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26頁目「お友達が増えました」

「むむむ……」



 俺の名はリカルド・グランスルグ。冒険者ギルドに属する魔法使いだ。


 現在俺は人生最大の悩みに直面している。街の噴水広場のベンチに腰掛けかれこれ三時間。巡る思考に結論が出ず、グルグルと出口のない袋小路のような思考を続けていた。



「むむ……ッ! おい、そこの!」

「ん? あー。あんたアレか、フランカラカラ? さんとこの刺青筋肉」

「フルンスカラな」



 ボーッと地面のタイルを歩く鳥を眺めていたら視界に飛び込んできたのはギルドでもちょっとした有名人である翼の生えた死霊術師(ネクロマンサー)の少女だった。名前は確かマルエルだったかな。

 顔に覚えがあったのと、一応交流もあるにはあったので声を掛けてしまった。彼女は気だるそうな仕草で飴を舐めながらこちらへ向かってくる。



「どうしたのーこんな所で。女漁り?」

「そんな事しねぇわ。てかお前さん、普通の服も着れるんだな」

「あ?」



 珍しくバニースーツじゃなく普通の少女が着るような服を身に付けていたから率直に感想を口にしたら睨まれた。言われたくないのならバニースーツ着て外出るのやめたらいいと思うのだが。



「時間あるか? 相談したい事あるんだ」

「相談〜? 私にぃ? 私ら仲良しでもなんでもないですよね?」

「仲良しでは無いが一応冒険者仲間だろ、同じギルドの。ここは一つ、後日飯でも奢るからさ」

「えぇ〜。嫌だなー」

「何故だ!?」

「容姿のパンチが強えんだもん。褐色で筋肉ダルマで刺青だよ? 意味分からん謎理論展開してズコハメされそうだし、それを脅しの材料にして定期的にハメる為に呼び出されそう」

「どんなイメージだよ! この刺青は俺の故郷での習わしで刻んだ物! 変な意味は込めてねえから!!」

「そうなんだ。じゃあ酷い事言ったな、ごめんなさい」

「おう、分かればいいけどよ……」



 素直に頭を下げて謝罪をしてきた。この女、口は悪いが悪人という訳でもなさそうだな。まあ悪人なら仲間の為にあそこまで身を投げ打たないか。



「で? 相談って何ですか」

「! 相談に乗ってくれるのか!」

「まあ、酷い事言っちゃったんでそれくらいは。でもあんま時間ないんで、手短に話してくれると助かります」

「予定あるのか? 無理に付き合わせるつもりは無いが」

「んー、ウチのパーティーの皆で買い物してるんですよ。今はヒグン……リーダーの服をもう一人の仲間が選んでる所なんです」

「そうなのか。仲良いんだな」

「? 普通じゃないですか?」

「いやー、冒険者パーティーって仕事の付き合いなんだし仕事以外で一緒に居る事はあまりないんじゃないか? なんなら依頼を受ける時も、全員揃わないこともザラにあるしよ」

「え、そうなんすか? 私らなんていつも一緒ですよ。同じ所で寝泊まりしてるし」

「は? 同じ所で寝泊まり?」



 マルエルが平然と言い放った言葉に唖然とする。



「お前らって男女混合のパーティーだよな? 仲間は全員で何人いるんだ?」

「? あの石になってた奴と、私と、幼女。計三人ですね」

「三人!? 少ないな! ってその三人で同じ屋根の下で暮らしてるのか!?」

「屋根の下っていうか同じ部屋。私は無いですけど、幼女とヒグンは結構頻繁に一緒のベッドで寝てます」

「進んでるな!?」



 年頃の男女が三人一緒に同じ部屋で生活していて寝ている時も一緒って、爛れているな。フルンスカラの奴、とんでもない奴とつるんでたんだな……。



「で、なんなんすか。相談って」

「あ、あぁ。その……」



 俺は彼女に言われた通り手短に今悩んでいる事について話した。話を聞き終えた後、彼女は飴を噛み砕きゴリゴリ言わせながら「んー」と唸った。



「妹への誕生日プレゼント、何を渡せばいいか。ふーむ。うーーーむ」

「やっぱり難しいよな……」

「いや? 逆に肩透かしというか。そんな程度の事で決死の決断みてぇな顔出来るんだこの人って感動してた今」

「なんだと!?」

「なんだとじゃないよ。何が難しいんだよ、妹つったらこれまでずっと一緒に生きてきた相手だろ? 生まれてから現在までの全てを知り尽くした相手だろ。何を悩む事があるんすか」

