97 母からの手紙
私とセファリス、ロサルカさんはキルテナに乗って王都を飛び立った。
雲を切り裂き、大空を悠然と泳ぐ。
これならすぐに目的地に着きそう。向こうでの段取りはもう決めてある。
気になるのはこれなんだよね。
ポケットから一通の手紙を取り出した。
数日前にお母さんから届いたものだ。
それを見たセファリスが竜の上をテテテと走ってくる。
落っこちないように注意してよ、お姉ちゃん。
「私にもお母さんから来たわよ。なんとお姉ちゃん、高貴なる貴族の血が流れてるんだって」
うん、滅亡した王国の、貴族の血がね。
聞いていたロサルカさんが不敵な笑みを。
「貴族なんてそれほど有難がるものでもありませんよ。くだらない人間も沢山いますし。そういった制度がなく、実力社会のコーネルキアを私はとても気に入っています」
「ロサルカさんも貴族の出なんですか?」
「あら、私がどうやって闇属性を獲得したか、ご興味が?」
「……やっぱり答えなくていいです」
人の闇に触れるのは遠慮しておこう。
どうも私の家も貴族だったみたいなんだけど、手紙ではその辺は言葉を濁してあった。確かに有難がるものでもないし、割とどうでもいいことではある。たぶんうちはすごく没落していて、恥ずかしくて私には言えない、とかでしょ。
リズテレス姫が言っていた。総じて母親とは娘に対して気位が高いものである、と。総じてではないと思うけど、我が家には当てはまりそう。
それより気になるのは、ルシェリスさんという兎の神獣だ。
「私の方にも書かれていたわ。なんとセファリスのリスは、その神獣の名前からもらったものなんだって」
「命の大恩人(神)らしいからね」
実は姫様からも事前に聞いていた。
二つの群れの内、兎の方は戦闘を回避できるかもしれない、と。私達の判断に任せるとのことだ。
戦わないで済むならそれに越したことはない。
お母さん達の大恩人(神)だとしたらなおさらね。
ただ、分からないのは、お母さんがどうやって神獣と話をしたのかだよ。相手は人型でもなかったようだし。
手紙だとそこも曖昧だった。
……お母さん、自分の言いたくないことは徹底的に避けてる。
マナで互いの思考を読み合えても、会話するようにはいかない。
そもそも、お母さんのマナはすごく微小だしね。
あれじゃ〈ファイアボール〉もちゃんと撃てるか怪しいもんだよ。
とにかく、神獣と話なんてできるわけない。
手紙をしまい、雲の海原に目をやった。
私、こんなに高い所を飛んだの初めてだ。
あれ? 空を飛ぶの自体が初めてだっけ?
『相変わらずおっとりだな、トレミナは。その気になればもっと高く飛べるぞ』
『この高度で充分だよ。これ以上は纏うマナを増やさなきゃいけないし』
『ん?』
『ん?』
『…………』
『…………』
『わあ! どうして会話できてるんだよ! 何だこれ!』
『何だろうね、心に直接流れこんでくる』
まるで私とキルテナの精神がつながったみたい。
『セファリスや暗黒姉ちゃんとは……、無理だな。トレミナ限定らしい』
そうだと思う。
これ、私の精神領域を拡張してるんだ。私の心から手を伸ばしてる感じ。
こんなやり方があったとは知らなかった。
お母さん、私にもできたよ。
この力ってトレイミー家の血筋によるものでしょ?
いくら私がおっとりしていても、それくらいは分かるよ。
まったくもう。
母の大切な秘密は大体バレてました。
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