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輪廻転生サジェスト汚染

やっぱノリ軽い話をカキカキしたいンゴ

「もう旬も過ぎ去った後だって」



 俺は、上も下も空を反射したかのような、ウユニ塩湖のようにもプラネタリウムのようにも見える不思議な空間の中心にあるちゃぶ台の前に坐禅を組みながらそう言った。


 ちゃぶ台を挟んだ向こうには、ギリシャ神話の神が着ていそうな、カーテンを引きちぎってそのまま服として流用しているかのような衣類しか身につけていない、キリストみたいな見た目のおじさんが居た。


 周囲には、このおじさんを模して作られた蝋人形? みたいなのがチラホラ空間中に浮遊するように、ホーリーマウンテンとかエヴァ量産型みたいな感じで設置されている。


 何なのここ、いるだけでSAN値ゴリ削りしそうなんだけど。仮にここが天国なのだとしたらセンスの悪さに脱帽します。



「あ、あの〜」

「転生か維持か昇華か。さあ、選びなさい」

「無いなぁ〜突拍子。なんスかいきなり」



 それまで黙っていたおじさんが急に何を言い出したのかと思えば、如何にもアニメの中の神様が言い出しそうなセリフを吐いてきた。いきなりすぎる。



「って、事はやっぱあの世ではあるのか。ここ……」

「左様。というかあの世と呼ばざるしてなんと呼ぶのかこんな奇怪風景どわっはっはっ」

「テンションたっか。嫌だな、どわっはっはって笑う神様とか……」

「仏である。ここは浄土ゆえ、仏なのである」

「仏教かぁ世界観。そうだよなぁ、俺日本人だもん、神道か仏教だよなあ管轄は。にしても仏様、見た目明らかに西洋的な宗教の神様を意識してますよね」

「何を言うかね。この身に纏う衣、茶か橙に染めたら一瞬で仏感増すと思わないのかね」

「じゃあなんで白いヤツ着てるんすか」

「クリーニング中でね」

「滲み出る日々の多忙感……。毎日お疲れ様です」



 時間があまり取れないほどに仕事が忙しいらしい仏様に頭を下げておく。仏様は「これはご親切に」と言ってきた。大丈夫かな、仏様のこんな一面見出してしまって。厳格な仏教徒の方に叱られないかな。



「まあ、意外に思うのも分かるよ。君の生きた時代の人間は何故か皆転生という単語を出した瞬間にギリシャかユダヤ教、キリスト教圏の方の名前やイメージを口にするからね」

「そうなんですね。なんでだろう」



 アニメとか漫画とか小説とかにミーム汚染されてそうなってるんだろうな。俺もそのクチだし、若い世代の先入観からして仏様が現れるとは思わんよな。



「位相の世界に転生する、所謂サンサーラっていうのは、仏教にもちゃんとある死後思想の一種なんだけどねぇ」

「あはは、こういう下りでサンスクリット語が出てくるとは……。その割に他の言葉は日本語ベースだし。あの、なんすかこれ。俺、拉致られてVRでも見させられています?」

「いや? これは現実で、君の言い当てた通りここは死んだ人間の来世を決める所だよ」



 来世を決める所。ちゃんとあの世なんだ、ここ。景色キモすぎるし、暫定仏がなんかテキトーなノリだし、耳馴染みある単語が出過ぎているからそういうゲームかなんかだと思ってたわ。


 でも、じゃあここは地球上のどこに位置するんだ? 緯度経度を知りたい、それとも精神世界というやつなのだろうか。


 上下左右の果てを見ても星の輝きしか見えない所を考えると、宇宙空間に放られているのではとしか考えられないのだが。もし宇宙空間なのだとしたら、声が聞こえてるのがおかしいしこんな明るいのもほんのり暖かいのもおかしいもんな。



「まあ、君が善人に寄って居たのならそのまま極楽で暮らす道はあったんだけど、現代人らしく善行悪行の均衡が取れていたからね。仕方なく浄土から楽土、つまり異なる人界にポーンと投げ放つ事になったのさ」

「楽土って苦がない天国的な所を指すのでは」

「色んな解釈があるけど、君らで言う外国みたいなものだよ。外界、と言った方が分かりやすいかな」



 外界、外の世界って事か。楽土ってそういう意味なの? 色んな解釈があるって言うが、それ言ったら何でもありじゃんね。


 てか、それより何より気になる事あるわ。

 なんかスラスラとさも当たり前かのように話を続けているが、つまり俺って知らぬ内に死亡していたって事だよな? なんで? そこの説明なくして君はあの世にいますよって、言葉足らずが過ぎないかこの仏様?



