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46頁目「夜」

「さて、寝直すか」



 マルエル、フルカニャルリ、新しい仲間? のメチョチョが部屋から出て行ったので毛布を被る。


 そういえばこの部屋は二階部分の、フルカニャルリの部屋とは対称の位置にある部屋か。水路沿いの道が見える窓と石階段が見える窓の二つある部屋だ。良い部屋を譲ってくれたんだなマルエルの奴。


 でもあんまり開放的なのもどちらかと言えば好きじゃないし、石階段側の窓は棚でも置いて外から見えないようにしようかな。それとも外にある窓台に花でも飾ろうかな。



「……寝れんな」



 気絶してたせいだろうね、うごかずに目を瞑って二時間ほど経ったが全然眠れなかった。


 元々娯楽の少ない田舎で暮らしてきたからこういうのに苦は無いが、どうしようかなあ。少し外でも歩こうかな。ご近所さんの景観だけでも頭に入れておこうかな、夜に外を彷徨いてるゴロツキ程度なら勝てるだろうし。


 ギィ、と音がした。扉が開く音だ。……マルエル達、ちゃんと家の鍵は閉めているよね? そこん所はちゃんとして欲しいよ流石に。



(……マルエル?)



 窓ガラスの反射で見えたのはマルエルだった。なんだ、強盗とかじゃないか。良かった。



「どうしたのー。こんな夜……ッ!?」

「なに」

「いや。その格好は……?」

「パジャマ」

「にしてはなんというか、扇情的ですね……?」



 マルエルの服装はスケスケの布の、刺繍やレースで飾られた腰丈程のワンピース型のランジェリーだった。パンツと上下でセットな様だ。お洒落ですね。



「パンツ見えてますけど……?」

「そういうものだから」

「そういうもの……へそとか、胸も結構危ういですけど」

「そういうものだから」

「そういうもの……?」

「ベビードールって言うの! そ、そういうものだから!」

「そういうもの……」



 と、言われましても。ストレートすぎますよ、エロの権化じゃん。ほぼ全域シースルーじゃん。それ、着てる意味あるの……?



「そっち行ってもいいか?」

「えっ。……えっ!?」

「駄目?」

「いや、逆にいいんですか……?」

「?」



 疑問顔で見られましても、その顔をしたいのはこちらですが。あやべ、鼻血が少し垂れてきたゾ〜。



「相変わらず変態だな」

「そんな格好をしてきて何を……?」

「れっきとしたパジャマだから。そういうものだから」

「そういうもの……」



 マルエルが僕の寝ていたベッドに乗ってきた。僕のすぐ目の前でペタン座りする。



「ち、ちかっ!」

「……?」

「近いです! なんっ、どうしたの!」



 女の子らしい丸いシルエットの肩に胸がバクつく。近い近い、なんで顔を近づけてくる!?


 マルエルは僕の胸板に耳をくっつけて体重を預けてきた。何が起きているのか理解出来ない、彼女は何も言わない。小さな風の音しか部屋には響かなかった。



「どうしたの……?」



 沈黙を破ったのは僕だった。こんな気恥しい無言の時間には耐えられない、マルエルの目的が知りたかった。



「別に」



 別に、かぁ。それらしい理由の一つでも欲しかったなぁ。


 マルエルは離れない。体をくっつけたまま時は経つ。どういうアクションを取れば事態が変化するのか分からない。やはりここは、僕からなにか動くべきなのだろうか?



