64頁目「冒険者&妖精VS龍」
龍が咆哮を上げる。
「みゃあっ! 拙らじゃここいらが限界じゃき! 後は任せちゃよフルカニャルリッ!!」
妖精さんの一人がトテトテトテと走りながらフルカニャルリにそう叫び、空間に光の穴を開けてそこに入り消えていった。なにあれ? 異空間に逃げて行った的な事?
「ありがとう皆。……来るめよっ!!」
フルカニャルリが叫び両手から無数の糸を射出し何本もの糸の足場を作る。そこを経由し前戦隊が特攻する。
「援護頼んだぞシスイ!!! ボーッとされて死んだらあの世でどつき回すからな!!」
「舌噛むぞアルデバラン、あまり騒ぐな」
盗賊の気配を散らすスキルを纏った剣士が龍の左腕に大剣を当てる。膜に弾かれる、が気合いでそのまま強引にバリアの表面を滑らせるようにすると薄皮を剥がすようにバリアが剥がれ飛んだ。
「キャッハハハハハッ!!! 血ぃ寄越せ、血ぃ血ぃギャッハハハハハハハハア゛ア゛ッ!! グヒッ、ギヒッ……ガアアアァァァaaaaaawrrrrrッ!!」
「ルドリカ! 狂気増幅の出力を抑えろ、理性を保てなくなるぞ!」
「ダメだ、もう制御不能になってる。離れよう……」
狂戦士の少女が巨大な狼に変貌し龍の体表を破壊していく。凄まじい速度でバリアが破壊されていく、やっぱりどの世界でもバーサーカーって一定の脅威的存在ではあるんだな。……まあ、他の冒険者と協力しないせいで攻撃の手を止めてる場面が多々あるが。
「スキル、『剣式・乱斬り』!!」
しかし、周りを寄せつけないほどの暴力を用いるあの『狂戦士』の少女に負けないくらい縦横無尽に駆け回りバリアを切り刻む者がいた。メチョチョだ。
やはり種族的に、他を殺す術に優れているのだろうか。巨大な狼の怪物と化した少女とほぼ互角の攻撃をしている。前線部隊じゃなくて良かった、あんなのに巻き込まれたらひとたまりもないな……。
「ッ、ブレス攻撃が来るぞ!」
前線に居た冒険者が叫ぶ、龍のねずみ色の喉が再び赤熱している。オレは退避出来る位置にいるが、前線で戦っている連中はどう躱すんだ!?
「「「擲弾連鎖雨!」」」
フルカニャルリの糸を足場にしていた爆撃手の人達が同時に、スキルの掛けられた大筒から爆弾を射出する。それは空中で大量の爆弾に分裂し、フルカニャルリがそれらを空中で糸を駆使して一挙に纏め龍の口の中にぶち込んだ。
「結界術を口に!!!」
フルカニャルリの叫びに反応した魔法使い数名が龍の口に結界魔法を施す。龍の口の中に詰め込まれ、分裂し続ける爆弾に龍の炎の魔力が接触すると、幾重にも連鎖する爆発音が戦場に鳴り響いた。
「えげつない、なっ!!」
言いながらフルンスカラさんがシルフィさんを片腕で投げ、空中に飛び上がったシルフィさんが槍を大きく振りかぶった。
「キュクレインの槍!」
シルフィさんの声に呼応し、何の変哲もなかった木の槍が黄金の槍に置換される。彼女は思い切りそれをシガギャラドの角に向けて投げた。
「ッ!?」
シルフィさんの一番シガギュラドのすぐ目の前、腕で庇っても槍の投擲は防げない近距離だ。
シガギュラドは自ら頭突きで迎え撃つように槍を自らの頭部に刺した。そうする事によって槍の投擲による角の破壊を防いだのだ。
「シルフィ!!」
「リカルド兄……ッ」
爆撃が終わり結界を破壊され、龍の口が開きその凶暴な牙がシルフィさんに迫る。ブレスを警戒しほとんどの冒険者が距離を取っていた。フルカニャルリも丁度シガギュラドの前から通り過ぎた後だから間に合わない!
