第50話 セーバットの狙い。
女を部屋に放り込んで200を数えたクオーは扉を開けてみる。
女は気絶から目は覚めていたが、今も蟻地獄の影響で身体を震わせて惚けている。
だが新たな問題は亡者のような連中の痛み苦しむ様は変わらないが「コロシテ」から「オマエモコロシテヤル」に変わっていて苦しみながら女を目指してガラスに大挙した為にガラスはヒビだらけになっていた。
普段のクオーなら痛くも痒くもない相手だが、「ちっ…、この魔神の身体は弱い。奪った風龍の暴風も非力…。どうしても時間がかかる」と漏らしてしまう。
そう、数回使ってみたがどれも自分が育てたカケラ達の足元にも及ばない非力なカケラで愕然としてしまう。
本来のクオーならあの場でセーバットを捕まえることも縊り殺す事も出来ていた。
だが先に進まねばアンピルが殺されてしまう。
クオーは「足りない分は私の命で補う!待っていろアンピル!」と言い、全身を赤く光らせるとクマムシの亡者の群れにとびかかるとタイミングよくガラスの割れる音と共にクマムシの亡者共がクオーと女に向かってくる。
女は状況を理解する前に亡者共の手で引き裂かれ噛み殺されていく。
だがクオーの方は1人また1人と殴っていくが胴体が引きちぎれようが首が折れようがクオーを目指し襲いかかってくる。
「ぬぅっ!?これが死ねない理由…舐めるな!動けなくするまでだ!破壊する!風刃!!」
クオーは身体にまとわりついてこようとする亡者達を一気に風刃で細切れにするとまだ動く手のひらや頭なんかを踏み潰して破壊する。
5分もすると動くものはなくなった血溜まりの中心にクオーは居た。
蟻地獄も蜘蛛の糸も話にならない薬物だが、このクマムシを王都に撒かれた場合には大量の王国民が死に至る。
クオーは悪魔の所業を行なうセーバットに更なる怒りを募らせて扉を開けると、そこには地獄が広がっていた。
クオーの目の前にはまたガラス張りの壁があった。
そこには5人の看護師とセーバット、そして立てられた手術台にうつ伏せに磔られるアンピルが居た。
クオーが「アンピル!!」と名を呼ぶとアンピルは意識があるのか「クオー!」とキチンと呼び返す。
「ふはは、早いねマーブルデーモン。見ていたよ。凄い。クマムシ達も半魔半人達も歯が立たないね」
セーバットは笑いながらアンピルの後ろから赤く染まった手で現れると、大鷲の目を見せてきて「アンピルくんにも君の活躍は見せてあげたよ」と言う。
何よりもクオーが激高したのはセーバットの手が赤い事。先程は赤くなかった手が赤い。
それはアンピルに傷を付けた事に他ならない。
「貴様!その手はなんだ!アンピルに何をした!」
「手術さ、私はお医者のセンセイだからね」
クオーは前に出ながらアンピルの名を呼び「アンピル!痛くないか!何をされている!?」と聞くがアンピルは「わかんない。痛くないんだ…。縛られてて見えないんだよ。怖いよクオー」と涙ながらに話す。
アンピルの涙を見たクオーは止まらなかった。全力でガラス張りの壁を殴り、一撃では割れ切らない壁に苛立ちながら風刃を放って粉々にしてしまう。
そのまま前に出ると信じられない事が起きる。
5人の看護師が全員大亀の甲羅を二つ持ちしていて10枚の防御壁を展開してきた。
クオーの力でも一度に破れて5枚で残り5枚が看護師達をきっちり守り、タチが悪いのが再展開までが異常に早い事だった。
セーバットはアンピルの背中から顔を出すと「おお、凄い。念の為に用意しておいて良かった。高い金を払って買った20個の大亀の甲羅。それを10個だから何とかなったよ!あ、彼女達は蟻地獄の改良型で強化しているから二個持ちも出来るんだよ!」と自慢気に言う。
セーバットは話しながらも手は止めない。
「セーバット!その手を止めろ!」
「手術は止めないよ」
クオーはその間も防御壁を殴りつけて風刃を出したりしているが軟弱なカケラでは破壊しきれないでいる。
クオーならば直接看護師に触れれば乗っ取る事も出来るのに強固な防御壁がそれを許さない。
「そろそろだな」と呟いたセーバットはまたアンピルの背中から顔を出すと「アンピルくんとお別れを言った方がいいよ!」と言う。
「貴様!その手を止めろ!殺す!殺してやる!」
クオーの攻撃で防いでいる看護師達は目や鼻から血を流しているがそれでも防御壁の展開は辞めない。
アンピルはずっとクオーの名を呼んで泣いている。
クオーの絶叫が部屋中に響く中、「ああ!何をしたかだったね!」と言って顔を出したセーバットはニコニコと「蟻地獄の性能実験は成功したよね!君達の島で使ったら根絶されちゃったけど前線は効果アリだったよ!」と話してまたアンピルの背中に何かをすると顔を出して「半魔半人の性能実験は捕虜とかいらない人間相手なら良かったけど君には勝てなかったね!」と続ける。
そのままアンピルに何かをするとまた顔を出して「クマムシの性能実験も同じだったのには驚いたよ!君ってクマムシが効くかなぁ?それは最後に試さなきゃね!」と言うと…。
「私はね、今は君とカオス・フラグメントに興味があってね。君も帝国でカオス・フラグメントを調べていたそうだね。アレさ、単純にカケラが一定数を超えてもなるみたいなんだよね。え?何で知ったかって?試したんだよ。帝都には重度の中毒者なら掃いて捨てるほどいるし、蟻地獄でも蜘蛛の糸でもあげるよって言うとホイホイ着いてくるんだ。私は優しいからちゃんとクスリをあげてから実験したからね!まあクスリでボロボロ死にかけの中年に弱いCランクばかり付けたからか弱い個体で小さいままで大きくならなかったし半魔半人にも勝てなかったけどね」
この段階でクオーの中には嫌な予感が生まれ、すぐに核心へと変わる。
セーバットはアンピルを見て「今度は若いけど希望の島で生き抜ける有能な保育士で…、厳選したカケラだから強いと思うんだ!」と言った。
「やめろ!セーバット!」
「あはは、これで完成だよアンピルくん。散々見たがってたお兄さんの活躍が見えるように大鷲の目を最後に入れたからね」
セーバットはそう言ってアンピルの体内に大鷲の目を入れると「じゃあ!後は見ておくから頑張ってね。君達もバイバイ」と言って部屋の奥に消えていく。
セーバットが消えても看護師達は防御壁を消さずにクオーの邪魔をする。
クオーの身体からは血が噴き出して居たがクオーは殴ることをやめなかった。
その時聞こえてきたアンピルの最後の言葉は「クオー…、ありがとう。怖くても最後までクオーが居てくれて良かったよ。俺…今はもう怖くないよ。俺がカオス・フラグメントになったらクオーが倒してね。後は皆にサヨナラを言っておいて」だった。
眩い光と共にカオス・フラグメントになったアンピルはその場で5人の看護師を襲い大亀の甲羅を奪い取る。
立ち上がった姿は高い天井の地下室よりも大きくてセーバットの屋敷は崩落した。
崩落の影響で襲われずに済んだクオーだったが瓦礫を粉々にして外に出ると帝都は地獄になっていた。




