87 レゼイユ団長との差
「私はノサコット村のトレミナ・トレイミーです。コーネルキア騎士団のナンバー5を務めさせていただいています。また、現在コーネガルデ学園の三年生で、全学年の実技教員も兼務しています」
王様と王妃様にようやくきちんとご挨拶できた。
最初からこうしておけば、あんな風に式典本番で膝が抜けることも……、
あれ? 二人共、固まったまま全く動かない。
あの、大丈夫ですか?
下から覗きこんでいると、アルゼオン王の方が我に返った。
「……リズ、この子は、本当に人間か? ジャガイモの、いや、どんぐりの神獣じゃないのか……?」
そんな神獣いませんよ。たぶん。
リズテレス姫が私の肩にポンと手を置いた。
「人間よ。父さん、お礼を言うんじゃなかったの?」
「ああ、そうだった……。ト、トレミナ導師、様、我が国に〈トレミナゲイン〉をもたらしてくださり、ありがとう、ございます……」
「どういたしまして。お役に立てて、私も一国民として嬉しい限りです」
「なんて堂々としてるの! 絶対に普通の子供じゃないわ!」
フローテレス王妃が叫んだ。
姫様の話通り、確かによく喋りそうな人だね。
「では自己紹介も済んだところで、式典の再開といきたいのですが……」
ジル先生が部屋の入口に目を向ける。
そう、まだ授与式の途中だった。これから順番に〈トレミナゲイン〉の伝授なんだけど、中断せざるをえない事情が。
一番初めに授与される、ランキング一位のレゼイユさんが現れない。
現地から直接来るってことになっていたよね。
現地とはつまり、……あ、ちょうど来たみたい。
マナ感知で気付いた全員が、一斉に謁見の間の出入口に視線をやった。
そして、バンッ! と扉が開かれると、一斉に眉をひそめた。
……血まみれじゃないですか、レゼイユ団長。
全部返り血でしょうけど。
彼女は絨毯の上をずかずかと歩き、アルゼオン王の前へ。
王様、一歩引く。
「守護神獣の稀少肉を調理場に運んでおきましたよ。王妃様と食べてください。二人共、王と王妃にしてはちょっと弱いですからね」
「あ、ありがとう、二人でいただくよ」
団長、戦闘力で王や王妃になるわけじゃありませんよ。
式典が再開され、まずレゼイユ団長が王様から技能結晶を受け取った。
彼女はそのまま私の所に。
紫がかった瞳でじーっと私を凝視。この人の、見つめながら考える癖、苦手だな。得意な人なんていないだろうけど。
「解析は後でしますが、話は聞いています。素晴らしいものを作りましたね、騎士トレミナ。さすが私の弟子、の妹」
「どうも、ありがとうございます」
「レゼイユさん、〈トレミナゲイン〉を習得した場合、あなたと五竜ヴィオゼームとの力の差はどれくらいかしら?」
隣からそう尋ねたのはリズテレス姫。
団長は「んー」と考えながら、また私を凝視。
どうしてそこは姫様じゃなくて私なんですか。
「騎士トレミナを見ていると、心が安らいで考えがまとまるのです」
あ、私限定でしたか……。
「まとまりました。騎士トレミナが私に追いついてくれば、二人で何とかなりそうです」
「そう、頑張ってね、トレミナさん」
「待ってください。もし私と団長が同じ体質なら、追いつくのは不可能では?」
「可能です。なぜなら騎士トレミナの成長速度は私を上回っているからです。騎士トレミナ、お前まさか……」
再び私を凝視。もう何だか慣れてきましたよ。
「毎日八時間くらいしか寝ていないのではないですか?」
八時間くらい、しか?
これにリズテレス姫が深いため息をついた。
「……レゼイユさん、一日十二時間は寝るのよ」
……寝すぎでしょ。
そういえば、お姉ちゃんが言ってたっけ。師匠は所構わず寝るから、敵地ではすごく怖いって。
「騎士団で私に追いつける者がいるとすれば、騎士トレミナ、お前だけです」
そう言い残してレゼイユ団長は帰っていった。
私達が喋っている間に、騎士達は技能結晶をもらいたい人の前に集まっていた。ジル先生が数えた結果、こうなったよ。
アルゼオン王 7人(団長含む)
フローテレス王妃 2人
リズテレス姫 18人
ジル先生 14人
トレミナ導師 51人
欠席8人(先生、導師含む)
王様、王妃様、何だかすみません。
導師、過半数とりました。
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