「弧円月!」
エドガルさんがシルフィさんをキャッチしてシガギャラドの噛みつきを躱し、鱗の突起を掴んで弧を描く様に龍の顔に近付きその左目を斧で斬り潰した。
片目を潰された龍が痛みに仰け反る。救助から追撃までやってのけたエドガルさんと入れ替わりログズバルドさんがもう片方の目玉を潰しにかかる。
「ッ! 瞬間移動したぞマルエルッ!」
「そいつ人間語分かるらしいんで名前呼ばないでくださいね〜!」
再び、駆け上がっている最中だった筈のログズバルドさんの姿がいつの間にかシガギュラドの頭よりも高い位置に移動していた。シガギュラドの身は先程居た地点よりも大分東に移動していた。
瞬間移動後、巨体を滑らせる事でそこに控えていた冒険者達が弾かれていく。タッパがでかいヤツが瞬間移動持つの反則だろどう考えても。
「スキル、『肉身颪』!!」
腕を振り上げて更に被害を増やそうとしたシガギュラドだったが、フルカニャルリの糸で自分の身とシガギュラドの背中の棘を接着していたメチョチョが斧で龍の背中に高速の斬撃をお見舞する。
刃による直接的な斬撃と、後から追従する鋭い風による斬撃はバリア所か
龍の堅牢な外骨格を粉砕しその肉をめちゃくちゃに破壊していく。
「一条星!」
「流牙の太刀!」
龍が背後に位置するメチョチョを攻撃しようとするが剣士スキルを使用したログズバルドさんとアルデバラン? って名前の冒険者さんの斬撃により脚部を斬られ中断させられる。
ログズバルドさんの斬った方は完全に両断されていたようだが、もう一方はバリアに弾かれその膜を破壊したのみで止まっていた。一瞬遅れてエドガルさんがその脚部を斬り払った。
「土塊牢獄!!」
リカルド率いる数名の魔法使い達が龍サイズの土塊の箱を作り、バランスを崩したシガギュラドをそこに収容する。メチョチョが抜け出すと、遠距離攻撃が得意な冒険者達が籠の中のを攻撃し始めた。
「そんなチマチマした攻撃なんか効かないでしょ」
一人の女性がそう言って一歩前に出た。彼女は魔法使いか? 目を瞑り、杖を龍へ向けて詠唱を始める。
「!? ま、待てキュレル! この距離はまずい!!」
「この数の冒険者がいるんだ、上手い具合に壁とか作ってくれるっしょ。ってわけで。隕石魔法、グラーキ」
そう唱えると、空の彼方に光の点が一つ出来る。それは少しずつ大きくなり、ある所で雲を分け隔てその姿を現した。
隕石だ。単純明快、宇宙空間に漂う何かしらの破片を呼び寄せ、目標地点に落とすという魔法だったらしい。
いや。それ人類の敵側の攻撃だが。まあまあのサイズの隕石がこちらに向かってきてますが。再現CGで見た事あるけど、あれ着弾の衝撃で人類滅ばんか?