「なっ……! はあ」



 またそれか。仲間に相談した時にも同じような事を言われた、ついため息が漏れた。



「妹つっても腹違いの異母兄妹なんだよ。別々の母親に育てられたから最近まで交流が無かったんだ。冒険者になってから出会ったんだぜ?」

「え、なにその漫画みたいな展開。おもろ」

「おもろくねえよ……おかげで、今回初めてアイツの誕生日を祝おうって思ったんだが、趣味も好みも知らないから何を渡せば喜ぶのか分からなくてよ……」

「なるほどねー」



 マルエルは二つの飴を取り出すと片方を上を向いて口の中に放り込んだ。コロコロと口の中で転がしながら美味しそうに顔を綻ばせる。



「飴ちゃん食べる?」

「いいのか?」

「ん。あげる」



 飴を貰った。なんだ、優しい奴だな。真面目に話してるのにケラケラと薄ら笑いしやがるから嫌な奴かと思ったぜ。



「ありがとな」

「んー。嬉しい?」

「え? おう、嬉しいぞ」

「本心から?」

「ん? そりゃ勿論」



 そう答えると、マルエルは一度伸びをして言った。



「だよな。人から、っつーか嫌ってない相手から貰えるものなら割と何でも嬉しいよな」

「何の話だよ」

「妹に渡すものの話。好きなものがなんなのか知らないって言うけどさ、私がリカルドさんに飴をあげたみたいに、軽いノリでそこそこの物あげたらなんでも喜ぶんじゃないっすか」

「いやいや。そんなテキトーな感じで選べねえよ! やっぱ渡すからには貰って嬉しい物をあげねえと!」

「でも、クリティカルに好きな物は分からないんでしょ?」

「うぐ……そうだが」

「時間かけて考えるのも大切だけど、あんまり考えすぎると変に先鋭化したものを選んで外す可能性のが高くなるぜ。案外力抜いて選んだ物の方が喜ばれるもんだよ、プレゼントなんて」

「そ、そんなもんか……?」

「そんなもんだよ。……あー、じゃあリカルドさん。ちょっと着いてきて」



 マルエルがそう言ってベンチから立ち上がる。一応言われる通り彼女の後を着いていく。どこに連れていくんだろうか?




 *




「誰だお前は〜〜〜???」



 連れて行かれたのはマルエルの仲間の面々がいる店だった。面々と言ってもマルエルを合わせて三人しかいないが。よく三人で冒険者なんかやれるな……。



「おうおうおう。あんちゃんよぉ〜、ウチのマルエルと一体どんなご関係なんですかアァン? まさか僕の見えない所で悪い事でもしちゃってるんじゃないですかアァン?」

「な、なんだよ。何もしてねぇ……いだだだだだっ!? 力強いなコイツ!」

「何処の馬の骨とも知らぬ存ぜぬお前の言葉なんざ信じるに値しないんだよ間抜けがあ〜〜〜! 正直に言ってみろ、マルエルの事を狙ってんだろ? 千枚通しどこにあったっけな〜〜〜〜???」

「いやだから! 俺はただ見知った顔だったから話し掛けただけで他意はいだだだっ!! 喋ると力を強めるのやめてくれよ!?」



 このヒグンとかいう男、人の話全然聞かねえじゃねえか……! 凄い力強いし全く抵抗できねえ。タッパも俺とタメを張るし、よくこんな奴に悪態吐けるなフルンスカラの奴……!?



