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65頁目「メチョチョしかマトモな奴いないけど」

『おかあさん、どこにいるの?』



 つめたくてくらいうみのそこ。ちいさなわたしはめをさましました。



『おかあさん。おかあさん』



 よんでもおかあさんはへんじをしてくれません。


 わたしをうんでくれたおかあさんは、どこかへいってしまったのです。


 くらいうみのなかにはたくさんのおともだちがいました。けれど、だれもわたしにみむきもしません。


 さみしい。さみしい。


 いつのまにかおともだちがいなくなると、おなかがへりました。


 だからそとにでました。



『おかあさん。おかあさんのにおい!』



 うみからあがると、どこかとおくのくにからおかあさんのにおいがしてきました。


 そんなきがしました。たいりくをわたって、むこうがわのうみにいけばおかあさんにあえるって。


 だからわたしはたいりくにあがりました。


 おかあさんにあいたかったのです。


 たくさんのひとがしんでしまいました。わたしがふむと、ひとはしんでしまいます。



『どいて、どいて』



 でもどこにでもひとはいるからしかたありませんでした。ひとをふまないようにすると、おかあさんにあえません。


 ごめんね、ごめんね。あやまりながらわたしはたくさんのひとをふみました。



『いたい、いたい!』



 つよいひとがやってきました。


 たくさんつよいひとがやってきて、わたしをいじめました。


 つよいひとたちはどんどんふえてきます。わたしがひとりぼっちのりゅうなので、たすけてくれるひとなんていませんでした。


 わたしは、ころされるみたいです。


 おかあさんにあいたかっただけなのに。わたしは、わるいこなのでしょうか?


