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43頁目「殺人事件、おわり!」

「どうするつもりめか? マルエル」



 ヒグンとエドガルさん、レイナさんが部屋から出ていくとフルカニャルリが質問をしてきた。チャールズくんも不安そうな顔をしている。



「ボクは怪我をして目が見えなくなったわけじゃないから、どんな魔法使いさんにも治せないって……」

「そっか。人道的で、優しい魔法使いさんとしか出会わなかったんだね。チャールズくん」

「……?」



 オレは言葉に二人はクエスチョンマークを浮かべる。ただ一人、オレの魔法の効力が切れて痛みから開放された瓶の中の悪魔だけが、強がるようにオレに笑いながら言葉を投げてきた。



『ど、どんな魔法使いでも無から有を生み出すことは不可能だ! お前如きに何が出来る! 期待させて説得でもして身を消滅させようという算段だったら笑い倒してくれる!』

想起(メノン)

『ぐっ、がああぁぁぎゃああぁぁぁ頭がっ、鉄に押し潰されっ』

「笑え〜。笑い倒せ〜。笑わないとどんどん重ねがけするぞ〜。想起、想起、想起〜」

『ぎあああぁぁぁぁぁっ!!?』



 戦車に潰された死体と、顔に高熱の燃料油をぶっかけられた死体と、内臓同士の隙間に肉食虫を詰め込まれた死体と、家族食わされてクールー病で死んだ死体の痛みをパボメスに投影させる。

 この魔法、心の痛みとかもしっかりそのまま与えられるから拷問向きなのよね。



『殺してくれっ、殺してっ』

「本当だったら不死身にする魔法で死なないようにして、この世界が終わるその日まで永久に想起で苦しめたかったが、あんた悪魔だもんな〜。厄ネタは潰しとかないとな」

「マルエルも悪魔めか? もしかして」

「たわけが。この拷問方法の立案者は私の世界じゃ釈迦っていう名前で呼ばれてる偉い神様だぞ。罰当たりな事言うなよ」

「……マルエルの信仰してる宗教も邪教めか?」

「私は無宗教無信仰だよ。さて」



 いつまでも金切り声を上げる瓶詰めモクモクを台所にポイッと投げて、チャールズくんの頭をポンポンと優しく触れる。



「マルエルお姉ちゃん……?」

「手段はあるんだよ。ただその方法がちょっと残酷に見えるかもしれないんだけど。要は外科手術だね」

「げかしゅ?」

「ん〜、移植外科っちゅうのかな? そんな感じのやつ。フルカニャ、麻酔とかって作れる?」

「麻酔めか?」



 フルカニャルリは上着を脱いで持っていた小瓶を幾つか見て考える。



「成功するかは分からないけど、一応作ってみる」

「お〜頼む。それがなきゃチャールズくんが気絶するまで首トンしなきゃいけないからさ」

「お姉ちゃん? 今怖い事言わなかった? う、苦しい……!」

「大丈夫大丈夫。私に任せれば全部大丈夫だよ〜」



 震えるチャールズくんを優しく優し〜く抱き締めてあげる。ふふふ、お姉さんから抱き締められるのは嬉しかろ〜? だからガチャガチャ言わんと黙りなはれ。



「出来ため〜! 試行回数4回で! 天賦の才であり〜!」



 あっぱらぱ〜と両手を上げて喜ぶフルカニャルリ。ダメ元で頼んでみたけど作れるのかよ、毒キノコでも拾ってきてやろうかと考えてたのに。



「でも、注射器がないめよ?」

「大丈夫大丈夫。疵の忘却(パナケー)



 魔法を掛けてチャールズくんの肉体を活性化させて、フルカニャルリから出来上がった麻酔薬を受け取る。



「何をする気めか?」

「しー」



 口に人差し指を当てて、何があっても叫んだりしないように目で訴える。フルカニャルリがウンウンと頷いたのを見ると、ナイフでゆっく〜りチャールズくんの静脈に切れ目を入れる。



