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48頁目「環境が変わると面倒事が増える」

 このパーティーのコンセプトはヒグンのハーレムメンバー、という事で。新しく仲間に加わったメチョチョも例に漏れずそのハーレムメンバーの一員であり、オレやフルカニャルリと同様にそこそこエロい格好を身に付けさせられていた。



「うわぁ……」



 つい声が漏れる。


 薄青色の肌に山羊の角。薄ピンクのくせっ毛ショートヘアに紫色の瞳。尾てい骨から伸びる黒い尾っぽ。どこからどう見てもすっかり誤魔化し切れない程の完全な悪魔っ子ボディ。

 悪魔らしさ、それを相殺する為に彼らは聖職者の衣装を着せようと思い至ったらしい。


 着ている衣服は修道服。だがその前部分は何故か穴が空いており、胸の上から裾の少し上辺りまで丸見えになっていた。

 その下に身につけているのは黒いマイクロビキニにしか見えない下着のみだった。



「これは駄目だろ。やってるだろ」

「安心するがよく。この下着、見せてもいい下着め!」

「そっか。でもな〜、ロリにこの格好をさせるのは些か良くない気がするよ」

「そんなの今更め。ぼくも似たような格好であり!」

「本当だね」



 フルカニャルリもエロ衣装に着替えている。エナメルレザーのビスチェにホットパンツ、ガーターベルトにブーツな。ジャケットを羽織ってはいるが、全然露出狂だもんな。



「おかしいな。こう並んでみると、私が一番布面積が多いのバグだよね」



 かくいうオレも着替えてはいるが、バニースーツなので肌が露出されているのは胸から上、腕くらいだ。足には網タイツを履いてるし、その上ジャケットも着るからね。


 ……やっぱり隠れてないな、昨日の噛み跡。恥ずかしいなぁ……。



「メチョチョはそれでいいの? 正直言ってただの痴女だよ? その格好」

「恥ずかしい……」

「恥ずかしいんかい! おいヒグン、メチョチョ嫌がってるぞ!」

「嫌じゃないよ! メチョチョの為に買ってくれたお洋服、それは嬉しい。でも、お肌が見えるの、ちょっと照れる……」



 おいおい、健気でいい子か。悪魔なのに天使やんけ。



「恥ずかしいめか? 綺麗なお肌であり、造形美であり! この天性の美を隠すなんて勿体なく!」

「恥ずかしくない? あたちの服装」

「恥ずかし」「恥ずかしくないめよ! 誇るべきめ!」



 恥ずかしいよって言おうとしたらフルカニャルリに口を手で塞がれて、阻止された。メチョチョはフルカニャルリにべた褒めされたことでいい気になって喜んでいる。



「まあ、餅尻ではぼくに遠く及ばないけどね! メチョチョはストン、プルン、ピタッなボディーなので、色気ではなく可憐さで勝負め!」

「ストン、プルン、ピタッ? あたち、色っぽくない?」

「そうめ」

「魅力、無い……?」

「そんなことないめよ! ねえヒグン?」

「……っ、ああ! 魅力は十二分にあるよ! 他の子とは違ったその肌色は希少価値さ! もっと間近で見ていたくなるね!」

「……見る?」

「いいのかい!? ちなみに舐めるのはっ!?」

「な、舐めっ? 舐めたいの? あたちのお肌」

「うん!」

「うんじゃねえよやめろタコ」



 いつものように頭を叩いてツッコミしようとしたら手で弾かれた。いってぇ〜!? びっくりした、手首を巻いてくるタイプのちゃんとした手払いでしっかり痛い。芯があるよぉ〜……!?



