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日記3ページ目「カモで草」

「お前クソ無能じゃねえかよもうこのパーティーから抜けろよぉ!!」



 僕に浴びせられる冷酷な言葉。依頼の報酬金を分配するなり、パーティーリーダーの剣士職の男、アルデバランが僕の肩を突き飛ばしてきた。



「待ってくれ! あ、あんなでかい魔獣に人間が勝てるわけないだろ!? 自分より体が四倍近く大きいんだぞ!? 及び腰になるってもんだぜそりゃあ!」

「そこまででかくない、精々二倍程度だろうな」



 盗賊(シーフ)の男が腕を組みながら冷静に言う。このパーティーの紅一点、魔法使いの大天使キュレルちゃんも盗賊の男に続いて言葉を吐く。



「唯一の盾役であるあんたがいの一番にっ、あんな速足で逃げるとか有り得ないでしょ!? おかげであんた以外全員ボロボロなの! 採取作業してるうちは以外に軽やかだからって思ってたけど、あんな裏切るような事をされたら一緒になんか居られないわよ!!」

「違うんだよキュレルちゃん! 僕は君の身を案じて安全地帯を探していたんだ! 敵を見て逃げたわけじゃ断じてないんだ戦略的撤退だったんだよ!」

「それは盗賊職の仕事だろ」

「そうよ! 指示を待たず勝手に尻尾巻いて逃げといてなにが戦略的撤退よ! 調子良すぎるんじゃないの!?」

「そ、そんな、僕は……」

「という訳だ。悪いな、ヒグン。これ以上は一緒にやれない、他を当たってくれ」



 アルデバランがそう言って僕を部屋から追い出す。強い力で閉められたドアから拒絶の念がコチラに睨みを利かせているようだった。僕の分と渡された金を持って、立ち上がる。



 僕はヒグン・リブシュリッタ。大陸西部にある片田舎、カレル・チャピって村出身の冒険者である。とは言っても、冒険者デビューしたのはつい二週間ほど前なのだが。


 僕は『重戦士』という、人材の少ない職業に就いている為かどのパーティーに自分を売り込んでも基本は入れてもらえる。だが、魔獣との戦闘が絡むと必ずと言っていいほど無能扱いされ、依頼を終えるとそのパーティーを追い出されてしまう。


 仕方ないじゃないか、魔獣は人喰いの獣なんだぞ? 怖いに決まっている。『重戦士』に就いたのだって、パーティー内で盾役に採用される事が多いから鎧等身を防げる装備で固められて、魔法による防御力の支援も優先して受けられるからという理由で就いただけだし。


 冒険者なりたての僕は大した装備など持っていないし、畑仕事をしていたから多少力と体力に自信があるだけでぶっちゃければ『重戦士』に必要なレベルの筋力や忍耐力は持っていない。それなのに盾役として任せられても仕方ないのだ。


 どうせ魔獣の攻撃を食らえば一撃で死ぬ、それなら前線を退いて退路を確保したり周囲に気を巡らせる方がマシだ。適材適所だろう。



「とほほのほ……マスター、いつもの下さい」

「キャプテン・モルゴースですね。かしこまりました」



 この二週間、パーティーを追い出される度にギルドの近場にあるカジノ内のバーで金を酒に替えるという日課を続けている。冒険者達は案外多忙だから、僕を追い出してすぐにはここに来ないからビクビクせずに済むのだ。唯一心の休まる楽園なのだ、ついでにバニースーツなんてエロい格好したお姉さんも沢山いるしね。



「こんにちわぁ〜」



 一人で寂しく酒を飲んでいたら、ホールから一人のバニーガールが歩いてきて隣に座ってきた。……未成年じゃないか? 成人しているようなあどけない顔立ちをしている灰色の髪の女性だ。



「あ、翼……?」

「珍しいですか? えへへ」



 彼女の腰から生える二枚の畳まれた翼を見て、つい反応してしまった。

 亜人、というのは存在しているのは知っていたしこの街に来てから何度か見る事もあったが、こんな間近で見たこと無かったから驚いた。こういう新発見がある時、僕が19年間過ごしたあの田舎を捨てた甲斐があったなと思う。あのままあそこに居たらこんな可愛い亜人の子と出会う事なんて無かったし。