「落ち着け」

「うおっ」



 俺の腕を掴み親指と人差し指の間の溝に指を押し当て制圧していたヒグンの膝を後ろからマルエルが蹴る。ヒグンの膝がカクンッと曲がると同時に力が弱まったので急いで手を引き後退する。やれやれ、腕がネジ切られるかと思ったぜ……!



「くっ、マルエルが僕以外の男の味方をしている……くぅ〜! 脳みそがパチパチ言うよ、これが奪われる気持ちか……!」

「私は物じゃねえし奪われてもねえから。って、そうじゃなくて! この人の相談を聞いてほしいってんで連れて来たんだよ」

「相談〜?」



 表情では難色を示しながらも、ヒグンは落ち着き払って喫茶店の椅子に椅子に座った。俺も座る。



「まず最初に自己紹介してくれよ。僕はお前の事を全く何も知らない、情報共有が必要だろう」

「しようとしたら腕を掴まれて床に組み伏せられたんだがな」

「ははは。許せ」



 いや目が全然笑っていないが。よくそんな、人に無感情の目を向けたまま笑顔を作れるな。遊びで動物を殺す子供みたいな目しやがって。



「俺の名前はリカルド・グランスルグ。あんたのよく知ってる、フランスカラん所で魔法使いをやらせてもらってる」

「魔法使い!? 君が!? うははははっ!! まるでそうは見えないな! だはははははっ!!!」

「俺は今喧嘩を売られているのかな」

「ウチのリーダーがごめん、後でキツく言っとくから流してくれ。ヒグン、ちゃんと説教するからなお前」



 静かに怒気を孕ませた声でマルエルがそう言うと、ヒグンは笑うのをやめて羽虫のような声で「はい」と言った。ヒグンはマルエルの尻に敷かれているのか。実質的なリーダーはこのマルエルって女なのかもしれない。



「むー。悪い人じゃないっていうのは分かってるめが、第一印象が最悪だったから苦手であり……」

「あ、痴女子(ちじょこ)ちゃん。その節はどうも」

「痴女子!? あだ名つけるのは良いめがなんでそんな最低なあだ名を付けてるのか!?」



 このヒグンの野郎を石化を助けるってなった時に俺がとっ捕まえた錬金術師の幼女も居た。

 コイツの名前は知らない。だから仲間のサーリャがコイツにつけたあだ名である『痴女子』ってのを口にしたら幼女が抗議をしてきた。言葉の意味は伝わっているらしい、歳の割には博識だな。



「まあ実質痴女みたいな物だしそのあだ名でいいんじゃない?」

「マルエル!? ぼくは痴女ではなく、酷く!」

「いや、それはどうだろう。僕もマルエルの意見に一票」

「ヒグンまで!? いじめに遭ってるめー!?」



 満場一致でこの幼女は痴女であるという結論が出た。仲間内からも痴女扱いされてるのか、普段どんな事してるんだこの女児は……?



「ぼくの名前はフルカニャルリであり! 痴女子なんて失礼なあだ名で呼ぶのではなく、名前で呼んでほしく!」

「フルカナリリ? 言いにくいし長ぇな」

「言えてないし長くなく! フルカニャルリ!! はいどうぞ!!!」

「フルカナルリ。やっぱり長いからフルカナでいいか?」

「誰めかフルカナって!? 間違った名前を元にあだ名を作るなー!」

「いいんじゃないか。私もフルカニャって呼んでるし。ほぼ一緒じゃん」

「発音が明らかに違っており!!! ニャであり、ナではなく!!」



 マルエルが助け舟を出してくれた。フルカニャ、か。うーむ、やはり言い難い、俺は滑舌悪いからな。呼ぶ機会があったらやはりフルカナって呼ぼう。



「もうわかってると思うけど私はマルエル。死霊術師。翼生えてるけど人間なんでそこん所よろしく」

「おう、マルエルな。ちゃんと覚えてたぜ」

「なにー!?」

「ヒグン、変な裏話とか無いから。今にも爆発しそうになるのやめてくれ」



 マルエルの方から握手の為に手を差し出してきたので交わそうとしたらあまりにも圧の強い視線を感じたので手を引っ込めた。

 なんなんだ、ヒグンとマルエルは付き合ってるのか? フルンスカラとサーリャはここまで過激な排他主義では無かったぞ……?



