44頁目「家入手やったあ!」
悪魔を受肉させる儀式とやらに巻き込まれた5日余りの殺人事件はなんやかんやで一応は丸く収まった。
マルエルやルイスちゃんがする事がある等と言い更に1週間ほど余分に滞在した。
立派な屋敷を手に入れてほくほく顔のルイスちゃん、彼女に保護される形で養子になったレイナさんとチャールズくんと別れ、ギルドに四人で帰還し報酬金を貰った後、エドガルさんとも別れを済ませた。
そのまま普段の流れで飲みにでも行くのかと思っていたが、マルエルが「着いてこい」と言い出した。フルカニャルリも事情は知らないらしく、二人でマルエルの後を追って歩く。
「こっちの方には行ったことが無かっため」
マルエルは普段僕たちが行き来する大通りとは逆側の、水路が見える道を行く。街路樹やベンチが等間隔に置いてあったり、飾りのある柵が置いてあったりと洒落ている。
「この通りは僕らの住んでる通りと違って大通りで店を出している人達の私邸が固まっている高級住宅街だろ? 冒険者でも住んでいるのは稼ぎのある上級パーティーの人だけだと思うよ」
「わ! ボンボン街であり!」
「嫌だなあその呼び方。教えたのはマルエルだろ、やめてくれよフルカニャルリを汚すのは……」
「あ? 私は何にも教えてないっての、勝手にフルカニャが覚えるんだよ。嫌なら私よりコイツに好かれる努力をしたらいいだろ」
「ぼくはヒグンも好きめよ?」
「な? ヒグン"も"だろ。私のが好かれてるってこった」
「なんだとー!?」
マルエルが挑発するように鼻をフンッと鳴らして得意げな顔を見せた。コイツめ、子供っぽい事で人にマウント取りやがって〜!
「ヒグンは奥手だから駄目であり。マルエルはお願いしたらぼくをいつでも抱きしめてくれるし、撫でてくれるし、優しくしてくれめす。しかし、ヒグンはなんだかんだ抱き締めてくれないし、なんかよそよそしく!」
「え!? いやいや、だって僕ら男女だし」
「むー!」
「に、睨むなよ……」
頬を膨らませたフルカニャルリに嫌われる。僕おかしいこと言ったかなぁ!?
「まっ、要は距離感が童貞らしく両極端ってこった。そら、着いたぜ二人とも」
さりげなく酷い事を言われた気がするが、マルエルが一件の邸宅の前で振り返りじゃじゃーんと手で示すのでその話は言及しない事にした。
「これは?」
「本来ならサミュエルさんらが引っ越す筈だった家だよ。ルイスさんがあの屋敷を引き取ってからはレイナさんとチャールズくんもそこに住む流れになるし、実質この家は余り物になるだろ? それを、どうにかこうにか話をつけて貰い受けたって事よ」
「いつの間にそんな事してたんだよ」
「その為の1週間だよ。一時的に権利がルイスさんに移ったのを、まあ色々とな」
色々ってなんだよ。詳しく聞こうと思ったが、なんだかマルエルの笑顔に圧を感じたのでやめておいた。薮をつついたらろくな目に遭わなそうな雰囲気である。
「つ、つまり! これはぼくたちのお家という事めか!?」
「そういう事めうね〜。私ら三人のプライベートなハウスだぜ」
「わーい! もう上がってもよく!?」
「おー。部屋割りは後でやろう。まずは案内がてら、中を軽く歩こうか」
嬉しそうに扉を開けようとするフルカニャルリを止めて鍵を開けるマルエル。フルカニャルリは扉が開いた瞬間にトテトテトテッと中に走っていった。
