57頁目「あたちのまま」
「今後二度とさっきみたいな事を私にしないこと! 分かった!?」
メチョチョを正座させてお説教する。全く酷い目に遭った、本当にエロ漫画みたいな展開にするやつがあるか! ……まだちょっとムラムラが残ってるし!
「メチョチョ返事は!?」
「しらな〜い」
「こら! お兄さん本気で怒ってますよ、大人が引くくらいガチですよ!」
「お兄さん? ちょろいメスだったよマルエルは」
「メェチョチョーーーーッ!!!」
にししと笑ってオレから逃げるメチョチョ。全力で追い掛ける、コイツッ! コイツコイツコイツ!!!
「こーら。夕食を準備してる時に走り回るなよ、危ないぞ」
「ヒグン! そこのマセガキこっちに寄越せ!」
「やー! マルエル怒るとあたちのほっぺ引っ張る! 千切ろうとする、虐待!」
「流石に千切らないだろ。マルエルはなんだかんだ優しいよ? メチョチョ」
「いーや? ほっぺまじでぶち破ってやろうと考えてるよ今」
「絶対僕から離れるなよメチョチョ。あの目はガチだ」
「ベーッ!!!」
ヒグンの後ろに隠れてベロを出してオレを煽るメチョチョ。よし、先に調理場に行って包丁持ってこよっと。
「なに馬鹿なことしてるめか。ほら、退くめよ」
「ん? おー、こりゃまた上等なチキン……いや本当にデカイな。なにこれ?」
フルカニャルリがオレらの間に割って入って晩餐室の机に鳥の丸焼きを置いた。何回かに分けて。
オレが見てきた鳥の中で最もでかい気がする。いや、直接見た事は無いがダチョウくらいなのかな? でもこういう場で出される鳥料理としては異例の大きさだ。
「友達とお店を回ってる時にセール中だったケカテリソっていう鶏の魔獣を買っため。なんか今年は本来群れが身を固めている筈の場所に移動せずそのままこの街になだれ込んだらしくて、沢山採れたみたいめよ?」
「なんじゃそりゃ」
「分からないが安く上等な肉が手に入るのは良い事じゃないか。さ、用意も出来た事だし席に着こうか」
「わーい!」
ヒグンが移動しメチョチョもトテトテとその背後を着いていく。
親鳥の後を追う雛鳥の如きルンルン顔のメチョチョの肩を掴み、こちらを向いたメチョチョの左角を掴む。
「あ、マルエル……」
「一緒に食べようね。隣に座ってね」
「や、やー……」
グググ……と角を掴む手に力を込める。生え際から見て手前に、引っこ抜くのをイメージしながら力を入れる。メチョチョは「あ、あっ、だめ」と言いながらオレの手を押さえて抵抗している。
「マルエル、本当に折れちゃうから……」
「大丈夫だよ。お前山羊だろ? 山羊の角ってな、結構力入れないと折れないだろ?」
「子供なので、子供なので折れちゃう……柔らかいからぁ!」「声大きいぞ〜」
力を込める。焦った様子でメチョチョが声を押える。
「そっちには曲がらないよぉ……!」
「うん。一緒に食べようね」
「や、やだ……」
「うん。一緒に食べようね」
「折れちゃう、本当に折ろうとしてるぅ……!?」
「うん。一緒に食べようね」
「わ、分かった! 食べるから離して!」
「分かった? ましたじゃないんだね」
「分かりました! だから許してくださいぃ!」
よかったよかった、可愛い女の子の角をベキ折りせずに済みましたね。手は離さず、メチョチョに前を向かせて両手で彼女の角を掴む。彼女は「やあぁ誰か助けてぇ……」と言い出したので少し力を入れて黙らせた。
ビクビク震えるメチョチョを先に奥の方に座らせ、通路側にオレが座る。対面にフルカニャルリとヒグンが座る。
「メチョチョ、今後さっきの私には使わないようにしようね?」
「はいぃ……分かりました……」
「よし」
「おっ? 二人が隣に座るなんて珍しいめね」
「本当だね、さっきので仲が深まったのかな?」
「ぱぱ、助け」「あぁ、おかげさまで! デトックス効果バリバリで感謝してもしきれないぜメチョチョにはよぉ。これから沢山お返ししてあげないとなぁ?」
「悪意なかったんだよぉ……あたちは良かれと思って」
「うんうん。ありがとうね。これから色々楽しもうねえ沢山ねーーーー〜っ」
「やあ……やだぁ……」
膝の上に手を置いて笑顔で顔を覗き見てやる。照れ屋さんだなあ、遠慮せず甘えてもいいんだぞ〜?
