第51話 カオス・フラグメント対破壊者。
外は突然現れたカオス・フラグメント…アンピルの暴走で地獄と化していた。
アンピルはカオス・フラグメントの本能なのかカケラを持つ兵士を襲いカケラを奪っては増大していく。
街の民達は突然セーバットの屋敷から現れたカオス・フラグメントに驚いているだけで何も出来ずにいる。
一瞬帝国民を見捨ててセーバットを探したい気持ちに駆られたがそれをしては人未満になると思ったクオーは瓦礫に足を挟まれた子供を助けると人の多い所に連れて行って「この子は足に怪我をしています。よろしくお願いします。あれはセーバットが生み出した魔物のような存在。さまざまな攻撃をします。気をつけてください」と伝えてアンピルの元を目指す。
助けた男の子はクオーに向けて「お兄さん!ありがとう!」と声をかけると、クオーは振り向かずに「いや、君を助けられて良かったよ」と答えると真っ直ぐに歩き出し、男の子を抱きかかえた男は「待ちなさい!何処へ!?」とクオーに問う。
クオーは「…約束をしました。私があの子を止めます」と言って再び歩き出した。
「アンピル。君を救う。全てのカケラを剥ぎ取ればきっと人に戻れるよね?人に戻った時、街の惨状を見て嘆かずに済むように私は兄として君を止めてみせる」
そう言ったクオーは真っ赤に光っていた。
どこを見てもアンピルの位置はわかる。
またカケラを取り込んだのだろう。カオス・フラグメントは更に肥大化していた。
大通りに出たクオーは目を疑う。
必死に瓦礫から子供を救おうとする母を、動けない恋人を救おうとする男を見捨てて兵士達はカケラが狙われている事に気付いたのだろう一目散にカケラを捨てて逃げ出していた。
なんたる体たらく。
ナーリーやシマロンこそ本物の帝国兵で、この者達は帝国兵の皮をかぶった何かなのであろう。カケラを持たぬ自身を痛ぶろうと集まった兵士と逃げ出す兵士、何という事だろう。
クオーは真っ赤に光ると数名の兵士を殴りつけて「止まれ!守るべき民達を見捨てるとは何事だ!」と声を張り「お前達は我が指揮下に入るんだ!今ここで私に殺されるか指揮下に入るか選べと言って兵士の抜刀した剣を風刃で細切れにする。
あまりにも脆弱な風刃。
非力な魔神の身体。
だがやるしかない。
破壊者としても民を守る立場の人間としてもやり切る事をクオーは決めていた。
「リユー…君の助けが欲しかった」
「ハイクイ、勝手にパートナーにしてしまって申し訳ないが君抜きはキツい」
そう呟くと心の中で不安が目覚め「アンピル、やはり君がいないと心細い」と呟いてしまい弱気の自分を恥じる。
兵士達は名も知らぬクオーに従うべきか悩んでいる中、クオーは「私は王国が一家門の一つ!ジン家のクオー・ジン!」と名乗るとどよめきが起きる。
「だが今は王国帝国関係なく人道支援を行う!指揮を失った兵達には我が指揮下に入って貰いたい!着いてきてくれ!私ならあの怪物を倒せる!」
クオーの言葉に尻込みする兵士達だったが1人…また1人…とクオーの後をついていくと30人の兵士がクオーに着いてきた。
「皆!感謝する!戦力把握をしたい!カケラ持ちの兵士は私と!カケラ無しの兵士は救護だ!仲間を集めて郊外に陣を敷け!そこで民達の治療に充てろ!他の仲間達にも指示を出せ!火事場泥棒の一つも見逃すな!」
これで18人が救護に向かうと次々に人が助け出されていく。
「すまない、カケラの予備はあるかな?」
この言葉に予備の黒豹の脚が出てきてクオーは「機動力が手に入った。感謝する」と喜びを口にする。
「奴はセーバット・ムーンの作ったカオス・フラグメント。素体には我が家族が使われた。カオス・フラグメントの対処法なら知っている。安心してくれ」
クオーは自身が前に出てカオス・フラグメントからカケラを剥ぎ取るからその度に拾って逃げてまた戻ってきてほしいと指示を出す。
「奴はカケラの集合体。カケラを奪えば弱体化する。基礎になるカケラがなんだかわからないがやるしかない。よろしく頼む!」
カオス・フラグメントの足が見えるところまでやってきた。
移動力はそこそこで戦闘時は早く動くがクオーなら追いつける。
「それでは行くぞ!カケラを飲まれないように気をつけてくれ!」
クオーは指示を出した後で「行くぞ!魔神の身体!黒豹の脚!」と言って駆け出すと兵士から借り受けた槍を鉄塊の芯棒に見立ててフルスイングをする。
カオス・フラグメントは悶え苦しみカケラはキラキラと宙を舞う。
「今だ!回収!」
この声で2人の兵士が回収に向かうとクオーは向きを変えて更にカオス・フラグメントを殴りつけてカケラを弾き飛ばす。
飛んだカケラは兵士の足元に落ちていきクオーは「狙い通りだ」と喜ぶ。
クオーの言葉通りカオス・フラグメントが縮んでいき嘘ではない事、そしてクオーの絶対的な強さに兵たちが沸く中二つの問題が起きた。
借り受けた槍が安物だったのか10回の攻撃で折れてしまい、魔神の身体も思った程の性能を発揮しない。
更なる下方修正が求められていた。
「槍が……誰か次の槍を!」
クオーがそう言った時。
アンピルの声で「く…クオー、痛いよ…、怖いよ」と聞こえてきた。
「アンピル!?」
クオーが動きを止めた時、アンピルはクオーを殴り飛ばしていた。
咄嗟に大亀の甲羅を発動していたので肉体への直撃はなかったがクオーは大きく殴り飛ばされてしまった。