「な、なあ。仏様」

「私の個人名は出さぬぞ。ナントカ如来とかナントカ菩薩とか、そういうのを具体的に出すと恐らくイメージを損なってしまうゆえな。ブランディングだ」

「あ、仏陀さんではないんだ。良かった、幾らか胸のプレッシャー取れましたわ」

「うん? 今失礼な事を言わなかったかね?」

「言ってないですね。で、あの、俺って死んだんですよね?」

「当然。でなければここへは来れぬよ」

「当然て。じゃあ、自分の死に方がどんなだったのか聞いても……?」

「え、知らぬよ」



 仏様はあっさりとそう答えた。



「……えっ?」

「え? いや知らん。君の死に方なんぞ」

「あれっ。えっ、そんな事あります?」

「?」

「小首傾げてますけど。え、こんなの初めてッスよ。大体アニメだと神様ポジの人から直接死因を説明されたりするんですけと……」

「死因を? 一日に大体17万人ぐらい死んでおるのに? 死んでから転生させるまでワンオペしなければならんの? 物理的に不可能では無いかねそれは」

「あぁ……スピリチュアルな存在から聞きたくなかった単語だな……物理的にって」

「私基本この場から離れられんし、来る魂の行き先を決めて投げるだけだから詳しい事は何も知らぬよ」

「ほぼアルバイトじゃないっすか……」

「アルバイトだとも。本業は別の人間と関わらない分野だし、転生業者は人手足りないからほとんどアルバイトと思った方が良いぞ」

「ああもう聞きたくない事情が湧き水のように溢れ出してくるな。辞めましょうこの話」



 離れられないらしい。在宅ワーク的な感じでここで生活を送りながら仕事をしているのだろうか?

 まあそりゃワンオペで死者の魂の回収から来世の斡旋までやってたら回らないよな。日に何千人と死んでそうだしな、人。



「む。て事は、輪廻転生することは間違いないしその転送先も異世界で違いないけど、転生後って記憶は残ってなかったり?」

「? そりゃあ違う人間に生まれ変わるのだから、前世の記憶は抹消処理される手筈だけど」

「それガチの転生やないかーい!!!」

「ガチの転生ですが」

「ちがっ! 違うじゃーん! もっとこう、記憶残ったままさ、チート能力を貰って異世界で無双みたいなさ、そういうのが流行ってたじゃーん!!!」

「??? そうなのかい? 道理で、前の利用者も似たような事を言ってたわけだ」

「前の利用者! どうしたんすかその人は!!」

「魔法が使いたいとか記憶が残ったままがいいとか言っていたから、転生じゃなくそのまま楽土に転送したよ。魔法なんて君がいた世界の化学みたいなものだから、希望だけ叶えてそのままね」

「!」



 希望、つまりある程度の要望は叶えてくれるという事だろうか! 尋ねてみるものだ、意外にも現実のあの世はオタクに対し融通の利く作りになっているらしい!



「な、なら俺、十人通り過ぎれば十人振り向くような圧倒的美少女になりたい! 転生したら記憶が消えるってんなら、性転換したり女に変身する魔法なんかを覚えた状態で異世界に行きたいんだがどうか!!」

「一般的な人間が使えるような魔法にそんな内容のものは無いよ」



 ズコー。ちゃぶ台に前のめりに倒れる、仏様は意にも介さず言葉を続ける。



「無い!? 魔法はあるんすよね!?」

「ある世界もあるね」

「ならへ、変身魔法くらいあるでしょーよ!? そんな珍しい物なのかなぁ!?」

「骨格や体の構造を著しく変えてしまうのは危険だからね。外科手術のような期間を要する方法でなら出来ないことも無いかもしれないが、それも維持が大変だろうね」



 外科手術……手段は違っても結果として肉体を弄ってるのだから、身体が受けるその後の影響については大差ないってことか。


 そうか、美容整形ですら安定するまで期間置くものな。魔法は化学と似たようなもの、同じような役割を担っているんだとしたらそこは当然と捉えるべきか。なるほど、なるほど。



「……でもそれって、期間はかかるけど実現不可能って訳ではないんですよね?」

「魔法なんて使った事ないから分からないが、恐らくそうだろう。化学で出来る事は魔法でも出来る、逆も然り」

「ちなみに、希望するものっていうのは、どういうものを叶えてくれるんすか! た、例えば転生という過程を踏まずストレートに女体になった状態で異世界に行けるとか!?」

「別にそれも出来ないこともないが」

「! お願いします!!!」

「でも君、恐らくロリコンだよね」



 急に性癖を言い当てられた。隠している訳では無いので腕を組んで「えぇ。それがなにか」と肯定する。



「男を女にするのは可能だが、年齢は今の君と変わらないよ。それと、君はお世辞にも容姿が優れているとは言えないから、そのまま性別を反転させても美少女にはなれな」「やっぱ無しで。この話はなかったことに」



 ちょっとあまりにもチクチク言葉が過ぎたので途中で黙ってもらった。仏なら何を言ってもいいと思っているのだろうか、もう少し発言に配慮を加えてほしい。



「はあ……希望ってか、要望って具体的にどんな事をどこまで叶えてくれるんですか」

「魔法がある世界に行きたいのなら、魔法を一つ覚えた状態にさせる程度のことなら都合出来るよ」

「ひとつ〜!?!?」



 おいおい。おいおいおい。なんだその渋すぎる異世界特典はぁ!? ケチケチしすぎだろぉ!?