「ラピスラズリ家は貴族だからな、一階は社交や食事の場になってる。玄関ホールを抜けるとすぐに広間があって、右手に晩餐室、左手に居間というか応接間がある」
「まだ空き部屋が二つあるみたいだが?」
「前任の住人はそれぞれ遊戯室、書斎として使っていたようだな。まあ使い道は未定だし、フルカニャルリの錬金術研究部屋とかにしてもいいんじゃないか? 必要な書物も結構多いだろ」
「だね。当の本人はもう奥に言ってしまったみたいだが」
「トトロの冒頭で似たようなムーブ見たなぁ。で、ここが一階のトイレ。上に行く階段は広間の奥か、外に見えていた石階段を登った先にある扉から直接入る事も出来る」
階段を登り二階に上がる。二階と言ってもこの家は街の段差部分に面していて、上の階層の扉からも街に出られるようだ。階段横の扉から直接裏手の食材屋にアクセスできるのは便利だな。
「二階は階段からすぐ近くに一部屋、扉の近くに一部屋、風呂とトイレがあって、奥にまた二部屋ある。合計四部屋、サミュエルさん達の家族構成に合わせた設計だな。だからまあ、一部屋余る訳だが」
「!!! 四部屋もあったら合法的な幸運スケベの発生率が下がってしまうじゃないか!」
「一部屋霊安室にしようかな」
「冗談じゃないか。刃物を出すのはやり過ぎだよマルエル」
危ない危ない。この所ツッコミの為にナイフを出すのに躊躇が無くなってきてるから恐ろしいな。もうそろそろなんでやねんの感覚で刺されてしまう気がする。
「ぼくここがよく! ここにするーっ!!」
部屋からフルカニャルリの声が聞こえてきた。外に通じる扉から見て最も遠い部屋からだ。
「はー。良い部屋取ったな〜フルカニャ」
「うん! よく!」
フルカニャルリの希望した部屋に入る。窓からは家の前にある路地と水路が見えて、更に先には街の様子がミニチュアのように一望出来る。1番景色が良い部屋みたいだ。
「下の暖炉から伸びる煙突があって少し部屋は狭いが、いいのか?」
「それくらいならよく! 庭木に手が伸びる位置なのも良く、錬金術に使える植物を栽培して研究し放題め!」
「向かいの部屋は建物の影で窓から日が差さない部屋になるな。私がそこに住むよ」
「え!? まだ二部屋空いており、窓から外が見える部屋にしなくても良く?」
「あんまり日焼けしたくない引きこもりなんでね。まあ冬の間は冷えるだろうからフルカニャの部屋にお邪魔することも都度ありそうだけど」
「よく! 添い寝してあげめす」
「わーい」
「待つんだ」
トントン拍子で話が進んでいる気がしたので二人の間に割って入り話を一旦中断させる。
フルカニャルリは目を丸くし、マルエルは忌々しそうに舌打ちをした。……待って、マルエルの反応おかしくない? 同居してる仲間ですけど?
「なにか問題ですか。ちなみに私らん中で唯一の男、黒一点である事情を加味した上で発言をしろよ」
「僕だけ部屋が離れているだろう! 風呂上がりや寝起き、トイレの時の無防備な姿を見る確率が減るし繰り返し言うが幸運スケベや添い寝なんかも待ってくれ。そこを刺したら人は死ぬぞ。心臓をさすのはやばいな流石に」
胸をナイフの刃先でトントンと軽く叩かれたので両手をあげる。し、しかし折角女二人と暮らしているのに部屋が離れるのはやっぱり嫌だ! 嫌だ〜!!