「じゃ、そろそろ食べめしょう! いっただきまーす!」
フルカニャルリを皮切りに、皆が各々料理に手を出し始めた。
「メチョチョ、何食べたい? 取ってやるよ」
「えっ。……毒入れない?」
「毒が好きなんだ。持ってくるから待っててね」
「ごめんなさい好きじゃないですぅ!」
「謝れるじゃないか、偉い偉い。おら、手ぇ短いから届かないだろ、食う分よそってやるよ」
フルカニャルリの分はヒグンがよそってやっている。その様子を見たメチョチョは控えめな声で「じゃあ……」と言ってパスタの方を指さした。
「アレ、気になる」
「おー。他は?」
「え、えっと。じゃあ、あのお肉」
「あいよ」
メチョチョの指さした鶏肉を皿に置き、一口大に切って別の少し小さな皿に移す。パスタも別の皿に移し、二つの皿をメチョチョの前に置く。
「ほれ、フォーク」
「……お、お肉は、これは手で食べてもいい?」
「ん?」
「前、他の冒険者に貰ったお肉をそのまま手で取って食べたら笑われた。なんで笑うのかも教えてくれなかった。人間の正しい食べ方分からない……」
「性格悪い連中だなぁそいつら。メチョチョ、手が汚れるのは気にするか?」
「気にしない、けど、人間としては変らしいから気にする……?」
「そっか。まあハナから一口大に切ってやってるからそれはそのままフォークで食えばいいけど、もし骨付きの肉を食いたいならこの紙を骨に巻いて、紙の上から持って食えばいいよ」
実際にやって見せる。そしたら美味しそうな顔をしてメチョチョがその光景を眺めてきたので、オレが歯を入れていない逆サイドの肉をメチョチョの口に近づけて食わせてやる。
「っ! 美味しー!」
「あはは。今までは生肉かそのまま焼きばっかりだもんな〜」
メチョチョが不器用にフォークをグー握りしてオレが切った肉を口に運び、また感動して大喜びした後パスタも必死に食べ始めた。
グー握り、フルカニャルリも初めはそうだったな。物覚えが良いからすぐ矯正出来たが、メチョチョはまだグー握りか。可愛いね。
「メチョチョ、顔汚れてるぜ」
「う?」
「こっち向いて」
ハンカチでメチョチョの口の周りについた汚れを取る。
「ついでに、その持ち方だと余計な力が入るからフォークの持ち方はこうな」
「わ、わかった」
「パスタは一度刺した後にこうやってグルグル巻くと食べやすくなるぜ」
「こ、こう? あっ! 難しい……」
「上手い上手い。こんな感じだよ」
メチョチョの手にオレの手を重ねてやり方を教える。クルクル巻いて、一口サイズに固まったパスタをメチョチョの口まで運んでやる。
「な? 美味いだろ」
「うん!」
「ちなみに味を変える物もあったりするからな。チーズや香辛料、ハーブとかな。子供舌には辛味は合わないと思うから、試しにチーズとハーブ試してみるか?」
「美味しい?」
「どーだろ、それはお前の味覚次第。不味かったら私が食うよ」
「うーん……」
「挑戦はやめとく?」
「……た、食べる」
おっ、勇気を出したな。いいね。
ヒグンにチーズを取ってもらい、一応オレの皿の隅にチーズを少し、ハーブを少し取ってヒグンに返す。メチョチョの皿に取ってもし舌が合わなかったら、子供だったら嫌いって意識が離れなくて同じ皿を使いたくない! ってなるかもしれないからな。
小さめの一口大にパスタを取り、丁度いいかなってくらいのチーズを搦めてメチョチョに「あーん」をさせる。
彼女は恐る恐るパスタを口の中に運び、咀嚼を始めた。しばらく待ってみる。不快そうな表情はしていない。
「どう?」
感想を聞いてみる。少しだけ黙った後、小さくメチョチョが口を開いた。
「……美味しい」
「よかった。じゃあ次、ハーブも挑戦してみる? こっちは匂いが強いから合うか分からないけど」
「た、食べる!」
「おっけー。はい、あーん」
「あー……」
また咀嚼を始める。ちゃんと口を閉じてモゴモゴ咀嚼していて偉い。頭を撫でてやったら不思議そうな目で見られた。ヒグンの教育の賜物ですな。
「ままっ」
「? 今メチョチョ、私の事ママっつった?」
「! ち、違うよ! あたち今マルエルって、早口で言っただけ!」
