第75話 クオーの考え。
もう何人殺したかわからない。
兄貴衆からお下がりでもらった剣はとっくに折れていて、剣も短剣も現地調達で使っている。
ダムレイを前線基地の方に向かわせたかどうなったか。火の手が上がらないところを見るとたどり着けなかったかも知れない。
流石に何時間も戦うのは辛い。
元々は探索団の切り込み隊長みたいな役割でずっと戦っていたがクオーが来てからは背中を預けてしまうクセが付いていたのか1人だとどうにもやりにくい。
「クオー!そっちやって!」
そう言ったら「了解だよハイクイ!」と聞こえてきて必ず敵は倒されていた。
逆にクオーは近距離から遠距離の切り替えを嫌がる癖がある。
そんな時は「ハイクイ!済まない!周囲の連中は蹴散らすから前の弓兵を頼みたい!」と聞こえてくる。
今も目の前に弓使いがいる。
防御に風刃を使えば矢は怖くないがいかんせん精度が落ちてきた。
それにしても殺しても殺してもキリがない。
よくもまあこんなに子供が居たものだ。
「ハイクイ!済まない!弓使いは任せる!一度しゃがむんだ!」
幻聴を疑った。
だが身体に染み付いた癖は指示を出し、指示は的確に身をかがめて前へと走り出す。
背後から聞こえるくぐもった音。
真っ赤に飛び散る鮮血の雨。
鉄臭さの中、弓を構えていた奴を殺して振り向くとクオーが立っていた。
「クオー、来てくれたんだ。ありがとう」
「いや、待っていてくれてありがとう。ハイクイは私を待ってくれるから私も来やすいよ」
ハイクイは笑いながらクオーの背を見て暗い顔をして「ダムレイ、サンバ」と言う。
「済まない。間に合わなかったよ」
「ん、そんな事ない。アイツらに連れて行かせないから助かるよ」
ハイクイは礼を言うと水を飲んでホッとひと息つく。
そんなハイクイにクオーが「さて、ハイクイは希望の街に向かってくれ。ボラヴェンやインニョン達が待ってるよ」と言った。
ハイクイはまさかの言葉に耳を疑い「は?クオー?」と聞き返す。
「私はキロギーを探してウーコンを取り戻すよ」
「俺も行くよ」
「いや、良かったらダムレイかサンバを連れて行ってくれないかい?ハイクイでは2人はキツいよね?それに子供を抱かないでどうするんだい?生まれたばかりの命には一生に一度の輝きがある。抱いてあげないと」
この言い振りが気になったハイクイは「クオーはなんで行かないの?」と聞くとクオーは申し訳なさそうに「私はもう無理なんだ」と言った。
ハイクイは夜の闇で気づかなかったがクオーの髪は真っ白になっていた。
「クオー…、その頭」
「うん。インニョンから聖女の吐息を貰ってね、妻に…マリアに使って腕を治したんだ。何か恩返しがしたくてね」
「…クオー?相変わらず凄いね。聖女の吐息を使っても倒れないとか凄すぎるよ。それになんか凄い事をしようとしてるよね?」
「さすがは私の相棒だねハイクイ。私の身体には魔神の身体、大蛇の束縛、風龍の吐息、黒豹の脚があった。そこにインニョンの聖女の吐息、ボラヴェンの大鷲の目、サンバの大亀の甲羅、ダムレイの風龍の吐息と火龍の吐息がある。私の命はあと少しで尽きる。その時私はこの身をアンピルと同じにする。そうなる時、ただ一つの願いを持ってこの世に顕現するんだ」
「顕現?」
「ああ。カケラ切れでの自壊すら認めない私は全ての力場に現れ全てのカケラをこの身に収める。そうする事で王国側からの侵攻を許さない。妻や子供達を守るんだ。その為にも行くのさ」
クオーの考えを聞いたハイクイは「…んー…」と言うとクオーに手を出して「とりあえず聖女の吐息を返してよ。インニョンのだからクオーに持たせたくない」と言った。
「ハイクイ?」
「俺も行くよ。ウーコンとキロギー見つけて帰る時にクオーの限界が来たら聖女の吐息はあげるよ。限界来なければお姉さんに看取ってもらいなよ。それにクオーなら俺がなんて言うかわかるよね?」
ハイクイの言葉にクオーは嬉しそうに「あはは、手厳しいね。では行くかい?」と問いかけた。
ハイクイは「勿論だよ」と言うとクオーは「では行こう!」と言い最後の希望に向けて歩き出した。