「最上位防御魔法!! 至宝二枚の世界天蓋!!!」
ギルドのSランクからAランクの魔法使いさん、結界術師さん達が大慌てで戦場を走り各々が所定の位置につき魔法を発動させる。今まで感じた事の無い濃密な魔力が大地に満ち溢れ、分厚い壁が生成される。
十二枚の分厚い壁がシガギュラドと落ちゆく隕石を囲うように展開される。
「符術士ちゃん、それから魔法使い達は衝撃緩和の術と遮音の術も使って!!」
「えっ、はぁい〜!」
名前は分からないけど、ログズバルドさんと同じくギルドでトップの魔法使いさんがサーリャに指示を出す。
「ど、どれくらい貼った方がいいですかね〜?」
「貼れるだけ貼って! 隕石だよ!?」
「はいぃ〜!!!」
トップ魔法使いさんは血相を変えてサーリャにそう言った。隕石だよって、確かにそりゃそうだ。本来有長にしてられないよね。
「儂も手を貸そう」
「あ、のじゃロリ妖精さん」
「シャクラッチャな?」
サーリャの横をフルカニャルリのお友達のシャクラッチャさんが通り、魔法で作られた壁に手を置いた。
「魔滅妖精の悪戯、雷轟轍状曼荼羅」
シャクラッチャさんの手から青白い電気が現れ瞬く間に魔力の壁全域にそれらが行き渡ってなんか細かい意匠がある金網みたいなのが作られた。なんだろうね、何かが描かれてるのは分かるんだけど眩しすぎて見えないや。
それと、何故かシャクラッチャさんの背中に青白い電気が集まり、風神雷神の雷神の背中にある太鼓みたいなのが出現した。
なんですかあれ。何か意味あるのかな、デザイン的にかっちょいいから生やしてる感じ? エネルじゃん。でも電気だからかバチバチうるさいし形も安定してない。本当になんなのあれ。
「ほれ。符術士、符を貼らんか」
「い、いや〜……感電しません? これ電気ですよね?」
「するぞ」
「するかぁ〜」
「じゃから出力は下げておる。多少ビリビリくる程度だ、符を貼る余裕はあるじゃろ」
「そういう問題じゃなくて、あたしが貼ってから発動して欲しかったですね〜……」
全くもってその通りだな、電流が走ってると分かっててそれを触るとかどんな拷問だよ。
「はあ……遮音の符、相殺の符、風避けの符と、反動の符と反射の符、加重の符、分散の符……」
「出しすぎじゃろ」
「中途半端にしたら怒られそうですもん〜。あの魔法使いさん怖いし……しびびびびびびっ!!?」
サーリャさんが取り出した十枚以上の呪符を感電しながらペタペタ壁に貼っていく。可哀想、痺れて泣きながら掘っている。シャクラッチャさんはそれを見て「呵呵呵っ! 愉快愉快!」と笑っていた。
「隕石が落ちるぞ! 皆、距離を取れ! そこの妖精も!!」
「儂は大丈夫じゃ、危なくなれば肉体を雷に変えれば良い。汝等人間こそ離れておれ、儂の魔法に巻き込まれたら即死するぞ」
「フルカニャ、お前呼ぶ助っ人間違ってるだろ」
「龍は強いから強い助っ人が必要だと思ったんだもん!」
理屈は分かるがもうちょいこう、周りに危害が及ばないタイプの強者を呼んで欲しかったかな……。
「着弾するぞ! 耳を塞いで口を開けろ!!」
ログズバルドさんがそう叫び全員が隕石着弾に備える。隕石は牢獄に囚われたシガギュラドの脳天に落下し、凄まじい衝撃音が鳴り響き大地が揺れる。
爆発が起きる。その瞬間に魔法の壁が閉じて一層強くシャクラッチャさんの魔法による雷の網の色が強くなる。あまりの光量に景色は白み、瞼を閉じてもその光を遮り切れなかった。
地面が削れゆく音、等間隔で鳴る落雷のような轟音。様々な音が耳をつんざき、余波が肉体を浮かし吹き飛ばす。
やがて音が止む。目を開けると、隕石落下の衝撃で深いクレーターが生成され周囲の木々は吹き飛ばされていた。だが龍の姿は無い、殺しきれたのか!?
「シャクラッチャ! シガギュラドは」
「……上だ、人間共っ!!」
クレーターの前でペタンと座り込んでいたシャクラッチャさんの背中のでんでん太鼓が鳴り、上空を見たシャクラッチャさんが叫ぶ。
「そんな、馬鹿な……!?」
隕石の直撃を受けたシガギュラドはまだ生きていた。瞬間移動だ! 瞬間移動を使い何も無い上空に回避していた!