「綺麗な翼だね。君は、天使ってやつ?」

「おだててるんですか〜? もちろん違いますよ、輪っかも無いでしょ?」

「違うんだ、残念。パッと見ただけじゃ天から来た女の子にしか見えないからつい口から零れちゃった」

「あはは。翼、触ってみたいですか?」

「いいのかい?」

「はい、いいですよ」



 バニーガールがカウンターチェアに座ったまま回転し、背中側をこちらに向けてきた。翼を触らせてくれるとの事だが、背中が大きく開いたバニースーツを着ているせいで白くて綺麗な背中の筋が目に飛び込んできて、呼吸が荒くなるのを必死に抑えなくてはならなくなる。


 僕の居た村には、若い女が居なかった。一人も。女は子供の頃から外の大人に嫁ぎ、男は村に残り畑仕事や農作業をする。外に行った女が産んだ男の子は村に引っ越し、村の男は子を成すためだけに近隣の村に住む。そんな社会で生きてきたからか、僕は若い女性に対する抵抗力が著しく低かった。


 というか、この二週間で嫌という程理解させられたのだが、僕は女性に対しがっつきすぎる。前のめりすぎるらしい。童貞は童貞でも養殖されたエリート童貞なのだ。


 女の子を誘う想定は常人の数倍真面目に取り組んできた。だからある程度のコミュニケーションは図れるし、それをきっかけにし沢山の冒険者パーティーに入れてもらえた。にも関わらず今だに童貞なのだから、僕の作ったハリボテを腐らせてしまう僕の内面の童貞精神(チェリーメンタル)はそんじょそこらの男とは比べ物にならないほど残念なのだろう。

 そんな僕が、こんな至近距離に女の子の柔肌をさらけ出されて欲望を我慢出来るわけがなかった……!



「……あの、そこ背中です」

「す、すいませんすいません!」



 僕は翼を触るフリをして背中に人差し指をチョンっと当ててしまった。気付かれないと思ったが普通に気付かれた。指摘された瞬間、「何やってんだ僕は、馬鹿すぎるだろ」という感情に脳を支配された。死にたい、何がバレないだろだ。欲望に対し都合のいい妄想をしすぎだ、普通気付くだろ。



「お兄さんは、女性の身体にあまり慣れていないんですか?」



 バニーガールがこちらに向き直ってそう訪ねてきた。体の正面を向かい合わせた形になるから彼女の顔、胸、腰周りから足まで見えて目に毒だ。僕は雑念から逃れるため、マスターの拭くグラスに目を向ける。



「恋愛とかには興味が無かったもので。接触する機会も、必然無かった事になりますね」



 謎の強がりで、あくまで自分の意思で女性と交流してないですよといった風に言ってしまった。

 恋愛出来る環境じゃなかったのは事実だが、感情の面で言えばむしろ誰よりも早く女体に興味を持った自信がある。7歳くらいから興味津々だった。だからこれは、あまりにも情けない言い訳だ……。



「へぇ〜、そうなんだぁ」



 バニーガールの声がにやけていた。横目でチラリと顔を伺ってみると、突然彼女は顔を近づけてきた。頬を吐息がくすぐるような距離だ。



「じゃあ、私が女の子の体を教えましょうか」

「!? なななななになにを言っているんですか僕ら初対面うぉっ!?」



 腕にフニフニとした感触が当たる。彼女の胸だ。あまり大きくは無いのだが、それでも確かな存在感を持つ二つの丘が僕の腕に押し付けられている。



「な、何のつもりでしょうか! というか君っ、僕より年下ですよね!? こんな事……」

「うーん、どうでしょう? 案外若く見えるだけでお兄さんよりも年上かもしれませんよ? それならこんな所で働いてるのも違法じゃないし、お兄さんと火遊びしても問題じゃないですよね?」



 ガタタッ! 僕が立ち上がったせいでそんな音が鳴った。動揺しすぎた、いたたた。変な想像をしたせいで固くなっている。



「あはは、お兄さん反応おもしろーい」

「か、からかわないでください!」

「からかってるつもりありませんよぉ。私最近欲求不満で、丁度いい相手を探していたんです」

「欲求、不満……?」



 ゴクリ、固唾を飲む。



「でも、女の子を大切にしなさそうな人と遊ぶのも怖いし、ただ夜に誘って軽い女って思われるの癪じゃないですか。だから、お兄さんに話しかけて、勝負を持ち出すんです」

「勝負?」

「はい。着いてきてください」



 バニーガールの少女がそう言うので、彼女の後を付けて歩く。……歩く度にハリの良い尻が揺れているのに目が行くが、バニースーツの構造上仕方ない。

 僕は知っている、これには視線誘導効果があるのだ。ホール内で遊んでいる男達も彼女や他のバニーガールの胸や尻に視線が集中してるし。だから仕方ないこと、悪いことじゃない!



