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悪夢
カムラは暗闇の中にいた。
「助けて……」
暗闇の中から掠れた女性の声がする。
声は徐々にこちらに近づいてくる。
「助けて……お兄ちゃん」
『おにいちゃん』この単語でカムラは妹のエリヤの声だと判断した。
「エリヤか?」
カムラが暗闇の向こうに聞き返したが返事は無く、ただ助けを求める声だけが近づいてくる。その声の出所にカムラは若干の違和感を覚えた。歩いてこちらに近づいて来ているにしては、妙に低い位置から声がしている。
確かめようと暗闇の中を進もうとするが、自分の意思に反して全く体が動かない。
「どうして……」
もう声は目の前まで来ていた。
「どうして助けてくれなかったの……お兄ちゃん」
やはり声は妹のエリヤだった。
涙をながし、苦悶の表情を浮かべながら助けを求める顔をしている。
その顔を骨壺を持つように首の無い胴体が抱えていた。流れている涙は血の色に変わり、胴体側の首の切断部分からゴボゴボと血が溢れ出す。溢れ出した血が暗闇に散らばり暗闇を真っ赤に染め上げていく。
それはやがて暗闇だけでなく、カムラまでも飲み込んでいった。