「!?」

「しー」



 フルカニャルリが叫び掛けるが念押しをして黙らせる。大丈夫だって、オレの魔法でチャールズくんは痛みを感じねえし手で触れてる限り死ぬ事は絶対無いんだから。


 断面に指を突っ込んで、魔力で麻酔薬を押し出して中に静脈の中にぶち込んでやる。必要な分をぶち込むとサッと切断面を魔法で治療する。



「な、なんで強引な事をするめか……」

「はっはっは。でも、何も感じなかったろ? チャールズくん」

「? うん……って、血が出てるよお姉ちゃん!!?」

「うんー。大丈夫大丈夫。それより、そろそろ眠くなってくると思うからソファで横になろうか」

「眠く……?」



 言っている間にウトウトし始めるチャールズくん。気を付けないと次の瞬間にゃ半目で机にヘッドバットするやつだ、抱き留める。服が血で汚れちゃった、可哀想。


 ソファに寝かせるとすぐにチャールズくんの意識が消える。瞼を開けさせてみるが反応はない、光を当てたり離したりすれば瞳孔が収縮する。いい感じ。



「さてさて。こっから我慢問題ですな〜」

「我慢問題?」

「フルカニャ、お前グロいの苦手じゃなかったっけ」

「苦手という程でもないめ。長く生きているゆえ」

「そっか。まあ見てて気持ちいい物じゃないだろうから、目を離しといた方がいいぞ」

「? それってどういう」

「えいっ」



 チュピッて音が眼窩に響いた。オレが自分の目に指を突っ込んだ音だった。



「!? マルエル」

「いたたたたっ、たまらんたまらん!」

「錯乱でもしてるの!? なんで自分で目をほじくり出したのめか!?」



 抉り出した自分の眼球を小皿に置く。可愛いピンポン玉ちゃんである。回復魔法で欠損した眼球を再構成する。するとどうだ、新鮮ピチピチのつい今しがたまで生きていた眼球のフリー素材が出来上がる訳である。



「まさか……」

「おう。最初から機能を損なってる眼球を抉り出して、私の眼球を埋め込んで回復魔法で繋ぎ合わせる。他人の臓器だから拒絶反応でしばらく熱は出るだろうが、これで目は見えるだろ」

「サイコでありー!?」

「どこがやねん。エモいやろが、臓器移植」

「エモいってなにか! 意味が分からずっ、あぁもう一個も取り出したぁ!?」

「目玉は二個付いてるからね〜」



 フルカニャルリが頬をぶにゅっと両手で潰し叫んでいた。ピノコやん。じゃあオレはブラックジャック? その路線行けるかな、体が植物になる病気みたいな話で鳥肌立って読めなくなった過去持ってますけど。



「ふぅ。あー、痛かった。オニュ〜お目目ピカピカだぜ」

「……待つめ。という事は、これからするのって」

「おう。幼いショタの綺麗な眼球をこの指で抉り出すぜ!」

「キャー!?」



 フルカニャルリが頭を抱えて丸くなって震える。嫌なら居間から出ていけばいいのに、なんでこの場に居続けるんだよ。



『ま、待て!』

「あん?」



 チャールズくんの瞼を指で押さえて眼球を抉り出そうとしたらパボメスが台所から大声を出した。無視無視、眼球ゴッソリ〜っと。



『待ってくれ! た、頼む! 身は、受肉さえ出来れば後は何も貴様に危害を与える気は無かったんだ!!』

「そうなんだ。でも受肉する過程で人が沢山死んでるからな〜。既に起きてしまった事の責任を取るって意味で、ここは一発消滅しとこ〜よ」

『う、産まれてくる前の胎児に罪なんて無いだろう!? 仕方の無いことだろう! 産まれてくる事で犠牲が出るというのならそれは親の責任で、つまり身ではなくもう死んだサミュエルの』