「僕はヒグン、重戦士だ。先に言っておくが、僕は強いぞ。仲間に手を出したら助かると思わない方がいい。象くらいまでなら折り畳んでサイコロに出来るからな」

「強すぎるだろ。自己紹介は脅しをかける場面じゃないんだぞ」



 狼のようにガルルルと威嚇しているヒグンに横からマルエルが突っ込みを投げてくれた。この援護がなかったら今頃俺の頭を齧り取られていただろう。



「それで、本題に移ろうじゃないか」



 自己紹介を軽く済ませるとヒグンが話を切り出した。俺はその流れに乗り、とりあえず目的と妹と俺の関係性について説明を行う。



「な、る、ほ、ど。妹にあげるプレゼントか……」



 説明をし終えると、意外と真面目にヒグンが顎に手を当て考える仕草を取った。てっきりテキトーな事を出されて終わりだと思っていたが、現在彼は真剣に思考を巡らせているのが分かる。根は真面目らしい。



「妹ちゃんは何歳ぐらいなの?」



 フルカナから質問が来る。彼女も彼女で真面目に考えはしてくれるらしい。



「今年で17歳になるな」

「17歳! ふむふむ」

「意外と若いんだな。もしかしてあんたまだ10代なのか?」

「俺は23だよ」

「へぇ〜6つ差か。いいね、一番好感度を維持しやすい年齢差じゃねえか」

「そうなのか?」



 マルエルが突然妙な事を言い出した。好感度を維持しやすい年齢差、そんなのあるのか?



「歳が離れてると、恥ずかしい体験をある程度通った後の接し方で下を世話出来るからな。下から見て無駄に大人びていると感じるくらいの年齢差だぜ6歳は。逆に7歳以上離れると、兄妹ってより叔父叔母に近い感覚になってくるから心の距離が出来ちまう。まあ私の持論だけどね」

「マルエルって兄妹とか居るめか?」

「居ないよ?」

「じゃあ今の話は一体なんだった???」



 ヒグンが突っ込む。どうやら本当にこの三人は仲良いらしい、ずっと会話が絶えないな。何だか居心地が良い、冒険者っていう殺伐とした仕事の同僚だとは思えない。



「しっかし17歳の女の子にあげるプレゼントか……」

「! 思いついため! 着いてくるがよい!」



 フルカナがパッと笑顔になり人差し指を立てた。彼女に先導されゾロゾロと全員が席を立つ。動き出すまでの腰が軽いな、良くも悪くもノリで行動してる感じがある。いいパーティーだ。




