55頁目「女装したヒグンは若い頃のヘレナ・ボナムカーターに似てる」
なにか、漠然とした違和感がある。
今日は、一年に一度の冬のお祭りであるテュール祭の日。しかし街に出てみると、皆慌ただしく家を飾り付けたりテュール祭にちなんだ売り物を出したりしていた。
クリスマスで考えてみてくれ。そんな当日になって急に慌ただしく彩ったりするだろうか? もっと前々から飾り付けたりするよね。
例年こんな事は起きていなかったと記憶している。何か変だ。まるで、数日分すっぽり時間が飛んでしまっているような、そんな違和感があった。
と、あたかも世界の方がおかしいかのような独白をする事によって、自分の脳が老化しているんだろうなっていう可能性から目を逸らす。肉体はピチピチだもん、おじいちゃんじゃないもん。
「しっかし、プレゼントねぇ」
フルカニャルリと一緒に街を見ようと思ったのだが、朝早くにアイツ旧友だかと一緒に出掛けて行ったので誘えなかった。
最近人型になった妖精にも人間の友達がいるんだなと驚かされた。その相手もフルカニャルリと同じロリだったし。
あれも、人間に擬態している妖精さんだったりするのだろうか? フルカニャルリと同じタイプなんかな。
「一人で買い物寂しいな〜っと。テキトーにパッパと済ませちゃお〜」
*
「時は満ちたり!」
買い物を済ませ、家に帰ってメチョチョとヒグンが暖炉の火で影絵を作っているのを眺めながらウトウトしていたらフルカニャルリが帰宅と同時に大きな声でそう言った。
テンション高いなあ、お友達と楽しめたようで何よりです。
「さあさあ皆の衆! 買い物や用事は済ませためね!? メチョチョママオーディションを始めるめよ〜!!」
「その前に荷物置けよ。どんだけ買い物してんだお前」
フルカニャルリは自分の糸で繭を作りそれをサンタクロースのように背負っている。随分重そうだ、こりゃ確かに単独じゃ持ち帰れないわな。
「ああそうめそうめ。先に飾り付けであり」
す、フルカニャルリは繭を壁に寄せると、中身をゴソゴソと漁って中から小さな木を一本だした。
……木? 木だ。模型かな?
「なんだよそれ?」
「装飾用のもみの木であり。テュール祭といえばらしいめよ」
「クリスマスじゃん」
「え?」
クリスマスツリーじゃんもみの木って。え? 名称が違うだけでテュール祭ってまじでクリスマスの事なの? この世にもキリストに相当する人間が居たのか???
「その木はどこに飾るの? 重いだろ、僕が運ぶよ」
「ありがたく! そうめね〜……マルエルはどこがいいと思う?」
「私?」
「なんかさっき呟いてたし、テュール祭だって一番身近だったのはマルエルでしょ? じゃあどういう所に飾るのかも知ってるのかなって」
「ん〜? ん〜……まああるあるかは分からないけど、暖炉とソファーの間にある柱の横とかなら邪魔にならないし、見栄えも悪くないんじゃないか?」
「階段のすぐ横だね。了解」
オレの言葉を聞くとヒグンがもみの木を普通にそのまま持ち上げ軽々と運んだ。それ、複数人で運ぶ物だと思うんですけど。
「折角お祭りがあるのならそれに肖り模様替えめ。こういうのも買ってきためよ〜」
またしてもゴソゴソと繭を弄ると、中からクリスマスツリーに飾るような星や玉のような装飾品がゴロゴロ出てきた。お菓子を模したものまである。なんか懐かしいな、こういうのを見ると幼少期に戻ったような気分になる。
「メチョチョも飾るのやってみるめか?」
「いいの!? やるやるー!」
「よく。おいで」
フルカニャルリがメチョチョを手招きし、一緒に小物を持ってワーッともみの木の方へ駆けていった。高い所の飾りなんかはヒグンがメチョチョの脇を持って、高い高いして飾らせてあげている。
なんか、こうして後ろから見るとフルカニャルリって意外とお母さんっぽい?
メチョチョにやってみるかどうかを尋ねて一緒にやってみたり、祭に合わせて家の中を飾ろうと思ったのもフルカニャルリだし、思い出を大切にしようとしてるみたいだ。ヒグンとの楽しそうに歓談してるし。
……オレ、めっちゃアウェーじゃね?
