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破壊者の幸せな一生。  作者: さんまぐ
戦後処理に向き合う破壊者。
64/82

第64話 受勲式で怒り狂う破壊者。

アンピルの葬儀後、ズエイは早すぎるクオーの帰還に青くなり、更に追い込まれる事になる。


ブァーリからゲーン特師団と希望の乙女マリア・チェービーを迎えて王都で受勲式を執り行いたいと言われてしまった。

それは帝国が共和国に変わり、共和国から停戦の申し入れがあり事実上終戦したことと、その立役者で人道支援を行ってきたゲーン特師団の功績からすればあり得ない話ではなかった。


ショークとの板挟みに悩む中、国王ポードル・レンレン・ペイパーの鶴の一声で受勲式は決まってしまう。


ショークもそうなれば仕方ないとばかりにジン家からはズオーも招いてクオーのみにスポットライトが当たらないようにした。



ジン家や帝国での日々が功を成していて、ダムレイ達は最低限のマナーは身についていたので正装に身を包んでも違和感はない。


本人達は「ねえダムレイ。この服ってもしかしてこれ一着で一年分のご飯になったりして」「マジかよ」「あはは2年分かもねボラヴェン」「嘘でしょクオー!?」なんて話しているが周りからは羨望の眼差しなんかが向けられている事には気づいていない。


ケーミー達女性陣も目鼻立ちの問題ではなく着飾ると目を引く美しさが際立つ。

王都の令嬢達は着飾ることばかりに注力していて身体が弛んでいるので服が輝くのはケーミー達の方だった。


正装に身を包むケーミーを見てダムレイは「マジか…」と言葉を失い、インニョンを見たハイクイは「へぇ、似合うじゃん」と言って微笑みかけた。イーウィニャは「ねぇ!?私は!?」と皆に見せて回りマリアから「どこから見ても立派な淑女ですよ」と褒められて喜んでいた。



式典の場での失敗は許されないとクオーが前に出て国王からの祝辞を堂々と賜り「このクオー・ジン、王国の1人として恥じる事なく人道支援に邁進いたして参りました。国に弓引いた、逆賊セーバットを討ち取ることが出来ましたのも皆様方の支援指導あっての事と感謝の心も忘れておりません」と言い勲章を授けられていた。


何が何でもクオーが目立つ事を良しとしないショークは何とかしようとズオーに「兄が不在の中、領地を守り抜いた手腕は見事である」と言葉を送る。


傍目に見ていたハイクイが「ねえお姉さん。あの人ってクオーが嫌いなの?ズオーばかり褒めてるよ?」と口にしたがマリアは「クオー様が以前仰られていましたよ。あの方は突出された能力をよく思われない方、クオー様に負担が向かないようにしてくださっているそうです」と返してしまう。


このお人好し加減に呆れるハイクイ達だったが周りは皆マリア・チェービーやゲーン特師団に取り入りたくて牽制し合い、窓口として常識の通じるズエイがショークとブァーリに挟まれながら右往左往していた。





ここで終われば良かったのに




世の中は万事この言葉が付きまとう。

この日、ハイクイ達はクオー・ジンが自身を破壊者と卑下し、どんなに戦果を上げようともショーク・モーがクオーを忌避しているかを目の当たりにする事となる。


食事会の後はパーティーが始まり、食事により気の緩むゲーン特師団の空気感を感じたブァーリは腹心のソーリ・カーミと共に特師団のテーブルに近づき、マリア・チェービーに「王国の食事はどうですか?」と話しかけた。


「優しい味付けでとても美味しかったです。かつてクオー様が共和国の料理を刺激的と言って召し上がられた意味を実感いたしました。お気遣いありがとうございます」


マリアはキチンと帝国と呼ばずに共和国と呼びながら挨拶を交わす。

その姿は堂々としていて「希望の乙女」の名に恥じないものだった。



だが、愚かにもショーク・モー配下のゾウモウン・モハーツがテーブルに近づいてきてマリアを卑下した。

ブァーリの腹心がマリアに気を使うなら自身は貶めようとでも思ったのか、「共和国?敗残国の間違いであろう?最早皇帝も居らず、民衆を導く指導者も居ない。我ら王国に頭を下げて生きながらえただけのくせに」と言う。


マリアは表情こそ崩さないが辛い空気を出して「お言葉の通り、共和国は…」と返したが「敗残国」と即時訂正をされるとハイクイの気配が変わる。


そして異質な空気を察してパーティー会場はシンとなり、楽師達が慌てて豪華な曲をならしたが既に空気は冷え切っていた。



殺気にみなぎるハイクイにダムレイが「ハク」と注意して首を横に振る。

ここで争ってもいい事は何もない。


嫌な話だがマリアが耐えればそれでいい。

後はブァーリとソーリが代理で文句の一つも言って喧嘩両成敗の様相になればこの場は丸く収まる。


そう思っていたがハイクイはニヤリと笑うと「手遅れだダムレイ」とだけ言った。



「貴様、それでも王国人か?」


クオーは真っ赤に光りながら立ち上がるとゾウモウンを睨みつけてもう一度「答えろ、貴様は陛下の前で他国の使者…それも若き乙女に無礼な口を聞く…それ即ち陛下に失礼な行為。陛下に仇を成す王国人か?」と言った。


