第54話 カオス・フラグメント対ゲーン探索団。
ハイクイを狙ったカオス・フラグメントの一撃。
だがカオス・フラグメントの拳は空を切る。
ハイクイが足場にしていた建物は跡形も無く粉々に切り裂かれていた。
「やあ、お待たせ」
落ちてきたハイクイを大蛇の拘束で受け止めたクオーは優しく微笑むと「後はコンビネーションで倒したい。まずは私が奴を押さえ込む。ダムレイから水や薬を貰って休憩だよ」と言った。
「…ん。そうする。やれるんだよね?」
「ああ、地の利は無いが我等にはマリア殿も居てくださる。やれるさ」
クオーは真っ赤に光ると「合わさった魔人の身体は良い仕事をしてくれる。アンピル!私の声が聞こえるね?今から全てを破壊する!待っているんだ!」と言い「大蛇の拘束よ!あの者を一歩たりとも動かす事なく押さえ込むぞ!」と言うなり左手から伸びた拘束がカオス・フラグメントの足を押さえつける。
「マリア殿!兵やボラヴェン達に指示を!ケーミー!君はマリア殿の横でカケラの発動を伝えるんだ!」
「わかりました!」
「姉さん!ドンドン言って!クオー!頼むよ!」
「了解!アンピル!頑張って!今クオーが行くよ!」
クオーは任されたと言うと家一軒分に拡大した魔神の身体でカオス・フラグメントの尻を殴打する。
尻から弾けたカケラ達をマリアの指示で皆がかき集めて安全圏まで逃していく。
暫く叩き続けると先程ハイクイが切り崩した時のサイズにまで縮んでいる。
その間も攻撃はあったがケーミーが発動を察してマリアが皆に伝える事で被害は一切ない。
そしてまた縮んだカオス・フラグメントからアンピルの声が聞こえて来る。
「皆!痛いよ!苦しいよ!」
アンピルの声を聞いたケーミーが「あれ!妖精の囁き!身体の真ん中!胸の所で光った!」と言った。
クオーが「…核か!セーバットめ、アンピルに核として入れたカケラは妖精の囁きか!」と憤るとケーミーが「後はなんか残ってるのは大亀の甲羅が多いよ!?」と思った事を言う。
「ちっ…、セーバットめ、確かに20の大亀の甲羅を買ったと言っていた」
忌々しそうに話すクオーに「だから遠距離が攻撃少ない代わりに防御壁を張って攻撃に転用してしかけてくるんだ…」と言いながら近づいてくるハイクイ。
「ハイクイ、行けるのかい?」
「行けるよ。マリクシも復帰した」
「よし、一気に剥ぎ取ってしまおう。マリア殿!一斉攻撃に出ます!よろしくお願いします!」
頷いたマリアは「はい!アンピル君!もう少しです!我慢をしてくださいね!」とアンピルに声をかける。
「ハイクイ」
「なに?」
「私があの巨体を跪かせる。君は背に乗って先程やった最大出力を頼めるかい?」
「やれるけどどうするの?」
「勿論…アンピルから一気にカケラを取り外してあげるんだ」
「いいよ。アレ疲れるから一回勝負でよろしく」
クオーとハイクイは流れるように会話を交わす。
クオーにとってハイクイは今やリユー以上の相棒になっていた。
「ケーミー!私とハイクイの最後の攻撃の後はカケラの発動は無いだろう!君も回収に参加してくれ!」
「りょーかーい!こんななら籠持ってくればよかったね」
「マリア殿!申し訳ない!兵士達が周囲を固めたら最後の指示出しを頼みます!一気にアンピルを取り戻します!」
「わかりました!全員!カオス・フラグメントを中心に正円状に囲いなさい!」
兵士達は大急ぎで戻ってくるがその間もクオーはアンピルを押さえ込み、ハイクイは削っていく。
ボラヴェンはハイクイが切り落とすカケラを拾いながらアンピルに「おい!兄貴の俺より先に逝くんじゃない!キチンと帰ってこいよな!生きるって気持ちを忘れるな!」と声をかける。