オレ、祭りだからって皆と特別な事をしようって発想に至らなかったし。飾り付けもしてないし、雪遊びなんかも付き合ってあげてないし。なんか自分ばっかで、最近人と何かする機会が減ったような……。
「ずーん……」
「どうしたのマルエル、なんか負のオーラを放ってるよ?」
「街角の占い師か。……フルカニャルリっていいお母さんになれそうだなあと思って。それでね」
「友達がいいお母さんになれそうだからそんな死にそうな顔をしているの? 良い性格してるなあ」
「でっしょ〜」
うるせえわ。お前にオレの気持ちなんか分からないでしょうね!
お前とフルカニャがお似合いに見えて普通にちょっと、なんか、よく分からんがモヤったんだよ。なんてキモすぎるから口が裂けても言えないけど!
「まっ、飾り付けが終わったら呼んでよ。私にはああいう空気は合わないからさ」
「合わないって?」
「アットホーム感とかオレには似合わないだろー。三人ともいい感じに家族出来てたし、オレは邪魔せずに隅で一人甘味で舌鼓でも打ってますよっと」
なんか気に食わないので意地を張って突き放してやる。我ながら幼稚だねえ、子供の癇癪だ。いきなり冷たい口調に充てられてヒグンも困惑しているわ、可哀想に。
だが孤独に慣れ親しんだ本物の陰の者はその点抜かりない。ちゃんとこういうの祝い事の時に孤独の時間が来ることを予期して、オレは事前に巷で流行りの新作お菓子を買い貯めていたのだ。だから別にいいもんね〜っと。
「マルエル」
「あん?」
「マルエルも家族だよ」
「あ? …………あ゛? な、なに急に。んだよ家族って、冒険者仲間だろ!」
「んーん、家族だよ。家族になりたいって意味で、僕はマルエルに告白したんだから」
「告白ってかキッ……キスな。下手だったし」
「下手って、まあ慣れてないからね……で、そういうものになりたいなって気持ちで僕はマルエルとキスしたんだけど?」
「はっ……はぁあああっ!? 何言っ、キスしたからってそういう縛りとか、ないし! テキトーにチャラついた感じでする奴とかいるし!」
「僕はそんな器用じゃないから、一生一緒に居たいなって思う相手としかそういう事はしたくな」「わああぁぁいいからそう言うの! 恥ずっ、別に恥ずかしくはないけどそういうのはいい! 言い方がクサイんだよ!!」
「酷いなあ。おーい二人とも」
急にヒグンが妙な事を言い出したと思ったら、コイツオレの手を握ってフルカニャルリ達の所に引っ張りやがった。
「手、手! ヒグン……っ」
心臓が馬鹿みたいに騒ぎ出し汗がどっと出た。ヒグンはしっかりとオレの手を掴んだまま離さない。
「ヒグンッ」
「なに?」
「て、手汗、すごいでしょ……離してっ」
「うわすっごい可愛いな今の顔。もっと見せてよ」
「っ!?」
姿勢を低くしてオレの表情を覗き見てくるヒグン。
強引だしいきなりだし力も強いのに、人の顔見てくるし……! なんでこんなに胸が騒ぐんだ!? 心臓病!? 意味分からん、耳鳴りしてきた意味分からん!!
「どうしため?」
「マルエルにも飾り付けさせてやってくれ。なんか一人でしょぼくれててさ」
「いいめよ。マルエル、おいで〜」
「……っ」
手を離してもらうとヒグンから逃げるように一目散でフルカニャルリの背後に隠れた。体が小さいフルカニャルリの背後にさらに小さく丸まって隠れる。
「うぐぅ……」
「マルエル、顔赤くなってるー」
「なってねえわ! 青ざめてるから! ゲッソリ!」
「メチョチョ、これはね。照れっていうめよ」
「照れ?」「勝手な事言うなって!」
「マルエルはね、ヒグンの事が大好「ぎゃー! ぎゃっ!?」なにめか……」
フルカニャルリが余計な事を言おうとしたので止めてやろうと身を出したらヒグンと目が合って悲鳴を上げてしまった。悲鳴でコンボを決めてしまった。
フルカニャルリの体に力いっぱいしがみつき顔を肩甲骨辺りに押し付ける。恥ずかしい、なんか恥ずかしい……!