ボラヴェン達は楽しげに「あーあ、クオーがキレた」「何するかな?」「目潰し?」「あれは酷いから全身骨折にさせよう」「てかさ、生きてるだけで感謝だろ?」とヒソヒソと話す中、ズエイは必死にクオーを止めに来て、ズオーも「兄さ…兄上!」と止めに入るが「止めるな!我らが敬愛して止まない国王陛下の威光の元で健やかに暮らしている我らが不届きな行いをすると言う事は国王陛下の威光を疑わせる事に等しい!許さん!万死を持って償わせる!」と言うと更に寒気のする殺気を放つ。


ゾウモウンはマリアを軽く揶揄っただけなのに命の危機に瀕し、目でショークに助けを求めるがショークは無視をする。

クオーは手に負えない一騎当千の化け物だが愛国心は本物で国を貶めるものを許さない。

ここでショークがゾウモウンを助ける事は国王を侮辱する事と同義になってしまう。


慌ててゾウモウンは「殺される!近衛兵!」と声をかけてパーティー会場のお飾りだった騎士達を呼ぶ。


クオーは近衛兵を一瞥すると「君たちは何に仕える?国王陛下ではないのか?陛下を貶める者を守るのなら君たちの心も偽物だろう。私が破壊する」と言い、「我が名はクオー・ジン。さあ向かってくるなら名を名乗れるね?」と言って前に出ると槍ごと近衛兵を持ち上げて鉄製の槍を飴細工のようにグニャグニャに折り曲げて下におろすと「さあ、名を名乗るんだ。君の正義、忠誠心を見せてくれ?」と言って更に一歩前に出てみるが近衛兵は声も出せずに腰を抜かしていた。


クオーは落胆した顔で「それでは陛下をお守りできない。悔しいが共和国が帝国だった頃の…黒薔薇騎士団の団長を務め上げた彼の忠義には敵わないね。彼は蟻地獄に身体を苦しめられながらも心を壊された仲間たちの介錯をしていたよ」と言う。


クオーの言葉にまたパーティー会場はシンとなる。

クオーは遮る物がなくなるとゾウモウンに向けて拳を振り上げて「王国人に相応しくない。破壊する」と言った。


ゾウモウンは真っ青に震えて動けずにいる。


パーティー会場の誰しもがゾウモウンの死を疑わなかった。


ズオーはクオーを止めるために攻撃の構えを取り、もう一度「兄上!クオー・ジン!」と呼びかけた時…。



「おやめください!」


凛とした力強い声がパーティー会場に響いた。

それはマリア・チェービーだった。


散々ズオーの言葉でも止まらなかったクオーは一瞬止まるとマリアを見て「マリア殿?私は陛下の名を汚す行為もですがマリア殿が卑下される事が許せません。貴方の高潔な心は見させてもらい良く知っています。共和国の方々も敬愛する国王陛下やショーク様達には及びませんがそれでも立派な方々です。武力による制圧や抑圧をよしとせず共和国に移行した心意気も破壊者の私には想像も及ばない偉業です。それなのにこの者は卑下しました。許せません」と言う。


マリアは言葉に詰まることなく「私は気にしません。私が住む共和国が逆賊セーバットのせいで崩れてしまったのは紛れもない事実。皇帝陛下が崩御されたのも悲しいですが事実です」と言い返す。


「ならば!」

「なりません!」


マリアの気迫にクオーは困り顔で「マリア殿…」と言った時、マリアは「私にも我慢ならないものがございます」と言った。


「それは?」

「クオー様が敬愛する国王陛下の前で、その手を無駄な血に染める事です。クオー様の手は共和国に蔓延る悪を討った高潔な手です!無駄な血に染める必要はありません!」


クオーが固まるとマリアはもう一度「私は気にしていません。私の代わりにその拳を握ったと言うのであればお気持ちだけいただきます。ただ破壊欲を満たしたい破壊者であれば国王陛下や他の方を理由にせず拳を振り抜きなさい!」と言った。


シンとする会場で皆がこの結末について思案する中、ハイクイは殺気を消すとニコニコと笑顔になって「わぁ、お姉さんやっぱり強いや」と言った。


横にいるインニョンが「ハイクイ?」と聞くとハイクイは満面の笑みで「クオーとお姉さんはお似合いだなってさ」と言った。


ハイクイの見た通り、クオーは殺気を消すと困り顔のままで「マリア殿…」と声をかける。

マリアは「その手の行き所に悩んでおられますか?」とクオーに聞くとクオーは素直に「はい」と言う。

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