「そう。で、どした? ああ、アレ食べたいのか」
「! うん! ……なんでわかったの?」
「何となくじゃね。まだ手ぇつけてないしな。よいしょっと」
メチョチョが指さした肉料理に手を伸ばす。ちなみにあれはオレが少し手を加えたものだ。舌にあってくれれば嬉しいな、酷評されたら声を上げて泣いちゃうよ。
*
「ご飯が終わったらプレゼント交換会でありー!」
「「おー!」」
食器を洗い終えたので片して居間に戻るとフルカニャルリが高らかに宣言し、ヒグンと彼の足の上に座っているメチョチョが楽しそうに歓声を上げた。歓声を上げるタイミングを逃したオレはとりあえず片腕を振り上げて仕草のみで二人に合わせた。
「まずもみの木の近くに居た僕から皆に渡すめ! はい、マルエル!」
「おっ、さんきゅ」
フルカニャルリが三つの紙袋のうち一つをオレに渡した。
「中見てもいいか?」
「だめ!」
「駄目なの!?」
あれ、こういう場面って「いいよ」って言われて中身見て喜ぶ所じゃないの? 出鼻がくの字に折れ曲がったけど。
「な、なんで駄目なんだよ」
「それの中身は『おもいで玉』であり」
「おもいで玉?」
なんだそりゃ。聞いた事ない商品名だ。
「おもいで玉ってのはなんだい? フルカニャルリ」
「そのままであり。取り出して見つめる事でその人にとっての幸せな記憶を映し出す玉めな」
「へ〜、いいじゃん」
「いいんだけど、あまりハマりすぎると他事に手が付かなくなったりするめよ。なので、本当に辛い時の支えとして使ってほしく」
思ったより大分ガチな贈り物だった。本当に辛い時とか、付け足された説明文が相手への思いやりMAXすぎて軽く感動したんだが。
「ヒグンには自分の選択が間違っているのかもしれないと不安になった時に、その人にとっての最良の可能性を提示してくれる『しるべの地図』。メチョチョには自分を信じ愛しているくれている人を照らし出してくれる『つながりのライター』をあげる。皆、大事に持っておくめよ」
「ダンブルドアすぎるだろお前」
「何めかそれは」
いやそれぞれへの贈り物が一つ一つガチじゃん。ちょっと重いなって段階まで来てる贈り物じゃん。死の秘宝の時のダンブルドアじゃん。オレら今から分霊箱破壊しに行くんか……?
「こんな珍しいもの、どこに売っていたんだ……?」
「今日一瞬だけ故郷の妖精郷に戻ってたのめよ。そこで買ってきた」
「妖精郷。なんだそのフィールド魔法、ファンタジーすぎるな」
絶対ドワーフとかエルフとか居るじゃんねその場所。一度でいいから行ってみてえ〜、何処にあるんだろ? 意外と近所なんかな。
「あ、あたち悪魔だよ?」
フルカニャルリからライターを受け取った時、メチョチョがフルカニャルリの目を見ておずおずとそう聞いた。
悪魔特有の黒白目が不安そうに揺れている。対してフルカニャルリは、メチョチョからの言葉を受けて首を傾げてみせた。
「それがどうしため?」
「……よ、妖精と悪魔は本来敵対関係でしょ? 善良な精霊と、悪性の精霊だし」
「そうめね」
「これ、妖精の魔法で作られたものだよ。悪魔になんか渡したら……掟が……」
掟? そんなのがあるのか。
まあでもあるか。フルカニャルリが使う『三妖精の悪戯』のような妖精固有の魔法は、人間界じゃ存在しない魔法として扱われているようだし、妖精のテクノロジーを外の世界に持ち込んだりするのは本来いけないことなんだろうな。
特に悪魔ってのはメチョチョの言う通り、天使や妖精とか対極にあって犬猿の関係だと言う。そんな相手に妖精特有のテクノロジーを持たせるのは、敵国に兵器を明け渡すような物なのだろう。
しかし、フルカニャルリはそんなの全然気にしていないかのように笑顔でメチョチョに言葉を返す。
「何言ってるめか。僕達は家族であり!」
「かぞく……」
「うむ。妖精と悪魔は確かに食って食われての関係めが、ぼくはメチョチョの事を敵とは思っておらず。大切な存在だと思ってるめよ」
「……で、でも」
「疑うならそのライターを点けてみるとよく。ぼくのお顔が浮かんでくるはずめ!」
