95 [イルミナ] 私の魔法
イルミナはトレミナのお母さんです。念のため。
これに先立ってイルミナが主人公の短編、
『婚約破棄された没落貴族の私が、元婚約者にざまぁみろと言って、王国滅亡の危機を逃れ、ごくありふれた幸せを手に入れるまで。』
を投稿しました。
トレミナのルーツ、才能の秘密も明らかに。
今後の展開にもつながっており、
本編に組みこむことになりそうです。
お読みいただくのはこの95話の前でも後でも大丈夫かと。
よろしくお願いします。
評価もつけていただけると有難いです。
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村の銀行からの帰り道、通帳を見ながら思わずため息が。
また送金の額が増えてる……。
今月はとうとう一千万ノア超えてるじゃない。
近頃、娘のトレミナが毎月毎月多額の現金を振りこんでくる。
あの子は物欲がない。使い道が思い浮かばないから私達に使ってもらおうってことなんだろうけど……。
親としては非常に複雑な心境だ。
なんせうちの娘は今月でやっと十二歳になるところ。
どうしてあんな子に育ってしまったのか。
いえ、原因なら分かっている。そろそろ話しておくべきかもしれない。
トレイミー家のことを。そう、私には娘に隠している秘密がある。
……これだけのお金、十数年前の私なら狂喜乱舞したわね、きっと。
田舎道を歩いて自宅まで戻ってくると、お隣の軒先に馴染みの顔が。
「イルミナ、うかない表情ね。普通は喜ぶところでしょ。昔はお金が大好きだったじゃないの、あなた」
彼女はセファシア。花のように愛らしい容姿の持ち主で、三十歳を超えた今でも十代で通りそうな私の幼なじみだ。
夕涼み中の彼女の横に私も座った。
「お金が大好きだったんじゃなくて、お金がなかっただけよ。トレミナに一族のことを話すべきか悩んでいてね」
「話せばいいじゃない。悩む必要なんてないわ。あの子なら、そうなんだ、で終わりよ」
「それは分かってるわ。問題は、当家が超没落貴族だった、ってことよ」
「ああ、そっちね……」
「そっちなのよ……。恥ずかしくてとても言えない……」
一つ話すと、連鎖的に言いたくないことがどんどん出てくる。
トレンソが元使用人で、私はその体を狙っていたこととか。
私は滅亡する祖国を見捨て、全力で逃げたこととか。
ああ……、私の過去は恥の貯蔵庫。
だけど、話さないわけにはいかない。
トレミナの才能は間違いなくトレイミー家由来のものだから。
頭を抱えていると、セファシアが家から冷たいお茶を持ってきてくれた。
「ありがと。…………、はぁ、生き返るー」
「トレミナちゃんのおかげで今年の夏は、全村民が冷たいお茶を飲めているわ」
あの子が村中に配った冷却箱は、夏が近付くにつれて誰もがそのありがたみを実感することになった。
セファシアもお茶を一口飲み、「いい子じゃない」と。
「それに才能が凄まじいわ。全強化技能を作るなんて。今や導師でしょ」
「おたくのセファリスだって。あの歳でナンバーズなんてすごいわよ」
しばらく二人で顔を見合わせる。
「どうして私からあんな子が生まれたのか……。この前、帰ってきた時に言われたのよ。お母さんも少しだけどマナが使えるのね、って。私の若かりし頃の修行は何だったの? て感じよ」
あら、今度はセファシアが頭を抱えてしまった。
気持ちは分かるけどね。
私達の祖国では、彼女の家は実力派で通っていた。実際、セファシアも幼少から訓練を重ねてきたし、その辺の魔女に劣らない力を備えてる。
おかしいのはこの国の騎士達よ。
世間一般で言うところの達人がごろごろいる。
ナンバーズになるともう化け物だわ。そもそもになるけど、人間が守護神獣と戦うこと自体、常識から外れてる。
いずれ本当にこの国から誕生するかもしれないわね。
最高位の神獣を倒せる人間、剣神が。
まあ、私みたいなマナ使いには関係の……。
そ、そうだった!
トレミナに知られたくない私の秘密、第一位はあれだ!
「大分暗くなってきたわね。イルミナ、あれ使ってよ」
「あ、うん、いいわよ」
リクエストに応えて私は手をスッと前に。
「火霊よ、私の敵を撃ち抜け。〈ファイアボール〉」
ポッ。
目の前にはろうそくより少し大きい火の玉が浮かんでいた。
これが、私が唯一使える魔法、飛ばない〈ファイアボール〉。(極小)
トレミナには絶対に知られたくない!
それならまだマナを使えない普通の人間って思われてた方がマシ!
するとセファシアが。
「いいわよね、イルミナは。マナが微小すぎて普通の人間とほとんど見分けつかないんだもの」
ええ、それが不幸中の幸いだわ。
イルミナが主人公の短編
『婚約破棄された没落貴族の私が、元婚約者にざまぁみろと言って、王国滅亡の危機を逃れ、ごくありふれた幸せを手に入れるまで。』
よろしければお読みください。
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