第63話 新しい世界で生きる破壊者。
セーバットの処刑から8ヶ月が過ぎていた。
クオーはようやくゲーン探索団とマリア・チェービーを連れ立ってジン家に戻りアンピルの葬儀を執り行えていた。
これまでアンピルの葬儀は帝国と欲望の島で行われていて、全員が参加をした。
ウーティップはすぐにズエイと残りのゲーン探索団のメンバーを帝国に呼びアンピルの事を告げて一つの願いをした。
それはマリアを主とする蟻地獄と蜘蛛の糸の根絶部隊を編成し、帝都で蟻地獄の根絶を頼めないかというものだった。
そこには大きな問題も存在し、帝都を治めていた貴族連中が全てセーバットに殺されていて機能停止に追い込まれていた為に近隣の貴族達を呼び寄せはしたが民衆からの支持は得られずに民衆は希望の乙女と乙女の剣であるゲーン探索団を求めていた事。
そして皇帝の死により帝国を共和国として王国との戦争を終わらせる声も出てきてしまう。
それはウーティップ達を始め帝都にいなかった貴族連中には野望もなければ君主になる器でもなかった上に国民の支持を得られなかったからだった。
ズエイは一つのことには喜んだがもう一つのことでは頭を悩ませた。
実の所、商人のネットワークでは皇帝が蟻地獄の中毒者だという話がまわってきていた。
どんなに臣下や白百合・黒薔薇騎士団が手を回してもセーバットを待ち焦がれ、セーバットの帰った後は恍惚とする狂った男を見てしまえば誰もが中毒を疑ってしまう。
そうなれば皇帝は傀儡で裏ではセーバットが暗躍する事は明白だった。
だからこそアンピルの為にセーバットを狩れとクオーに指示をしていた。
そして更にセーバットは人道支援でアンピルの治療の話が出た際にも二つ返事で引き受けて商人達から大亀の甲羅や妖精の囁きなんかのカケラを大量に買っていた事なんかもズエイの耳には入っていた。
うまくいけば帝国は内部からガタガタになり、クオーがインシンとクラトーンの復讐の為に帝国に止まる話になればショーク・モーに更に恩が売れると思っていたが事態は更に悪い方へと進んでいた。
ただ、ここでズエイの読みが外れたのはアンピルを治療するとして帝国に招き入れてクオーを謀殺するのだと思っていたが、セーバットが執刀医としてアンピルを連れて行き、ただ殺すのではなく人造カオス・フラグメントにしてしまっていた事、そしてクマムシを開発し城の人間をコレでもかと亡者に変えていた事だった。
希望の乙女とその剣として力を発揮し、帝国への残留を願われたクオー達にズエイは基本的にサンバとキロギーが居れば島で新人教育は可能で、定期的に人員を交代させる事と全員ではなく常時2人以外を貸し出す事で帝国に恩を売った。
だがこうなるとよろしくないのはショーク・モーとの関係だった。
「確かに帝国に縛り付けてセーバットを討ち取る話には了解をしたが、クオー・ジンが戦争を終結に導く救国の英雄になっている?」
ショークは軍備増強と侵略に重きを置いている事を理解していたズエイは背筋が凍ってしまったがまだ話せばわかる相手なので最終的には「帝国は愚かだったという事だな。皇帝などと持ち上げられても跡取りもおらずにクスリに溺れるとは」と言い、これからも侵略の危機はあるからとズエイにはカケラの納品を命じ、欲望の島での権限を残した。
ズエイからすれば首の皮一枚で繋がったと言っても過言ではなかった。機嫌を取るにはなんとかクオーを帝国か欲望の島に繋ぎ止める必要がある。
そう思った帰り道、かつて旨味がないと忌避したブァーリ・カーンに呼び出される形で欲望の島と帝国でクオー・ジンとその周りに何があったかを聞かれた。
ブァーリは戦争反対の立場にいて今の状況を喜んでいて、何があったかを知りたがっていた。
ひと通り蟻地獄の件からカオス・フラグメントの事、マリア・チェービーを庇い怪我をしたアンピルを帝国で治療しようとしてセーバットの罠にハマりそれを打ち破った事、セーバットが帝国を滅茶苦茶にしていた事を説明し、希望の乙女…マリアと共にゲーン探索団が人道支援として駆り出された事まで説明をした。
ショークとは違いニコニコ顔のブァーリは「良くやってくれた。脳筋男のショークではこの偉業がわからないだろうが私はズエイ・ゲーンを評価する。もし仮にショークに睨まれた際には私を頼りなさい」と今一番欲しい言葉をくれた。
「戦争さえ終われば内政に力を入れられる。ズエイ、お前なら帝国との交渉も可能であろう?」
「はい。お任せください。商人のネットワークは不滅にございます」
「結構。くだらない戦争はさっさと終わらせて復興に力を注ぐから粉骨砕身尽くすのだぞ?」
「御意」
当然、そんなやり取りがあった事はクオー達には告げずに暗躍するズエイはショークとブァーリ、それぞれからジン家宛の書簡を用意してもらい、中には「異国の地で大変だろうが王国の代表として人道支援を頼む。ゲーン探索団は今はゲーン特師団・使節団として世界の敵、蟻地獄の根絶に向けて尽力するように」と書いてもらった。
これにはまたジン家は飛んで喜び、ズエイから書簡を受け取ったクオー自身も「お任せください!」と真っ赤に光って喜んだ。
「クオー、良かったじゃん。元々は残りたがっていたよね?」
「ああ、この惨状を目の前に王国人だからと帰る事は許されないからね」
この言葉にハイクイが「お姉さんと居たいだけじゃないの?」と冷かすのだがクオーは呆れるように「ハイクイ」と言うだけなのでハイクイはマリアに「お姉さんは?」と聞くとマリアは赤くなって「わ…私は…クオー様の御力を見られるだけで幸せです」と言った。
2人を見てハイクイは「お似合いなんだからくっ付けばいいのに」と笑って済ませると「旦那、いつまでいればいいの?アンピルの葬式をやりたいよ」とズエイに言う。
「バカヤロウ。やってやりたいのは俺も同じだが、王国代表なんて呼ばれてて葬式だから帰りますなんて言えるかよ」
この一言で帝国でアンピルの葬儀が執り行われる事になる。
そしてコイヌの時同様、根絶が認められれば帰還が許されると知ったクオーは乙女の剣「マーブルデーモン」として帝国で猛威を振るう。
蟻地獄の製法を受け取った者の痕跡を見つけると言葉通り地の果てまで追いかけて血祭りに上げてくる。
そして蟻地獄も製造途中に出来る低品質のクマムシも残さずに焼き払った。
重度の中毒者が苦しめば容赦なく終わらせる事も申し出た。
暴動にならなかったのはクオーの恐ろしさと同時にマリアの存在が大きかった。
「恨みと怒りの矛先を間違えてはなりません!全ては逆賊セーバットと蟻地獄であって心を殺して支援くださるゲーン特師団には感謝をしてください!」
クオーのやり方は過激だったが作る者と使う者を徹底排除した結果、蟻地獄は帝国…今や共和国から姿を消していた。
ウーティップから正式に感謝と支援の終了を伝えられたクオー達は欲望の島に帰還し、アンピルの葬儀をし、今度はジン家で盛大な葬儀をした。