 おかあさんにあいたいんです。それだけなんです。やめて、やめて。いたい、いたい。もう、いじめないで。


 おかあさんに、あわせて。




 *




「お前のせいだ!!!」



 浄域龍シガギュラドを遠い場所へ転送した後、生き残った僕達は死者の身を一箇所に集めていた。


 エドガルさん、シルフィさん、他にも沢山の人間、妖精さんが犠牲となった。


 それだけの犠牲を払ったが、シガギュラドに深手を負わせることは出来た。尾は切断したし、背中の鱗は剥がれ全身に無数の切り傷も与え、両足にも傷を与えた。


 ……あれだけの総攻撃を食らって、鱗が剥がれた程度。こちらは主力級の冒険者を何人も失っている。追い込まれているのはオレたち人間側だった。



「お前がボーっとしていたせいでシルフィはっ、俺の妹は死んだんだ! どう責任を取るんだよ!!」



 リカルドがオレの胸倉を掴み、鬼気迫る表情で問い詰める。彼の妹であるシルフィさんはオレを庇って死んだからだ。



「責任って、誰も予測していなかった事だろ! シガギュラドが瞬間移動を連発してくるだなんて! あんなの目の当たりにしたら誰でも硬直する!」



 ヒグンがフォローしてくれているが、そんな事を言われて大切な人を失った人間がはいそうですかと納得出来るはずがない。


 リカルドはヒグンを睨み、低い声で威圧した後に言葉を続ける。



「後ろで何もしていなかったお前は黙っていろよ。この女があそこで回避行動を取れていたらっ、シルフィは死なずに済んだろうが!」

「それは」「庇った事を問題として挙げたら、シルフィの勇気を冒涜する事になる」



 ヒグンの言葉に被せて彼を黙らせたのはフルンスカラさんだった。ヒグンの幼馴染で、リカルドとシルフィさんのパーティーのリーダーでもある男だ。



「リカルド、その子を責めるのはやめろ。ここは戦場だを誰がいつ死んでも、おかしくはないだろ」

「フルンスカラ! お、お前、シルフィが死んでなんとも」

「こういう事が起こるのも想定して冒険者になったはずだ」



 リカルドに突き飛ばされ尻餅をつく、炭化した誰かの上に倒れた。



「こいつがっ、こいつさえしっかりしていればシルフィは死ななかった……! シルフィはっ」

「……マルエルの代わりにリカルド、お前があの場に居たとして、お前は最適の行動を取れたと思うか?」

「なっ!? それは……」

「龍が狡猾だった、俺達はまんまと罠に嵌められた。全員がだ。マルエルちゃんを責めるのは違うだろ」

「じゃあ俺は誰をっ……! ……誰に……クソォ!!」



 リカルドは地面を思い切り殴り、そのまま泣き崩れた。



「……リカルド。シルフィを殺したのはシガギュラドだ」



 ただそう言うと、フルンスカラさんはリカルドを連れてオレ達の前から去って行った。サーリャは傷の進行を遅らせる呪符であちこちを廻っているから二人とは別行動だ。


 ……リカルドに絡まれて中断していた治療を再開する。オレ以外にも医療系の魔法使いはいるが、負傷者が多すぎてまだ全然手が回っていないのだ。



「大丈夫か?」



 回復魔法を掛けているオレにヒグンが話しかけてきた。さっきからオレは何も言葉を発せずにいるから心配になったんだろう。


 ヒグンはオレの頭に手を置くと、指に少し力を入れて掴んで「おーい」と頭を振ってきた。まじかコイツ。



「凹んでる相手に普通こんな事しないと思うんですけど」

「マルエルって結構打たれ弱いよね」

「おい。なんで急に喧嘩売る?」



 励ましてくれるのかと思いきやである。ぶん殴ってやろうかな。



「すぐ泣くし、自分より他人を優先して遠慮したりするし、何が起きたらすぐ自分のせいだって思って塞ぎ込むし」

「うぜぇな。なんなの、フルカニャん所行けよ」

「妖精の友人と話してるだろ」

「じゃあメチョチョん所行け。今頃お前がいなくて寂しがってるだろ」

「メチョチョもメチョチョで、この戦いで死んで行った人を弔って他の医療班の人の手伝いをしているよ。二人とも、誰かと共に行動しながら自分のやるべきことをしてる。一人で黙々と作業していたのは君だけだ」

「いいだろ別に。俗に言う陰キャラってやつだ」

「いんきゃら? なんだそれ」

「今の私みたいな奴! 放っとけよ」



 威嚇しながら言うが、ヒグンには効かなかった。こんな奴放っといて治療に集中しようと視線を前に戻したら、後ろからヒグンが優しく抱きしめてきた。



「……おい。周りから冷めた目で見られるからやめろ。人が死んでんだぞ、愚痴られるだろ」

「でもこうしておけば、マルエルに直接酷い事を言う奴も減るだろ?」

「減らなくてもいい、私のせいでシルフィさんは死んだ。……責められた方がしんどくない」



 そう説明しても、ヒグンはオレを離さなかった。


 一人の治療が終わり、別の人の元に向かう間も手を繋いできた。シルフィさんと縁のあった人がこちらに向けて責めるような遠回しな言葉を投げ掛けてくると、ヒグンは耳を塞いできた。


 オレと一緒に居たらコイツまで責める的にされてしまう。そう思って離れるよう言ったら、胸を鷲掴みにされて「やだ〜」と言われた。


 どれだけ拒絶しても離れようとしなかったから、オレはヒグンが離れてくれるのを諦めた。



 大方の治療に一段落がつき、日が昇るとシガギュラドが戻ってくるまで冒険者達は各々、野営地や乗ってきた馬車に戻った。


 フルカニャルリはシャクラッチャさん、ヒルコッコさんと状況の視察に出ており、メチョチョは引き続き重症人の元を巡りながら食料を食べさせたりしているようだった。


 馬車の中にヒグンと二人。会話も無いまま10分ほど座っていた。



「……はあ。なぁ、ヒグン」

「うん?」

「しんどくない? 知り合いが死ぬの」



 閉ざされた空間、ヒグン以外に人がいないから問いを投げた。彼は指でカリカリと保存食品の瓶を開けようとしている。その作業に集中しているためか、答えが返ってくるまで少し間があった。



「……そりゃ、辛いよ」

「エドガルさんとはそこそこ深く関わっていたもんな」

「まあね。エドガルさんの他にも、同じくらい笑いあった飲み仲間も居たし。正直、ここに来てようやく冒険者の洗礼を受けた気分さ」



 瓶をようやく開けることが出来たヒグンは、中身をフォークで突いて口に運んだ。果物の漬物だ。一つ刺してオレに「食べる?」と聞いてきたので答えずにパクッと勝手に口に入れて咀嚼する。