「やはり今の若い女の子はこういうのが好きであり!!!」

「なるほどな」



 やってきたのは街の通りのど真ん中にある人形店。店主が冒険者をやっている店で、大陸中や海の向こうの人形すら在庫として置いている超人気店である。



「人形、ぬいぐるみの類は確かにプレゼントとして打倒かもしれんな」

「そうであろうそうであろう」

「ただ一つ問題があるな」

「む! 生意気な。なにめか、聞いてしんぜよう」



 腰に手を当て鼻高に偉そうな態度を取るフルカナに、周りの光景を手で指して見せてやる。



「ちょっと若すぎるかもな〜」



 店舗は確かにでかい。だが、キャッキャと在庫を眺めている客はどれも10歳前後程の少女ばかりだった。フルカナと同じくらいの年代か、僅かに下くらいの。



「俺の妹は17歳なんだ。はたして人形なんて貰って嬉しいだろうか」

「なぬ! たわけ! 生物のメスは皆可愛いものが好きで麗好きなのを知らないめか!? 乙女心への理解がゴミすぎめす!! いんふぃにっとのっとつがいであり!」

「乙女心は分からねえけどなんか違う気がするんだよ! ほら、お前さん所のマルエルちゃんも流石に人形に興味は」

「ヒグン。これ欲しい」

「ふむ? いいね、可愛い。僕もお揃いのやつ買っていい?」

「え、うん。あ、揃えるならこっちにしよーぜ」

「……興味あるみたいだけど! でもほら、マルエルちゃん見た目幼いし、子供趣味ってやつだろ!」

「うわー、引くめそういう発言。失礼なやつ」

「う、確かに失礼だったかもしれんが、でもなあ……」



 だって妹、こういう可愛くてふわふわしてる感じのは趣味じゃないようだし。服装とか見るとどっちかと言えばカッコイイ系? に趣向を傾けているというか。とにかく違うのだ。



「まあ、候補の一つとして考えとくよ」

「なぬー! これで解決、確であり! 間違いなくー!」

「最終的に人形がいいってなったらまた戻ってくるよ! 選択肢は数あった方がいいだろ!」

「むー!」

「ふふふ。という事は次は僕の出番という事だね」



 むくれるフルカナを押し退けて華麗にターンを決めて俺の肩に腕を組ませたヒグン。なんだコイツ、急に馴れ馴れしいな。



「リカルドさん。多分そいつ、自分のアイデアを採用させて妹と縁を作ろうとしてるぞ。一発殴っとけ」

「マジ?」

「なわけないだろ。でもきっかけとしてはアリだよね。正解!」

「殴ってもいいか?」「殴り返すけどね」



 笑顔で腕に力を込めるヒグンに対抗してこっちも力を入れた肘をヒグンの脇腹に指す。ハハハ、こやつめ。本当に馬鹿力だな。





「やはり女の子へのプレゼントと言えばこういうものだろう!」



 連れて来られたのは服屋だった。ただ、普通の服屋とは違って、なんといえばいいのか、セクシーな服の比率が高すぎる気もする。



「お、おい」

「なんだい?」

「この店の服、布面積が全体的に少なくないか?」

「これとかどうだろうか!」

「おー。すごいなあ。お前は人の妹にこんな服をプレゼントするのかあ」



 胸の所が大胆に空いているセーターをヒグンは見せてきた。谷間だけ見えている構造じゃない、多分これ胸全体を飛び出させる想定の構造だ。



「こういうのもあるぞ!」



 ヒグンが次々と服を取ってきては俺に広げて見せてくる。尻の所にハート型の穴が空いているスカートや、デザインとしてチャックが壊れているオーバーオール。下乳が絶対にはみ出るであろう丈の服なんかもある。


