92 張り切る
見晴らしのいいお城中階のテラスにて。お茶会はまだ続いていた。
目の前にはリズテレス姫に代わってユラーナ姫が。
彼女の口は止まることを知らない。
「だからね、キオとしては自分が生きている内に、リズが国のどこかに転生してくれたら、って考えてたわけよ。それがまさかの孫でしょ。血のつながりはないとはいえ、心情は複雑なの。まあ、想いが強すぎたのね。私からすれば重すぎる想いよ。どんだけ一途だって話」
「それでキオゴード様は今どちらに?」
「今は東の方にいるみたい。五竜クラスの神獣なんてそう簡単に味方にはなってくれないから、大分てこずってるようだわ。キオもキオで昔を思い出して世界旅行を満喫してるようだけど」
「やっとリズテレス姫に会えたのにですか?」
「そこが複雑なのよ。リズの成長する姿を見るのは耐えられないってこと」
キオゴード様はコーネルキアの建国者で、享護さんの転生した姿だ。
現在は傷心旅行の最中らしい。
私達の国が、一人の女性を待つために創られたという衝撃の事実。
でも、元々ここに住んでいた人達がそれで助かったのも事実だし、やっぱり感謝すべきなんだろうと思う。むしろ国創りの動機としてはすごく純粋で、少し微笑ましくもある。
それにしてもキオゴード様、……気の毒だな。
すると、私の思念を読んだユラーナ姫が「そんなに気の毒じゃないわよ」と。
彼女もここ数年マナの修行をしているらしく、実力は八百位台の騎士達と同じくらい。八歳という年齢を考えれば驚くべきことだ。
王妃様は実の娘が化け物と知るまでは、養子のユラーナ姫を天才児だと思っていたんだって。
ちなみに、フローテレス王妃が転生者達のことを知ったのは、あの第一回授与式の後で、ショックで寝込んじゃったみたい。
王妃様も気の毒だ……。
「王妃様はね……。ほんとリズは……。キオの方はそうでもないから。年齢の差が空くのは分かってたし、リズとどうしたいってことも思ってなかったのよ。結局、今が願った通りの形ってわけ。だから、大戦は絶対に乗り越えなきゃね」
そう言ってユラーナ姫は席を立った。
「話はここまでね。次は『何の因果で私が孤児に!』を聞かせてあげるわ」
入口からリズテレス姫が荷物を抱えて歩いてくる。
「ユラ、余計なことは……、話したわね、絶対」
「いいじゃない。彼女はうちの国家顧問なんだし。じゃあね、トレミナさん」
手を振りながらユラーナ姫は去り、入れ替わりでリズテレス姫が席についた。
「待たせたわね。これが南方の資料よ」
姫様がテーブルに広げた地図を私も覗きこむ。
それから、傍らの文書を手に取ってパラパラと。
「かなり詳細に調べてありますね」
「なるべく近いうちに、と思っていたから。早く南の人達を助けてあげたいし」
コーネルキアの南側は、まだ野良神達が跋扈する無法地帯のまま。そこに先鋒隊として遠征し、力のある神獣を討伐するのが私の任務だ。
今はドラグセンの動きも抑えられているので、この隙に領土を拡大しようということだね。
意外かもしれないけど、私は今回の任務に乗り気なんだよ。
かつてノサコット村がそうしてもらったように、今度は私が危険な地域で暮らす人達を助けにいく。
私は今までにないほど張り切っている。
きっとこれが張り切るというやつだ。たぶん。
150万PVになりそうです。
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