自信満々にそう言うフルカニャルリ。メチョチョは長く思考した後、ライターを付けようと添えた指をそっと離した。
「……ここであたちが火を点けたら、あたちはフルカニャを信用しなかった事になる。だから、点けないよ」
「あははっ! 別に点けてもいいのにー。そういう変な所で拘りが強くて律儀な所、ちゃんと悪魔してるめね!」
フルカニャルリがメチョチョに抱き着いてうりうりうりと角を撫でていた。メチョチョはその手に抵抗したが、嫌そうではなかった。ちびっこクラブのわちゃわちゃを眺める。
「ふふ。次は僕の番だね」
「ヒグン」
「そう急かさないでよマルエル。期待してるのは分かってる、あの二人が落ち着くまで待とうじゃないか」
「あのなヒグン。お前、袋透けてるんだよ」
「……」
「中身、またエロコスプレじゃねえか」
「……」
「しかもよ、なんかビキニあったよな。大切な所が丸見えなやつ。乳首の位置と、線の位置に穴が空いてるやつ」
「……」
「三人分あれか? 違うならあの終わってる丸見え水着、誰様なのか言え」
「……テンションが変になっていたんだ」
「うん」
「……マルエル用に、穴あき水着を買った」
「殺す」
「……フルカニャルリ用に、お尻に挿すタイプの尻尾を買った」
「流石にそれは一線越えてるぞお前」
「……メチョチョ用に、身体だけ大人になる薬を買った」
「捨ててこい」
「嫌だ」
「じゃあ二人がもみくちゃしてる間にお前をゴミ箱に詰めるな」
「待ってくれ。分かった! あの二人はダメだよな! 分かった分かった、三つともマルエルにあげるから、プレゼントは別で用意するから!」
「私ならなんでもいいってか。本当に殺してやるからなお前」
*
「あたちは三人にお花のプレゼント! はいどーぞ!」
「へぇ。冬なのに花なんか咲いてたのか?」
「これは冬にしか咲かない花めね。白織姫って花であり」
「聞いた事ないな」
「とても珍しい花めよ。これ、どこで見つけたの?」
フルカニャルリが尋ねると、メチョチョは目をぱちくりさせた。どんな反応だ? 珍しいんだこれ? って感じだろうか。
「雪だるまを作って遊んでたら普通に生えてるの見つけたよー? 丁度四つ!」
「そうなの? これ、発生条件が不明で見つけられたらラッキーって言われてるくらいの花なのに」
フルカニャルリが不思議そうに白織姫を眺めている。ヒグンは反省しているのか一言も発さないが、彼も同じように花を両手で持って掲げていた。
「まあなんでもいいじゃねえか、素敵なプレゼントじゃん?」
「そうめね。嬉しく!」
「えへへ!」
笑顔のフルカニャルリに撫でられてメチョチョも嬉しそうにする。はあ、この二人を眺めていると癒されるなあ。こんな癒し系の二人でさえもエロの標的にしようとするこのおぞましい男さえ静かにしてくれたら全部丸く解決なんだけどな……。
「あ、てか丁度いいものがあるぜメチョチョ」
「え? 丁度いいもの?」
「おう。今日の三人へのプレゼント、メチョチョには花瓶をあげようと思ってたんだよ」
オレは雑貨屋で買った花瓶を出してメチョチョに見せる。メチョチョは「わー! これをあたちに!?」と飛び跳ねて喜んでいる。
「ヒグンにはちょっとお高めの盾を、フルカニャルリには隣町まで行って精錬釜戸を買ってきたぜ」
「え!? あったのめか!? どこを探してもなかったのに!」
「あぁ、錬金術師ってのは母数が少ないらしいからな。見つけるのには骨が折れたよ」
「ありがとうマルエル! やったー! もっともっと怪しいもの沢山作れる! 媚薬作りの安定感も増すよーっ!」
「うん。没収していいか?」
「だめ! もう貰ったからぼくのものだもん!」
コイツは……なんでちょくちょくヒグンと同じ方向性になるんだよ。さっきまでの癒しキャラムーブが水の泡だよ。
「花瓶……これ、早速使ってもいい?」
「もちろん。その綺麗な花、一緒に飾ろうぜ」
「分かった!」
「どこに飾る?」
「んーとねっ!」
メチョチョと共に家の中を巡り、考えに考え抜いた結果、メチョチョは皆が一堂に会してゆったりとする居間の棚を指定した。
