80 [ライ] 人間兵器
僕の名前はコード087。
うん、名前じゃないよね、こんなの。
物心がついた時、僕は歳の近い大勢の子供達と一緒にいた。
親の顔どころかその存在すら知らず、大人達から叩きこまれたのはマナと戦いの技術だけ。
成長するにつれて分かってきたことだけど、そこは小さな国の軍事施設だった。守護神獣を持たず、軍隊も脆弱。
考え出されたのが、全員がマナを使える精鋭部隊の創設だ。
聞こえはいいけど、実際に行われたのは人間を兵器に仕立て上げる実験。
訓練は過酷なんて言葉じゃ生ぬるく、地獄という表現がピッタリかもしれない。毎日、生き残るのに必死だった。
十歳になった頃には、百人以上いた子供達は半分以下にまで減っていた。
地獄をくぐり抜けた僕達は、期待通りの人間兵器になったと思う。世話係の大人達が怖がって近付かなくなっていたくらいだから。
それを言い出したのは女の子だっただろうか。男の子だったかも。
いや、僕だったのかもしれない。
「僕達(私達)、ここから出られるんじゃない?」
試してみたら、案外簡単に施設を制圧できた。
手間取ったのは僕達に錬気法を教えていたマナ使いの五人くらい。と言っても、実力ではすでに抜いていたし、数もこちらが十倍近くいたからそれほどでもなかったけど。
施設制圧後は一日そこに留まることに。情報をかき集め、僕達はこの国の内情、そして外の世界を知った。
興味深い教材も。僕達は選ばれた戦士で、皇帝陛下の御ため命を懸けて戦わなければならない。という思想を植えつけようとするものだ。
行動に出るのが遅れていれば洗脳されていたかもしれない。
皆で相談した結果、育ててくれた皇帝陛下にお礼しようということになった。
施設を出てまっすぐ首都へ。
宮殿の前で正規軍と衝突した。
相手は普通の人間だけど、数が多く、完全武装だったために思わぬ被害が。
女の子が一人、銃で撃たれて……、たんこぶができた。
敵をなめて油断してるからだよ。
その後は四大騎士とかいう、割と名前負けしているマナ使い達を実力と数の差で圧倒し、いよいよ陛下の元へ。
そう言ったのはたぶん僕だったと思う。
「僕達は選ばれた戦士です。陛下のために命懸けで戦わないといけないらしいのですが、はっきり言って嫌なので、あなたにはもう死んでもらいます。
ではさようなら。
……と、そうだった。
僕達を人間兵器に育ててくれて感謝します。実験、大成功ですよね?」
尋ねるまでもなく、皇帝陛下は実験の成功を身をもって知ることになった。
しっかりお礼も済ませたところで、僕達はそれぞれの人生を歩むことにした。いずれ風の便りで誰かの噂を聞くこともあるかもしれない。
人間兵器の子供達は世界中に散らばっていった。
それから程なくして、僕達の祖国は周囲の国々に吸収されて消滅した。
名前もなく、国もなく、いっそ清々しい気分だったのを覚えている。
ついでにやりたいこともなりたいものもなかった僕は、とりあえず世界を見て回ることに。
お金には困らなかった。その辺の野良神を捕まえて肉を売れば、充分当面の路銀にはなったから。本当、ありがたい神様だよ。
一年ほど経った頃、コーネルキアという国である話を耳にした。
マナを習得できる騎士の養成学校ができたという。
僕の脳裏に、施設での地獄の日々が思い起こされた。
どんな所か、一度入学してみようかな。
もしあの軍施設のようにひどい場所なら、その時は……。
ところが、僕はコーネガルデのゲートで門前払いを受ける。
考えてみれば当然だ。身元不明の旅の少年が入学できるはずない。
うーん、どうしよう。この国の子を捕まえてなり代わろうか。
でも、あまり手荒なことはしたくないしな。
頭を悩ませていると、馬車に乗った幼い少女と目が合う。
直後、なぜか一転して入学の許可が下りた。
不思議に思いつつも、せっかくなので入れてもらうことに。
申請書類に記入しようとして、ふと手が止まった。
僕には名前がない。
まあ、適当に嘘の名前を書いておけばいいか。
嘘……、嘘……、ライでいいや。
そうして僕の学園生活は始まった。
入ってみると、予想していたものとは全く違っていた。
何かを強制されることもなく、学生達は皆のびのびしている。さらに毎月結構な額のお金が支給され、使い放題だ。
……何だこれ、すごく楽しい。
これが普通の生活ってやつなのかな。普通、なはずないか。相当恵まれてる。食べ物も美味しいし、もうちょっといてもいいな。
学生って、すごく楽しい。
思いがけず、僕は失った時間を取り戻すような経験をすることになった。
面倒なこともあったけど。僕は容姿がいいらしく、男女問わず愛の告白をしばしば受けた。面倒ではあっても、好きと言われて嫌な気はしない。
ただ、男子は本当に遠慮してほしい。僕は女の子が好きだ。
孤独な一人旅をしていた僕の日常は一気に賑やかになり、入学した目的もすぐにどこかに行ってしまった。
そんな日々の中で出会ったのがリオリッタだ。
誰に対してもフレンドリーで、お金が大好きな女の子。僕達は友達になった。
ある日、彼女がこっそり耳打ちしてきた。
何か大切な秘密を教えてくれるらしい。
「……実は私ね、人間兵器なんだ」
え? お前が?
ライ編、次話完結です。
リオ編とセットなのでそこで一区切り。
その後はまたトレミナに戻ります。
まだ書きたいキャラがいるのですが、少し空けてですかね。
評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。