 俺はヒグンの頭を心強めに掴んだ。



「何をする。離したまえよリカルドくん。僕は男には手加減しないぞ」

「ああ来いよヒグンくん。妹を着せ替えダッチワイフにしようとする輩だ、再起不能になるまで殴ってやろう」

「まあ待てよ。流石に冗談さ。ちゃんと考えてある、アクセサリーなんてどうだろうか?」



 そう言うと、ヒグンは不思議な形をした装飾の首飾りを俺に見せた。なんだろうこれ? 三叉の矛先のようなシルエットだ。



「どう、洒落てるだろ!」

「うーむ。あんまりお洒落には興味が無いからイマイチ分からんが、悪くは無いのかな。少なくともさっき出された頭の悪い服よりかは数段マシだ」

「そうだろう?」

「候補の一つにさせてもらうよ」

「ああ!」



 爽やかな笑顔で肯定するヒグン。なんだよ、嫌な態度を取ってくる割に真っ当な物を選んでくれるじゃないか。見直したぜ。



「……おいヒグン。そのネックレス形がモロに子宮じゃ」「シー。聞こえちゃうだろ」

「これすごくエッチく! ヒグン、どう? ほぼ紐であり〜」

「買おう! ぜひ着てくれ二人とも!」

「マイクロビキニなんてあんのかよ……」





 服屋に出たタイミングで今度はマルエルに声を掛けられ、彼女について行くと今度はお菓子屋さんに着いた。



「なんだかんだやっぱり貰って嬉しいのは甘い物だぜ。特に期間限定とか店舗限定品だな。あ、ヒグン私あれ欲しい!!!」



 店に着くなりマルエルはててて〜っとヒグンの方へ走って行った。自分が来たかっただけじゃないか? ヒグンやフルカナとは違ってオススメとかはしてくれないのか……。


 店舗を見て回る。期間限定や店舗限定品だと特に喜ばれるってマルエルは言っていたっけ。……買えない訳では無いが、小さな食い物って割には高いな。そこそこの質の服くらいの値段するやつだってあるぞ。



「迷ってるね〜、リカルドさん」

「あ、マルエルちゃん。困るぜ〜何か勧めてくれないと、俺じゃ女の子の好きそうな物とか分からないんだからさ」



 そう言うと、マルエルはキョロキョロと辺りを見渡して近くのチョコが詰め入れられた箱を取った。



「じゃあこれでいいんじゃない?」

「テキトーに選んだだろ今!」

「あのなあ。自分が妹にあげるプレゼントでしょ? 決めるのは自分でしょ」

「そうだが! どういうのが良いのか分からないから頼ったんだからある程度の道標はくれよ……」

「だから店に連れてきたじゃん。私ら三人、まあヒグンは別としてだが、女の子なら無難に好きそうってラインナップを提示したぜ? あくまで参考までに、だろ。あとは自分で決めるべきでしょ」

「そんなこと言われてもよぉ……」



 女に興味が無いし、女の趣味趣向なんざ知ったこっちゃない。そんな俺が自力で選ぶプレゼントなんて、妹の趣味に絶対合わないだろ……。



「頼むよ。女のお前さんなら同年代の女の子が欲しい物とか分かるだろ? 決めてくれよ……」

「同年代、女の子……?」

「なんでそこで疑問符なんだ?」

「い、いや。それは置いといて。渡すのはリカルドさんなんだから自分で選ばなきゃ意味ないだろ。贈り物ってのはそういう物じゃん」

「そんな事言われても、色々見てきたが一つに絞れないんだよ。もしも好みから外れてたらって考えたら」

「一つに絞らなくてもいいんじゃない?」

「なに?」

「いやいや、絞らなくていいだろ。渡したい物を渡したいだけ渡しゃいいじゃん。小さな子供相手なら何個もプレゼント渡したらその数で愛情を測るみたいな生意気な習慣ができるかもだけど、17歳だろ? 何個貰っても純粋に喜ぶと思うぜ」

「……」

「このアドバイスも参考にはならないか? こだわり屋さんだなぁ〜」

「いや、参考になったぜ。盲点だ。そうか、全部買えばいいのか……っ!!」

「おっと。富豪の親みたいなセリフが飛び出したぞ」



 全くの盲点だった! なるほど、わざわざ一つに絞らなければプレゼントを外す確率は大幅に減る、下手な鉄砲も数うちゃ当たるというやつだな!



「よし、解決だ。ありがとうマルエルちゃん!」

「あ、うん。解決なんだ、単純だなあ」

「そうと決まれば今日行った店全部廻るぞ! 手伝ってくれ、マルエルちゃん!」

「!? え、なに、手伝うってなに???」

「金払うから頼む!」

「いよいよ富豪じみてきたな。冒険者って夢があるんだなぁ」




 *




「ななななっ、君っ、あの時のっ!」

「妹ってこの人か……」



 あの後、ヒグンとフルカニャルリと共にリカルドの妹への誕生日プレゼントを運ばされて知った。どうやら彼の妹というのは、同じフルンスカラチームに所属している槍使いのシルフィという女性だったらしい。



「君はあの時のクール系美女! どうだい君、ハーレムに興味無いかい?」

「えっ。な、なに? 君、フルンスカラの友達?」

「おいこらヒグンくん。何勝手にうちの妹を口説いてんだ、地面とキスさせてやろうか」



 シルフィを見て目をハートにしたヒグンが甘い声で囁きかけ、リカルドがヒグンの肩に腕を回しメンチを切り始めた。シルフィが困惑してるじゃないか、誕生日の女を困らせてやるなよ男共。