「そのままの状態で楽土に転送するのなら、学がない所からスタートする事になるからね。高度の教養を要する魔法を無条件で1つ覚えられるんだ、十分チート? な特典だと思わないかい?」

「心を読まれた!? いや、でも一つだけってのは……だって、例えばそれが指から火を出す魔法とかだとしたら、下手すれば生涯その1つの魔法しか使えず死ぬことだって有り得るわけでしょ!?」

「勉強しなよ」

「異世界語を覚える所からじゃないですか!!!」

「1年あればある程度覚えられるよ」

「無理ですよ〜!!! そんな無理な状況で異世界に放り込まれるのに、たった一つって……」

「まあ、過程を飛ばして覚えるなら一つに絞るというだけで、もっと条件を緩めるのなら個数制限も変えたりできるけど。私の塩梅でね」



 ふむ。仏様の価値観に依存するが、ある程度交渉すれば有利な条件を手にする可能性もあると、そう暗に言っているな?


 で、も、な……やっぱり、言語を知らない分には魔法なんて学びようがないし、日常会話程度はいつか出来るようになるかもしれないとしても、技術として魔法を覚えるのとはまた違う難易度がありそうだよな。


 やっぱり何か一つ魔法を覚えておくのが手っ取り早くて良いのだろうか。自衛手段として有効なものを覚えておけば、ジャングル生活人生になったとしても何とか生き延びて行けそうだし。


 ……でも、女体化できる可能性が1ミリでもあるのなら、その夢を捨てたくはない。

 変身魔法は人間の身じゃ難しい。女体化魔法なんて多分存在すらしていない。でも、どうにかして魔法という個人技能を極めれば、女体化だって出来るかもしれない。


 女体化。必要な過程として思いつくのはやはり肉体の再構築、外科手術的な肉体改造。それに必要なものを想像するとしたら……。



「回復魔法ってのは、存在するんすか?」

「回復魔法? ちょっと待ってね」



 仏様が手をかざす。俺には見えないが、虚空に何かが現れたようで仏様はキーボードをタイピングする容量でなにか打ち込み、虚空を見ながら答える。



「治癒魔法、回復魔法という呼称のものが存在する世界は幾つかあるね。他にも蘇生魔法、白魔法というのも候補に上がっているが」

「損傷した肉体を元の形に戻すのではなく、例えば傷を塞ぐとか、人としての形をこちらで再現して構築する、みたいな形式の物はありますかね?」

「…………あるにはある。というか、基本的に元の形に戻す因果干渉型の回復魔法は上位の物で、君が言ったものは下位に該当する物らしいよ」

「! じゃ、じゃあ! 例えばゲームで言うところのヒーラー、回復役と呼ばれるような役職に必要な魔法とか、それに関連する魔法全部を覚えられる"才能のみ"を貰えたりとかって、出来ませんか!?」

「才能?」

「人間には向き不向きがあるじゃないっすか! それっす! ほんの少しだけ、可能性がある、といったレベルでもいいんで、僅かにでもそれらの魔法を会得出来る才能を貰えたりしたら、そのままストレートに異世界転移してもいいなって思ってるのですが!!」

「その程度なら別に構わないが。そんな事でいいのかい?」

「オマケでなにか付けてくれるのならそれに越したことはありませんが!」

「ふむ。じゃあほんの少しだけ、君自身の幸運値を上げておくよ」

「ラッキー!」



 と、そのような会話を交わした後、俺の意識はぱったりと途切れた。


 視界が失せて体感時間16時間程。あまりにも緩慢な暗闇の時間経過を肌で感じながら過ごし、次に目を開けた時には全ての景色が変わり果てていた。


 見上げるほど大きな、高層ビルのようにしか見えない高さと太さを持ったバオバブのような樹木の林。むき出しの岩石には巨大生物のものと思しき糞。ここは、イメージしていた異世界よりもどちらかと言えば、ジュラシックな感じにジュラジュラしている光景だった。

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[一言] ンゴ!んご!んご! ンゴォおおお!!!
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