89 下剋上の危機
〈トレミナゲイン〉の配布は日を空けて行われる。
一回につき百人の騎士が伝授される。コーネルキア騎士団は三千人以上いるので数か月は要する見通しだ。何とか年内には終わるだろうか。
導師としての仕事が追加され、私は一層忙しくなった。
だけど、それ以上に多忙を極めているのがジル先生。授与式への参加に、騎士達のシフト調整と、もう目が回るほど。
教師の仕事をやっている余裕はなくなった。
先生、本当に一人で全部担ってるんだな。
私も訓練の相手をお願いしたいけど、とても無理そうだ。
というわけで、騎士団の実質ナンバー2の人に頼むことにした。
「申し出を受けていただき、ありがとうございます。ライさん」
「いいよ、ハンバーガーではお世話になったし、僕もトレミナさんと一度戦ってみたかったから」
不動のナンバー10、ライさんと闘技場にやってきたよ。
ちなみに、セファリスとキルテナも一緒ね。
「でも、どうして普段着のままで武器もなしなんですか?」
私とお姉ちゃんはしっかりフル装備だ。
「気を悪くしないでね。今の君ならまだ必要ないから。けど、これだとそっちがやりづらいだろうから、そうだな……」
と彼はその綺麗な顔をキルテナに向けた。
ライさんの体から溢れたマナが竜の形へと変化していく。
「あれって、あんたの〈竜闘武装〉じゃない?」
「私のは神の技だぞ。そう簡単に真似できるものか。私のは飛べるし、竜の方の口からブレスも出せる」
セファリスとキルテナがそんな話をしていると、ライさんはドラゴンの翼で宙へと舞い上がった。さらに、
「火霊よ、竜の口から継続して発射。〈ファイアボール〉」
竜の方の口から火球を放つ。
ドーンッ!
ドラゴン少女の前の地面が吹き飛んだ。
「飛んだし、ブレスも出したわよ」
「……そんな、神の技が簡単に」
「違うよ、あれだとライさんは四属性のブレスを出せることになる。キルテナは雷だけでしょ」
「え……」
「ライさんの方が神の技より上ってこと」
悪いことを言ってしまったかもしれない。キルテナが放心状態に。
ただ、あの技はそれほど簡単じゃないと思う。
きっと色んな高等技術が詰まってる。
竜の翼は浮遊状態と巧みなコントロールを維持し続けてるよね。〈ファイアボール〉もずっと発動してる状態で、詠唱なしで何発でも撃てるんだろう。
即席で作ってこの完成度。
ライさん、やっぱりただ者じゃない。
間違いなく騎士団の実質ナンバー2だ。
「僕が使うのはこの竜のオーラと火のブレスだけだよ。トレミナさんは装備も含めて全力で来てくれていいから。でも〈トレミナボールⅡ〉は止めるの面倒だからやめてほしいかな」
面倒だけど止められるんですね。
装備も含めて全力で、ということは……、あ、これはどうしよう。
腰から抜いたリボルバーを見つめる。
五属性弾、一発十万ノア以上するんだよね。
「使いなよ。練習しておかないといざって時に困るでしょ。それに、銃弾もトレミナさんの給料なら月百発以上は買えるはず」
確かに、結構もらってはいる。よし、一発でジャガイモ何百個買えるか分からないけど、思い切って消費しよう。
セファリスとキルテナが観客席に歩いていく。
「トレミナ頑張って! どんぐりと侮ったことを後悔させてやりなさい!」
お姉ちゃん、今回はどんぐりって言われてないよ。
「頑張れトレミナ! 神の技を超えたあいつを超えろ!」
キルテナ、そうなると神の技がどんどん下に行くけどいいの?
ともかく、お言葉に甘えて全力で行かせてもらいます、ライさん。
まずは〈アタックゲイン〉、〈ガードゲイン〉、〈スピードゲイン〉を発動。
そして、〈トレミナゲイン〉だ。
強化を覚えてから初めて本気で戦う。
実はちょっと楽しみでもあったりするよ。
するとライさんがいじわるな笑みを。
「どうせならこれ、下剋上戦にしようか。僕に下剋上されたくなかったら、本当に頑張って」
あれ? 不動のナンバー10では?
トレミナのお給料はもう少し後で開示します。
導師給がプラスされますのでその時に。
ちなみに、ナンバーズの年収は、
プロ野球選手の稼いでる人達を参考に設定。
1ノア=1円の感覚で大丈夫です。
爆上がりしたトレミナは庶民が抜けていません。
たぶんずっと抜けません。
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