「の割に、平気そうに取り繕っていられるんだな。素直に、すごいと思う」

「あはは……まあ、暮らしてきた村も危険と隣り合わせで慣れていたからね。その慣れが悪い方に働いて、冒険者になりたての頃は魔獣を避けていたんだけれどね」

「あぁ……よくあったの? 村に居た頃、友達が魔獣に殺されるみたいなこと」

「日常だったよ。マルエルは僕の身体能力を異常がってるけど、それくらいしないと生き残れなかったんだ」

「ふーん」



 自分の手を見つめる。血に塗れた映像がフラッシュバックする。嫌な気分だ。こういうストレス障害は散々脳みそ弄り回して緩和出来るようにした筈なのに、顔見知りの死なんて体験するから胸糞の悪い過去を思い出してしまう。



「むしろ、人が死ぬ事に慣れている方が辛くないの。頭ん中でくだらない連想ゲームが始まって、現実の映像にトラウマ妄想がおっかぶさったり」

「うーん……あまり無いかな。生活の一部みたいな物だったし」



 あっさりとした答えだった。まあ、そんなもんか。物心ついた頃からそれが普通だってんなら、殊更トラウマになったりするはずも無いもんな。


 オレは人の死とか縁のないぬるま湯の世界に長い事居たから、自分で脳をどうにかしないとやっていけなかった。発狂して、狂人になってもおかしくなかったとすら思う。



「いいな、そういうの」

「?」

「そういう慣れってこういう世界なら持ってるべき技能だよな。お前やフルンスカラさん、ログズバルドさん辺りを見てると思うよ」



 この三者は、人が死に行くこの戦場で常に他人を守りながら動いていた。ほぼ全員が自分のことで精一杯になっている中、自分を含めて少しでも犠牲が減るように動いていた。


 妖精さんらもそうだったけど、彼女達は戦闘する時は脳の機能が人間から妖精に切り替わるって言っていた。最適化した行動を選択するんだと。彼女らと同じ行動が取れていたこの三者も最適な行動のみを選んで冷静に対応出来ていたのだ。


 それは命懸けの現場で最も必要な技能だろう。オレみたいに、自分が自分がと考えていると他者が危険に晒されてしまう。他人ばかり助けようとしていたら自分が死んでしまう。


 でも多分、オレは三人のように冷静に戦える日はきっと来ないだろう。根本的に向いてないのだ、そういうのは。



「親しい人を作ると、その人の死が記憶に蓄積していって、パンクしそうになるんだ。だから定期的に強引な方法で記憶抜きをしていた。でも、もうそんな事するのも億劫だから、親しい人間関係なんて作りたくなかった」



 外は明るいのに静まり返っている。そのチグハグな感じからも先程の戦場で見た凄惨な記憶が思い起こされるから、話して気を紛らわせようとする。



「軽いノリでお前に付き合って、傍観して、飽きたらどっかに消えようと思ってた。それがいつの間にか、仲間が増えて、知り合いが増えて……」

「……僕の事好きになって、が抜けてるよ」

「うるせぇな」



 なんか茶々を入れられた。話してるのが馬鹿らしくなった。



「マルエル」

「うん」

「……男の側からさ、キスしたいって言うのはキモいかな」

「うーん……タイミングによるのでは。少なくとも今それ言われたら、なんでだろうって引きながら考えると思う」

「分かった」



 ヒグンがオレの顔を手で寄せて、唇をそっと合わせた。唇を離し、すぐ近くに顔がある状態のまま彼の目を見る。



「何がわかったって? なんでだろうって困惑してますけど」

「キスしようとは言わなかったからいいかなって」

「………………お前、私の知らない所でフルカニャとキスしてるって聞いた」

「えっ」

「動揺したな。隠しやがって。ハーレムだなんだと言っときながら、そうやって私一人だけハブにするような奴とはもうキスしねえもんにむっ」



 キスされた。やばコイツ。



「僕は、二人に変わらない愛を抱いてるつもりだよ」

「……お前、つくづくクズ男の才能ないね。ただの変態だわ」

「クズ男の才能」

「うん。今、お前は私と二人だけなんだよ? 誰も見ていなくて、こんなに静かで、ムードもあって。そんなら私の方をより愛してるって言えよ。タボカスの青二才クソチンポ野郎」