「どうぞ、掛けてください」



 少女に案内されたのはカジノ二階のテーブル席である。他の卓には僕と同じようにバニーガールと同席している客や、知り合い同士で座っている客、ナンパしたであろう異性と座っている客も見受けられた。


 彼はトランプやサイコロ等を使ったゲームに興じていた。それと同じように置かれているコインのような物はなんだろう?



「カジノで遊んだ経験は? 普段遊ばれます?」

「い、いや。実の所遊んだ事はなくて、酒を飲みに来るぐらいで」

「じゃあ、試しに何か一つゲームしてみましょう。ブラックジャック等如何です?」

「ブラックジャック?」



 知らない単語だ。彼女はトランプを混ぜているから一種のカードゲームなのは分かるのだが、名前からゲーム内容を連想することは出来なかった。



「まず最初に、カジノで遊ぶのならチップをお金で換金する必要があるんですけど、まあここはあくまでカジュアルに過ごせるバーの席なので。ミニマムベットも出さずプライベートに楽しみましょう。という事で、チップの件はひとまず置いておきます」

「は、はあ」



 彼女は言いながら手際良くカードを様々な方法でシャッフルしていく。手遊びをしているようだ。そして、彼女は混ぜられたトランプを束ねて側面が上に来るように立てると、僕に向けて黒いカードを差し出してきた。



「ここまでは私だけでシャッフルしたのですが、次はお客様にもシャッフルを手伝ってもらいます。こちらはカットカードって言います。このカードを、トランプのお好きな所に刺してください」

「わ、分かりました」

「ご協力ありがとうございます」



 僕がカットカードをさしこんだ所から端を持つと、それをもう1つのカットカードで押えている絵柄の方に持ってきて、絵柄側のカットカードを抜いて混ぜる。トランプの束の側面を綺麗に揃えると、そのトランプの背面を上にし机に置いた。



「ではまず1ゲーム、お試しで遊んでみましょう」

「よ、よろしくお願いします!」

「あはは。はいっ、よろしくお願いします」



 バニーガールは柔和な笑顔でカードを僕側に二枚、自分の側に二枚裏向きで出した。



「ブラックジャックとは、まずカードをプレイヤーとディーラーに2枚ずつ配って、どちらのカードの合計が21に近いかを競うゲームになってます」

「カードの合計……左上の数字の合計がって事ですか」

「そういう事です。ちょっと失礼しますね」



 対面に座るバニーガールが僕の側に出された裏側のカードを両方めくり表にする。カードはハートのKとクラブの7。彼女は「おっ、丁度いい」と言うと、ハートのKのカードを手で指して口を開く。



「こちらの絵札のカード、J、Q、Kは全て10点となります。10のカードも10点。Aのカードは1点もしく11点、どちらでも構いません」

「……なるほど」



 数字以外のカードは色々変わると。じゃあジョーカーはなんだ? ……あ、ジョーカーは机の端に置いてある。抜いてあるのか。



「なので今、お客様の合計点数は17点ですね。続きまして、私のカードも一枚表にします」



 彼女が自分側のカードを1枚捲る。



「私の見えているカードは9ですね。もう1つの伏せているカードは、お客様のアクションが終わりましたらオープン致します」

「アクションですか?」

「より21に近い方が勝ちというルールですので、今からお客様にヒットかステイか、いずれかのアクションを選択して頂きます。ヒットはカードを一枚引くという意味で、ヒットをする時は机をトントンと叩くジェスチャーで合図する形になります。ステイというのはカードを引かないという意味で、ステイをする場合はこのように手を大きく横に流すようなジェスチャーをします」

「ヒットとステイですか。ヒットがカードを追加、ステイがそのまま。了解です」

「ちなみに、もし合計点数が21点を超えてしまった場合はバースト、その時点で失格となります」

「なるほど。超えたら負け確定と」

「はい。では練習してみましょう。お客様は今持ち点が17点になりますが、ヒットとステイ、どちらになさいますか?」

「ふむ……」



 こっちの持ち点が17点。数字の4を出せば勝ち確定ではないにしても負けはない。けど、21点を超えるカードが過半数だしな。彼女の点数は9点で、伏せられてるカードが絵札か9か10でこっちが負ける……。


