83 強化技能の習得
私は学園で全学年の実技を受け持ってるけど、その内容は当然ながら進級するにつれて高度になっていく。
多くの時間を費やす打ち合いで説明すると、
一年生はマナを使用しない手合わせ。
二年生はマナを〈闘〉に固定しての手合わせ。
三年生はマナを調整してかけ引きもする手合わせ。
四年生は使える技能を増やしていき、最終的には実戦と同じになる手合わせ。
学年が上がった直後は、誰もが対応するだけで精一杯になる。新しい技術の習得は一か月ほど経ってから、が慣例みたい。
私の学年、三年生の場合は錬気法の技と並行して、強化戦技の修練に入る。
すでに騎士の私とセファリスは早めに習得しなければならないため、皆とは別で、ジル先生から直々に教わることになった。
放課後の訓練室(集中したい人のための個室。学園には広さの異なるこの部屋が沢山用意されているよ)にて。
「早速始めますよ。まずはトレミナさんから」
ジル先生は私に向かって手を差し出す。
すると掌の上に半透明の小さな箱が出現。
小箱は音もなく勝手に動き出し、私の胸に入っていった。
「それが〈アタックゲイン〉です。では次」
同様に、二つ目の箱が私の中へ。
「それが〈ガードゲイン〉です。あと一つなのですが……」
先生はしばらく私を見つめて間をおいた後に、「いけそうですね」と。
最後の小箱をやや慎重に送り出した。
「今のが〈スピードゲイン〉です。思った通り、全部入りましたね。セファリスさん、お待たせしました。これが〈アタックゲイン〉です」
私と同じく箱を取りこんだ姉。
「よし、習得したわ! 発動よ!」
発動できないよ。ちゃんと先生の話を聞いてた?
お姉ちゃんの体が光り始めるも、すぐにパッと弾けた。
「まだ習得ではありません。ちゃんと私の話を聞いていましたか?」
ジル先生も同じ感想。
私達が受け取った小箱は技能結晶と呼ばれるものだ。
技能そのものではあるんだけど、例えるなら何重にも鍵がかけられてる状態。箱の中身を理解し、自分の技にしていくことで、一個一個鍵を外せる。
全て開錠してようやく習得と言えるよ。
面倒そうに聞こえるかもしれないけど、ゼロから習得するよりは断然早い。
技能結晶は伝授をスムーズに行うために考え出された技術なんだ。
ちなみに、この方法に適さない技もある。
私の〈トレミナボール〉と〈Ⅱ〉がそれ。
〈トレミナボール〉はマナ玉を作って投げるだけだから、そもそも必要ない。
〈トレミナボールⅡ〉の方は毎回マナを同調させて引っつけなきゃいけないから、理解できても真似できることじゃない、らしい。
発動に失敗したセファリスは口を尖らせていた。
「先生、私にも残りの二つをください」
「あなたには無理ですよ」
「無理じゃないです。ください!」
「聞き分けのなさは成長しても変わりませんね……」
ジル先生は技能結晶をセファリスの胸へ。
ところが、入れてすぐに箱はポンッと飛び出てきた。空中で粉々に砕ける。
「私の〈ガードゲイン〉がっ!」
「だから言ったでしょ。結晶を作るのは、結構マナが要るのですよ……」
技術結晶は受け取る側に一定の練度が求められるんだって。
属性技能の場合は、その精霊を操れることが最低条件。今回のゲイン系ならマナを動かす技術、主に〈調〉と〈集〉が重要みたい。
「トレミナさんはどちらも、もう学生レベルではありません。〈オーバーアタック〉で強化のコツも掴んでいますしね。おそらく最初の一つは十日ほどで、二つ目は五日ほどで、最後は二日で習得できるでしょう。セファリスさんは普通に、一、二か月は覚悟しなさい。全部マスターするのに長くて半年です」
そう言った後に、先生はくるりと私の方を。
「全てを習得したのち、あなたに頼みたいことがあるのですが」
先生、分かっていますか?
私はすでに、学生、騎士、それに教師と神獣調理人を兼務しているんですよ。あ、ドラゴンの世話係もしていました。
そういえば、キルテナも同じ部屋にいるよ。離れたくてもできないからね。
騒がしくされると困るので、大量の肉まんを買ってあげた。
ほら、あんなに大量の……、あれ?
「人間は気の毒だな。強化技能を覚えるのにそんなに時間が掛かるんだから。我々は一瞬だぞ。神ゆえに。ふはははは!」
……うざい。肉まんが全然足りなかったようだ。
ジル先生はキルテナを綺麗に無視して話を続ける。
「トレミナさんに全強化の技能を作ってもらいたいのです」
また大変そうなのが来た。
全強化ゲインの名称はもちろん……。
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