第35話 大確変。
クオーが最後の希望にきて約2年。
蟻地獄の爪痕は残っているが復興は緩やかに始まり、蟻地獄が新規に入り込む事も無くなっていた。
代わりに本土の緩衝地帯では苦痛を恐れない帝国兵の登場と蟻地獄が蔓延してガタガタになった王国兵で戦局は不利になっていた。
そんな事は欲望の島には関係なく、今回の力場はスルーしようとゲーン探索団は決めていた。
それは最後の希望全体が復興が始まったばかりで蟻地獄の損害から逃れられて居ない事と、この場で悪目立ちをしても良いことはないのでズエイ・ゲーンも「無理はするな」と言っていた。
帝国側も損害は多いのだろう。
ここのところ前線基地に赴いても付近の魔物狩りだけで保育士狩りは出来ていない。
ここでクオーはリユーの兄だったからか風関係のカケラとの相性の良さを発揮していて風龍の吐息を受け取ってはあっという間に育てて納品していた。
代わりに火関係とはあまり相性が良くないのか苦戦していて火が得意なキロギーから「へへへ、俺にも得意な事があってよかった」と言われていた。
力場が生まれると一応クセみたいなもので、朝からボラヴェンは力場を探してしまう。
そして探しながら「本当に行かないの?」と言っていたりする。
ゲーン探索団は蟻地獄の件でカイから一定の信頼を得ていたので「黙認するけど調子には乗らないで」と言われていた。
なのでボラヴェンは何かというと保育士狩りに行くクオーを見たり力場の発生を追ったりしている。
「お前なぁ、見てて欲しくなっても困るからやめろって。休みなんだから休むんだ」
ダムレイがボラヴェンの頭を小突きながら注意をするとボラヴェンは「だって」と不満を口にしながら「あれ?なんか変だ」と言った。
「ボラヴェン?」
「力場…、真ん中の衝突地帯にある…。だって力場って毎回交互に生まれるのに…」
この話を聞いていたハイクイが「ダムレイ、なんか変だよそれ。旦那に言おうよ」と提案をしてダムレイも「そうだな…。ハク、頼めるか?」と返した。
ハイクイはわかったと言ってズエイの元に行くとズエイは顔色を変えて古参で力を失ったレギオンの親をしているマンニィ・パブークの所に赴いても衝突地帯に生まれた力場について聞くと「に…逃げるしかねぇ。レギオンが万全でも危ねえ」とマンニィ・パブークは言う。
「噂にあった大確変か?」
「ああ…、前は100年前…。50年前に何もなかったから与太話くらいに思ったがヤベェ…。ズエイ、お前も気に入った子飼いを抱えて島を離れろ」
青くなるマンニィ・パブークを見たハイクイが「旦那?大確変って何?」と聞くとズエイは「ハウスで話してやる。待ってろ」と言ってハイクイを止めると、マンニィ・パブークに「逃げるかは好きにすればいい。経営者連中には言っておく」と言ってマンニィ・パブークの元から帰る。
そして店に戻って若い連中に周りの店に使いを出してショーク・モー宛に「城に古い記述があるはずですが大確変が起きました。島の動向に注意してください」と手紙を書いて船を出した。
ハイクイとハウスに行くとズエイは「…良くない話だ」と言って人伝に聞いていた大確変の話をダムレイ達にした。
50年に一度審判があり、その時にあるものが一定数を超えると大確変が起きる。
大確変は島の中心に発生する。
その時はカケラが生まれるとかではなくもっと別の魔物のような何かが生まれるという。
「魔物のような?それは何ですか?」
「言い伝えだからわからないが、その速さは風の如く、力強さは津波の如くなんて言われてやがる。ボラヴェン見えるか?」
「ダメ。力場の光は見えるけど中身は見えない。徐々にあっちに行ってるから向かう先はこっちじゃないのがわかるけど…」
あっちと聞いてダムレイが「帝国側に?」と確認をするとズエイは「逃げる時間稼ぎにはなるな」と言った。
「逃げる?でも旦那、俺達はまだカケラが育ち切ってない」
「採算度外視だ。捨てていい」
あのズエイがそこまで言う相手にクオーは驚いているとハイクイが「そんで?生まれる条件とか知ってる事は?」と質問をする。
「名前はカオス・フラグメント。生まれたまま消えたり育ち切る前に捨てられたり、本土で朽ち果てたカケラが一定数になると奴は生まれる。棄てられたカケラの集合体と呼ばれてる。姿は言い伝えに残っていない」
「それってカケラの能力が使えるって事?」
「恐らくな」
「それが帝国側に行ったのなら俺達は…」
「ダメだ、恐らく次はこっちだ」