今までは返事がなかったが今は違っていた。
アンピルは「ボラヴェン…兄ちゃん、今までありがとう」と言った。
それは別れの挨拶だった。
これを聞いて目の色を変えたボラヴェンは「今まで!?バカ言うな!腹壊しやすいお前が拾い食いする度に汚したパンツ洗ってやったのは俺だぞ!もっと恩返ししろ!これからもだ!足りない!」と怒鳴りつける。
「黙ってたけど…無理かな…、身体が溶けてカケラと混ざってる気がする」
「バカ!なんで腹痛い時と一緒で我慢してどうしようも無くなってから言うんだよ!」
怒鳴るボラヴェンに返事をしないアンピル。
この間がどうしようもない事を表している事にボラヴェンは真っ赤な顔で泣きながら「ハイクイ!!クオー!!早く助けてくれよ!アンピルを!俺の弟を助けてよ!」と叫ぶ。
ハイクイは怒った顔で「クオー!!」とクオーを呼び、クオーも真っ赤に光りながら「マリア殿!済まない!兵の配置は足りないでしょうが今の配置で対応願います!」と言う。
マリアは頷くと「最後の攻撃に出ます!戻らぬ兵も居ますが全員でカバーをします!死力を尽くしなさい!」と指示を出してから「お願いします!」とクオーとハイクイに言った。
そこからはあっという間の出来事だった。
「クオー!俺を奴の上に投げろ!その間に跪かせるんだ!」
「済まないが遠慮はできない。姿勢制御は任せるよ」
クオーは言うなりハイクイを投げ飛ばすと自身も駆け出してカオス・フラグメントの両足をコレでもかと殴打する。
それは最早跪かせるものではなく足そのものを剥ぎ取る行為だった。
「アンピル!私が助けてみせる!」
止むことのない嵐のような殴打によってみるみる足の削れていくカオス・フラグメント。
「それ、言うなら俺達だよクオー」と言ったハイクイが跪いたカオス・フラグメントの背に乗り周りを見ると全員がマリアの指示で剥ぎ取ったカケラの回収に勤しむ。
「クオー!何をすればいい!?」
「風刃を出し続けて私の指示で退避だ!退避の余力は残してくれ!」
「もう出すよ?クオーは大蛇の拘束で押さえつけておいてよね」
「もう一つやるさ」
「ん?まあいいや!本気だ風神の乱気流!風刃!!」
「負けるな!風龍の吐息!風刃!!」
ハイクイの風刃に合わせて自身も股下から風刃を出してカオス・フラグメントに風刃を走らせるクオー。
お互いに器用なのはお互いに風刃で傷がつかない事だった。
十分に傷が付き周り中にカケラが飛び散る中、クオーは「ケーミー!妖精の囁きはまだ胸だね!?」と声を張る。
「うん!動いてない。でも胸ってよりどちらかと言うと背中!」
セーバットはアンピルの背中からカケラを入れていた。
だから背中なのかと納得をしたクオーは「ケーミー、ありがとう」と言って風刃を止めると「ハイクイ!退避だ!」と指示を出した。
ハイクイは「なら最後!」と言って特大の風刃を走らせると下に降りて「ケーミー、疲れた。お水ある?」と言っている。
「あるけどなんでハイクイは余裕なの!?」
「だってクオーと俺…皆がやったんだよ?助からない訳ないじゃん」
「その通りだ!魔神の身体!最大出力!」
クオーが芯棒に纏わせた魔神の身体はカオス・フラグメントの背丈に匹敵していた。
「破壊する!」
そう言ったクオーの腹に向けたフルスイングでカオス・フラグメントは粉々に砕け散り、その中にアンピルはいた。
「ボラヴェン!アンピルを頼む!」
「ありがとうクオー!」
ボラヴェンは真っ直ぐアンピルに向かって走っていきアンピルをキャッチした。