「何か嫌な事でもあった?」

「うん」



 あ、そうなんだ。なるほどなるほど、それでここに? ふむ、愚痴でも聴いてあげればいいのかな。


 そういえばギルドの飲み屋で先輩の冒険時である某エドガルさんが語っていたな。「女の話は言葉を挟まずにただ聞いて、意見を求められた時だけ相手に寄り添った言葉をかけてやれば簡単にヤレる」って。


 相手に寄り添った言葉という所が難所だが、要は話を聞く姿勢を見せれば好印象を持たれるとの事。物は試しだ、話題を引き出してみよう。



「嫌な事ってどんなの? 教えてよ」

「……嫌な事なんて、人に話したくないだろ」

「そ、そっか」



 そうだよね。失敗しました。



「……あの悪魔に頭ん中ぐちゃぐちゃにされた時、さ。お前の声が聴こえてきたんだよ」

「え?」



 勝手にマルエルが語り出した。話したくないんじゃなかったの……? 女の子は気が変わるの早いんだな。



「私は、中身は男だし、男相手に変な感情を抱くとは思ってない。でも、学術的に言うならさ、人格や趣向ってのはある程度肉体に依存するってのが通説で、だから……」

「……う、うん」



 なんか長々と話し始めたぞ? つまりなんだろう、女の子の体になったら男でも女の子の心になるって事だろうか?


 男の体でも女の心、女の体でも男の心を持ってる人もいると聞くが、先天性と後天性では違うのかな。



「っていうのもあるし……お前が馬鹿みたいに私を、女扱いするから……」

「だって僕から見たらただの美少女だし」

「ッ、だからそういうの! 簡単にっ、他人を美少女だとか可愛いだとかっ、言うべきじゃないから! もっと慎重に言葉を選べよ」

「思った事をそのまま言うのは良くないよね、よく注意されるよ。でも悪くは言ってないんだし別に良くないかい?」

「……タコ!」



 またタコだ。単品のタコ。はたしてそれは悪口なのだろうか。僕はタコでは無いんだよな。



「……そんな軽いノリで私の初めてを奪ったの、まじで許せない」

「えっ。初めて? ……初めて!? 待ってくれ、僕は君に手なんか出してない!」

「出した」

「出してない!」

「出した!!」

「いつ!?」

「1週間くらい前! 私に……キスしやがっただろクソ変態ゴミちんこ野郎!」

「言われすぎ言われすぎ」



 1週間前……あっ! 洗脳されたマルエルを助ける為、という名目で死ぬ前に最期くらいと思って勢いでやったアレか!



「あ、あれは! そこで殺されるもんだと思ったから、せめて最期くらいは好きっ……美少女とキスしたいなって!」

「……お前私の事好きなの?」

「はっ!?」

「言いかけた。し、フルカニャも言ってた事ある」

「仲間としてな! 仲間として、僕は平等な好意を二人に向けてるのであって!!」

「……平等」

「そ、そうだよ!」



 マルエルが離れる。僅かに俯いてるから表情は伺えない。彼女が翼が持ち上がった。その翼で、力なく僕の体をマルエルが叩いてくる。



「いたっ、いたっ! なんだよ……?」

「……フルカニャルリには沢山セクハラするし、そういう事だって、したいって言うし。でもオレにはそんなでも無いんだな」

「どういうっ!? いたっ……!」



 顔を上げたマルエルは、目尻に涙を貯めて僕を攻めるような顔をしていた。一度舌打ちをすると、彼女はベッドから下りて部屋を出ようとする。


 反射的に彼女の翼を一つ掴んでいた。驚いた顔でマルエルがこちらを向く。



「なんだよ」

「上手く説明できないけど、行かせたら後悔する気がした」

「は? 知らねえよ、離せ」

「離さない。こっち来てくれ」

「……誰が」「頼む」



 翼を離して頭を下げる。少しの間足音は止まり、ベッドがギシッと凹んだ音がした。



「なんですか」



 ムスッと膨れた顔のマルエルが目の前にいた。拗ねている、可愛い。


 引き止めたは良いもののどうしたらいいんだろう。こういう事って未経験だから正解が分からない。


 ていうかさ、僕童貞だから分からないんだけどマルエルはどんな気持ちでこんな服装でここに来たの? もしかして、マルエルも僕の事が好きとか……?


