第77話 新たなるカオス・フラグメント。
私はあの空を忘れない。
夜明け空なのに夕焼け空よりも真っ赤に光る空。
最愛の夫が放つ命の光。
目を覚ましたマリクシに事情を説明し、インニョン、ケーミー、イーウィニャと最後の希望がある方角を見ていると傷だらけのボラヴェンとソーリックが馬車に乗せられてやってきた。
聞けば前線基地も追っ手もクオーによって倒されていた。
皆で残りのメンバーを案じていると空が真っ赤に光り、最後の希望の方角が火事のように赤く光っていた。
そして聞こえるはずのない声が聞こえてきた。
「聞け!民達よ!我らはゲーン探索団!我等を謀殺したブァーリ・カーン!戦えぬ者達を殺したハッピーホープの連中よ!死ぬ日を震えて待て!」
この声にイーウィニャが「これ…クオー…」と言う。
「俺達は欲望の揺籠に散ったカケラを集めてカオス・フラグメントになった。俺たちの家族を…希望の街に逃げ延びた家族を狙う者は全て許さない。俺達は暴走しない」
インニョンが「ハイクイ!?」と言って空を見る。
「家族が散った。ズエイ・ゲーンも、ゲーンの店の者達も、これから探索団を切り盛りするはずだった子供達もここぞと殺された」
「だが皆、俺たちと共にいる」
「サンバは家族を守って死んだ」
「ダムレイは1人でも多くの敵を足止めして死んだ」
「キロギーは仲間を信じて力を振るえずに死んだ」
「ウーコンは数多くの敵を道連れにして死んだ」
「バリジャット、チャーミー、コンレイ…殺されたキロギーの為に怒ってくれて殺された」
「俺達は敵を許さない」
「我らはこの場に留まり永遠に家族を守る」
ケーミーが「この声…ハイクイとクオー…」と言い、インニョンが「2人でカオス・フラグメントに…」と続けるとボラヴェンが「馬鹿野郎、俺の大鷲の目をそんな事に使うなよ!」と空に向かって声を張る。
マリアは呆然と空を見て「クオー様…」と言って涙を流した。
そのマリアの涙につられるように泣き崩れるマリクシ達に「すまないね。皆」と声が聞こえてくる。
「クオー様!?」
「マリア、我が最愛の妻よ。君とコイヌとリユーを…私は家族の皆を守る」
「なんかアンピルが言ってた混ざって溶ける感覚がわかる。俺たちはもうすぐ話もできなくなる。だからコレだけはやり切る」
「ハイクイ!!」
「俺の子供を守る」
「私達は他のカオス・フラグメントのように消滅はしない」
「ゲーン探索団を壊滅に追い込んだ奴らは全て殺す」
「ジン家は受けた恩も恨みも忘れない」
「ハッピーホープで俺たちを殺そうと刺客を送り込んできた奴ら、覚悟しておけよな」
「我が家族を殺せと命じたブァーリ・カーン!楽に死ねると思うな」
ハッピーホープで真っ赤に光るカオス・フラグメントを見ていた連中は戦々恐々とした。
いち早く逃げ出したくてもカオス・フラグメントに呼応するように海は荒れていて、とても逃げられるものではなかった。
そんな中、カオス・フラグメントは恐怖を与えながらも今までとは違っていた。
「あ、消える前になんとかしようよクオー」
「そうだね。多分命は繋がった。一瞬なら…」
何のことかわからないが、まるでクオーとハイクイがそこにいるような会話。
「え?何やってんのクオー?」
「ハイクイも…カオス・フラグメントなのに余裕すぎだろ?」
マリクシとボラヴェンが話していると「あー…、ケーミー…」と聞こえてくる。
「ダムレイ!!」
「悪りぃ、やっぱこうなった。クオーとハクが死んだ俺達を取り込んで巨大なカオス・フラグメントになったんだ。俺達はもう話せないがいつまでもここでお前達を見ている。子供の事は任せる」
ケーミーは空を見て「バカ!帰ってこいよ!」と怒鳴るとダムレイは「悪りぃ、でも悪かないって思う。この身体ならお前達を狙う奴を殺せる。お前達は俺たちが願って手に入らなかった穏やかな日々を手に入れろよな」と言った。
そして静かになるとハイクイの「もういいよね?疲れた」という声にクオーの「そうだね。流石に死者を起こすのは骨が折れたね」という相槌。
「クオーが凄すぎるんだよ」
「そうかい?私にはハイクイが凄すぎるんだが?」
「よく言うよ。まあいいや。インニョン、バイバイ。皆、インニョンをよろしく」
「さようならマリア。コイヌとリユーを頼んだよ。皆、健やかに生きてください。敵は今からこの破壊者が全てを破壊する!」
クオーの声にハイクイが「クオー!俺たち全員だ!行くぞ!!」と言うとクオーは「ああ!破壊する!」と言った。
この言葉の後でカオス・フラグメントは言葉を発する事はなかったが代わりにとんでもない事をした。
ケーミーが「あれ!土龍の岩弾!キロギーの炎神の大炎上と併せて火炎岩?どこに飛ばす気!?」と言うと本土の方に向けて真っ赤な岩弾を打ち上げると「ブァーリ!出てこい!殺された!仲間が!家族が!許さん」とクオーともハイクイともわからない声が聞こえてきた。