「クソッ!! そんなのアリかよクソトカゲが!!!」
リカルドが苛立たしげに叫び魔法で岩石を弾丸のように飛ばした。シガギュラドの身にそれが当たる、バリアによって弾かれなかった。
「ッ! なるほど、瞬間移動のタイムラグのせいで躱し切れていなかったな!! あの龍、今はバリアが無くて丸裸だ!!!」
「よく!」
フルカニャルリがシガギュラドの腕に糸を飛ばし接着する。
「いや、どう考えても綱引きでお前の完敗だろ何考えてんだ」
「手伝って、エクスマキナン!」
「任せるンゴね〜」
茂みからひょこっと幼女らしきものが現れた。全身真っ黒である、黒人的な意味じゃなくてベンタブラック的な意味で。ただでさえここは薄暗いってのに、なんか幼女型の穴にしか見えないくらいの真っ黒い幼女がひょこひょこ歩いてくる。
明らか人間じゃないもんね。妖精さんかな、なんか本能的な恐怖をくすぐられる容姿だ。
「なんとか妖精の悪戯、反実仮想って事で。ほい、フルカニャルリの方が綱引きは強いことにしたンゴ」
「ありがと! もう帰ってよく! 邪魔!」
「ワイの扱いひどくて鬱」
悲しそうにそう言うと黒い幼女は黒い液体になってその場から消えた。妖精さんの消える時の挙動って穴開ける以外にもあるんだね。
「マルエル! 死の爪を発動しといて!」
「えっ」
「今からシガギュラドをこっちに引っ張るから! 死の爪でトドメを刺してやるめ!」
「うん待って。よく分からんけどフルカニャルリはシガギュラドより強くなったんだっけ? 私死ぬじゃん」
「大丈夫! ぼくが強くなったんじゃなくてシガギュラドの体重がぼくと入れ替わったってだけだから!」
「どういう理屈の魔法……?」
意味が分からん。体重だけ交換って、体積とか色々説明つかない部分があるだろ。
……考えても意味無いか。妖精さんの魔法ってもう説明無しに『出来るっぽいから出来る!』みたいな理屈だもんな……。
「引っ張るめよ!」
「お、おぉ、了解……?」
フルカニャルリが糸を引っ張ると巨体がオレら向けて落ちてきた。いや〜、絶対押し潰されちゃうけどな、いけるのかなぁ。
死の爪を発動し木に上り待ち構える。シガギュラドの巨大なねずみ色の腹が目の前に広がる。まあ何とかなるだろ、ジャンプして片手にナイフを持って腹に向けて振りかぶる。
「……はっ?」
オレの手がシガギュラドに触れる直前、突如として目の前から龍の巨体が消える。それどころか宙に居たはずのオレの眼前に急に地面が現れた。
「ぐはっ!?」
突然の事すぎて受け身すら取れず肩から地面に落ちる。状況が理解出来ない、何が起きた!?
「これ、は……瞬間移動? なんで、タイムラグッ」
姿勢を正し周囲を確認すると、僅かに離れた位置にシガギュラドが居た。フルカニャルリはオレと同じく何が起きたか理解出来ず困惑した様子でシガギュラドを見た。
「エドガルッ!!?」
ログズバルドさんの叫ぶ声が聴こえた。
「は? お、おい……」
「エドガルさんが、死んだ」
周囲の冒険者が何か言っている。その意味を理解しようとしたせいで、回避行動が遅れてしまった。
「マルエルッ!!」
すぐ眼前にシガギュラドの爪が迫る。
何故、タイムラグがあって使えないはずの瞬間移動を連続して使えたのか。
嵌められた? こうなる事を予見して、わざとシガギュラドは連続して使えない"フリ"をしていたというのか?