「マルエル、変なのー。ぱぱを見て叫んでた」
「恋心であり」
「フルカニャ!」
「ぼくたち三人で楽しくしてた所に上手く入る事が出来ずどこか孤独を抱いていたマルエル。そんな彼女に一番に気付いたヒグンが、意地を張って輪に加わろうとしないマルエルを無理矢理引っ張り出してくれた。おかげでまた一人で部屋に逃げずに済んだって感じめね〜」
「フルカニャ!? ちょっと待って性悪が過ぎない!? そんな分析しなくてもいいよねぇ!?」
「悪戯には常に全力であり!」
「何でもかんでも悪戯って事にすれば許されるとでも思ってんのか……?」
フルカニャルリにいじめられながらもゆっくりと平常心に戻った後、四人でテュール祭の飾り付けを行った。あーあ、恥かいた。こりゃ数年は忘れられそうにない黒歴史になったなあ……。
*
「どうめか! ぼくのお姉さん服であり!」
飾り付けが終わった後、各々の包装された贈り物を木の下に分かるように置いてメチョチョのお母さん選手権が幕を開けた。
最初の勝負。先攻はオレで、以前ヒグンに買ってもらったワンピースを着て髪も一つ結びにしたスタイルでメチョチョの前に出た。
ほら、長めのポニーテールってどことなく長身の凛々しい女性がしてそうなイメージあるじゃん? その先入観で攻めたのだ。
メチョチョの反応も「いつもより年上な感じが出てるー!」って好感触だった。勝利を確信していた。
しかし、後攻のフルカニャルリが着替えをし終えてメチョチョの前に出ると、その反応から勝利の確信が揺らいでしまう。
「え、フルカニャってこんなに大人っぽくできるんだ……!?」
メチョチョに対し、オレも全く同じ感想を抱いたと思った。
白いブラウスにワインレッドの長いスカート。ブラウスの上から綺麗な緑色の薄いアウターを羽織り、花の装飾がワンポイント着いたお洒落なブーツを履いている。リボンが付属した白い帽子を被る事で活発だった印象のフルカニャルリにどこか儚さのようなものが宿っていた。
ついでに、照れだろうか? 口を引き結び、頬を仄かに染めて控えめにこちらに見せるその仕草も、淑女のような奥ゆかさを感じて相乗効果的に作用していた。
あの子供っぽいフルカニャルリが、完全にお姉さんに変身してきた。
「よ、妖精は何事も本気であり。なので、ぼくの出せる最大を出した、め」
「驚いたな、本当に綺麗だぞフルカニャルリ」
「本当! お姉さんだー!」
「ひぅ!? め、め〜……」
珍しく照れながらも嬉しそうにするフルカニャルリ。しかし彼女はメチョチョからの好評を受けながらも何かを探すようにキョロキョロと辺りを見回していた。
「どうした?」
「ヒグンはどこにいるのかなと思い」
「ヒグン? そういえば居ないな」
「ぱぱ? ぱぱなら支度があるって言って二階に上がって行ったよ?」
二階? ふむ、オレらの着替えを覗きに行った訳では無いらしい。オレは一階の晩餐室、フルカニャルリは居間の裏にある空いたスペースで着替えてたからな。
「二階って、一体なんの支度に」
「待たせたわね」
カツンッ! 階段下の木の床を鳴らすのはヒールの当たる硬い音だった。
突如現れたそれは、夜の女王が身に付ける外套が如き煌びやかな毛皮のコートをたなびかせ、ロングスカートに入ったスリットから覗かせる健やかなる、健やかすぎる脚を我々に魅せつけた。
「ヒグン!? さ、三人目のエントリーめ!?」
「ええ、そうわよ。アタシはメチョチョの母に相応しいのはアタシだわよ」
「言葉病気すぎだろお前」
ヒグンがオレ達に向けて三回ウィンクをする。バチって。凄いなあ、黒い染料でまつ毛を描いたんだろうな。目から黒い火花が爆ぜてるみたいになってるや。