「なんだよヒグン、力加減ミスりすぎ……てか、お前が手を払うのはおかしいだろ」

「まあ冗談は置いといて、君にも魅力はあるよメチョチョ。だから安心して」



 ヒグンはオレを無視してメチョチョの頭を撫でた。今の、完全に無視されたよな。なんだコイツ、感じ悪いな。




 *




「決めた! あたち料理人する!」

「料理人〜〜!?」



 冒険者ギルドに行きダメ元でメチョチョの冒険者登録をしてみた所、どうやら登録出来てしまったらしい。

 15歳以上じゃないとなれないという縛りはどこに行ったのか、0歳児でも冒険者になれるらしい。まあ、肉体の素材元がオレだからってのも関係してるのだろうが。


 で、毎度の如く適職表を開いて見た所メチョチョは剣士や斧使い、魔法使い、使役術師と様々な有利職が書かれていたが、彼女が選んだのは補助職の『料理人』だった。



「料理人〜!? 料理なんて私でも作れるぜ?」

「料理人料理人。ふむ。料理系のスキルは勿論のこと、食材加工のスキルも獲得出来るみたいめよ?」

「それに伴い様々な属性の魔法も、まあごく限定的だが覚えられるらしい。悪くは無いんじゃないか?」

「つまりはなに、敵を食材に見立てて捌いたりできるスキルがあったり?」

「そうめね」

「料理人の解釈が幅広すぎるだろ」



 なんなのそれ、宿儺じゃん。キンッて頭切られるやんつっよ。フーガとか使えたらいよいよだな、皆料理人なった方がいいだろ。



「しっかし、『重戦士』に『死霊術師』に『錬金術師』に『料理人』のパーティーか。なんの冗談だよ、大道芸人か」

「まあまあ。そうは言うけどぼくもヒグンもマルエルも職業に頼らない部分で魔獣を倒したりできるし、から回ってはいないでしょ。良きことめ」

「良き事か〜? 受けられる依頼の数とか大きく変わるぞ。それに、スキルが使いにくいと職業ランクも上げづらいし。なあヒグン、ここは一旦立ち止まって考え」「それじゃ、窓口に持っていこうか。メチョチョ」

「うん! ぱぱ!」



 え。言葉を遮られたんだが。途中だったのにヒグンがメチョチョを連れて歩いていく。

 席に残ったフルカニャルリがオレの方を見る。



「喧嘩でもしたの? ヒグンと」

「……なんだろ。マジで身に覚えがない」

「昨日ヒグンの部屋で何かしてたでしょ」

「っ!? あ、あれはっ! その……」

「何をしに言ったのかは何となく分かるから説明しなくてもいいめよ」

「は、はあ!? 勝手に解釈するなよ!」

「ぼくは妖精であり。なんとな〜くで、魂の色を見れば嘘とか本音とか分かるから。今更であり」

「それズルいだろ!」



 なんだよ妖精だからって。その理由で全部片付くんかい! なんでもありだろそんなの!



「てか、何となくで心の内が分かるのならヒグンの事を見てくれよ。何で怒ってるのかさっぱり分からん」

「見たけど、何で怒ってるのかはぼくにも分からないめよ。ただ漠然と、今ヒグンはマルエルに対し怒り、ないし避けたいという思いがある事だけ伝わってくるめ」

「避けたい……?」

「うむ。ヒグンは今、マルエルと避けたがっており」



 神妙な顔で語るフルカニャルリ。ヒグンがオレを避けたがっている、か。ふむ……。



「だがそこに悪意は無く。悪意は無いめが怒り、悲しみ、それらが入り交じった感情も見え隠れしており。期待の反対色というのが正しいのかな、ぼくもあまり人間の感情をちゃんと理解しきれていないので、言語化が難しいめが」

「いい。……大体分かった気がする」



 分析をするフルカニャルリを止めさせる。


 避けられる理由か、そんなのは考えてみれば分かる。昨日の出来事とか、それに似た出来事の積み重ねだろう。


 オレは、一度思い込んだりすると暴走してしまうきらいがある。ヒグンに対し、こう、色々と押し付けがましくしてしまった部分があるのだ。


 噛み跡を残させる下りだってそうだし、あんな格好で部屋に行ったのもそうだし。そこら辺、いくら女好きだからと言ってもやはり引いてしまうところはあるのだろう。


 我ながら、ムーブだけ見たら重くて意味のわからない女である。中身が男だからそれを自覚するとキツいものがあるが、大事なのはヒグンからの見え方だ。



「こういう時は付かず離れずの距離感で、少しずつ関係性を改善していく必要があるよな」

「いや。あの心の色は、付かず離れずの控えめな接し方では完全に離れてしまう色であり」

「え!?」

「人間は、例え好きな相手だろうと許容出来ない部分ばかりに目が行ってしまうと、嫌いという感情が無いにも関わらず縁を断ち切ってしまう時があるめ。好きか嫌いよりも、波の立たない心の平穏を求めてしまう動物でありな」

「そうなのか……?」

「少なくともぼくが見てきた人間はそうだっため。人間関係が崩れる要因は様々であり、相互理解した上で崩れてしまう事だってある。群生の社会動物であるにも関わらず個のスペースを必ずどこかで設けなければ生きていけない習性の業でありな」

「ムズいな……」

「要は、離れかけてる心にはグイグイ押していかないとそのまま離れて言ってしまうという事め。人間界で言う所の自然消滅ってやつめよ」

「うわっ、急に具体性が上がった」



 自然消滅か……恋人関係でも友人関係でも多々あるやつじゃないか。



「じゃあ、グイグイ行ってみるしかないか」

「ちなみにもう一つ助言を残しておくめ」

「なんだそのセリフかっこよ。いつお前は私の師匠になったんだよ」

「ぼくはマルエルの倍生きてるめよ」

「そうだったわ。忘れてたわロリババア設定」

「蔑称めね〜」



 フルカニャルリは席を立ち、座ったままのオレのデコに小さな手を当てて優しくさすった。



「離れかけてる心を繋ぎ止めようとする時、大抵嫌な思いをしたり悲しい思いをしたりするものめ。心無いことを言われる事もあり。でもそれは相手にも余裕が無いというだけで、本心から拒絶している場合は少なく。何を言われても一旦は飲み込んでみるめ。我慢出来なくなったらぼくの所に来るとよく」

