98 主力の四人
南方の空白地帯では一番大きな町、セドルド。交通や物流の要衝であると同時に、一帯の町村のまとめ役でもある。
独自に自警団も組織しているけど、町や輸送品を守るだけで精一杯のようだ。
コーネルキアからセドルドへは、これまで何度も部隊が派遣されている。その度に騎士達が周辺の野良神を討伐してきたおかげで、町はどうにか今も機能を維持できてるみたい。
セドルドから少し離れた場所で、キルテナは竜から人型に。いきなりドラゴンで行っちゃうと怖がらせることになるからね。
まだ町まで二キロくらいあるけど、走ればすぐだ。
先頭を駆けていた私。ふと足を止める。
どうやら監視がついたらしい。
距離を取って体長八メートルほどの熊が私達を見つめていた。
南方域二大勢力の一つは兎の神獣達。そして、もう片方は熊神の一団だ。
あの熊の野良神はきっと団の偵察係だね。
もしかしたらセドルドの周囲には、あんな斥候が多数配置されているのかも。いい物が運搬されてたらいただいちゃおうと。
「小さい熊ね。お姉ちゃんに任せて!」
「いいや、私がやる! あの小さい熊に格の違いを見せてやろう!」
セファリスとキルテナが我先に駆け出そうと、お互いを引っ張り合う。
一応もう一度言っておくと、熊神の体長は八メートル。普通の熊に比べれば相当大きい。
セファリスは巨大な敵と戦いすぎて感覚が麻痺してるし、キルテナは本体が体長四十メートルなので、小さく見えるのも仕方ない。
足の引っ張り合いをする二人の前に、ロサルカさんがスーッと歩み出た。
熊に向けて強めのマナを放つ。
弾かれたように斥候の野良神は逃げていった。
「ロサルカさん、そんなことしちゃうと……」
「よろしいではありませんか。早く片付きますよ」
これがどんな事態を招くのか、少し先の未来が見えるみたいだった。
とりあえず町に入り、自治組織に顔を出すことに。
私達四人を見るや、自治会長さんは凍りついた。
「あ、あの……、今日はいよいよ、主力の討伐部隊が来てくれると、聞いていたのですが……」
「はい、私達がそうです。こちらはアルゼオン王からの親書です、どうぞ」
自治会長のケイアンさんは、痩せ気味の中年男性。
やっぱり食糧が足りてないのかな。いっぱい持ってきてよかった。
だけど案の定、このメンバーでは不安にさせてしまったらしい。
マナを使えない普通の人達には、上品なお姉さんとただの子供三人にしか見えない。主力の討伐部隊より、学校の先生と生徒って言われた方が納得いくに違いなかった。
うーん、どうやったら分かってもらえるかな。
さっきのロサルカさんみたいにマナで威嚇する手もあるんだけど、それはやり過ぎな気もするし。
と思っていると、ケイアンさんが隣のお婆さんに。
「国王様も四人がそうだと仰っているんだが……、団長はどう思うかね?」
あ、このお婆さん、自警団の団長さんなんだ。
道理で結構マナを持っていると……、あれ? 大丈夫かな?
自警団団長は私達を見つめたまま、小刻みに震えていた。
「……化け物じゃ」
「え……?」
耳を疑うように聞き返す自治会長。
「わしごときではその実力は計れんが、少なくとも、いつも来てくれる騎士達より遥かに上じゃということは分かる……。全員、化け物じゃ……」
お婆さんはジリッジリッとケイアンさんに詰め寄る。
その迫力に圧されるように彼は後ずさった。
「コーネルキアは間違いなく主力を送ってくれた! 失礼を謝らんか! こんのバカ者が!」
「ひい! ご! ごめんなさい! ママ!」
「わしにじゃない! そちらの方々に! じゃ!」
「はいっ! 皆さん! どうもすみませんでしたーっ!」
あ、会長さんと団長さん、親子だったんですね。
お気になさらず。
とその時、慌てた様子で男性が部屋に飛びこんできた。
「た! 大変です! 熊神の大群がこちらに……!」
これを聞いたロサルカさんがニヤーと笑った。
こちらこそ謝らないと。
それ、うちの暗黒お姉さんの仕業です。
アクセス数が見たことのない数字に……。
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