 いやいや。いやいやいやいや。好きな相手に刃物で脅したりするかね? 窓から捨てようとするか? ナイナイ。マルエルに限ってそういうのは絶対にないよ。


 というかそもそも、この子にはマリアさんっていう想い人が居たんだし。そうでないにしても中身は男の人なんでしょ? 男が男を好きになる、そういうのを否定してる訳では無いけど、マルエルはソッチ系の人じゃないでしょ。



「……」

「……ねえ」

「……はい」

「なんか言えよ。引き止めておいて地蔵になってんじゃねえよ」



 そう言われましても。何を言ったらいいのか……。



「…………マルエル、は、僕の事どう思ってるの」

「は?」

「僕の気持ちは伝えただろっ! だから今度はマルエルの番だろ順番的に!」

「……私も、ヒグンの事は仲間として好き」

「だけか?」

「……だけってなに」

「いや。だから、その……」



 会話はそこで途切れた。あれ〜、思ったよりも何も変わらなかったぞ〜? これ僕にも勿論問題あるけど、マルエルもちょっと色々足りないんじゃないか?



「……私の前にヒグンが答えろよ」

「えっ?」

「順番的にはそういう順番だから。私は最初っから、そういうつもりで聞いてたんだし」

「聞いてたって何が、何の話さ。主語が見えないよ」

「……私の事、好きかどうか」

「だから、仲間として」「仲間としてじゃねえわボケ! 女とし、うっ、あー……だから……そういう……」



 口が滑ったと言わんばかりに顔をボンッと赤くして俯いて声がしりすぼみになるマルエル。最後まで言葉を紡げなかった彼女は「あーもう!」と大きな声を出して僕をベッドの上に押し倒すと、強引に首筋に歯を立ててきた。


 前から付けられていたマルエルの歯型とは少しズレた位置に歯が落とされる。このままだと僕の体が歯型だらけになってしまうよ。



「………………マルエルって、実は吸血鬼だったりする?」

「……」

「返答は無し、か」



 僕の体に全体重を預けて、自分の肉体をグイグイと押し付けながら噛み跡を残すマルエル。ベビードールとかいう薄い布が全く衣服の機能を果たせていなくて直に裸のマルエルが抱き着いてきているようだ。


 勿論マイリトルボーイが元気いっぱいに天をかかげている。なんならそれはマルエルの太ももに当たっていて、彼女はその存在に気付いている筈だ。でもマルエルはなんのリアクションもしなかった。



「……ぷはっ」



 口を離して僕を見下すマルエル。また思い切り噛みやがって、血がドクドクと流れ出ている。



「僕の血、美味しいの?」

「不味い」



 そう言いながらもマルエルは手指に僕の首筋から流れる血を掬っては、まるで見せつけるかのように僕の前でそれを舐めとっていた。

 ……なんなんだ、今夜のマルエルはまるで僕をずっと誘惑しているようだ。そう思われても仕方ない事をしてるって、本人は分からないのだろうか?


 パーティーの風紀を守る為、秩序を維持するためにそういう行為は絶対禁止! そう常々発信しているマルエルとは思えない行動の数々に疑問が生じる。どうしたんだろう……またマルエルの偽物とか?



「……っ」



 僕の血を舐めて、僅かに上気づいた頬を紅潮させながらも不機嫌顔で僕を見下ろす彼女の唇に指を触れる。抵抗させるかと思いきや、彼女は少し驚いたように身をビクつかせるのみで何も言ってはこなかった。