「やめろやめろ。胎児とかそういう『あぁ確かに』って思いかけちゃいそうな論点のすり替えやめてくれ。真っ直ぐストレートに気持ちよく殺されてくれ」



 もう一個の目玉もゴリっといれてやって、回復魔法をかける。ごめんね〜オレとお揃いの眼球にしちゃって。親から貰った大切な体なのにね〜。



『あ、あ、そんな……』

「これでチャールズくんが目を覚ましたらもうお前はお役御免、消滅だな。お疲れ様」

『待ってくれ! ようやくこの世に戻って来れたのに、これで終わりなんて』

「おつかれ〜」



 火のついた暖炉に瓶を放る。苦しそうな悲鳴が長々と続いたが、やがて何も聞こえなくなった。




 *




「……ルズ、チャールズ!」

「……お姉ちゃん?」



 レイナお姉ちゃんの声がした。何度も何度も呼ばなくても、もう起きてるよ。


 ふわぁ。あくびが出た。マルエルお姉ちゃんに抱きしめられてると思ったらいつの間にか眠っていたみたい。



「チャールズ!」

「なあに? お姉ちゃん」

「……目、開けてみて」

「目? なんで?」

「いいから!」



 お姉ちゃんがボクの肩を持って真剣な声で目を開けてと言ってくる。何も見えないんだから目を開けてても閉じてても変わらないのに。

 何も見えないのに開けていると、ゴミが入ったり指が入ったりするから怖いんだ、出来れば目なんか開けたくない。


 お姉ちゃんのお願いだからしょうがない。少しだけ、瞼を開ける。



「……えっ」



 少しだけ開いた瞼から、何か、変なものが飛び込んできた? なんだろう、これ。時間が経つと段々ソレは形が落ち着いてきて、沢山の"形"になってボクの目の前に現れた。


 目を開ける。なんだこれ、色んな形の何かが沢山目の前にある。



「これ、なに……?」

「んー? それはティーカップだよ」

「ティーカップ……本当だ! いつも手で触れてるものと感覚が一緒!」

「チャールズッ!!」



 お姉ちゃんに抱きしめられる。え、じゃあ今ボクのすぐ近くに居て、動いていて、サラサラとした物が頭から下がっているコレは、この人は、レイナお姉ちゃんなの?


 これは、この目に飛び込んでいる初めて感じるものは、色。形。物だ。暗闇の向こうにあった、ボクだけに見えなかった世界。それが広がっていた。


 目から勝手に雫が零れる。自分のものとは思えない泣き声を出す。声を押えられる事なんて出来なかった。




 *




 チャールズくんの号泣はその激しさとは裏腹にすぐ収まった。ようやく見えるようになったその目で色んなものを触れて形や色を確かめている。逐一感動している姿がなんだか面白い。



「この餅尻を見よ! 触ってもいいめよチャールズ!」

「わわっ、フルカニャルリくん!?」

「ぼくはメスであ」「やめんか」



 まだ幼いチャールズくんにセクハラをするフルカニャルリを叩く。ヒヤヒヤするわ、お姉さんが居る前で脱いで確かめさせてやろうとするんじゃないよ痴女が。見境なしか。



「それで、ルイスさんはなんて?」

「ああ。それがな」



 レイナさんと一緒に戻ってきたヒグンに何があったのかを聞いてみる。



 今回の一連の事件はキチンと物事を記録する人形で記録を保管済みであり、嵐の勢いが収まっているタイミングで定期的にギルドに報告を送っていた。


 その結果罪の所在はサミュエルさんと高度知性保有霊体、便宜上悪魔という呼称で呼ばれる存在の企てによって起きた事であり、チャールズくんとレイナさんには法的罰則は課さないという流れになったらしい。


 だがその後、子供二人の保護監督者が必要という事になり孤児院に預けるというは油断になりかけた。それをルイスさんが待ったを掛けて、自分が二人を預かると上に行ったとの事だった。



「え、報告受けてたのに何も手を出してくれんかったのか? 無能じゃんギルド」

「昨日まで連日嵐だったんだぞ、馬車なんか走らせられないし森の中も危険だろう」

「ワンキルされてんだよこちとら。てかルイスさんが引き取るってマジか。まだ10代なのにガキを二人も? 金持ちなのか?」

「いや。レイナさんが部屋を出た後に聞いたんだが『二人を手中に収めたらこの屋敷は私の物だへっへっ』って笑っていたぞ。つまりは財産目当てだな」

「少しでも健全な聖人なんだなと思いかけた自分が恥ずかしいよ」



 両目をドルマークにして出した我欲物欲マックスの善意か。嘘偽りないガチの善行じゃん。そういう事ならこの二人を途中で捨てるだなんて事もしないだろう。任せても安心ですな。



