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ジャガイモ農家の村娘、剣神と謳われるまで。  作者: 有郷 葉


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86 トレミナ導師様

 騎士達への〈トレミナゲイン〉の伝授は王城で行われることになった。


 夏の強い日差しを受けて、石造りの城は荘厳な雰囲気を醸し出している。

 もちろん私は初めて中に入る。私達の暮らすコーネガルデには大体何でも揃っており、王都に来ること自体あまりない。

 騎士の多くは警備や伝令で出入りしているみたいだけど、私は騎士になってまだ数か月だしね。

 と思っていると、同期のチェルシャさんが得意げな笑みを。


「私は来たことがある。王様にラーメンをごちそうになった」


 お城で、ラーメン?

 ずいぶんミスマッチだけど、国民に食事を振る舞ってくれるなんて優しい王様なんだね。

 今日は王様にも王妃様にも会う。

 おっとりして失礼なことをしないように気を付けないと。


 ちなみに、一緒にやって来たのはチェルシャさんだけじゃない。今回〈トレミナゲイン〉を伝授される、ランキング百位までの騎士達も一緒だ。

 当然、ナンバーズもいるよ。ロサルカさん、リオリッタさん、ライさん。


「私はやはり、ジル様に入れていただきたいですね。ゲインを」

「私は絶対トレミナちゃんね!」

「僕は誰でもいいけど、王妃様かな。一番人気なさそうで可哀想だし」


 前を歩くチェルシャさんが勢いよく振り返った。


「姫様一択!」


 ……何だか、提供する私達五人の人気投票みたいになっていませんか?


 なお、ここにいるナンバーズは私を含めて五人だけ。

 セファリスはようやく〈アタックゲイン〉を覚えたところで、全種習得が条件の〈トレミナゲイン〉は受け取れない。今日はキルテナを見てもらっているよ。

 レゼイユ団長は任務中なので、現地から直接来るらしい。

 三位と四位の人は訳あって今いる場所を離れられないとかで欠席。私、二人の顔どころか名前も知らないんだけど……。

 ジル先生は先に王城で待ってるって。と噂をすれば。


 城門を抜けた所に先生が立っていた。


「トレミナさん、きちんと渡した服を着てきましたね」


 授与式では正装ということで、全員が黒煌合金の装備を身につけている。

 でも、私だけゴワゴワした派手なローブと、やけに縦長の山高帽を着用するように言われた。

 伝授する側の衣装かと思ったら、先生も鎧姿じゃないですか。


「それは開発者であるトレミナさん専用です。あなたは田舎のどんぐり感が滲み出ていますから、これくらい着飾らないと威厳が出ません」

「私、もう二年以上街で暮らしているんですが。あと、これ見た目が暑すぎます……」

「体感温度はマナでコントロールできるでしょう。仕方ありませんね、直前まで脱いでおいていいです」


 ジル先生が借りてきてくれた袋に、ローブと帽子をぎゅぎゅっと押しこむ。下は普段着の半袖シャツとズボンだからね。一気に涼しげに。


「せっかく仕立ててあげたのに、どんぐりで入城するとは」

「全く気にしません。早く行きましょう」


 謁見の間に入ると、リズテレス姫が出迎えてくれた。


「今日はずいぶんとマナを抑えているのね、トレミナさん」

「王様達に失礼があってはいけませんから。姫様だって」

「私はお城にいる時はいつもこの状態だから」


 傍から見れば、今の私達は普通の子供にしか見えないだろう。

 姫様と話していると、三十歳前後の長い黒髪の女性がこちらへ。


「リズのお友達かしら?」

「初めまして、ノサコット村の者です」


 これを聞いていた、同い年くらいのハンサムな男性もやって来た。


「ノサコット村の子か。今年はすごいジャガイモができたそうだね」

「はい、豊作だった上に、まさかあんなものまでできるとは」


 間違いない。この二人が、国王アルゼオン様と王妃フローテレス様だ。

 光の王と怒涛の魔女。どちらも相当な使い手だね。その実力は、んー……、ランキング五十位台の人達と同じくらいかな。

 ちゃんとご挨拶しないと。まだ名乗ってもいない。失礼になってしまう。

 と思っているとアルゼオン王が。


「リズ、今日はトレミナ導師様もおいでになるんだろう? 国王として、我が国にあれほどの技を授けてくださったお礼を申し上げたいんだが」

「父さん、それなら」


 姫様が私を紹介しようとした矢先、ジル先生が「式典のお時間です」と。二人は慌てて玉座の前に並んだ。


 ご挨拶できなかった。えーと、私はどうすればいいんだろう。

 辺りを見回していると、姫様がニコリと微笑んだ。


「心配しないで、私の隣に立っていればいいから。名前が読み上げられたら一歩前へ。きちんとローブは着ておいてね。……そうだわ、その時にマナを〈常〉にしてくれる? きっと威厳が出るわよ」


 私、そんなに威厳ないですか? まあ、ないかな。


 騎士達が謁見の間に整列し、式典が始まった。

 玉座の前には王様と王妃様。隣にリズテレス姫が立ち、その横にいる私を、二人は不思議そうな目で見つめる。


 確かに、姫様の友人とはいえ、ジャガイモ農家の村娘がここにいるのはおかしいよね。だからご挨拶したかったのに。


 式典の進行はジル先生が務める。


「これより〈トレミナゲイン〉伝授の儀を始めます。それに先立ちまして、この世界初の全強化技能を生み出された方をご紹介いたします」


 あ、もう出番だ。

 後ろに下がって、急いでローブと帽子を装着。


「〈トレミナゲイン〉をこの国に授けてくださったトレミナ導師様です」


 何とか間に合った。

 前に出ると同時にマナを〈常〉に。


 すると、アルゼオン王とフローテレス王妃が私を二度見。

 二人揃って膝がガクンと抜けた。


 ……私、失礼なことはしてないですよね?

次話、百人弱の騎士による人気投票です。

果たしてトレミナは何人の騎士を獲得できるのか。


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― 新着の感想 ―
[一言] どんぐりだもんね 仕方ないね
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