第38話 撃破。
クオーは右往左往するだけで何も出来ずにいる。
試しにクオーはインニョンの横に立ってみたが見向きもされなかった。
「くそっ、機動力が欲しい」と言ってクオーは憎々しく唸っているとケーミーが「氷龍の吐息が来る!回避優先!」と言った時にはカオス・フラグメントの口からは氷柱が吐き出されて運悪く回避しきれなかったアンピルの背中に直撃をした。
直撃をして蹲ったアンピルは即死では無かったが動けるような状態にない。
マリクシがアンピルの回収に向かうが散々走り回っていて動きに精細はない。
「マズい!次弾がくる!」
ケーミーの声にアンピルに駆け寄ったのはマリア・チェービーで「お貸しなさい!」と言うとアンピルが拾っていた大亀の甲羅を手に取って防御壁を生み出す。
そして覆いかぶさるようにアンピルを守ると「貴方は若い、キチンと生きてこの国を正しく導くのです」と声をかけた後で「クオー様!私の生き様をご覧ください!」と言った。
この時マリア・チェービーは震えていなかった。
散々怖かったのに守るべき者が目の前にいた時、恐怖は無くなっていた。
だが最後まで目を見開く勇気はなかった。
目を閉じると目の前は赤に染まる。
きっと氷柱が自分の脆弱な防御壁を打ち破り直撃したのだろうと思った。
だが痛みはない。
そんな中「我が家族、アンピルを救おうとしてくれた心意気には感謝しかない。帝国の矜持も見せて貰った。だが不要!何故ならばこのクオー・ジンがここに居るからだ!」と聞こえてきて目を開けると目の前には防御壁を更に張ったクオーが仁王立ちをしていた。
氷柱はクオーの防御壁に阻まれていた。
驚きながら「クオー…様?」と言うマリアに呆れるようにクオーが「まったく無理をなさる」と返す。
そんなクオーにダムレイが「無理してんのはお前だバカ!なにインニョンから大亀の甲羅と黒豹の脚を奪って4個持ちなんてやってんだ!死ぬぞ!」と怒鳴りつける。
怒り顔のダムレイに「大丈夫。何とかなるよ」と微笑んだクオーだったがすぐに破壊者の顔に戻ると「ずっと悶々としていたからね。機動力が手に入った…これなら更にやれる」と言う。
「ハイクイ!一度降りて息を整えてくれ!マリクシ!君もだ!全員!これからは大漁だよ?頑張って拾ってくれ。私はコイツが動かなくなるまで破壊する」
クオーは黒豹の脚で駆け出すと加速した勢いすら乗せてカオス・フラグメントの前脚を鉄塊で殴りつけると砲弾のようにカケラが宙を舞う。
「壊せた!壊せる!破壊する!」
喜ぶクオーを見ながらインニョンから水をもらって飲むハイクイは「クオーってば嬉しそう」と喜び、インニョンも「ずっと怒ってたからね。さっきも横に居て怖かったよぉ」と相槌を打って笑う。
小さく速くなるカオス・フラグメントであったがクオーの敵ではない。
どんなに素早く動いても追いついてしまうクオーは止まる事なく攻撃を続けていく。
その姿は正に破壊者。紅白の魔神…マーブルデーモンだった。
それでもクオーは物足りなさを感じると途中でケーミーを抱き抱えながら走る。
「あわわわわ!?クオー!?」
「すまないねケーミー。助けて欲しいんだ」
クオーは器用に氷柱を回避して火炎攻撃を防御壁で防ぐ。
ケーミーは「助けって!?」と言いながら足先に氷柱が飛んでいく事に「ひゃっ!?こわっ!?」と言い、クオーが「アイツの身体はカケラだよね?こちらから無理矢理破壊してしまいたくてね。風刃を起こせるカケラはどこにあるか見て欲しいんだ」と答えた。
この間もダムレイは「馬鹿野郎!ケーミーが危ないだろう!」と怒鳴るがクオーはそれを無視して「私が風刃で奴をズタズタにしてしまおう」と言う。
「乗っとるの!?…あー…奴の額。そこに風龍の暴風があるよ。でもやれるの?」
「やれるさ、私は破壊者。破壊する事に余念はないよ」
ケーミーをダムレイに渡したクオーは「皆!今から大技に出る!飛び散るカオス・フラグメントがどうなるかわからない!身構えつつ回収を頼む!」と言って加速をした。
カオス・フラグメントに思考や感情があるとは思えなかった。
だが、確実にクオーから距離を取ろうとして逃げ出そうとしていた。
「逃がさん!」
飛びかかったクオーは「大蛇の束縛!!」と言ってカオス・フラグメントの巨体を押さえつける。
カオス・フラグメントは身の危険を察知したのかクオーに向かって攻撃を行う。
火炎攻撃も氷柱も大亀の甲羅で防げたが質量攻撃には敵わない。
「クオー!土龍の岩弾!岩が飛んでくるよ!」
この声で飛んでくる岩を見てクオーは「ケーミー、君は本当に博識だね。助かる!」と言って岩弾をフルスイングで打ち返すとダメージに悶えるカオス・フラグメントに肉薄し、額に手を伸ばして風刃を発動させた。
風刃はカオス・フラグメントの全身を駆け巡って粉々のバラバラにしたが弾け飛ばなかった。だがクオーは笑いながら「破壊する!」と言ってフルスイングでカオス・フラグメントを完全にバラバラにした。
舞い散るカケラがキラキラと幻想的な中、満足そうに一息ついたクオーはここで限界を迎えて倒れ込む。
「あれ…?ハイクイ…皆…後を頼むね。ごめん」
クオーはそう言って倒れた。