「言い過ぎ言い過ぎ」



 ムカッと来たので意図的に言い過ぎてやったらヒグンがツッコミながらも、オレに身を重ねるようにして押し倒してきた。



「あんな戦いがあった後で、こんな場所でやるの?」

「駄目かな」

「駄目……ではないけど。なんていうか、よく興奮出来るなって思って」

「死の恐怖を感じると性欲が高まるって言うだろ? 僕も例に漏れずって所かな」



 そう言うと再びヒグンがオレと唇を合わせてきた。目を瞑り、バニースーツを自分で脱ぎかける。


 ヒグンもオレを脱がそうとしていたのか手と手が当たった。



「……ぷっ、ふふ。変態」



 目を開けて見つめ合うと、なんか面白くて笑ってしまった。誤魔化すように変態と言ってやると、ヒグンはオレの肩や首筋に残った噛み跡を指で撫でた。



「……これ、今思えば変態的な傷だよね。こんなの付けようとしたマルエルも結構な変態じゃない?」

「付けようとしてないです」

「先に噛んできたのマルエルだよ」

「……」

「僕につけた噛み跡を治そうともしなかったし、自分にも傷跡を残してて、変態じゃないは無理があるんじゃないかな」

「……あっ」



 指で噛み跡をより強くなぞられる。ゾワゾワして息が漏れた。顰め面を作って視線を逃がすが、ヒグンはオレの肩や手を置いたまま耳に口を近づけた。



「そういえば、毎日キスしてなくてごめんね。マルエル」

「ふ……ぁ、何の話だよ」

「告白して恋人になった日にさ、言ってたじゃん。キス、毎日してもいいって」

「あれは……」

「やっぱり撤回する?」

「…………しないけど」



 意地の悪い顔でオレの言葉を引き出してくる。コイツいつの間にこんな卑怯になったんだ? 目を逸らそうとしたらキスしてきた。


 なんか押されっぱなしである。ムカつくので舌を入れてヒグンの舌をなぞって口まで誘導し、パクッと咥えて軽く噛んでやった。驚いた顔を少し離す。



「び、びっくりした。噛むなよ……」

「痛かった?」

「痛くはなかったけど!」

「もっとキスしたい?」

「ああ! したい! エッチも!」



 デケェわ声が。アホか。



「エッチもしたいの? どこまで?」

「セックス!」

「本当に声でかい。ねえ、さっきまでの厳かな感じどこいった? 萎えるってそのテンションは」

「ああ、ごめん。……セックス、したい」

「うんそんな低音の囁き声で言われましても。バカがよ」



 バニースーツを脱いで、タイツをずり下げて、耳も外して床に置く。そしてベルトをカチャカチャ鳴らして今にも下を脱いでルパンダイブしそうなヒグンにこちらからしがみつき、逆にオレが押し倒してやった。



