第59話 隠し部屋に居た者。
大階段を登りながら黒薔薇騎士団員と白百合騎士団員の行為の痕跡をみて顔を赤くして怒るマリア・チェービーは父ウーティップにセーバットは何がしたいのかを聞いてみた。
「フランシスコ様のおっしゃる通り、カオス・フラグメントを生み出し、帝都最強騎士団を壊滅させてしまえばいくら民や産業が残っても帝国はおしまいです。王国の侵攻を止められません」
この質問に答えられないウーティップの横でボラヴェンは「そんなの知らないよ。アイツは敵。敵を理解しても意味はない」と返す。
正直その顔は整っているが殺気を放っていて恐ろしい。
だがここでクオーが「ふむ。ハイクイはどう思う?」とハイクイに確認をする。
ハイクイが「クオー?」と聞き返す中、クオーは「マリクシの意見も聞きたいかな?」と言ってマリクシを見る。
「俺?」と聞き返したマリクシは「なんかセーバットってキロギーみたいだなって思ったよ」と言った。
マリクシは欲望の島で待つキロギーを思い浮かべて「アイツ、目の前に食べ物があると後先考えずに食べちゃうし、火龍の吐息も手に入れた日に使い試してハウスを火事にしかけたんだよ」と説明をするとハイクイが「あ、あったね。確かに似てるかも。目の前にクオー達が居て後先考えないし、蟻地獄も蜘蛛の糸もクマムシも使い試してるんだ」と言った。
「そんな可愛いもんじゃないよ」と言って怒るボラヴェンにクオーが「ごめんね」と謝った後で「私は…全てを知ってこの怒りを奴に…セーバットにぶつけたいんだ。右脚だけでいいから私にくれないかな?」と言った顔は完全な破壊者のものだった。
上層階は階段以上に地獄と化していた。
マリア・チェービーがここに居ることが憚れる内容だったがマリアは首を横に振ると「私の事は気になさらないでください。チェービーとして証人になります」と言って足を止めない。
廊下の端で布を被せられた複数の遺体は黒薔薇騎士団員と白百合騎士団員だった。
それらを無視して歩くと部屋の中からはクマムシを使われたメイドや使用人達、後は何人かの臣下がいて襲いかかってくる。
ウーティップは面識があるだけに辛そうな顔をしてクオーに「眠らせてあげてくれ」と言うとクオーが粉々に砕いて終わらせる。
謁見の間にはさらに数人の臣下がセーバットの手で半魔半人にされた上にクマムシを投与されていてなかなか死なない魔物のような感じになっていた。
隠し扉はなかなか死なない半魔半人のクマムシにキレたハイクイが全方位に風刃を放った事で見つけられた。半分壊れた扉をクオーが壊して前に進む時、ハイクイが「マリクシ、おじさんの事をよろしく」と言う。
「何を?」
「罠が仕掛けられてたら全滅だからここは俺とクオー、お姉さんとボラヴェンで行くよ。戻らなかったらダムレイと兵士を呼んで突入して」
これにはウーティップが「そんな!それこそフランシスコ殿の言葉通り若い君達はここに残り私が!」と異を唱えるがハイクイが「ダメだよ。若い俺達って言うなら俺達が落とし前を付けてくるよ」と言うと、そのまま「いいよねクオー?お姉さん?ボラヴェン?」と確認を取る。
誰も意を唱えずに頷くと、ハイクイ達は隠し部屋に入っていく。
隠し部屋の中に罠は一切なく、長い廊下の奥には豪華な部屋が用意されていた。
城の造り的に大きく外周を回る形で端の部屋に繋がる感じだった。
「やあ、もう来たのかい?早いなあ」
そう言ったのはセーバットで、セーバットは豪華なソファに肘をついて楽しそうにヘラヘラと笑っている。
「セーバット!!」
「あの男がセーバット・ムーン」
「俺たちの敵、インシンとクラトーンを壊した奴」
「アンピルの仇」
殺気だつクオー達を無視して「カオス・フラグメントを作ったのに倒されるなんて思わなかったよ。今度は核に別のカケラを使ってみるかな」と言って笑うセーバットにマリアが「余裕ですね。絶体絶命ですよ?投降しなさい。帝国法で裁きます」と言った。
マリアの言葉にセーバットは笑うと「待ち伏せも罠も出来たのにしないのは話したかったからなんだから話そうよ。帝国法?帝国は終わりだよ。ほらコレ」と言って横のソファに横たわる人間を指差す。横たわった人間は緩み切った顔で大きな皿に乗った何かを黙々と食べ続けていて存在感が無かった。マリアがその人物の顔を見るとみるみる青ざめていき「ああぁぁぁ……皇帝…陛下…」と言った。




