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アコニツムの紫色  作者: ネクタイ
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第1章 少年はその花を美しいと思った

「いいかい、この花・・・アコニツムにだけは触れてはいけないよ。これは山の掟だ。掟を破ればお前にとってとても苦しいことが待ってるからね。」

いつもは優しい祖母が珍しく厳しい表情で言った。幼い僕は、頷きもせずその花の紫色に魅了されていた。芯のある美しい姿。花の形が何かに似ているかもしれないが、僕にはわからない。そんな僕を見て祖母は、まぁこの子なら大丈夫だろうといつも通り優しい笑みを浮かべた。どこか心配そうに見つめる祖母の視線に気づいて振り返ると、掟は命にかかわるの?と子供らしさの欠片もない質問をした。

「あぁ、そうさ。ひどければ死んでしまう。だからね、絶対アコニツムには触れてはいけないんだ。」

「ふぅん・・・。」

「山に入らなければ知らなくてもいい事なんだがね。」

「僕は山と共に育ったからね。」

「そう、山を守っていくお前にこそ教えなければいけない。」

ふふ、と2人して笑う。祖母はしわくちゃの手で僕の頭を撫でながら、お前は良い跡継ぎだと嬉しそうに笑った。



その祖母は、その2週間後に急死した。

親族が祖母の住んでいた本家に集まる。子供はいない。両親もいつもは見せない険しい表情をしていた。声をかけると、お前はおばあちゃんの傍にいなさいと言われてしまって、白い布がかけられた冷たい祖母の横に正座をして座った。胡坐でもよかったかもしれない。ただなんとなく正座をしなければいけないそんな気がした。

「おばあちゃん・・・。」

祖母は何も答えない。その時廊下からひそひそと話す言葉が聞こえた。

「ニリ・・・と間違えて・・・を食べてしまったそうよ。・・・と・・・がいなくて・・・だったから発見も・・・警察は事故だって・・・ンソウが台所に・・・あって。」

その会話の内容は分からなかったが、祖母が2週間前に僕に話した話を思い出した。

「アコニツムにだけは触れてはいけないよ。」

ふと、口からこぼれる。廊下にいた人物がぱたぱたと大きな足音を立てて走っていくのが分かった。

「ちゃんとここにいたか。坊主、大広間に来い。親族全員に話がある。」

「はい。」

伯父に言われ、ゆっくりと立ち上がると、大広間まで歩く。既に揃っていたようで、両親も中心で座っていた。だが、どこか顔色が悪い。僕の心配を他所に伯父は両手を広げながら上座に立った。

「皆も分かっているだろうが、本家頭首亡き今、次期頭首を決めなければいけない。」

皆が俯く。誰も頷く者はいない。

「次期頭首は前頭首の推薦で決まるが、今回は分かっている通り事故死だ。この場合は掟により血縁関係の濃いもの、もしくは素質のあると認められたもの。この二つの条件を満たす・・・。」

すっと、さっきまではいなかった少女が立つ。

「私が次期頭首を務めます。才能は・・・。」

突然のことに少女の話も入ってこない。祖母は、おばあちゃんは僕が跡継ぎだと言った。何かの間違いだと両親の方を見る。目が合うとばつが悪そうに目を逸らした。その横で伯父が勝ち誇ったように笑う。親族は誰も何も言わずに少女のスピーチが終わると機械的に拍手をした。



その後、僕は山を離れ遠方の地へ両親とともに飛ばされた。

アスファルトとコンクリートで出来た山にはまた新しい掟が出来た。


大人になり、祖母とのことも忘れ始めた頃、僕は素敵な女性と出会う。

それは本屋で登山客向け雑誌を読んでいた時だった。


「ねぇ、君。登山に興味があるの?」

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