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アコニツムの紫色  作者: ネクタイ
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第3章 中毒死

祖母は何故殺されたのか。


山から帰ってくると僕はずっとその事を考えていた。リンと別れ、一人になってからずっと。

そして彼女が言った言葉。名乗る前に知っていた僕の名前。


カチッ。


頭の中で何かがハマる音がする。

それは、気付いてはいけない気持ち。


「あぁ、そういうことかぁ・・・。」


ニタァと口角が上がる。

とたんに僕は幸せな気持ちになって、彼女からのラインに目を通した。

なんてことのない文章。ただそれだけなのに嬉しくて。


「みぃつけた。」


まるで恋するように、うっとりとして納屋に向かった。

ガラガラ。

祖母から譲り受けた工具が所狭しと置いてある中に、目当てのものが見つかる。

「おばあちゃん。僕が跡継ぎだよね?」

鉄の塊は何も答えない。僕はそれにうふふと答えてクルクルと振り回した。

部屋に持ち帰るとそのままパソコンを開く。


『アコニツム 中毒死』


知りたいデータは案外簡単に国の機関が提供している情報で分かった。アコニツムは明日の夜獲りにいこう。そう決めて緩む頬を抑えながらベッドに横になった。



夕方過ぎに出かける息子に両親は何も言わない。

あの日、後継ぎがあの少女になったあの日から、両親は僕に対して何かを求めることも何かをすることも無くなった。時折、怯えたような目をするだけで、僕もそれに対して何も言わなかった。

「母さん。」

「どうしたの?カンジ。」

「おばあちゃんの家ってまだあるよね?」

「・・・なんで今更。」

青ざめた顔で答える母親に、僕は満足して頷く。

「いいよ、母さんは知らなくて。」

「カンジ、お前・・・。」

「父さんも、大丈夫。僕は恋しただけだよ。」

二人が黙る。僕はこの気持ちが恋だと信じて疑わなかった。こんなふうに誰かを好きになるなんて初めてだったから、ずっと抱えてきた気持ちがようやく分かってとにかく嬉しかったのだ。

「行ってきます。」

俯いたまま黙る二人をリビングに残し、僕は重たいリュックを軽々と背負うと家を出た。



山は誰でも迎えてくれる。

夜間の登頂禁止という看板を無視して、〇〇山をサクサクと登る。8合目まで一気に登ると、僕は足を止めた。


目の前の暗闇に広がるアコニツムの群生。


それは想像するしかないが、小さなライトで照らされている範囲には確かにあの紫があった。

僕は手袋をつけると慎重に摘み始めた。



数時間作業したのち下山した。登山口で鞄からスマホを取り出し、リンに電話をかける。彼女が電話に出て何か言う前に僕は言った。


「会いたい。」

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