ついでに何だ、鼻の斜め下に黒い染料でホクロなんか描いちゃって。髪も安直にロングのウィッグを被るんじゃなく、なんで金髪ショートのフィンガーウェーブなんだよ。マリリン・モンローじゃねえか。母親は母親でも、マジのマダムじゃねえか。
「ぱぱ!? ぱぱがままに!?」
「ウフ(はーと)。マルエルが男から女になったのなら、アタシだって父親から母親にもなれるだわ。親というのはね、性別を超越した存在なのわよ」
「え!? て事はぱぱままは、母乳も出るの? あたち飲んでみたい!」
「出るだわ。アタシに不可能は無いのだね。でも今はエレガントな社交の場だからね、授乳は後にしましょ。アタシの愛しい一人娘ちゃん」
髪をバッと動かし足を高速で前後に動かしてまたスリットから筋肉ムキッとした脚が出てきた。腰を捻って服同士が擦れ凄まじい音が鳴った。中国拳法みたい。
ちゃんと香水もしているようだ、特に厳つめな匂いのやつ。
これ、近所のおばちゃんとかが社交場に赴く際に着けるような匂いだなあ……。ドローレス・アンブリッジも多分似たような匂いの香水付けてるわって感じ。
「なあ。多様性が重視されるこの時代だが、吐き気を催しても大丈夫か? 傷つかないでくれる?」
「オェーッ!!!」
あ、フルカニャルリの吐く声が台所の方から聴こえてきた。うーん、貰いゲロしそうだからオレは風呂の方の洗面器で吐こうかな。
なんとか嘔吐を我慢し、口をゆすいだフルカニャルリがフラフラした足取りで戻ってきたので三人並んでメチョチョの前に立つ。
180センチ越えの筋肉男のマダム女装、迫力凄いなあ。筋肉から発せられる熱で香水の匂いが余計に強くなってるわ、勘弁してくれ。
「さあメチョチョ、誰が一番お姉さんっぽいかしら!?」
「ヒグン。あまり動かないで欲しく」
「そーだそーだ」
「ふふふ。アタシの完璧な女装を見て嫉妬だわかしら? 見苦しいわね!」
「体の横から手ぇ退けろ、お前でかいから手のひらで顔隠れるんじゃ」
「バンザーイの状態で立っててほしく」
オレ達に言われてヒグンは両手を上げてポーズを取った。片足あげたらグリコのポーズだ。立派な胸筋と前鋸筋のマダムですこと。
「さあメチョチョ! 決めるのだ!」
「待って。どうせ三人並んでるならマルエルとフルカニャにもポーズ取ってほしい!」
「あ? ポーズ?」
「よくめよ! デーンッ!」
ノリノリでフルカニャルリがヒグンに背中を付けてよつばと二巻の表紙みたいなポーズを取った。オレも倣ってキラークイーンのポーズを取る。
真ん中にはグリコのヒグン、右にはキラークイーンのオレ、左にはよつばとのフルカニャルリ。なんだこれ。
「わーい! あたちもー!」
えぇ。メチョチョがてちてち歩いてきてヒグンの前に立ち両手両足を広げたポーズを取った。誰に見せてんだよこれ。
「満足した! ありがとうみんな!」
「そりゃよかった」
「べすとままはぱぱ! ぱぱが1番おっきい〜!」
「「ちょいちょいちょい」」
フルカニャルリと揃ってメチョチョの手を掴む。
「ヒグンはメチョチョのパパであり! ママまで兼任してしまったら本末転倒であり!!」
「私とフルカニャのどちらがママかって話だったろ? 考え直せメチョチョ、こんな番狂わせは良くないぜ!」
「んぅー? ぱぱは無し?」
「「無し!」」
「僕は母の愛を与える事も可能だよ。なんたって僕の村では黙りますね」
女二人から睨まれてヒグンが萎縮した。彼は溜息を吐きウィッグを取った。
「うーん。ぱぱが無しだとしたら……」
ヒグンが着替えに行き、メチョチョが再びソファーに座りオレ達二人を順に見る。渋い顔をして唸りながら思考している。
そんなに僅差なのか? オレとフルカニャルリの見た目年齢は4歳くらい離れてるのに? 10代の4歳差は相当離れてるぞ〜……?