「……ママ?」

「えっ。一応言っておくとぼくも処女めよ? だからマルエルの先祖という可能性は皆無であり」

「ママ……!」

「なんで抱きしめられているのか。でも可愛いから良く! ぎゅーっ!」



 フルカニャルリに頭を抱き締められる。あぁ、ビスチェ冷たくてギチギチ音鳴るわぁ……。胸もほぼ平面だし、硬ぇ〜。



「わ! フルカニャとマルエルが抱っこしてる! あたちもー!」

「手続き終わっためか! おいでーメチョチョ!! ぎゅーっ!」

「わーい!」



 フルカニャルリとメチョチョが抱きしめ合う。二人とも身長同じくらいだから小さな子同士のハグだ。可愛いなあ。ちっちゃいものクラブですね。


 グイグイ、かあ。



「ヒグン」

「……」



 はいガン無視。知ってた。それはいいさ。オレは両手を広げる。



「ほ〜れヒグン、私ともハグするか〜? おっぱいに顔面埋めてきてもいいぞ〜」

「なにぃ!!!!?!?!?」



 すごい勢いでこちらを見たヒグンに笑いが零れた。



「ぶはっ!! ぎゃはははっ! 反応良すぎだろお前、何で拗ねてんのか知んねえけど欲望には忠実か! しゃーねぇ奴だなあ、胸に触れるのはまじキメェから無理だけど、どれ。ハグぐらいなら」

「……馬鹿にするなよ」

「えっ」



 死ぬほど冷たい声で、死ぬほど軽蔑した目で見下された後ヒグンは離れて行った。メチョチョも「ぱぱ〜!」と言いながらテチテチ着いていく。



「今のはマルエルが悪く」

「そ、そうかなあ!? だって」

「いいや悪く。反省した方がよく」

「はい……」



 しゅん。フルカニャルリが真剣な顔をしている。調子に乗りすぎましたね、ごめんなさいと。



 その後、試しに受注したクエストでも一度もヒグンはオレの呼び掛けに応えてくれなかったし、報酬金を受け取るくだりでも分配した後は近くに来ようともしなかった。


 いつもだったら飲み屋に行く所だったけど、ヒグンは家に帰りメチョチョと遊んでいた。オレはフルカニャルリと一緒に街をぶらつく。



「やばい。ちょっと心折れそう」



 街ブラしてる時に入った飲食店でフルカニャルリにそう打ち明ける。彼女は困ったように笑い相槌を打ってくれたが、彼女の目から見ても状況は悪化の一途を辿っていた。



「なんていうか、二人とも不器用さんであり」

「器用不器用の問題かあ〜? アイツ、完全にオレの事シャットアウトしてんじゃん。もうしんどいんだけど〜……」

「まあまあ、まだ一日目でありよ。人の怒りというのは長くは持続せず、沸点を超えてから精々数秒で怒りは収まるめ。その後の怒りは惰性で引きずっているだけ、時間が解決してくれるめよ」

「……でも、時間が解決してくれるまで待ったら」

「自然消滅するめね」

「だよね〜〜〜!! それ時間解決してくれて無いよねぇ〜〜!!? どん詰まりなんだけどぉ……」



 頭を抱えて唸っているとフルカニャルリのやつ、オレの手の甲にコップを置いてきやがった。他人事だと思いやがって〜!



「大体、あんな事をしたのだってお前のせいだっちゅーに。はあ……」

「あんな事?」

「昨日、ヒグンの部屋に行ったろ。その時、その…………」

「破瓜めか?」

「ちっっっがうわ!! まだそういうのしないです! そうじゃなくて!」

「まだって事は、いつかはする気めか」

「うるせえな!? 言ってねえだろそんなこと、変な詮索すんなや!」

「でもマルエル、ぼくのせいでって言っため。推察するに、ぼくとヒグンとの距離感が近くて、いつ夜の交わりをするか分からなくて不安で、奪われたくないから夜這いに誘ってみたものの、あえなくそういう流れにはならず撃沈したと予想するめ」

「おーおー展開しすぎだろ。お前の脳みそどんだけヒットしてんだよびっくりしたわ今」

「だって、ベビードールで異性の部屋に行くってなったら、そりゃ……」

「見てたのかよ!? 私のハラワタの話はいいんだよ! ったく」

「心配しなくても、ぼくはヒグンを独り占めしたりしないめよ」

「そんな心配してねえーーーっ!!」



 耳を塞いで大声を出す。ごめんなさいね、夜なのに騒いじゃって。


 結局その後はベロベロになるまで酒を飲んでしまって、フルカニャルリに介抱されて家に帰宅したらしいです。物の見事にヤケ酒である、フルカニャルリも流石に引いたそう。トホホ、だせぇなあオレ。

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