第71話 逃亡劇。
ズエイは敵を作り過ぎていた。
ブァーリ・カーンはハッピーホープの経営者達にも通達を出していた。
ズエイが王都のショークに取り上げてもらい今の地位になった事を知っているので、何とか戦果をあげてブァーリに取り上げてもらおうと皆が殺気立っている。
ゲーン探索団に怪しい動きが見えたら殺してしまってもいいと言われていたし、首一つに100万ジュタークの値が付いていた。
兵士達もブァーリからの指示でクオーを狙う話も出ていたが希望の街に住むマーブルデーモンであるクオーを目指すハイリスクに比べればハイクイ以外なら物量で攻めればまだ何とかなるゲーン探索団を狩って小金を稼ぎズエイを殺せば儲けになると思い殺気立っていた。
最後の希望を取り巻く異質さにダムレイが「お前らいいな?街を出た瞬間、カイとシーカンの監視が無くなるから一斉に襲い掛かってくる。全部ブチ殺すのは無理がある。前線基地を突破して共和国の前線基地を越えるまでが勝負だ」と言い、ハイクイは全員を見て「全員死なないでクオーの元へ辿り着くよ」と続ける。
「バカじゃないの?違うよね?なんでケーミーとインニョンの事を言わないかなぁ…。サンバとキロギーはマリクシと荷車を押す係。俺とウーコン達は殿。…あー、ダムレイって弱くないけど荷車組に入る?」
「てめ、ボラヴェン!リーダー様は殿だよ!」
「ダムレイ、ハイクイ、荷車、守るから、安心しろ」
「おう!頼んだぜサンバ」
「うん。サンバなら安心だ」
こうして街を飛び出した瞬間に我先にダムレイ達の命を取るために襲われた。
相手も歴戦のカケラ使いなので戦いは熾烈を極める。
火を放つ事も考えたが最後の希望に近すぎる事と、やり過ぎてハウスのチビ達が仕返しに遭って血祭りに上げられても困る為に純粋に戦う事を選んでいた。
そして荷車から離れる事も問題なので、ある程度で移動をするリソースを振り分けないといけないので敵の撃破だけに集中出来ずにいる。
1時間半の逃走の中、風龍の吐息と弓を合わせてきたレギオンの攻撃がウーコンの胸と脚にあたる。
「ウーコン!」
「ダムレイ…逃げろ…クオーの所に…。俺は置いていけ」
「バカ言ってんじゃねえ!ボラヴェン!おまえがウーコンに肩を貸せ!ハク!一度ここの馬鹿共を蹴散らして時間稼ぐぞ!」
「了解。ダムレイは火龍と風龍だったよね?」
「ああ、街からは離れた!火炎放射でブチ殺してやる」
「了解、ダムレイの前には出ない。ボラヴェン!先に行け!」
この説明にクオーは落ち着いていられない。
食い入るように「それで、ウーコンは!?」と聞くとケーミーが「一度は撒いたから全員で集まれたけど…、ウーコンは助からないからって…女王蜂の針で最後の大仕事をするから逃げろって…」と言って肩を落とし項垂れた。
ウーコンの傷は深く出血は止まらない。
「もう…ダメだって…わかってるからさ…。最後の足止め…やらせろって…どうせアイツら、俺が死んだフリしてたら群がってくるから…、足の速い奴が来たら最後の一撃で倒す…から…、そうしたら逃げられるだろ?」
「バカ!助かるだろ!諦めんな!」
ダムレイは怒鳴りながらウーコンに肩を貸して寝かさないようにしている。
その必死さにウーコンが呆れながら「無理だって。命の張りどころだ。アンピルとコイヌにインニョンとケーミーの話をしてきてやるよ。きっとお前達の所に生まれてくるのはコイヌとアンピルだぜ?クオーの所のコイヌはお利口すぎてコイヌじゃねえよ」と言って笑うとダムレイは「バカヤロウ…」と言って悲痛な顔をする。
「バカだから残るんだ。インニョン、ケーミー、元気な赤ちゃん産めよな。俺達を捨てたクソ親みたいになるなよ?クオーの所でちゃんと育ててやれよな?」
「ウーコン!」
「行こうよ!荷車乗りなよ!私が走るよ!」
荷車の上でインニョンとケーミーが降りると言ってウーコンに手を差し伸べるがウーコンはまた笑うと「バカ、それじゃあ、赤ん坊と俺が死んで無駄になる。…ハイクイ、お前なら割り切れるよな?団長はこういう時にパーだから副団長が許してくれよ」と言ってハイクイを見た。
ハイクイは天を仰いで息を呑むと「ウーコン、頼める?」と聞き、ウーコンは「勿論、任せろ」と返す。
「ハク!」
「ダムレイだってジリ貧なのわかるよね?この先には前線基地もある。俺たちはここをウーコンに任せて前線基地の手前で魔物と追っ手の両方を止める。ボラヴェンは荷車の護衛に入ってもらって何が何でも残りの皆をクオーの元に向かわせるんだ」
ダムレイがなにも言えなくなるとハイクイはインニョンに語りかける。