ハイクイの質問に答える形でポンポン言葉を返すズエイにダムレイが「旦那?」と声をかけるとズエイは「奴はカケラに惹かれる。多分帝国は前線基地に保育士でも集めてたんだろ?だから向こうに向かった。地理的に帝国の前線基地を滅ぼした後は王国の前線基地を滅ぼす。その後でカケラと保育士が多いのはここと向こう、どっちだ?」と言う。
容易に想像が付いたダムレイは「どうするんです?倒す方法は?」と聞くと「奴はカケラを取り込み続けて生きるがそれが無くなれば10日で自壊すると言われてる」と言う。
「つまりその間は島から離れれば…」
「目視不能な距離まで逃げてようやく…な」
話は早かった。
だからこそズエイはカケラを放棄して今のゲーン探索団と店の連中と逃げ出す算段をしていた。
だが、ここには大馬鹿者のクオー・ジンが居た。
ようやく口を開いたクオーが「ズエイ・ゲーン。話は理解しました。一つ気になりました。聞かせてください」と言うとズエイとダムレイは嫌な予感で背筋が凍った。
「言うな」
「聞くな」
「気にするな」
「荷物をまとめてクオーの家に帰ろうぜ、コイヌの墓参りに行くぞ」
立て続けにダムレイとズエイが言うのを見てハイクイが笑いながら「クオー、どうしたの?」と聞いてしまう。
「ハク!」
「ハイクイ!!」
頭を抑えるズエイとダムレイを無視してクオーはハイクイに「いや、気になったんだよ。カオス・フラグメントが帝国に損害を与える。次に王国の前線基地が危険な目に遭う。その後は最後の希望に来るんだよ」と言う。
「そうだね。旦那の話だとそうなるね」
「その間に帝国が逃げていて、王国側が壊滅してからすぐに島に戻ると王国は不利にならないかい?」
「…なるね」
「それどころかズエイ・ゲーンはわれわれを逃がしてくれるが逃げ場のない保育士達はどうなるんだい?」
「そりゃあカケラを捨てても船はないだろうし、育ち切ってないカケラを持っていたら最後の希望から出られないから死ぬんじゃない?」
ハイクイの言葉に「それは良くないよハイクイ。我が王国に大損害だ!」と言うクオー。
これにはサンバもマリクシも笑い、ウーコンやボラヴェンすら笑ってしまう。
クオーは真顔になると「ズエイ・ゲーン。カオス・フラグメントを倒したら報酬なんかは出ないのでしょうか?他の経営者達から出資を募るなど…」と持ちかける。
「……本気か?」
「はい。私は破壊者、見事にカオス・フラグメントを破壊して王国を救いましょう」
ズエイが考えている間にクオーはダムレイ達を見て「皆は安全な所に避難を…、確かにコイヌの墓参りは素敵だ、皆で行ってきてくれるとコイヌも喜ぶね。良かったらズオーが元気か見てきてくれるかい?」と微笑む。
「え?」
「クオー、1人、やる気?」
「うわぁ、マジで?」
「なんか2年も一緒にいるけどクオーって無茶苦茶だよね」
皆が呆れかえるなか、ハイクイは「俺もやるよクオーと言ってズエイに「旦那、皆の事はよろしくね。んでアイツっていつ動くの?」と聞く。
ハイクイまでやる気になってしまうとズエイにはどうする事も出来ず「…馬鹿野郎共が」と言うと「とりあえず今は微速前進だが半日もすれば嵐のように動き始めると聞いてる」と説明をした。
そんな時、帝国の早馬が最後の希望にやってくる。
ハウスの外から帝国兵が来たと聞こえたクオーは芯棒を持って外に飛び出す。
そして最後の希望の出入り口に駆けていき「帝国兵!」と言いながら殺気みなぎるクオーに白旗を揚げた帝国兵は「ウーティップ様とマリア様からクオー・ジンに書簡をお持ちした!」と言う。
受け取った書簡には「この度の力場は普通ではない、過去に島を壊滅に追い込んだカオス・フラグメントの恐れが高い。高貴な生まれとしてクオー・ジンを頼りたい。そちらの非戦闘員を島外に逃がしてほしい。帝国の名の下に時間稼ぎはする」「再会のお約束は叶いませんね。残念ですが私は父と共に人々が逃げ切るまで陣頭指揮を行います。未来をよろしくお願いします」と書かれていた。
ウーティップとマリアの言葉を読むとクオーは高揚した顔で「帝国兵の矜持を見せてもらった。だが王国兵は更に弱き者たちに命を尽くせる存在。帝国兵の力など借りぬ!」と言って手紙をズエイに渡し、「帝国に負けておられません。私はカオス・フラグメント討伐に向かいます!非戦闘員の保護をよろしくお願いします!」と言って帝国の伝令兵に「チェービー殿達の御英断には感服いたしたがこれよりクオー・ジンが王国の剣として参戦させていただく!英断は徒労に終わるであろう!」と伝えると歩き始めた。