「……フルカニャの方がお姉さんっぽいかなあ」
「えっ!?」
「!? え、え、なんで!? 私の方が絶対お姉さんじゃん!」
「んー、分かんないけど! でもそういうふうに"あたちの方が"って思ってる所とか、なんか子供っぽい!」
「なぬっ!?」
「ふ、ふふ。そうめ、根拠の無い自信は未熟者の証明! マルエルは驕りを打って石橋を叩く事を忘れ滑り落ちた愚かな敗北者であり!」
「うぐぅ……」
フルカニャルリが無い胸を張ってオレに勝ち誇る。無い胸を張って。クソ、言いたい事は山ほどあるがメチョチョの一存で勝敗が決まるからな……。
「い、いいだろう。でも次の勝敗はメチョチョの意思に依らない純粋な実力勝負! いいさ、今は勝利を譲ってやる。そうじゃなきゃ面白くないからね」
「このまま我慢勝負でもぼくが勝ってやるめ。妖精の胆力、舐めるべからず!」
なんでこんな事で熱くなっているんだろうって感じだが、フルカニャルリと火花を散らす。まあたまにはこういう日常も悪くないよね。
「おまたせ〜。じゃあ次の勝負なんだけど、二人ともこれに着替えてね」
「「えっ」」
消えていたヒグンが色々と持って戻ってきた。マッサージ用のオイルは分かる、拷問器具にしか見えないツボ押し棒もまだ分かる。
しかし、二人用の布面積が死ぬ程小さい水着だか下着だか分からない布。これの存在が意味分からない。
「何これ」
「二人とも今着ているのはオシャレ着だろ? 汚すわけにはいかないし着替えないと」
「その理屈はわかるけども。なんでマイクロな水着なんだよ」
「こっちがマルエル、こっちがフルカニャルリね」
「聞けよ。なあ、もっとマシな着替えないの?」
「わ、ぼくの紐で結ぶパンツであり! えっち!」
何故かフルカニャルリは喜んでいてその場で着替えようとした。ヒグンが鼻血を吹き出す。ゲンコツを落とし、フルカニャルリにちゃんと隠れながら着替えてもらう。
「説明しろ。なんで真冬の家の中でストリッパーみたいな格好しなきゃならねぇんだ」
「いや〜、メチョチョの丸見え修道女姿を見てたら閃いてしまったんだよね。マルエルとフルカニャルリにも、布面積の少ない水着姿を披露して欲しいなって」
「う〜、ぱぱ、あまりジロジロあたちのおっぱい見ないでほしい……」
「見るよ。ぱぱだからね」
「おぞましすぎるだろ」
コイツ最早妖怪だろ。性欲そのものの擬人化だろ。怖いわ、もう色々と。
「という訳だから、マルエル! ここはひとつ!」
「嫌だけどね。ちなみに」
「駄目だよ。マルエルはもう何度も賭け事で僕に負けてはなんやかんやで罰ゲームをせずに来たから。拒否権無し! むしろもっと君にエロい事をしても僕に咎めは無いよ! うっひょ興奮してきた!」
「なんでこんな奴にも人権はあるんだろうな」
甚だ疑問である。
なんかメチョチョにも「着替えて〜!」って言われるし、二人に期待した目で見られる為仕方なく着替える事にした。
全く、最初はちょっと可愛い見た目になれたらそれで満足って思ってたのに。なんでエロコスプレばっかり着るようになっちゃったんだろうな〜……。
「マルエル〜」
「!? 馬鹿なのか馬鹿なのか!? 人の着替え覗きに来るとか本当にお前ッ!」
「さっきは覗けなかったからその分ちゃんとね」
「いいんだよそんなお決まりみたいな感じで義務で覗きに来なくても! あっち行け! フルカニャの方行けよ!」
「行ったよ? 紐結ぶの手伝ったら間違ったフリしてお尻揉んじゃった」
「お前不安にならないの? オレらにその気持ち悪さで嫌われないか少しくらい不安がったら???」
ワキワキ手を動かすヒグンの顔に回転蹴りを食らわせて晩餐室から追い出し、扉を閉めてさっさと着替える。
ったく、ヒグンの生まれ育ったカレル・チャピって村の大人達はどんな教育をコイツに施したんだ! 親の顔が見てみたいわ本当に!




