81 [ライ] 不動の鉄壁ナンバー10
「リオは全然人間兵器じゃないよ。その一族秘伝の術も微妙だし」
リオリッタの話を聞いて、僕はそう言わざるをえなかった。
「何てこと言うのよ! 私のアイデンティティーが崩壊する!」
「じゃあ、今ここで使ってみなよ、〈駆電〉」
「やってやろうじゃない! 大惨事になるから! もう学級閉鎖よ!」
「大丈夫だって」
そんな言い合いをしたのは、二年生に上がって間もなくのこと。
教室での一幕で、クラスメイト達は皆、次の座学に備えて着席していた。僕が大丈夫だと言った理由は、もう全員がマナの使い手だからだ。
あとは一言、注意喚起すればいい。
「皆、マナを〈闘〉にして。…………。リオ、いいよ」
「ほんとに知らないから!
雷霊よ! 速きその足で宙を駆け、人々の心を奪え! 〈駆電〉!」
……ジジジジジ、パシュ――――!
電磁波が教室中を駆け巡る。
しかし、心を奪われた者は一人もおらず、頭を抱えている生徒が数人いるだけだった。
「ね? マナを習得したばかりでもこの程度。軽く目まいを覚えるくらいだよ」
「えー……、秘伝の術、しょぼ……」
まあ、リオが習得できるレベルだからね。
雷属性の下級魔法と特殊属性の下級魔法を組み合わせたのが〈駆電〉だ。とはいえ、その年齢で二つの属性を扱えること自体、結構すごいことなんだけど。
ちなみに僕とリオリッタは同い年で、この時は十二歳だった。
へこむ彼女に、追い討ちをかけるようにあちこちから声が。
「……毒電波」
「毒電波だ……」
「毒電波だわ……」
「……毒電波のリオリッタ」
後ずさりを始めたリオリッタ。
じりじり、じりじりと教室の入口まで。
「……や、やめて。……やめて。そんなあだ名は嫌――――!」
結局、学級閉鎖にはならず、リオリッタが早退しただけで終わった。
さすがに悪いことしたかなと思っていると、翌日彼女はけろりとした顔で登校してきた。
「私、一族を抜けることにしたわ。スパイ活動もやめ。騎士団で上を目指すって決めたの。錬気法も他の子より進んでるし。出世してじゃんじゃんお金稼ぐよ!」
どうやらアイデンティティーを再構築したらしい。
ずいぶんやる気になっているので、僕はしばしば訓練相手をしてあげることにした。お金をモチベーションにリオリッタはぐんぐん腕を上げていった。
腕が上がったのは僕の方もだ。
コーネガルデ学園の教育カリキュラムはとてもよくできていた。教科書なんて呼ばれているが、あれは錬気法の奥義書と言っていい。厳重に管理されているのも頷ける。
同時に、かつての軍施設での修練がいかに雑なものだったかを知った。
バラバラだったパズルのピースがはまるように、僕の能力は飛躍的に上昇した。
でも、僕もスパイのようなものであり、あまり目立ちたくなかった。力も順位もリオリッタのやや下に設定。
そうして気付けば、僕達は学園を卒業し、騎士になっていた。
で現在に至るわけだけど、どうも近頃リオがピンチだ。
下からの激しい追い上げを受けて、ナンバーズ陥落の危機にある。
そんなことになったら彼女の給料はガクンと下がり、騎士もやめてしまうかもしれない。
それは困る。
僕はリオが好きだ。恋愛感情からじゃなく、見ていて飽きないので。
そして、コーネルキアも好きだ。嘘から始まった第二の人生だけど、今はこの国を守りたいと思ってる。
リオとコーネルキア、どちらが欠けてもダメだ。
「…………、リオを強化するか」
というわけで、守護神獣の肉を確保すべく、ジルさんとドラグセンにやって来た。地理的にはコーネルキアから大分離れた、国土の南東辺りになる。
ドラグセンの敵はコーネルキアだけじゃない。どの国の仕業か悟らせないために、敵戦力の間引きはまんべんなく、が鉄則。
つまり勝手に狩っちゃいけない。
ナンバー7みたいに自由に襲撃してる奴もいるけど……。
あ、ナンバー3とレゼイユさんもか……。
……皆、結構自由だな。
けど誰かが調整しないとリズテレス姫が困るから、僕はきちんとやるよ。
なので、ジルさんに同行願った。
前を走っていた彼女が不意に停止。
「いたわ、ターゲットよ」
マナで感知すると、森の中にぽつんと大男が立っているのが分かる。守護神獣の人型だ。国境の警備に当たっているらしい。
「了解です。行ってきますね」
「待ちなさい。あれは私とロサルカが二人で倒す予定だった竜よ。相当な力を持っているわ」
「はい、なるべく強い奴を、と僕がお願いしましたから」
「本当にその格好で……、武器も防具もなしでいいの?」
「大丈夫ですよ。五竜と戦うわけじゃないんですから」
呆れ顔のジルさんをおいて、僕は〈隠〉のまま大男に接近。
姿を見せると同時に、マナを〈闘〉に。彼の表情が驚きに変わる。
「初めまして。僕はあなたを殺しにきた刺客です」
背後に跳び退いた男は、すぐさま竜に戻った。
ゴツゴツした硬そうな鱗に覆われた、体長五十メートルを超える巨竜が姿を現す。開いた口にマナが集まるのを確認。
風霊の気配……、〈風の息〉か。
ならこっちは火の盾だね。
「火霊よ、僕を守って。〈フレイムウォール〉」
ゴオオオオォォ――――――――!
荒れ狂う暴風が一帯の木々を吹き飛ばす。
森はえぐり取られたように空き地が広がっていた。僕のいる場所を除いて。
炎の壁を解除すると、足にマナを集中させて大地を蹴った。
ドラゴンの下に潜りこむ。
すごい鱗だ。確か甲竜ルートの二次進化形、【鎧鱗剛竜】って言ってたっけ。
防御力高そうだな。しっかりマナを込めて殴らないと。
ジャンプして竜の腹に拳を叩きこんだ。
ドムッッ!
竜の巨躯が十メートルほど浮き上がる。
そして、地響きと共に沈んで動かなくなった。
「ワンパンって……。それなら武器も防具もいらないわね」
ジルさんが追いついてきていた。さっきの呆れ顔のままだ。いや、新たに呆れ直したかもしれない。
「のびているだけですよ。まだ生きてます」
「……ライさん、その気になればナンバー2になれるけど」
「興味ないです。レゼイユさんの世話はごめんですし。副団長はジルさんでないと務まりません。僕はナンバー10でいいですよ」
そう言った後に、妙案が頭を過った。
「下剋上戦なんですけど、ナンバーズへの挑戦は最下位の十位にのみ可能、というルールに変えてもらえませんか?」
「つまり、一般騎士が挑めるのはあなたにだけ? それ、今のナンバーズで固定されるってことでしょ……」
「固定でいいじゃないですか。現メンバーは(リオ以外)皆かなり強いですし、各自任務にも集中できますよ。……もしこの提案を受け入れてくれるなら、僕、また時々出動してもいいです。今日みたいに」
「…………。姫様と相談するわ。ルールを変更するにしても告示期間が必要だからすぐには無理よ」
心配いりません。今日から強化していくので。
次話からトレミナに戻ります。
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