんね」と言った。
「ぼくは、ただ、ヒグンの為に……余計な口出しだっためか?」
「いや、めっちゃスッキリしたし爽快感あったからマジでナイス。曲がりなりにも相手は僕の上司だった人だからね、直接文句なんて言えないさ。もっとボロクソに言ってくれ」
「おいおいおーいヒグンおーい?」
「さあ言うんだフルカニャルリ! 実は最近ハゲが進行していて生え際が後退してるめねって言うんだ。進行してるのに後退って、まるで真逆の意味じゃないかウケるって言うんだ」
「お前、ハゲなの?」
「なんで知ってるんだよそんな事! 仲間以外知らないはずの情報だぞ!」
「さっきキュレルちゃんに聞いた」
「キュレルゥ!!」
「いたぁい!!!」
アルデバランさんがキュレルさんにヘッドロックをする。拘束されながらもキュレルさんはヒグンを見て、苦し紛れに声を捻り出した。
「ヒ、ヒグン……良い仲間に恵まれてよかったね」
「キュレルちゃん……」
「あんたがあんなに勇敢な男だとは思わなかった。ちっちゃい子が好きなの?」
「誤解です。僕はロリコンじゃない!」
「それは無理がある」
「それは無理があるめ」
「でもぱぱ、あたちのおへそ吸うの好きだよね」
「三人とも!? 特にメチョチョ! 具体的な例を出さないでくれるかな!?」
明確なエピソードを出したメチョチョにアルデバランさんとキュレルさんの視線が集まった。前が大きく空いた修道服、恥部を隠す最低限の黒いマイクロビキニを身につけた格好。うむ、臍の目立つ服装だ。
「ロリかあ。臍、かぁ……」
「待ってくれ! 僕はキュレルちゃんのようなお姉さんタイプも勿論好きだし、胸も尻も太腿も二の腕も脇も首筋もうなじも足裏も好きだぞ!!!」
「なんだ? 気持ち悪さを自分で更新し続けているぞコイツ」
アルデバランさんが突っ込む。オレと出会った頃のヒグンは多少変態なだけで、今に比べたら大分マトモだったからな。
同性のいる環境ではもっとずっとマトモだったのだろう。発作が起きたヒグンを見て、アルデバランさんは目を丸くしていた。
「……ま、元気そうにやってるのを見れて安心したよ。アルデバランもこう見えて心配してたからさ」
「してないだろ。お前が会いたいって言うか」「照れ屋さんだなあ〜もう!」
アルデバランさんの金玉が破砕された音がした、キュレルさんの膝蹴りがクリーンヒットである。女性には分からないだろうね。それ、殺人未遂です。
「あがああぁぁぁ……何しやがるこのアマ……ッ」
「じゃ、私らの用事は済んだしもう行くよ。じゃあ、ヒグン。マルエルちゃんと、そのお仲間ちゃん達も」
「ああ。元気でね」
「今後はちゃんと危険性を留意した上で魔法を使ってくださいね」
「分かってるよ! じゃ!」
股間を押さえてるアルデバランさんを引きずって、キュレルさんは自分達の馬車に入っていった。
自分達の馬車に着き荷造りをしていると、今度はフルンスカラさん、サーリャ、リカルドがオレ達の元へやってきた。
「おつかれ〜皆! マルエルちゃんナイス陽動! ヒグン君ナイスガード! フルカニャルリちゃんは誰よりも一番相手をかき乱してくれてたし、メチョチョちゃんが決め手となって勝てた! 全員功労賞だよ〜っ!!」
サーリャがオレ、フルカニャルリ、メチョチョの頬にチュッチュッてキスをした。欧米か。そのままヒグンにもするのかと思いきや、ヒグンには「よくやった〜!」って軽い胸筋パンチを贈っていた。
「口チュ〜がよかったな……」
ヒグンが言う。たわけかコイツ。相手彼氏持ちだし。
「ふん。今回ばかりは認めてやるよ、ヒグン」
「フルンスカラ。……あまり僕の仲間達の体をジロジロ見ないでくれ。エロ自慢話はまた後日してやるからさ」
「おいヒグン待て。お前フルンスカラさんになに話した?」
「……」
ヒグンは何も言わないが、フルンスカラさんがオレを見てタラ〜っと鼻血を垂らすのを見て察した。後で説教です。
「マルエル。お前に渡すものがある」
「え、リカルドから……?」
「俺からじゃねえよ」
リカルドがオレの元まで来て拳を突き出してきた。殴られるかと思い身構えたが、そうでは無かった。
自分に向けて突き出された拳になにか入っているのだと思い、拳の下に手を広げておく。
「……えぇ?」
オレの手に落ちたのは、以前あげた子宮の形を模したネックレス、を更にハートに近付けた形のネックレスだった。改造品? なのかな。
「シルフィが、マルエルに渡したがっていた。子宮のネックレスをくれたから、似たのを自作したんだって。受け取ってくれ」
「……ありがとう、ございます」
そんな事を言われると断る訳にはいかない。だけどネックレスか……一応、戦争時代につけるのを義務付けられたドッグタグがあるから身には付けられるけど、デザインな……。
まあ、ガッツリ子宮って感じじゃないからいいか。バニースーツ着用縛りだから目立つけど、この位ハートに寄せてるのならまあアリだな。
「お前達は、これからも冒険者を続けるのか?」
フルンスカラさんがヒグンをはじめ、オレ達全員を見て問い掛ける。まず最初に答えたのは、正面に居たヒグンだった。
