88 〈トレミナゲイン〉の成分
私の前には騎士達の長蛇の列が。
……どうしてこんなに。
「開発者であるトレミナさんはいわゆる始祖にあたります。あなたから直接受け取りたいと思うのが人情でしょう」
人情、ですか、ジル先生。
「それに何と言ってもトレミナちゃんは可愛いからね! さあ、私が一番よ! 早く早く!」
列の先頭からリオリッタさんが急かしてくる。
待ってください、この数の技能結晶は……、まあ作れるか。
「トレミナさん、マナが足りないようなら、私とジルさんで残りを受け持つから。心配はいらないわよ」
そう申し出てくれたのはリズテレス姫。
これを聞いていたフローテレス王妃がツカツカと詰め寄ってきた。
「リズ、あなた、そもそもマナは使えないでしょ?」
場の空気が凍りついた。
そうだ、姫様はずっとマナが使えることを隠し通してきた。
もちろん騎士達は知ってるけど。あ、アルゼオン王も知ってるみたい。目がすごく泳いでる。じゃあこの場で知らないのは、……王妃様だけだ。
リズテレス姫はふーっと一息。
「いよいよこの時が来てしまったようね。母さんは気位が高いから、明かすのは躊躇わざるをえなかった」
「リ! リズ! 待てっ!」
王様の制止は間に合わなかった。
姫様の体を大量のマナが覆っていく。
「なんて量なの……、それがリズの〈闘〉……」
「現実から目を背けないで、母さん。マナの流れで分かるでしょ。これはまだ私の〈常〉。そして、これが〈闘〉よ」
姫様の纏うマナが一気に増え、力強さも増した。
腰から砕ける王妃様。
慌ててアルゼオン王が駆け寄ろうとするも、それより早く、一人の騎士が彼女を抱き止めていた。
「大丈夫ですか、フローテレス様」
「……あら、ナディックさん、ありがとう」
甘いマスクの男の人。なぜだろう、どこか危険な香りがする。
すると、リズテレス姫の列の先頭にいたチェルシャさんがススッと。
「奴はランキング十一位、閃光の騎士ナディック。年上女性を好む熟女キラー。ターゲットが既婚者だろうが奴には関係ない。旦那に見つかったら閃光の速さで逃げる」
……なんて危険な人だ。
王様、気を付けてください。いや、心配ない。ちゃんと分かってるみたい。
妻を奪い返したアルゼオン王は、彼女を連れて奥に下がっていく。
退室前に一度振り返った。
「リズ、あとは任せていいか?」
「ええ、大丈夫よ」
王様と王妃様に並んでいた騎士達は、姫様とジル先生の所に割り振られ、ようやく技能結晶の伝授が始まった。
〈トレミナゲイン〉さん、見ていますか?
あなたの分身が皆に広がっていきますよ。
実は、私がリズテレス姫とジル先生に結晶を渡した際、ちょっとした想いを込めておいた。どうか宿主となる人を守ってください、と。
気休め程度にしかならないかもしれないけどね。
姫様から受け取ったチェルシャさんがうっとりとした表情を。
そんな成分は入っていませんよ。
ジル先生から受け取ったロサルカさんが恍惚とした顔に。
そんな成分は入っていませんって。
……今更だけど、この騎士団、変な人多くないかな。
レゼイユ団長が変態って呼ばれてるけど、皆、結構いい勝負してると思う。
そう、書いているうちになぜかこんな騎士団に。
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