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破壊者の幸せな一生。  作者: さんまぐ
カオス・フラグメントと対決する破壊者。
55/82

第55話 アンピル・シータ。

飛び散るカケラの中に居たアンピルを抱きかかえたボラヴェンは「アンピル!返事しろ!バカ!!」と言うと「ありがとう兄ちゃん」と声が返ってくる。


念の為に飛び散ったカケラを兵士が安全圏に逃す中、用意させた布団にアンピルを寝かそうとした時あることに気付いた。


「アンピル…」

「あ、クオー。ありがとう。やっぱりクオーは皆のお兄さんだよね。怖かったし痛かったけどクオーが居てくれたから頑張れたよ。でもごめんね。ボラヴェンが居てくれたからもっと嬉しかったし頑張れたんだ」


「ああ、…構わないよ」

「…泣きそうな顔してるよクオー」


「泣いてしまうよ。アンピル…、目を開けていないのに私の顔が見えるんだね」


アンピルは表情もなく、話す時も口から言葉を出すのではなく妖精の囁きで語りかけていた。目も開かないのに見えている。それは大鷲の目が代わりに見ている証左だった。



「泣かないでよ。皆に会えてさよならが言えるなんて俺は嬉しいよ。カオス・フラグメントになってすぐに身体が溶けた感覚があったんだ。でも怖くて言えなかったんだ…」

「君は私の弟でもあったのだから遠慮してはダメだよ!」


「ありがとうクオー。俺さ、絶対とは言えないけどコイヌも同じ気持ちだったと思う。クオーが近くに居てくれると怖さが減る。コイヌもお腹が痛くて死ぬのが怖かったけど安心して逝けたと思うよ。向こうに行ったらコイヌにクオーの家がデカかったとか、美味しいご飯のおかげでイーウィニャの胸がケーミーより大きくてケーミーがヤキモチ妬いたとかダムレイがいつも怒ってるとか言っておくよ」

「…頼むね」


「クオー、セーバットの奴。見つけたよ。城にいる。城の中…変だった。誰も入れない部屋にセーバットと壊れたおじさんが居たよ」

「…君はそんな事までしてくれたのかい?私には何も返せないと言うのに!」


「じゃあ髪の毛…。俺もコイヌと一緒がいいや」

「わかったよ」


クオーが涙ながらにアンピルの髪を切り取る。

その間にハイクイが悔しそうな顔で「ごめんアンピル。助けられなかった」と言う。


「助けてくれたって、ハイクイはヒーローだよ。風刃でバシバシって格好いい。セーバットを切り刻んでよ」

「ああ!当然だ!」


「ありがとう」とアンピルが言うと代わる代わる皆がアンピルに言葉を送る。


アンピルはダムレイには「ずっとありがとう。水汲みで助けてくれたのとか、レギオンに絡まれたりした時も助けてくれてありがとう」と言い、ケーミーには「ダムレイとハイクイはゴミを捨てないから俺が捨ててたからこれからは部屋汚くなるかも、ごめんね」で、マリクシには「走ってるマリクシは本当格好いいよね。俺も足が速かったら良かったな」だった。


アンピルの手足は光になって消え始めていた。

皆が一歩離れると前に出てきたボラヴェンが「ばかやろう…」と言った。


「ボラ…兄ちゃん、ごめんね。でも帝国なのに…会えると思ってなかったから嬉しい。俺のお金って貰えるなら全部貰ってよ。お礼になるかな?」

「ならないよ!お前に奢らせて嫌そうな顔を見ながら食べる事に意味があるんだよ!」


「酷え兄ちゃんだ。でもきっと楽しくて美味しいね。食べたかったなぁ」

この言葉でボラヴェンは泣き崩れて「ちくしょう」「なんだよこれ」しか言えなくなってしまった。


ボラヴェンの横を歩いてくるマリア・チェービーは表情が暗い。

自身が属する帝国での悲劇に申し訳なさそうにしているがなんとか言葉を送ろうとして「アンピル君」と呼びかけた。


「お姉さんだ。指示出し格好良かったよ。一個…お姉さんを見ていたらやれる事を思いついたんだ。俺のお願い聞いてくれる?」

「勿論です。言ってください」


「お姉さんは島で希望の乙女って言われてるんだよね?」

「はい。お恥ずかしながら…」


「俺も平和になったらクオーとお姉さんが進む時にその後ろで助けたかったのにごめんね」

「いえ、私こそ帝国でこんなことになってしまいました」


「ううん。いいんだよ。今は怖くない。皆いるし、お別れも言える」

この言葉にマリアを含めた全員が泣いてしまった。


泣いている皆の横でアンピルは「俺の最後の力、兄ちゃん、皆、見てて」と言うと身体を光らせて「俺はゲーン探索団のアンピル・シータ。王国人。欲望の島に現れたカオス・フラグメントの攻撃で腕が上がらなくなったから希望の乙女のマリアお姉さん達の助けで帝国に治しに来たんだ」と妖精の囁きで言う。


それは帝都の全員に聞こえていた。

どよめきの中アンピルは言葉を続ける。


「一緒に帝国に来た帝国人のナーリーはセーバットに殺された。俺も身体にカケラを何個も入れられてカオス・フラグメントにさせられた。街を壊す事になってごめんなさい。でもゲーン探索団の皆が俺を止めてくれた。でも俺の身体はカケラと混ざってしまってもうすぐ消えてしまう。だから最後に、最後の力で皆に声を届けるんだ。

セーバットは城にいる。この街をこんな風にしたセーバット、流行り病を作って、蟻地獄や蜘蛛の糸をばら撒いてお金儲けをしたのも全部セーバット。

マリアお姉さん、ゲーン探索団の…俺の家族は皆凄いから、皆が手伝うから希望の乙女として、帝都の人たちを助けてあげて、セーバットを倒して。

ゲーン探索団の皆、セーバットを倒して。マリアお姉さんを助けてあげて」


アンピルは最後にボラヴェンに「兄ちゃん、トドメはクオーじゃないよ。やってよね?大好きだよ」と言うと光になって消えた。


ボラヴェンは号泣し、他の皆がこれ以上泣いていられないと涙を堪える中、目を真っ赤にしたマリア・チェービーは「お任せくださいアンピル君」と言うと蜘蛛の意志を使い「私の名はマリア・チェービー!ウーティップ・チェービーが娘!聞きましたか?彼の声を!見てください!この惨状を!医療を求めた者に人体実験を施し、違法薬物を用いた逆賊セーバット・ムーンを今から討ちます!帝国兵達!立ち上がりなさい!城へと向かいます!城の兵士達!帝国兵の誇りがあるのなら逆賊セーバットを捕らえなさい!ゲーン探索団!参ります!ついて来てください!」と声を張った。


城は少し離れていたが問題無かった。

民衆はマリアや兵士たちに声援を送り、クオー達を王国人と見ずに「希望の乙女を助けてくれ」と言葉を送っていた。


歩く度に集まる兵士や街の人々、中には蟻地獄によって家族を失った者、カオス・フラグメントのせいで焼け出された者なんかもいた。

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