喋る焼き芋
秋になったので焼き芋を焼こう。パチパチと爆ぜる音、もくもくと上がる煙、焼けていく焼き芋、そして暑い日差し。
「秋なのに暑いな」
空を見上げる。カンカン照りだ。俺はもしかしたら焼き芋を焼くのが早すぎたのかもしれない。
「でも、焼き芋は美味いからな」
だからちょっとぐらい暑くても俺は焼き続けるのだ。
元々これは俺の家の庭で毎年やってる行事だ。うちは代々農家で芋を育てているのだ。その習慣を今も続けている。
「へえ、そうなんだ」
「うん。秋には必ずこうして焼き芋を焼いている」
焼き芋は美味い。そう思いながら火箸で芋を転がしていると俺はある違和感に気が付いた。
「あれ? 今焼き芋が喋らなかったか?」
「ああ、うん。焼き芋は喋るよ」
「ええ!? そうなのか!?」
「焼き芋の常識だよ」
「そ、そうなのか……知らなかった」
当たり前の事を俺は知らなかった。もしかしたらそういう風に言うと笑われるのかもしれないが、俺は確かに知らなかったのだ。
「まあ、君の両親も知らないけど、僕は知ってるからね。君が知らないのも無理はないよ」
「へえーそうなんだなあ」
「この機会に覚えておくといい。焼き芋はね、実は喋るんだよ」
「そうなのか……」
俺は納得して頷いた。そして再び焼いている芋を火箸で転がした。焼いている落ち葉からカサカサと音がした。
「ねえ」
「何?」
「どうして君は焼き芋を焼いているの?」
「うん? だって秋だからな」
「秋だから?」
「そうだよ。秋にはいつもこうしているんだ」
不思議な話だが、毎年やっていれば喋る焼き芋に出会う事もあるのだろう。俺は深く考えずに返事をした。
「そうか。秋だからか……」
「うん」
俺は芋を転がしながら頷いた。そして再び火箸で芋を転がす。
「ねえ」
「何?」
「秋なのに今日暑くない?」
「暑いね」
「こんな炎天下の中、焼き芋を焼くのは楽しいかい?」
俺は少し考えて答えた。
「うーん、まあ、それなりにかな」
「そうなんだ……僕はね、この季節が一番好きなんだ。実りの秋っていうんだろう? 何だか幸せな気持ちになる」
「うん」
「秋はいいよ。食べ物が美味しいし、涼しくて過ごしやすいからね。今日は暑いけど」
「うん、今日は暑いけどね。良い匂いがしてきた」
俺は芋を転がす手を止めた。焼き芋が焼けたのだ。
「よし、いい感じに焼けたぞ。いただきます」
俺は火箸で転がしていた焼き芋を持ち上げて齧った。温かい芋からはホクホクとした食感と甘みがあった。美味い。やっぱり焼き芋は美味いな。
「おいしいかい?」
「うん、おいしいよ」
そして、そのまま心行くまで焼き芋を楽しんだ。
秋に食べる焼き芋はやはり格別で、俺は心ゆくまで堪能したのであった。
俺はきっと来年も焼き芋を焼くのであろう。
その時にまた喋る焼き芋に出会うのかもしれない。