 言葉は無粋だと思った。口を彼女の顔に近付けさせた。


 マルエルは強く目を引き結んでこちらの出方を待つ。……緊張しているのか、口は強ばっていた。


 僕は彼女のベビードールの肩紐をズラしてから、空いた白い肩に歯を当てた。



「……いっ! いたいっ!」

「ほふもいははった」

「なんて言ってんのか分からない……!」

「っ、僕も痛かった」

「……だろうな」

「だからおあいこな」

「待って。……そこ、髪下ろしても見えちゃう」

「駄目?」

「良くは無いでしょ」

「でもマルエルは僕のなんだし、見える所に証を付けておきたい」

「は、はあ!?」



 勢いで口を走らせてしまった。流石に気持ち悪い発言だったのは自覚している。あれだ、ハーレムメンバーの一員なんだしって意味である。どのみち気持ち悪いな。



「私は物じゃねえ」

「ご、ごめん! ついキモイ事を口走っちゃった!」

「いいよ。……噛まないの?」

「えっ」



 てっきりそこで断られるかと思っていたのだが、僕からは顔が見えないように下を向いたマルエルが尋ねてきた。



「噛んでいいの? そこ」

「……」

「……じゃあ、失礼しまして」



 無言で頷く彼女、許可を得たという事なのだろう。白くて丸い小さな肩に再び歯を当てる。


 とはいえ、肩だから首よりも太くて噛みやすくは無かった。より体を密接に付けて、抱きしめて押し付けるようにして歯に力を入れる。


 今回は確認もせずにマルエルにしがみついたが、彼女は文句を言わなかった。されるがままにこちらの取る行動に黙って従っていた。



 彼女の胸が僕の胸板でふにゅっと推し潰れる。その奥にある心臓がバクバクと高鳴っているのが伝わった。マルエルはじっとりと汗をかく、緊張や照れ恥じを感じているのだろう。


 彼女が身を硬直させているのに対し、僕は意外と穏やかだった。マルエルの柔らかな体と甘い匂いはなんだか心を安心させてくれる。ずっとこうしていたいなとすら思う、彼女の肉体には癒しの効果があるのかもしれない。



「んっ……」



 血が出る程の力を加えた辺りでマルエルの翼を撫でた。その根元、腰との接続部分の付近を撫でるとマルエルの口から甘い声が漏れた。少し鳥肌が立ってる。くすぐったいのだろうか?



「……ヒグン」

「ん?」

「今の、もっかいして」

「!?」

「変な意味じゃなくてっ、そこ気持ちいい、から、痛みが紛れる……」



 あ、ああ。そういう意味か。ビックリした。何故とは言わないけど、変な汗かいた。こちらも心臓バクンバクンである。


 言われた通りに翼の根元や羽根の始点辺りを指でなぞる。先端の方から根元の方までを人差し指の先が着くか着かないかぐらいの慎重さでそ〜っとなぞると、マルエルの背中が沿ってくすぐったさと快感に悶えているのが分かった。



「んぅっ……あっ、んっ……」

(それは喘ぎ声では……?)



 頭の中で思った事は口にしたらヤバそうなので言わない事にした。似たような声を大昔、村の子作りの儀の時に聞いた事があるなあと。あれは子供ながらに刺激的な光景だった。



「今回は一緒に寝ないの?」



 噛み跡を付ける行為が終わった後、マルエルは肩に平織の布を患部に押し当てたまま立ち上がりスリッパを履いた。てっきりそのまま一緒に寝る流れだと思ったから邪念無しにそう聞いたのだが、彼女は軽蔑するような目を僕に向けて言う。



「部屋があんだから一緒に寝る必要ないだろ」

「! いやまあ、確かにそうなんだけど!」

「……なに、一緒に寝たいの?」

「そそそそういう意味ではなくてですねっ!? ただほら、いつもの流れというかっ!」

「……フルカニャが相手だったら、そんな風には返さないだろ」



 とだけ言い放ち、彼女は部屋から出ていった。この部屋に来てから一番の不機嫌そうな様子で。


 だ、だって、フルカニャルリは何故か僕のセクハラを推奨してくれてるし。マルエルはその反面、まあそれが当然ではあるんだけど怖いし、ツッコミに刃物が出てくるからなあ……。


 本音を言えば添い寝したいし、全然その先の事もしたいし、フルカニャルリの言うようにバコバコ子供を作ってしまって大家族を築きたいとまで思っているが、そんな事本人に言えるわけもなし。


 でもなんだか、そういう遠慮がかえって彼女を傷つけてしまった気がしないでもない。女の子って、やっぱり難しい……?

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