 JQKAと9と10。こっちがKを、相手は9を引いてるから、僕の点数を超えるのに必要なカードは22通り、引き分けを考えたら26通り。


 それに引き換え僕が更にバースト? せずに点数を稼げるのは数字の4までとAを足した20通り。バーストする組み合わせは33通り。うん、ヒットするわけが無いなこれ。


 教えられた通り、ステイのジェスチャーを彼女に見せる。



「ステイですね。かしこまりました。では、私の伏せているカードをオープン致します」



 カードが捲られる。



「私のもう一つのカードはクラブの6、合計点数は15ですね。ここから私、まあディーラーですね。ディーラーは、合計点数が17以上になるまで、自動でカードを引きます」

「えっ」



 そうなの? 17以上って、バーストしなかったら引き分けか僕の負けじゃないか。そういうゲーム性か。



「出たカードはスペードの10、ディーラーの合計は25で、バースト。ディーラーの負けになりますね」

「うぉっ、勝った!」

「おめでとうございます。ここで、チップを賭けていた場合お客様は賭けたチップと同額の配当を得られる事になります」

「な、なるほど」

「大体分かりましたか?」

「意外とルールは簡単なんですね」

「そうですね。分かりやすいゲーム性で勝つのもそう難しくない、親しみやすいゲームだと思いますよ。というわけで」



 彼女がずいっと身を乗り出してくる。バニースーツの胸に当たる部分が僅かに浮いて中の胸が見えそうになる。慌てて目を逸らす。



「私と、賭けて遊んでみませんか?」

「か、賭けですか?」

「はいっ。今からお客様が望む限り、賭け金が続く限り何回でもゲームをお受けします。お客様が二回勝った時点で、今夜はお客様の言う事なんでも従いましょう」

「なっ、なんでも!?」

「はぁい! ついでに、最初に配当した二枚の時点でAと絵札が揃う特殊役、『ブラックジャック』をお客様が揃えた場合はその時点でお客様の大勝ち。二回勝っていなくてもその時点でなんでも言う事聞くって感じで。どうですか? やってみますか?」



 ぐ、ぐぬぬ。賭け金が続く限り無限にコンティニューが可能で、連続でもなく二回勝つだけで、女の子になんでも出来る権限が手に出来るだと!?


 し、しかもこの子、格好にばかり意識が行っていたが相当レベルの高い容姿してるし! 簡単なゲームでたったの二回勝つだけ、それだけで人生初の経験を積む事が出来るだなんて、どう考えてもっ、どう考えてもじゃないか!?


 欲求不満というのはどうやら本当らしい。賭けとは名ばかりのほぼ確のゲームをこの子は提示している。

 や、やばい。ちょっと興奮してきた。やばいやばい、クールになれクールに。下半身に血を集めたら勝負に集中出来なくなるっ!!!



「や、やります! 挑戦しますその勝ぶぁっ! は、鼻血が」

「ぷっ、あははっ! ちょっと待っていてくださいね」



 僕が鼻血を出すと彼女は吹き出したかのように笑い、足取り軽く近くの棚から洗ったばかりの拭き物を持ってきた。



「どうぞお使いください」

「す、すいません……」

「いえ。どこかにぶつけたんですか?」

「い、いやっ、気にしないで貰えると助かります!」

「そうですか」



 と、彼女は白々しく言っているが顔は隠しきれていない、にやけていた。

 年相応に感情が表情に出る子だ。やはりこの子、かなり若いし僕より年下だな。カジノで働けてるのが不思議なくらいだ。大きく見積っても16歳とかそこら辺……やばい、鼻血の勢いが増した。



「ソレではチップの換金に移りましょう。まず、カジノでは基本的にゲームで遊ぶ際にミニマムベットという、遊ぶのに必要な最低賭け金が設定されています。ブラックジャックなら5ドラクになります。いくら換金されますか?」



 ふむ、そうか。賭け金は現金じゃなくてあのコインみたいなやつで取り引きするのか。……それに最低賭け金、役によっては賭け金の倍率も上がる感じだよな。それなら、使う予定だった金額くらいは最初に提示しておくか。



