78 [リオリッタ] 微妙な戦闘一族の末娘
私の名前はリオリッタ。コーネルキア騎士団の元ナンバー6であり、ナンバー8であり、現ナンバー9よ。
下の世代が粒ぞろいだということは分かっていた。
だけど、まさかこんなに早く追い上げてこようとは。
そう、私は今まさに追い上げを食らっている。
「俺の負けです。まだ俺にナンバーズは早かったようです、はははは」
目の前で爽やかに笑う青年。名をクランツという。
確か学園卒業前の学年順位は二位だったわね。先月入団した直後に百五十八位まで一気に上がり、今月はもう私の椅子を狙ってきた。
一見、爽やかなイケメンだけど、野心的で油断ならないわ。彼の順位が証明している通り、実力もしっかり伴っている。
実際、私は危うく負けるところだった……!
闘技場を後にしながらため息が出た。
……どうにか、今日も下剋上されずに済んだ。
下剋上戦にはルールがある。
挑戦権を行使できるのは月に一度だけ。
同じ相手への挑戦は半年の期間を空けなければならない。
そして、挑む側も受ける側も、試合ができるのは一日一回まで。
(ただし、本人が希望した場合は同日に受け、挑むことが可能)
この但し書き通り、ロサルカさんはトレミナちゃんに下剋上された直後に私を下剋上したわ。
それでもこれらのルールのおかげで、それほど頻繁に下剋上し合わなくていいはずなんだけど……。
……私のところには長蛇の列ができている。
理由は単純よ。私は頑張れば倒せそうな相手だから。
ちなみに、挑戦者が複数の場合は抽選になるわ。
でも、これには例外が存在する。上位者が自分の挑戦権を推薦権に変えて推した者は、最優先でマッチングされる。
先月、六位の私を倒したロサルカさんはジル様の推薦で、八位の私を倒したセファリスはレゼイユ団長の推薦よ。
……私の扱い、相当なものでしょ? でもこういうシステムだから。
私は私で、意地でもナンバーズの地位にしがみつくだけよ。
これの理由も単純。お給料がすごくいい。
と言ってたら家に着いたわ。
そんなに大きくない一戸建てだけど、一括現金で購入した私のお城。
私の月給は八百万ノアちょっと。四、五か月間ナンバーズでいれば家が一軒建つんだから、何としてもしがみつきたくなるでしょ。
帰宅するなり黒煌合金の装備を外し、リビングのソファーにダイブ。
周囲には買ってきたまま開封していない服や靴が。
私はオシャレが好きなごく普通の十七歳、だと思う。
人と少し違う点があるとすれば、出自だろうか。
古くから続く、戦闘を生業とする一族の末娘として私は生まれた。幼少から色々な訓練を積まされたので、今の地位がある。
コーネガルデ学園に入学したのは、いわゆるスパイとしてだったわ。
アーサス家が噛んでる養成機関ができたから探ってこい、という命を受けた。ジル様のアーサス家は、私達の世界じゃ有名な名門中の名門なのよ。
その育成術を持ち帰るべく二期生として入ったわけだけど、途中で一族の任務は放棄した。
これの理由はちょっとだけ複雑。
まず、私の出自がバレててめちゃ監視されていたこと。そもそも、システム上、情報を持ち出すこと自体が不可能だわ。
あと、自分の運命を変えたくなったから。
学園で学ぶうちに気付いた。
私、このままいけば一族の誰よりも強くなれるって。実際に、もう私は父を超えてるはず。戻って兄や姉達の召使になるより、断然今の暮らしでしょ。
すでに一族秘伝の術も習得済みだし。
〈駆電〉って魔法なんだけど、あまり大したことはないよ。雷属性に特殊属性を加えて広範囲に放つだけのものだから。
特殊属性というのは、相手の身体に毒や麻痺、幻覚なんかの異常を起こさせる技術の総称ね。別に精霊の力を借りるわけじゃないけど、習得過程が似ているから属性にカテゴライズされてる。
で、〈駆電〉に付与されているのは、生物の神経に作用して意識を奪うってやつ。広範囲な分、効果は薄いし、自分中心に放つからめちゃ接近しなきゃならない。
効くのは普通の人くらいで、学園卒業レベルのマナ使いには嫌がらせ程度にしかならないよ。
うちの父なんかは、「我々は人間兵器だ……」とか雰囲気出して言ってたけどね。ほんと、大したことない魔法だわ。
「父上、うちの一族、結構しょぼいですよ」
ぼんやり天井を見つめながら、思わず呟いてしまった。
小さい頃ずっと、私は人間兵器だ、と思いこんでいた自分が恥ずかしい。
ジル様とこの秘伝の術なんて比較にならないくらいやばいもんね。さすが神狩り専門の一族。あーっと、これ以上は私の口からは言えないよ。
とにかく、下剋上戦では〈駆電〉は使いものにならない。
まだ雷球に麻痺乗っけて撃った方がマシだ。
はい、実際にそれ使ってます。ほんと〈駆電〉は……、そうだ、この魔法のせいで私、毒電波って呼ばれるようになったんだった……。
二つ名というより、ただのあだ名だよね。
「秘伝の術、マジいらん……。いや、これは一族に背いた私への呪いか?」
すみません、単なる女子の愚痴に。
明日は大きく展開します。リオリッタ編は明日で完結です。
評価、ブックマーク、いいね、感想、本当に有難うございます。
 