自ら弱点を作り隙を作ることで、人間側の切り札を炙り出そうとしていたのか。
纏まらない思考が絶え間なく巡る。無惨な姿で倒れているエドガルさんしか視界に映らない。
大変だ、今すぐ応急処置しないと。でも、あれはもう……。
「マルエルちゃっ」
何者かに突き飛ばされる。
目の前で鮮血が舞った。それは、オレを突き飛ばしたシルフィさんの物だった。
「は? なにやっ、て……」
シルフィさんの体が落ちる。もう息はない、即死していた。腹から胸にかけて大穴が空いていて、臓腑が地面に乱雑に零れていた。
「待て、待て待て、駄目だろそれは。人を庇って死ぬなって、それ一番駄目だって。シルフィさん、おい、起きろって!」
呼び掛けても、回復魔法をかけても効果はない。既に失った命は回復出来ない。物を生物として治すことなんて不可能なのだから当然だ。シルフィさんの開いたままの瞳はもう何も映していなかった。
「ッ!! ヒルコッコ!!」
「あい」
フルカニャルリの居た位置にヒルコッコさんが現れ、代わりにフルカニャルリが別の場所に転送される。ヒルコッコさんはナメクジのような不安定な体で立ち姿勢を維持しながら、シガギュラドを見る。
「胡乱妖精の悪戯、曖ま……ッ?」
魔法名を言い切る前に、再び瞬間移動しヒルコッコさんの目前に現れたシガギュラドが爪を振るう。ヒルコッコさんの肉体が爪に引き裂かれ、いくつもの肉片となって飛んでいく。
「ヒルコッコ!」
やばい、頼みの綱が即落ちしてもうた!? 絶体絶命だ、シガギュラドは既にオレを殺す射程範囲内にいる! 爪を降りかぶればアッサリ体が三枚おろしになっちまう!!!
「魔滅妖精の悪戯、帝釈金剛!!」
シャクラッチャさんが叫び、手のひらに魔力を圧縮し生み出した小さな刃の様なものを回し蹴りしてシガギュラドにぶち当てる。その物体はシガギュラドが再構成したバリアを容易く破壊すると、そのまま定期的に激しい轟音と放電を行いながらシガギュラドの肉を穿たんと勢いを強め続けた。
「胡乱妖精の悪戯、曖昧な洞」
シャクラッチャさんとヒルコッコさんの連携でシガギュラドの姿が掻き消えた。ヒルコッコさんは千切れた体同士をくっつけると、元の幼女の形に戻った。
「転送出来たかヒルコッコ!」
「でぎだど思う。一撃でぃ魔力なぐらっだ」
「よし。一難は去ったの……生きている者共に報告を頼む!」
「わがっだ」
「大丈夫か、人間」
「私は大丈夫だけど、シルフィさんが!」
シャクラッチャさんがシルフィさんの瞼にそっと手を当て、その瞳を閉じさせた。
「死した者は分かっておる、どうでもよい。うぬの傷は? 大事無いか?」
「わ、分かってるって、どうでもいいってなんすか!? そんな言い方ないでしょ! シルフィさんはオレを庇って、こんな事に……」
「知らんわ。死した者は人間ではなかろうに。物じゃ。何を憂いておる」
「……マジで言ってんすか?」
「ふむ? 怒りの色が見える、シガギュラドめと同じ色じゃ。儂は何か間違えたか? 人の協力をするとの事じゃから、人の模倣をしてみたのじゃが」
平然とそんな事を言うシャクラッチャさん。……そうか、妖精だもんな。フルカニャルリが言うには、人と接した時間の少ない妖精は人間とは大きく精神構造が違うと言う。
「……いや。怪我は大した事ないんで、オレは大丈夫です」
「そうか。それならば他の者と合流しろ。シガギュラドを殺す手段を練り直さねばな。アレはお前が切り札だともう知ってしまっとる。儂とヒルコッコは引き続きシガギュラドを監視する」
そう言うと、シャクラッチャさんはそれ以上何も言わずその場から立ち去って行った。
「……ざけんな」
口から、自分の物とは思えない怒りを湛えた、情けない声が漏れた。
エドガルさんとシルフィさんが死んだ。瞬間移動にはタイムラグがある、そう思い込まされて騙されて死んだ。……シルフィさんを殺したのは、オレだ。
「……シルフィ?」
リカルドの声がした。リカルドはオレを押しのけシルフィの元へ駆け付けた。
聞いていられない程の悼ましい泣き声と叫びが響いた。二度と聴きたくなかった声音だ。
頭を抱える。胸の内から湧き出てくる様々な負の感情を抑え、口の下を噛み縛る。
こんな場所、来なければよかった。そんな思いが、頭の中に満ちていった。




