93 庭でバーベキュー
夏になると町では庭でバーベキューをして楽しむのが一般的らしい。
なので、我が家でもやってみることに。といっても火炎板コンロを外に移動させただけなんだけど。
それでも、セファリスはこういうイベントごとが大好きだし、キルテナもいつもより多く肉を食べられるとあって、二人共大はしゃぎだ。
はしゃいでばかりいないで、どっちか手伝ってよ。まあ、今更か。
下準備は済ませてあるので、とりあえず焼いていこう。
肉は冷凍してあった稀少肉を。
それにソーセージや野菜類なんかも網の上に並べていく。
ジュ――――……。
香ばしい匂いが庭に漂う。
実は今日のバーベキューはただのレジャーじゃない。
南方遠征の打ち合わせも兼ねているよ。
行くのは私とセファリス、と必然的にキルテナ。あと一人、ナンバーズが加わる予定なんだけど、まだ知らされていなかった。
今日うちに来てくれるって話だったんだよね。
誰なのかは大体予想がついたし、その通りでもあった……。
「トレミナ、もう食べていい?」
「まだですよ、チェルシャさん。どう見ても生でしょ」
チェルシャさんがフォーク片手に肉を凝視していた。
「私は生でも問題ない。いっただきまーす!」
キルテナが伸ばした手を、チェルシャさんはフォークでブスリ。
「問題大あり、だ。お前もここで焼かれたいのか」
すごい、戦闘時以上の殺気だ。バーベキューは仲良くね。
はい、焼けましたよ、どうぞ。
殺気を収めた光の美少女が一口。
「ソースが爽やかで美味しい。これ、マーマレード?」
「はい、マーマレードと醤油がベースです」
「トレミナ、よくこのソース使うわよね。私これ大好きよ!」
お姉ちゃんが大好きだからよく使うんだよ。
バーベキューソースとしても結構ピッタリくるね。
あ、皆、肉ばかりじゃなく野菜も食べてくれないと。
ねえ、キルテナ?
「た、食べてるぞ! 焼きジャガイモうまいなー!」
それはよかった。本当にキルテナはジャガイモ好きなんだから。
じゃあそろそろあれを出そうかな。
稀少肉で作った自家製ベーコン。
厚切りを両面に網目がつくまで焼いて、パンに挟んで食べてね。
「これも美味しい。マーマレード、じゃなくて、マスタードほしいかも」
ちゃんと用意してあるよ、チェルシャさん。
さて、肉もベーコンもなくなりそうだし、本題の打ち合わせを……。
と思っていると、チェルシャさんがフォークを置き、
「肉もベーコンもなくなったし、私は帰る」
くるりと回れ右。
「待ってください。打ち合わせはどうするんですか?」
「打ち合わせ? ああ、南行きのやつか。あれは私じゃない」
「え、ならどうしてここに?」
「道を歩いてたらバーベキューの匂いがしたから、遠慮なくおよばれに来た」
……えー、お呼びしてません。遠慮してくださいよ。
うちのキルテナがしょっちゅうグルメツアーに連れて行ってもらってるから、別にいいですけど。
ん? うちのキルテナ?
まあいいか。
でもだったら、あと一人はいったい……、ああ、分かった。
黒いオーラが我が家に近付いてくる。
今回は光じゃなくて闇の騎士だったみたい。
門扉を開けてその人物は庭の中へ。
「お待たせして申し訳ありません。おみやげを用意していたら遅くなりました」
「おみやげなんてよかったのに。ただ食べにきただけの人もいるんですから」
ロサルカさん、お気遣いすみませんね。
それで何を持ってきてくださったんですか?
「バーベキューと伺っていたので、稀少肉を持参いたしました」
あれ? チェルシャさん、帰るのでは?
庭でバーベキュー……、
私は室内フライパンで大丈夫です。
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