「マルエル! さもなくばマルエル! 僕はここでハーレムの主として君に命じるよ!!」
「無理。私にバニースーツの縛りプレイを与えてるだろ。そういう特権はこれ以上効きませ〜ん」
「ここ数週間は普通の服装をしていただろ!」
「数週間しか普通の服装出来ないのか? ノーカンにしろよ。てかそんな事でペナルティ課すなよ」
「し、しかし」
「しかしもかかしもって昭和な言い方が出てきちゃうぜ。エロい事を期待してるってんなら余計近くに女は置けないっての」
「エロいのを抜きにしてもなんか一人だと寂しいだろっ! 普段から男1人女2人だからかどこか疎外感を感じるんだよぉ!」
「知らねーよ。ハーレムなんだからそりゃ男の方が比率は低くなるに決まってんだろが。甘受しろよ」
「ハーレムだからこそ男である僕が孤立するのはおかしいだろ〜!」
「静まれーーーーいっ!!」
フルカニャルリの大声が僕とマルエルをつんざいた。彼女は顔を赤くし、頬をパンパンに膨らませた顔で怒りの表情を僕らに向けていた。
「なんで部屋割り程度で喧嘩なんてするのめか! 仲良くしなさい! ヒグンは、寂しかったらいつでも添い寝しに来ればよく! マルエルは不健康的だから窓がある部屋にするべきめ!!」
「いいのかい!?」
「いや不健康的って。私こう見えても結構なが」「だまれーい!!!」
「しゅん……」
怒られたマルエルが小さくなった。この二人の力関係だとフルカニャルリの方が強いんだな。
「……まあ、冬の間は確かに窓がある部屋の方がいいか」
「……寂しくなったら、添い寝しに行ってもいいんだね?」
「お前」
「マルエル。いいじゃないめか、赤の他人ならまだしもヒグンは仲間だし、もう何度も添い寝はしため。変な事はしないと分かりきっており」
「変な事をするつもりはあるぞ?」
「おい」
「ぼくはいいめよ! 前も言っためが、ヒグンとの子供なら作ってみたく!」
「よし!」
「よしじゃないわ」
「残り一つの部屋も子供部屋にしたらいいじゃないか!」
「天才であり!」
「アホかお前ら」
「マルエルも作れば同い年の友達が出来て先の世代も出来るめ! 人類の新たな創世記であり!」
「腹違いの二親等じゃ。それで家系なんか作ったら奇形児量産工場なんだよ」
「むーっ! でもぼくはヒグンとしかしたくないし、マルエルにも他の男とつがいになってほしくなく!」
「そもそもつがい云々を置いとけって話。ヒグンが鼻血でダウンしてるじゃねえか」
「えっ!? わー、ヒグン〜!!」
「こんなロリっ子とガキ作る妄想で鼻血出して気絶とか、本当終わってるわ……」
マルエルがなにか冷ややかな目を向けながら言っていたが、もう意識が遠くに旅出してしまっているため言葉の理解は出来なかった。
「あ、てか荷物を宿から運び出さないとであり」
「本当だな。ヒグンは……夜まで起きれなさそうだな」
「どうするめ?」
「二人で運ぶしかないだろ。はあ……勝手にコイツの部屋決めてコイツもそこにぶち込んどくか」
「わかり」
マルエルとフルカニャルリに身体を持ち上げられる感覚がした。あ……この手触り、僕の上半身を持ち上げているのはフルカニャルリか。手の先には尻がありそうだな……えいっ。
「きゃんっ!?」
「? どしたーフルカニャ、プライベートでローターでも突っ込んでんの?」
「なにめかそれ? なんか、お尻をヒグンに触られため」
「コイツまじか……」
「ふふ。全く、言ってくれればもっと触らせてあげるのに。シャイだなぁ」
「そこは引いとけよ女として。なんで嬉しそうにするんだよ」
「今日普通のお洋服だからお尻の形も布であまり分からないと思い。後でいつもの短いやつを履くか、パンツでヒグンの部屋に行く!」
「やめろ。本当にやめろ。お前な、マジでそろそろだからな? そろそろこの男爆発するからな? 嫌だよ私、お前の喘ぎ声を壁越しに聴くの。このパーティー居れなくなるよマジで」
「ふっふっふ。ちゃんと分かっているめよマルエル。だからアプローチをしているめ!」
「馬鹿痴女がよぉ」
楽しそうに二人の少女が話し合う声が聴こえる。鼻血の大量出血で意識が遠のいてきた、もうなにも聴こえない。あぁ……この調子で意識が途切れる間際に一度だけ、もう一度だけフルカニャルリの餅尻を揉んでおこうっと。
「ひゃんっ!?」
「フルカニャ。コイツ窓から捨てようぜ」
「マルエル!? ダメダメ死んじゃうって、マルエルーっ!!?」