「マルエルお姉ちゃん!」

「はいなんでしょうか」



 エドガルさんの岩山のような筋肉を触って感動の声を上げていたチャールズくんがこっちに来た。レイナさんも隣に立ってる。

 なに? リンチされる? 命乞いの引き出しを開いとくか一応。



「マルエルお姉ちゃん! 目をよぉく見せて!」

「んー? ほれ」



 少し前屈みになってチャールズくんと目線の高さを合わせてやる。……こんな子供と目線を合わせるのにしゃがむ必要が無いの、男の頃と比較しちゃって身長コンプ刺激されるな。



「ボクと同じ色の目だー!」

「あはは。そりゃね」



 元はオレのだったからね、同じ色で当然である。



「ボクの目を見えるようにしてくれたの、マルエルお姉ちゃんなんでしょ?」

「ん? んー、まぁ」

「ありがとう!」



 ガバッとハグをされた。ふむ、女の子もいい匂いするが、ショタはショタでまた違った甘い匂いするな。可愛い〜。



「……マルエルさん」

「お、レイナさんもハグします? ロリショタのハグとか大歓迎ですよ私」

「言ってくれればいつでも抱き締めてやるぞ、マルエル」

「この世のどこに変態クソ男とハグして喜ぶ奴がいるんだよ」



 自信ありげに手を広げるヒグンを睨みつつ、レイナさんに手招きをする。おっ、やってきた。姉弟がオレに抱き着いてくる、男の体じゃないから全然堪能出来てないけど。



「弟も、私も、本当なら死ぬか寿命を縮められるはずでした。マルエルさんが助けてくれたから、私は一緒に居られる……本当にありがとうございました!」



 泣かせるねえ。そんな風に感謝される日が来るだなんて思わなかった。けど、オレがやった事なんて大した事ないんだよな。



「レイナさんから悪魔を引き剥がしたのはフルカニャルリだし、私を正気に戻してくれたのはヒグンとエドガルさんです。二人の未来を守ってくれたのはルイスさんと、きっと彼女にそうするようお願いしたリリアナさん。サミュエルさんだって、手段は割とガチめにうんちだったけどチャールズくんに世界を見せてやろうとしてた。私だけが特別何かをした訳じゃないですよ」

「……」

「ってな訳で、あんまりへーこらされるの嫌なんで軽く『さんきゅ! よ〜やった!』って感じでお願いしますね。感謝にせよなんにせよ、重い感情ぶつけられるのマジで苦手なんで」

「……くすくす。分かりました」



 俯いていたレイナさんの顔から僅かに翳りが減った。この事件で起きた出来事が胸から抜け落ちるのはきっとまだまだ先だし、もしかしたら死ぬまで残り続けるかもしれない。


 でもレイナさんにはチャールズくんが居るし、二人を受け入れたルイスさんだって居るし、オレ達も困ったことがあれば助けてやるつもりだ。


 二人は孤立無援という訳では無い。人並みな生活は出来るだろう。



「じゃあそろそろギルドに戻るか。俺は荷造りに行くよ」

「僕らも行こうか」

「わかり。マルエルは?」

「おー。後で向かうわ」



 レイナさんとチャールズくん以外が自分の部屋に戻っていった。今この場に残るのはオレとこの二人だけだ。



「二人ともっ!」



 レイナさんとチャールズくんの肩に腕を回す。



「な、なんですか? マルエルさん」

「お姉ちゃん……?」

「実は折り入って相談があるんだが……へへへっ。ここは一つ、聞いてはくれまいか」

「……なんだか悪い顔をしているような気が?」

「そんな事ないですよ。ねっ?」



 笑顔でレイナさんに圧をかける。折角こんな事件に巻き込まれて、報酬金があんな安値じゃ堪らんからねぇ。やっぱりここに来た最初の目的は、果たさないとね……!

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