オレの私物のふざけた形の貯金箱、ヒグンがフルカニャルリにお願いして作らせた媚薬の最高傑作の横に綺麗な白い四輪の花が飾られる。なんて所を選ぶんだこの幼女は。
「ふふっ、むっふー!」
でも本人はすごく嬉しそうに鼻を鳴らしている。本人が満足ならそれでいいか。
その後、四人ですごろくやトランプなどをして時間を潰した後、夜も更けて終身の時間がやってきた。
風呂を終え少しだけ読書で夜更かしをしてから寝る。静かな時間は読書が捗るから良いぞ〜。
コンコンコン、と音がした。ノックの音だ。誰かな? 本を置いて、扉の方まで歩く。
「ん、メチョチョか」
扉を開けると、ヒグンがあげたうさぎのぬいぐるみを持ったメチョチョが立っていた。
「こんばんは。どうしたの?」
「あ、あのね」
「うん」
そこでメチョチョの口が止まった。言い出しづらい事でもあるのかな。トイレとか? でもそれなら一緒に寝てるフルカニャルリかヒグン辺りと行くよな。
膝を曲げて目線の高さを合わせて話を聞く姿勢を取る。メチョチョはしばらくモジモジしたが、言葉を待っていたら勇気を出し口を開けてくれた。
「い、一緒に寝てもいい?」
「うん、いいよ。じゃあ私は毛布を出すから」
「んーん、違うの。マルエルと一緒にベッドで寝たいの」
「え?」
オレとベッドに?
オレは普段メチョチョと寝る時はメチョチョをベッドで寝かせ自分は毛布にくるまって眠る。オレの使ってるベッドが一番小さいからだ、大きい奴は残りの二人に譲って安くて小さいやつを選んだからな。
一緒に寝るとなると、まあ出来なくはないが密着する事になるしオレには翼があるから邪魔だろう。そう思ってベッドをメチョチョに譲っていたのだが、今日は一緒のベッドで寝たいと。
「んー、じゃあ落ちたら危ないから先にベッドで横になってみ」
「うん」
壁際にメチョチョを寝かせ、後からオレがベッドに乗って毛布を被る。やっぱり密着するなあ、狭くてイライラしないのかな?
「このまま寝る? やっぱり私退こうか?」
「大丈夫。隣にいて」
「わかった」
横に居ても良いようだ。メチョチョと体つけて横になる。青肌ロリのお肌もぷにぷにで気持ちいいねえ。
「ねえ、マルエル」
「うん?」
「……甘えてもいい?」
「? おう、いいよ。なに?」
「抱きしめてほしい」
「あいよ」
メチョチョの要望通り、優しく体を抱きしめてやる。甘えたいとか言っていたので、自由に動く方の手で優しく等間隔でメチョチョの背中をトン、トン、と叩いてやった。
「……マルエル」
「ん?」
眠たさを噛み殺した声でメチョチョが声を掛けてくる。
「あたちのまま選手権、どうなったの?」
「……忘れてた」
やべ、完全に忘れてたわ。そういえばあったなそんなの。完全にマッサージ勝負のせいで頭から飛んで……いやいや。メチョチョがオレにあんな事するからしばらく発情しっぱなしだったんだもん。オレ悪くないだろ。
「ごめん。また後日、選手権の決勝戦やるよ」
「んーん。いい」
「いいの? ママ、欲しいんだろ」
「うん」
「じゃあ……」
「んーん」
ふわふわした声でメチョチョが言葉を紡ぐ。優しい、笑みも含んだ声音だ。……メチョチョの顔に彼女の髪がかかってる。指で退かしてやると、彼女の丸っこい目と目が合った。
「まま」
「……ん?」
「まま。マルエルがいい。マルエルが、あたちのまま」
……うーん? なるほどなるほど。オレがママかあ。
「……なんで?」
「分かんない。でも、ままはマルエルがいい。だめ?」
「私はいいよ。でも母親っぽい振る舞いとか出来るかどうか」
「まま」
メチョチョがオレの胸にギューっと顔を押し付けてきた。そのまましばらく動かずにいると、胸から僅かに顔を離したメチョチョが寝息を立て始めた。
「ママねえ。オレが……」
なんだかよく分からないがオレはメチョチョに母親認定をされたらしい。何が気に入られたんだろ、全く分からんな。
だが自分にしがみついて眠っているメチョチョの無防備な姿を見ているとなんだか愛おしい感情が湧いてきたので深く考えないことにした。耳たぶをクニクニと触り、頭を撫でてオレも目を瞑る。
……添い寝すると邪魔だなあ、角。もうちょっと小さく出来ないかなあ。




