第56話 帝国城突入。
城は門を閉ざして沈黙を守っていた。
マリアの「開けなさい!」と言った呼びかけにも城は反応しない。
だがそれすらこの場では意味と力を持っていた。
マリアが「クオー様」と言うとクオーは「任された!」と言って最大出力の魔神の身体で分厚い門を一撃の元に粉砕する。
この力、この勢い、全てがゲーン探索団と希望の乙女の力になる。
歓声を浴びながら城の敷地に入りもう一つの門を破壊しようとしたクオーの耳に聞こえて来たのは兵達の苦しみの声だった。
「まさか!?クマムシ!?」
「クオー様?」
マリアは動きを止めたクオーを不思議そうに見る。
背後を固める兵達は早くセーバットを討ち取れと加熱していて立ち止まる事は良くない状況だった。
「セーバットは城の中でクマムシという人を亡者のような姿に変える薬物を使ったようです。中からは特有の声が聞こえて来ました。クマムシは死なずの兵士。手足を切り落としたくらいでは止まりません」
クオーの説明に辟易としたハイクイが「…もうさ、アンピルの願いはわかるけど俺が風刃でヒビだらけにしてクオーがガツンとやってさ、城を壊して全部潰しちゃおうよ」と提案をするが、それはボラヴェンとウーティップに止められる。
「ダメだよハイクイ!アンピルの願いを叶えさせてよ!」
「済まない、陛下達を保護したいからそれはやめて欲しい」
「えぇ?マジで?」と言って肩を落とすハイクイにダムレイが「ハク、とりあえずそんなんじゃメシが美味くねえ、とりあえずやるだけやって盛大にアンピルの葬式してやんぞ」と指示を出す。
「団長命令?」
「団長命令だよ」
ハイクイは諦めて「クオー?」と確認を取るとクオーは「ふむ。マリア殿、この場合はウーティップ殿かな?クマムシの事があるので風通しは良くします。後は皇帝陛下はどちらに?クマムシ達の始末は兵士達に任せて最短でセーバットの抹殺と皇帝陛下の保護を我らでやりましょう」と提案をした。
クオーは息を吸うと「兵士諸君!門を開くと同時にセーバットの薬により自我を失ってしまい、正常な者を敵視する不死に近い兵士達が襲いかかってくる!覚悟は良いな?総員抜刀!」と言うと再び門を強く殴る。
「ハイクイ!風を起こしてクマムシを吹き飛ばしてくれ!総員突撃!」
マリアの指示ではないのに誰も意を唱えずに場内に攻め込んで行きクマムシによって亡者と化した兵士達と戦う。
「負傷兵は無理をせずに下がるんだ!我々は皇帝陛下の保護とセーバットの抹殺に向かう!この場は任せた!」
クオーの言葉にダムレイが「馬鹿野郎…俺がここに残る」と言う。
「ダムレイ?」
「本土のゆるゆる頭の連中になんか任せられねえよ。下手したらセーバットの仲間が兵士のフリして逃げ出すかもしれないだろ?最後の希望仕込みの目の良さを披露してやる。ケーミー、悪いが付き合ってくれ。お前もいれば心強い」
「オッケー、任せてよ。クオー、カケラは見抜けないけど何とかなるよね?」
乱戦中でもダムレイと並んで笑顔すら見せるケーミーを見てクオーは「2人が残ってくれれば心強い。ここは任せます」と言った。
「マリクシ!君はウーティップ殿の護衛だ!私が前に進みながらマリア殿を護衛する!ハイクイは殿を頼む!」
「了解。んでもクオー、お姉さんの仕事を取っちゃってるよ?」
ここでクオーは「あ!」と言うとマリアを見て平謝りをする。
マリアは嬉しそうに「私は城までの案内人で後はクオー様と共に参るだけです。さあ、セーバットを討って陛下をお救いしましょう」と言う。
ここでボラヴェンが「ちっ、部屋が多すぎる。2階までは全部見たけどセーバットっぽい奴は居ないよ。セーバットの姿がわからないから紛れられると難しい。アンピルの言った壊れたおじさんってのも居ないし」と不満を漏らす。
「ボラヴェン?君は見ていたのかい?」
「当然だろ?ウチのアンピルを殺したゴミ野郎が一秒でもこの世にいるのは許せないよ」
女性に間違えられる顔立ちのボラヴェンが顔を歪めて口汚く罵るだけで怒りが伝わってくる。
「ふむ、ならば私は家族として手を尽くそう。マリア殿、十秒後にこの部屋いっぱいに風刃を起こします。兵達にしゃがむように指示を出してください」
マリアは慌てて指示を出すときっちり十秒後に風刃を出すクオー。
広い玄関ホールにも関わらず行き渡る風刃。
3割のクマムシは首を落としていた。
「ハイクイ、10人の兵士を手に入れたい。クマムシと戦っている連中を援護して」
「ん、わかった」
ハイクイが援護に向かうとクオーも10人を確保するためにクマムシをすり潰す。そして「やはり自分で育てたカケラはいいね」と言ってから20人の兵士に「君達は人海戦術で各部屋を見回ってもらう。セーバットや皇帝陛下がいらっしゃればドアの前で丸印のジェスチャーを、いなければバツ印だ」と指示を出して「ボラヴェンは彼らを追えばいい」と言う。
「とりあえず信じる。裏切ってたらクオーが殺してくれる?」
「勿論、裏切るなら指から腕から全て引きちぎってから頭を潰すよ」
この会話の後で兵士達は散ってセーバットを探しに行った。