「それじゃあ、これで」

「100ドラクですね。少々お待ちください」



 僕が差し出した10枚の紙幣を丁寧に数えると、彼女は机に置かれたホルダーから赤のチップを取り出す。赤のチップには5という数字が書かれている、5ドラクを意味するのだろう。



「こちら100ドラクになります」



 赤いチップを20枚、10枚重ねた物を二列にしこちらに寄せて渡してきた。



「それではご用意します」



 彼女は先程見せた慣れた手つきでトランプをシャッフルし、同じ流れで僕にもカードを切らせゲームの準備が整う。



「それでは、チップをお賭けください。ミニマムベットは5ドラク、赤いチップ1枚からになります。プレイスユアベット」



 なんかカッコイイ単語を言われたがよく分からないのでスルーする。賭け金か……。



「とりあえず二枚で」

「10ドラクですね。ノーモアベット」



 対面の彼女が机を叩きつつそう言った。賭け金締切ですと言った感じか。

 なんか、こういうの都会的でかっこいいな。もしかして僕今めちゃくちゃ都会的なんじゃなかろうか。故郷のジジババ共が今の僕見たら腰を抜かすかもしれない。都会的すぎて。


 トランプが配当される。僕側のカードの合計は11、バニーガールさん側に見えているカードはまさかの2。絵札か10を出せば一発確定僕の勝ちじゃないか。負ける気がしない配当だ!



「ヒット、もしくはステイ。如何なさいますか?」



 バニーガールさんの表情を見る。あまりにも平然とした様子だ、それがかえって僕の勝負師魂に火をつけた。伊達に10年以上畑仕事してたんじゃないぜ、僕は大地の加護を背負う男。大地とは古来より母なる物、女神よ僕に力を……!!



「ヒットで」



 不敵な笑顔で机を叩く。彼女は「かしこまりました」と言い、ゆったりとした手つきでカードを一枚引いて出ているカードの隣に置く。



「出たのはクラブの8、合計で19ですね。続けてヒット致しますか?」

「惜しい……!」



 手でステイをジェスチャーする。続いてバニーガールさんが自分側のカードをめくる。そのカードはダイヤのQ、合計点数は12!



「合計点数が17未満なのでカードを引きます」



 バニーガールさんがカードを一枚引く。出てきたのは3、合計15でまだカードは引ける! 5以上が出たら僕の負け。くっ、なんか手汗かいてきた気がする……!



「あ。出たのはスペードの7、私の点数が22点で私の負けですね」

「よっしゃ勝った! まず一勝!!」

「これ普通に私弱すぎる……?」



 試しと合わせて二回勝ってしまった。おいおいおいおい、あのお試しゲームが本番だったらもう僕この美少女バニーガールさんをお持ち帰りできていたのか? アツすぎる、もうそれは勝った様なものじゃないか! 来てるキてるツキが来てるよぉ!!



「ちょっと普通に勝てなさすぎて自信なくなってきたな……」

「! ちょちょちょちょここまで来てやっぱり無しとかナシですよ!」

「分かってますよー。ふん、次は絶対に勝ちます!」



 頬を膨らませたバニーガールさんがカードを切り始める。どうやら運の力で僕に負けているらしいバニーガールさんには悪いが、このままストレート三連勝ちさせてもらいます!




 *




 数時間後。手持ちはおろか服や装備品まで失い、温情で着させられたバニースーツを身にまとった僕の姿が街の路地にあった。


 大の字で寝たまま夜空を見る。今日も星が綺麗だ。何故こんなにも星々は美しく輝くのだろう、そう美しいと人の心の醜い色が余計目立って見えてしまうでは無いか。ははは。道行く人が僕を指さしている。ははは。



「嵌められたぁぁぁあのクソガキイイィィッ!!」



 そう叫ぶ僕の声はカジノの中で今もほくそ笑んでいる彼女に届くことも無いだろう。

 騎士に拘束される前に僕は正気を取り戻し、路地裏に向けて歩みを進める。リベンジだ、必ずリベンジしてあのメスガキにぎゃふんと言わせてやる!!


 復讐を新たな目的として据え、僕は路地裏のゴミ置き場の裏に腰を下ろし体を小さくする。少しずつ近づきつつある冬の風を、刺すような冷たさを肌で感じながら。

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