「手ぇ止めろ」

「えっ!? 嫌だ! セックス!」

「殺すぞお前」



 拳を振り上げて顔面を殴るフリして手を止めさせ、体の横に手を置かせる。

 ヒグンの両手を足で踏み、裸の状態で、ヒグンのズボンの上に腰を下ろした。布で遮られていて入ってないから、姿勢というか位置関係だけ騎乗位の状態だ。



「どう? 興奮する?」

「答えを聞くまでもないよね。僕のリルボーイが何度もピクピクしてるの絶対感じ取れるよね、その位置」

「うん。すごいね、なんでこんな活力にみなぎってんのお前」

「若者なんでね! さあマルエル、しよう!」

「やだ」

「はあ!? ここまでして!? 裸でまたがってるのに!?!?」

「でかいって声。そろそろ何本か歯ァへし折るよ?」

「ごめんなさい」



 ここは屋外だし、周りには人もいる。馬車の壁1個とっぱらえばここは外だ。そんな簡単にやる筈がないだろ。

 それに、フルカニャルリは卑し女ポイント高すぎて隠れて回数重ねてるかもしれないけど、オレはこれでようやく二回目なんだ、そんなホイホイやらんわ。


 裸のまま、胸を押し付けるようにしてヒグンの体に重なる。全然意識してなかったが、今のオレはロリ巨乳とかいうやつだ。武器を使ってヒグンの性欲を狂わせてやる。



「うおおおぉっ!!?」

「しー、静かに。邪魔が入ってもいいのかよ?」

「くっ、股間が……破裂する……! 僕のチンポがぁ!」

「おい発言自重しろ。エロい事してる時までギャグな感じの空気にするな。それ現実でされると萎えるんだわ」

「僕視点ではギャグでもなんでもないのだが!? 生殺しなのだが〜!!?」

「ぎゃははっ、そりゃよかった」



 やび、ちょっと笑い声が汚かった、ゴブリンみたいな笑い方しちゃった。失敬失敬。


 ヒグンの体に重なったまま、胸を押し付けたまま腕を股の方に持っていく。ズボン越しに、ヒグンのピクピクしてる物を指で軽く触ってやる。



「マルエル、これは拷問かなにかかい?」

「おう!」

「元気よく返事された!? どういう趣旨の拷問!?」

「いやー。てめぇよ、オレに隠れてこそこそフルカニャといい事したり、人目憚らずメチョチョにセクハラしたり、他の女に声掛けたりしてよ。一応オレの男でもあるっての忘れちゃってるなあと思ったんだよ」

「え、全然いつなんどきでも抱きたいなと思ってるけど。その胸使って挟むやつ、あれ体験してみたいしね」

「パイズリの事?」

「そういう名前なの? 分からないけど、飲み仲間に聞いてね。マルエルの胸なら余裕で出来るだろうって」

「現実の女指してそういう話してんの? 下劣すぎない……?」



 ちょっと引いた。ただでさえ周りの目がいやらしい感じだったのに、本当にそういう目で見られてるんだって知って軽く絶望である。



「まあそんな話はいいや。てめえ人の事散々可愛いだの好きだの言っておいてよ、オレにだけ何故か一定の距離があるだろ。あの二人には不躾にセクハラしまくるのに」

「セクハラしたら怒るじゃんマルエル」

「当たり前だろ」

「あれれ。難しいな。一応今の、触るのを遠慮してる理由を言ったつもりなんだけど」

「怒るけどもっと触れよ。惚れた女には所構わずムラつくのが男だろうが」

「君平気でナイフとか出してくるよね」

「まあまあ。んな事ァいいんだ。要は、なーんかオレへの態度が1番しょーもないっつうか、てめぇのハーレムカーストの底辺にオレがいるように感じるんだよ」



 ヒグンのズボンの中に手を突っ込む。男だったから知っている、他人にされたらしんどいことをやってやる。



「マ、マルエルッ、ちょっと待って」

「大丈夫。絶対にイかせねえから」



 手をズボンから出す。ヒグンは腰をビクビクと動かしていたが、果てる事は出来ずにオレを見ていた。珍しく必死そうな顔をしていて可愛く思えたので、ヒグンの唇を舌先で舐めた。



「マルエル、頼む……入れさせてくれ」

「無理〜」

「なんで!? き、君も興奮して腰同士擦り付けてるじゃないか!」

「うん。でもこれでしちゃったら結局最下層のままじゃん」

「最下層ってなに!? そもそも三人に優劣なんか作ってないって!」

「だぁから。そうじゃねえっつってんだろダボ。今ぐらいはオレを一番に据えろっつったろうが。耳か? 頭か? どっちにネジ入れたらお話聞けるかなぁ」

「……マルエル、もしかして結構怒ってる?」

「そう見える?」

「見える。口調の感じからして、結構ふつふつ来てるよね」

「……普通な、女にここまでイラつかせたらしばらく口聞いてもらえないもんだぜ? 良かったな、オレのベースが男で」

「あ、あぁ。ごめん。これからはちゃんと不快な思いをさせないよう気を付けるよ……」

「うん、無理」

「えっ」



 ニコッと笑顔で笑って、オレは馬車に積んであった荷物を漁って一つの指輪を取り出した。



「それは……?」

「婚約指輪のガチ呪術版みたいなアイテムで『囚魂(しゅうこん)の指輪』ってやつ。これを順にはめた男女は魂が結びつき、両者が死ぬまで絶対に離別出来なくなるっていうやつ。因果歪曲型だから精神作用とかもバチバチにされる汚染型の本物の呪いのアイテムだな」