「ぼく達からのプレゼントもあるめよ! ぼくはこれをあげめす!」

「え? えーと、あ、ありがとう?」



 フルカニャルリがシルフィの傍に寄り袋を渡した。中にあるものをシルフィが取り出す。中に入っていたのは明らかに乳首部分が出るようにハート型の穴が空いているブラジャーだった。



「なにこれ、一番大切な所が隠せてないけど」

「これでリカルドのハートをキャッチめ!」

「フルカナ!? 兄妹っていう概念知ってる!?」

「痴女子ってあだ名も伊達じゃないのね……」



 ウィンクをしてポーズを決めるフルカニャルリにリカルドが突っ込みシルフィは呆れた様子でブラを袋の中に戻した。日の目を見る時が来るといいね。



「私からはこれ。似合うものとか分からないから、巷で流行ってる美味しいやつ持ってきたよ」

「あ、ありがとう。……」

「? なに?」

「いや……」



 何故かシルフィはオレの、唇? の辺りに目がいったまま暫く固まっていた。見つめていた? なんだ、人の口元を凝視して。歯に青のりでも挟まってたか? 食ってねえよ。



「……ウチ、アレが初キスだったんですけど」

「え?」



 突然何の話だ。キス? もしかして、毒を解析する時にベロ切るために唇を合わせたが、その事を言っているのか?



「いや、あれはキスっていうか」「責任取ってよ」

「えっ?」

「……女の子の初めてを取ったんだから、責任取って」

「え???」



 どうしたどうした。中高一貫で女子校通ってたタイプの大学生みたいな事言い始めたぞ。

 なんですか責任って。よく女同士、教室とかでキスしたりするじゃんおふざけで。キスってそんな重い物なの?



「……君、名前なんてーの」

「マルエルです」

「じゃあマルエル。ウチ、覚悟決めたから」

「覚悟?」



 なんだろう。ちょっとだけ厄介事の予感がするぞ。



「ウチ、そういうの趣味じゃなかったけど考えを改める。だから、ウチとちゃんと付き合っ」「あー!!! さあさあさあさあ、私からのプレゼント開封して小腹を満たしちゃおうぜー! それがいいそれがいい!」



 ほーら厄介事くんが頭をひょっこり出してきたー。

 たかだかキス一発で、しかもそういう想いとかない成り行きの口合わせで付き合ってたまるかーい。


 強引に黙らせて袋の中を開けさせる。……アレっ、オレの持ってきた袋ってこんな、中身が見えないように黒くなってたっけ?



「こ、これ……ウチの告白を受け入れたってこと!?」

「えっ。……っ!? ひょおぉぉっ!?」



 袋の中から取り出されたのは子宮の形を模したネックレスであった。ヒグンのプレゼントじゃん。てかヒグンこれ買ったのかよ、気持ち悪すぎるだろってそうじゃない!! 最悪の勘違いをされている!!!



「マルエル、ウチ」「違うんだ。これは違くて!」「大丈夫だよ。よく見たらマルエル結構可愛くてタイプだし。ウチ、子供は三人がいいな」

「女同士! 染色体と肉体構造の壁!! 誤解なんだって!!!」



 シルフィの言葉に食い気味で言葉を被せたら食い気味で被せ返され、返し返されを繰り返す。あーあー目がグルグルになっちゃってるや。こりゃ何も聴こえてないんだろうなあ、猪突猛進な暴走列車になっちゃった。


 その後、止まる気配のないシルフィの猛攻を躱し頬に無数のキス跡を作ることになったが、リカルドのプレゼント計画は大成功を収める事が出来た。良かった、本心から嬉しい。


 その日から街でシルフィとすれ違う度に粘着されるようになった。

 女難の相じゃん、女体のオレじゃなくヒグンに引っ付けよそういうのは。という感じだ。

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