「あぁ、続けるよ。ハーレム王への道に、ようやく一歩近付けたからね」
ふざける感じではなく、真っ直ぐ見据えた芯のある声で彼はそう言った。
マトモなサーリャとリカルドがヒグンを冷めた目で見ていたが、フルンスカラさんはまるで戦友を讃えるかのような男らしい笑みを浮かべ、ヒグンと握手を交わした。
「ぼくも冒険者は辞めず。ヒグンの第一夫人として、傍を離れる訳にはいかず」
「第一夫人」
フルカニャルリが答えてヒグンの傍に寄る。ヒグンは「おいおい」と嬉しそうに言うとホットパンツの上から普通にフルカニャルリの尻に手を置き揉んでいた。
やってる事が女侍らしてるチンピラなんだよね。悪い方に女慣れしていってるわコイツ。
「あたちも冒険者やめない! ぱぱとままと一緒に、ハーレム作る!」
メチョチョが答えてやはりヒグンにしがみついた。フルカニャルリとメチョチョは大体身長が同じくらいだから、二人を軽々と抱き上げるとヒグンは二人のモロだしの腹に顔を挟ませた。
「ん〜幸せ……! すべすべロリ肌に挟まれるのは良いぞ、フルンスカラ!」
「羨ましい」
「羨ましいじゃないでしょうがぁ」
サーリャがフルンスカラさんの足を蹴った。賑やかに笑いあっている、楽しそうでよかった。
「マルエルさんは? 続けるのか?」
一人で黙々と荷を馬車に積めていたら個別でフルンスカラさんに問われた。
別に聞かれるのを待っていた訳じゃない、そのまま流れるのならそれでも良かった。オレの答えなんて、何度問われても変わることの無い一辺倒しか用意してないのだから、わざわざ言う必要も無いと感じたのだ。
いつものように、決まった言葉を吐き出す。
「私はヒグンの言う事を面白いなって思って着いてきたんで、飽きるまではヒグンの意向に従いますしどこまでも着いていきますよ。なんでしばらくは、冒険者も続けます」
「しばらくはってか、『囚魂の指輪』ってやつで僕ら物理的に、因果的に離れられないんじゃなかったっけ?」
「は? そんなの聞いてないめ」
おっと。フルカニャルリの目からハイライトが消えたぞ。
「囚魂の指輪って、禁忌呪具の一つじゃなかったっけ……? 他者の未来を一度壊す物だから、使用がバレると結構な重罪になるって……」
「そうなのかい!?」
「確か契約が執行されると指から一生離れなくなるから見た目でバレて捕まるって聞いたよぉ? その指輪をしてると相手も調べられて一緒に牢屋行きだって」
「あ、それなら大丈夫だ。マルエル、自分の指を千切って僕に食べさせたからね。見つかる可能性は低いよ」
「「「えっ?」」」
なんて事ない事のように話しているが、やばい事口走ってるからなヒグン。フルンスカラさん達全員引いた反応してるじゃん。そしてフルカニャルリ、一人だけ穴のような瞳でオレを見てるじゃん。命乞いするから猶予ちょうだいね。
「マルエル。そういう抜け駆けは良くないと思わないめか?」
「……ヒグンがどうしてもって言うから」
「マルエル!? 違うよね、君がっ」「それは本当めか?」
おー近い近い。ヒグンの顔面のすぐ前までフルカニャルリが顔を近づけて尋ねてるわ。ハイライトの無い目で。怖いだろうなあ。
「ぼくにも同じくらいのことをしてるしないと駄目」
「同じくらいのって」「未来を縛るとか、魂を縛るとか、因果を縛るとか、そういう呪いをぼくとも繋げないとダメ。狡い。許せない」
「フルカニャルリ、許せないの部分の怨嗟すごかったな。仲間に向けてそこまで強い負の感情は普通抱かないと思うんだ僕」
「許せない」
「単体は本当に良くないな。もうそれは純然たる憎悪じゃないか。僕らの間に格差は無いし、敵も無いだろ? な? な?」
「……待って、本当に許せないかもしれない。やばい。マルエルの事、ぼく本当に」
「マルエル、逃げた方がいいぞ! フルカニャルリがおかしくなり始めた!」
うん逃げるってどこへ? 今から同じ馬車に乗るわけだけど? オレの出来る事なんて一つじゃんね。
「命だけは……」
土下座した。フルカニャルリに。怖いなあ、少しチビっちゃった。
「ハーレムってのも大変だな、ヒグン」
「分かってくれるのかフルンスカラ……! フルカニャルリを宥めるのを手伝ってくれ!」
「いや。でも複数人の美少女とイチャイチャしてるのムカつくから手は貸さん。自分でなんとかしろ浮気男」
「それでも親友かてめええぇぇぇ!!!」
叫ぶヒグンを鼻で笑いながらフルンスカラさん達は去っていった。遠くでフルンスカラさんがサーリャに尻を摘まれている、あれくらいのカップルが一番健全だよなあ。
「むぅ。またあたち、仲間はずれ」
「ヤンデレ三人は食傷が過ぎるから、君だけはそのままでいてくれメチョチョ! 頼む!」
「私はヤンデレではないんだが……?」
「どこの呪術が一番強いめかね……?」
馬車の中、フルカニャルリは呪いや呪詛、呪術の記された古本を読み漁る。その真剣な様子にヒグンが畏れを抱き、その光景を面白そうに鑑賞しながら睡魔に襲われ船を漕ぐメチョチョの枕になりながら過ぎる時間を過ごした。
浄域龍シガギュラドとの戦いは終わり、オレ達は自分らの家が待つ街へと無事に帰ることが出来た。




