77 セファリスの成り上がり
「遊びはここまでよ。本気で行くわ」
セファリスはそう言って双剣の構えを変えた。
観客席が少しざわっとする。
何だろ? マナで聞き耳をたててみた。
ああ、レゼイユ団長と同じ型なのか。
団長、連れ回すだけじゃなく、ちゃんと師匠らしいこともしてるんだね。
姉はまっすぐに駆け出す。
「かっこつけても強くはならないぞ!」
キルテナの方は〈雷の息〉で迎撃。
だが、セファリスはスピードを緩めず、横に小さく跳んだだけで回避した。
そのまま相手の間合いに。
振り下ろされた竜の爪を左の剣で弾く。ほぼ同時に、炎を纏った右の剣で突きを繰り出した。
キルテナはどうにかガードするも、威力を殺しきれず後方に飛ばされる。
体勢を立て直す暇もなく、もう目の前にはセファリスが。
近距離からの雷の波動をどうにかガード。
体勢を整える前に、またセファリスの追撃。
どうにかガード。また追撃。ガード。追撃。…………。
「ちくしょう! なんでマジで強くなってるんだ!」
堪らずに竜の少女が叫んだ。
ふむ、私には大体分かるよ。
原因はあの双剣術、では断じてない。あれはものすごくデタラメだ。
たぶんレゼイユ団長本人が型とか気にせず力で押しきる感じ。つまり剣術など最初からない。セファリスは単に師匠を真似して構えただけだろう。
原因は別にある。端的に言うと、より試合に入りこんだから。
姉は直観と本能で戦うタイプだ。集中力が増したことでそれらがさらに研ぎ澄まされた。纏っているマナを効果的に、かつ的確に素早く動かしている。
私の場合、頭で考えてやるけど、きっと彼女は感覚でこなしてると思う。
マナの量は変わらなくても、キルテナは倍ほど増えたように感じているはず。
ハンデはいらなかったね、キルテナ。神技をフルで活用しなきゃならない相手だった。
元々、お姉ちゃんは本番にとても強い。二年の学年末トーナメントではランキング上位者を次々破って決勝まで上がってきた。
……思えばあれからまだ二か月も経ってない。お姉ちゃん、同級生や上級生どころか、大勢の騎士も追い抜いて、いったいどこまで行くの?
とうとう翼で上へと逃れたキルテナ。
追いかけてセファリスもジャンプする。火の魔剣で宙を漕ぎ、爆発の力を借りて猛突進。
ドラゴン少女を撃墜した。
「……うぅ、人型の私を倒したからって、調子に乗るな……。本当の私は、この倍強くて、遥かに巨大なんだぞ……」
精一杯の負け惜しみを呟きながら、キルテナは地面に寝転がっていた。
傍らに立ったセファリスは「ふー」と息を吐く。
「妹がお姉ちゃんに勝とうなんて百年早いのよ。竜になって出直してきなさい」
ん? キルテナも妹にすることにしたの? 竜になって出直してきたら、さすがに勝てないと思うよ。
とにかく、私も仕事しないと。
「勝負あり。勝者、セファリス」
「やったわ! 何とか時間にも間に合ったし!」
「時間って?」
「下剋上戦の予約を入れておいたのよ。そうだ! トレミナはナンバー5になったのね! さすがお姉ちゃんの妹だわ! 私もすぐになるからね!」
「ということは、下剋上の相手はナンバーズなの?」
「ええ、私でも勝てそうな人を師匠に教えてもらったのよ。毒電波の騎士なんだけど、六位って聞いてたのに、今日見たら八位になってたわ」
……ロサルカさんが下剋上した人だ。毒電波って何?
「まあ八位を奪ってくるわね。第二闘技場なの。じゃ下剋上してくるわ」
セファリスは剣をブンブン振って闘技場を出ていった。
なんか見覚えのある光景。
この後、お姉ちゃんは有言実行でナンバー8の座を掴み取る。
かつて学年八位だった彼女は、二か月弱で騎士団八位まで駆け上がった。
次話は毒電波の騎士の話です。
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