91 いわゆる国家顧問
夏も盛りに近付きつつある。大陸の北にあるコーネルキアでも結構な暑さだ。
おっとりしている私は汗なんてかかないって思われがちだけど、そんなことはない。私だって人間なので汗はかく。
ただ、錬気法の習得者はマナをコントロールすることで、ある程度は発汗を抑えられる。平常心が崩れると難しいけどね。
それ以前に、暑さ対策としてはマナを纏えばガードできる。
私の〈常〉なら気温の変化はほとんど受けないよ。
ゴワゴワのローブを着るのにも慣れてきた。
そういえば、今日も導師としてあれを着る日だ。
〈トレミナゲイン〉の伝授も順調に進み、隊長クラスへの配布は終わった。今日は確か、ランキング五百位台の人達だね。
ジル先生も忙しい中でしっかりこなしているし、私も導師として頑張らないと。
……そもそも、導師って何だろう?
あ、お城に行く前に銀行に寄らなきゃ。お給料の確認をするよ。
銀行にて、通帳を見ながら私は首を傾げていた。
すごく増えてる。
元々、ナンバー5になってから月給は格段に上がった。
先月の給料は二千百七十八万ノア。それが今月は四千六百五十一万ノアに。
どうして倍増してるの?
「あなた、私の給料を超えましたよ」
いつの間にか、背後からジル先生が通帳を覗きこんでいた。
「勝手に見ないでください」
「見なくても知っていましたけどね。私は事務方のトップでもありますから」
ああ、そっか。
「お詫びに私のも見せてあげますよ、ほら」
「どうも。先生も四千万以上あるじゃないですか。……すごく貯めこんでますね」
「当然です。ドラグセンに勝利した暁には、引退して貯金で悠々自適の生活を送る予定ですので」
「もう再来年ですよね。引退、早すぎませんか……」
でも、先生が今、頑張れている理由は分かった気がする。
ゴールが見えてるからだ。それも戦争に勝ってこそだけど。いや、敗けても先生なら一人で国外脱出できるか。
すると、私の思考を読んだジル先生の眼が光った。
「見くびらないでください。仮にコーネルキアが敗戦国になることがあったとしても、その時には、私はすでにこの世を去っています」
「失礼しました。私にはそこまでの覚悟はありません」
「あるでしょう。自分が村のために死のうとしたこと、忘れたんですか?」
「そうでした、覚悟ありました」
「……おっとりしてますね。こんな心配しなくても、我が国はきっと勝利しますよ。〈トレミナゲイン〉のおかげで勝算は高まりました。さあ、今日も行きましょう」
歩き始めたジル先生だが、「その前に」と立ち止まって振り返る。
「先にお昼を食べましょう。ごちそうしてあげますよ。トレミナさんの好きなコロッケでいいですね」
ジル先生とのご飯はいつも決まってコロッケだ。私からこれを指定したことは一度もない。
コロッケ、間違いなく私より先生の方が好きですよね?
引退後の生活ですが、案外安く上がりそうじゃないですか?
「ところで、私のお給料、どうしてこんなに上がったんですか?」
「それは姫様に訊いてみなさい」
というわけで、授与式後にお城のテラスでリズテレス姫とお茶をすることに。
彼女は紅茶を一口含んでから、いつもの微笑みを浮かべた。
「導師としての給与が加算されたからよ」
「導師って単なる称号かと。どういう役職なんですか?」
「名前の通りよ。この国を導く者、ということ。全強化技能を提供してくれたトレミナさんにピッタリでしょ? いわゆる国家顧問ね」
「国家顧問……」
何だか大変なものに就いてしまった気がする。
あまり深く考えるのはよそう。それより今は目の前のことだ。私には大事なイベントが待っている。
ライさんに訓練をお願いしたのもそのためなんだよね、実は。
彼は私の意図を汲んで、色んな獣のオーラを纏って何度も相手をしてくれた。
「自信がついたようね。ライさんには感謝しなきゃ」
「はい、いけると思います」
いよいよナンバーズとしての初任務だ。
いわゆる新展開です。
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