「えぇ……?」

「文句あんのか?」

「言いたいことはあるが、まずどこで手に入れたんだ?」

「メチョチョが受肉する前にボコした奴隷商会で保管されてた。つがいの獣人に使うつもりで保管してたんだと。で、奪った」

「奪った、かあ」

「これ、指にはめる?」

「えっ……」



 ヒグンの左腕を解放し、目の前に見せつける。ニコニコニコニコ。笑顔でじーっと見つめていると、彼は恐る恐るといった様子で指輪に指を近付けた。



「薬指にはめろよ」

「えっ。なんで」

「頭空っぽなのかお前」

「……?」



 まじかコイツ。この期に及んでオレに壁を……いや、違うっぽい。単に意味を知らないだけっぽいわ。そんな事ある??? 左手薬指なんて指輪の意味界隈で最もメジャーだろ。



「はめたが……」

「うん。で、それを私の薬指にはめると効果でオレとお前の魂が結びつく。各々の本来の運命を歪まされて、死ぬまで一緒の未来が確約される訳だが。お前はそれをオレにはめたいと思うか?」

「説明が少し怖い……というか、目が怖いよマルエル」

「そうかな」

「そうだよ。最近のフルカニャルリがする、どこか輝きのない目と同じに見える……」

「ヤンデレ属性はフルカニャルリに取られたから気の所為だぞ。オレらはキャラ被りしないからな」

「気の所為……?」



 さて、それはどうかな? と小さな声でヒグンが呟いた。何の話なのだろうか、よく分からない。



「で? それをオレの指にはめるのか?」

「……いいの? こんな僕と死ぬまで一緒なんて。損しない?」

「オレから持ち掛けた話なのになんでお前がこっちの意思を問うんだよ」

「いやだって僕なんかより良い男なんて沢山いるぞ!?」

「じゃあお前はオレが他の男に取られてもいいのか?」

「それは嫌に決まってるだろ!?」

「なら迷う事ないだろ。童貞捨てた癖に童貞みたいな事言ってんじゃねえよハゲカス」

「言い過ぎなんだよな一々! あと僕どう見てもハゲてないだろ……」



 ヒグンの目の前に指を広げた手を見せる。彼はほんの一瞬だけ迷っていたが、オレの問い掛けが効いたのかすぐに手を動かし自らの指輪を外した。



「薬指な」

「り、了解?」

「あと、指輪を付けた後一生の愛を誓えよ」

「えっ!?」

「死が二人を分かつまでオレを愛しますって誓えよ。じゃねえと殺すからな」

「えぇ!?」



 激しく動揺しながらも、彼はオレの薬指に指輪をはめた。



「僕は、いついかなる時でも、どんな事があったとしても、死が二人を分かつまで、いや死んだ後でさえも永遠にマルエルの事を愛す事を誓います。……えーと、これでいぅんむっ!?」



 そこまで言った覚えはない、なのになんちゃっての婚礼の儀を本人も無自覚なままにガチめにやってくれた事に急に胸が熱くなった。

 我慢出来なくなってヒグンと激しく口付けを交わす。愛おしい、愛おしさが抑えられない。



「んっ! ヒグンッ、ヒグンッ!! 好き、好きっ!」

「んゔううぅぅっ!? がっつきすぎっ……はぶっ!? ん………………っ」

「んちゅっ♡ ぷはっ! あははっ、あんむっ、むぅっ!」

「ぶっ……! んぐっ、待っ……苦しっ……あっ、あぇっ……」



 口腔内を舐めて舌同士を絡める。唇を尖らして唇同士でバードキスをして、また舌を入れたまま口の端から頬を舐めて顔をくっつけながらヒグンに囁く。



「あはっ、これでもうお前は何があってもオレから離れられないから。これ呪いだから、もう取り返しつかねえから♡ ざまあみろタコ♡」

「あ、すごい可愛い甘え声なのに怖いこと言われてる。新体験」



 ディープなキスを再開する。もうヒグンを食べる勢いで激しく唾液を貪った。興奮したヒグンが執拗に腰をオレの股間に擦り付けて胸を揉んでくるが全然構わない。


 激しい動きをするのを辞め、ヒグンに唇に合わせたまま少しの間ぐったりとし、体を起こす。ヒグンとオレの口を唾液のアーチが繋いでいた。その唾液は途切れるとヒグンの顎から胸にかけてラインを引いた。オレはそれをなぞるように舌でヒグンの体を舐める。



「あっ……くぅ。マルエルって、結構むっつりだよね」

「れろ……あ? 全然だよ、オレ性欲ないし」

「嘘つきすぎる……」

「本当だって。何ヶ月も自慰しなかったし。さっきは……まあ、キャラは崩壊してたけどそれも、ノリだし」

「いやぁ、でもマルエルの処女を頂いた時も今みたいに激しく求めてきて甘える感じだったよね」

「覚えてないです。よいしょっと」



 さて、呪術的な儀式も終えた事だし。次はお気持ち的な儀礼を行いましょう。ナイフを取りだし、オレは自らの手をパーにして床に着けた。



「え、何してるのマルエル?」

「ヒグン。カニバリズムした事ある?」

「カニ……なに?」

「食人」

「あるわけないよね」

「そっか。じゃあこれが最初になるわけだ」

「えっ?」



 不思議顔を浮かべるヒグンをよそに、オレは自らナイフで指輪のついた薬指を切断する。エンコ詰めみたいだね、まあオレの指は生えるんですけどね。



「マルエルちゃん。何をしているんだい?」

「うん? これ、食べて?」



 オレは切り落とした自らの指輪付きの薬指を摘んでヒグンの顔の前に出す。ヒグンは顔を青くしていた。



「正気かな!?」

「正気だよ」

「狂気だよ! 普通人に自分の指食べさせないよね!?」

「ヒグンさ、流してたけどさ。フルカニャで童貞捨てたんだよね」

「え、いや……最初に入れたのはそうだけど、でもあんなの同時みたいな物じゃないか?」

「違うよ。オレとやる時点でお前は初めてじゃなくなってた。だからさ」



 ヒグンの唇に指を付ける。



「初めて知った女の性の味がフルカニャルリなら、初めて知る女の肉の味はオレであるべきだと思わないか?」

「普通の男も恋人の女の肉を味わってるんですかね!?」

「うん」

「嘘だ!? 聞いた事ないぞ!」

「駄目か……?」

「駄目、というか……」



 ジーッとヒグンを見つめてみると、彼は言いづらそうに口をモゴモゴとし始めた。



「……正直言って、異常だ。それは」

「そっか」

「ごめん……」

「…………食べてくれたら、いつでも好きな時にヒグンの相手するよ?」

「えっ」

「望むなら、どんな下品な事とかもするし、恥ずかしい事もするよ」

「えっ??」

「人に話せない事をしてもいいよ。どんな事をしてくれても構わない、秘密にしてあげる。それでもダメ?」

「い、いや、でも流石に……はうんっ!?」



 足をヒグンのズボンに入れ、動かしながら胸をヒグンの顔のすぐ前まで下ろす。わざと胸が揺れるように動いて、すぐ眼前で胸同士を当てて谷間をパチュパチュ鳴らしてやる。



「食べてくれないと、もう一生エッチしてあげないけど。それと今から誰かが来るまで何度も何度も寸止めさせるし、その後も誰ともエッチさせないからね」

「いただきます!」



 ヒグンはそう言ってオレの指を指輪ごと口の中に入れて、咀嚼する。噛み切れる訳がなくて、相当力を入れて肉や皮を噛み潰しているようだった。


 指輪はそのまま飲み込んだらしい。すごい、やってる事マジシャンだ。



「マフエフ」

「うん?」

「……骨は流石に。取り出してもいいですか」

「うーん……全部食べてほしいけど、いいよ」

「あひがと」



 長い時間をかけて口をモゴモゴしていたヒグンが口の中に指を突っ込む。俺の薬指の骨を掴み、出そうとする。



「あ、一応言っとくけど結構グロいと思うよ。直視しないようにしなね」

「うげえええぇぇぇっ!!!」



 時すでに遅し。肉や血管がこびり付いたオレの指の骨を目にしたヒグンの悲鳴が馬車の中に響いた。ヒグンはオレの薬指を食べてくれたので、縛り解禁ということでズボンを足で脱がせてやった。

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