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74 芽生え始めた絆

 キルテナを押しつけられて四日目。

 今日から登校で、当然ながら彼女もついてくる。


 ジル先生に相談しようと思ったけど、相談してもどうにもならない気がしてきた。リズテレス姫も、引き取り手がなくて持て余してたみたいだし。

 私まだ、ナンバーズとして一度も出動してないんだよね。たぶん学生だからって気を遣ってもらってる。

 結局、時間のある私が一番適任なのかも……。

 チェルシャさんも今日から任務だって言ってたしね。


 昨日の休みはチェルシャさんの案内でグルメツアーをしていた。コーネガルデの、屋台から少しお高いレストランまで。

 キルテナはもう大はしゃぎだった。

 彼女が命懸けで修羅の森を抜けてきた理由はそれだったから。

 人間の食べ物が美味しいというのは世界樹周辺でも知られていて、こっちに憧れてる神獣は結構いるらしい。

 とはいえ、命まで懸けるキルテナは、神獣の中でも相当な変わり者、あるいは食いしん坊に違いない。ドラグセンの食事には絶望したようだけど、昨日は夢が叶ったと嬉しそうにしていた。


 じゃあ、もういけるでしょ。


「キルテナ、コーネルキアの守護神獣になる気になった?」


 学園の校舎を眺めていた少女はくるりと振り返った。


「無理だ。夢を叶えてもらったからといって、命を懸けることはできない」


 あなた、夢のために何度も死にかけて地獄を渡ってきたんでしょ。

 これはもしや……。


「粘れるだけ粘って、より美味しいものを引き出そう、とか考えてない?」

「そ! そんな意地汚いこと考えるか! 私は神だぞ!」

「ふーん。粘りすぎて姫様に狙撃されても知らないから」

「うっ……」


 早速ジル先生に相談を持ちかけるも、返ってきた答は「できる限りトレミナさんがお願いします」だった。

 やっぱり私より暇なナンバーズはいないようだ。

 なので、キルテナ同伴で授業をすることになった。


「学生寮でも思ったけど、マナを使える者がこんなにいるとは、マジで信じられない。量は大したことないけど」

「彼らは私の同級生、三年生だから。四年生はもうちょっと多いよ」

「どうしてトレミナは同級生を指導し、先生と呼ばれているんだ?」

「……私が訊きたいから」

「お前のマナ量は群を抜いてるから納得ではあるけど。なんだその量は」

「私は人より長く〈錬〉ができるんだよ」

「〈錬〉……。私達神獣には適さないあれか」


 神獣と人間では、マナの習得法、鍛え方が全く違うらしい。神獣のそれは、世界の理に反するとかで人間に教えてはいけないんだって。

 錬気法は人が独自に編み出した修練法ということだ。

 神獣に適さないのは当たり前。


 生徒達との手合わせ中にも関わらず、キルテナはずかずかと私の所へ。


「分かるぞ、トレミナ。人間が自分達に合うように生み出した錬気法。それに一際マッチしてるのがお前だろう。神としては見過ごせない存在だ」

「見過ごせなきゃどうするの?」

「こういう場合、我々の間では古来より力によって解決すると決まっている」


 野蛮な神達め。

 竜族の少女は私をビシッと指差す。


「私に〈トレミナボールⅡ〉とやらを撃ってみろ! 受け止めてやる!」


 そうきたか。

 きっとパン工房エレオラでのことがずっと引っ掛かっていたんだと思う。チェルシャさんが、見た時が最期、なんて言ったから。

 でも、今のキルテナじゃ絶対に止め切れない。


「やめておいた方がいいよ。本当に死んじゃうからできないって」

「何だとー! 面白い! 撃たなきゃ耳元で一晩中騒ぐぞ!」


 ……うざいな。

 そうだ、〈トレミナボール〉の方をⅡだと言って投げよう。キルテナはどっちも見たことないし。


「ただし! 中途半端な威力だったらやっぱり耳元で一晩中騒ぐぞ!」


 ……うざいにもほどがある。

 仕方ない、何とかなるか。


「分かったよ、投げてあげる。けど、マナを全開にして手に集中させること」

「そのボール、投げるものなのか? そこまでする必要ないだろ」

「あるの。それから両手を前に出して姿勢を作っておいて。ほら、早く。言う通りにしないと投げないよ」

「あ、ああ……。トレミナ、ちょっと怒ってないか?」


 ……なんだか、学年末トーナメント(二年生)、セファリスとの決勝を思い出す。早く済ませよう。

 キルテナが捕球体勢になったのを確認。

 よし、これで数秒はもつはず。実際に見ればあっちも納得するでしょ。

 あとは私の方からコントロールして消滅させれば大丈夫だ。


「じゃあ、投げるよ。絶対に動かないでね」

「お、おう」


 〈トレミナボールⅡ〉、発射。


 シュパッ! ドッシュ――――――――ッ!


 投げた次の瞬間には、マナ玉はもうキルテナの手の中に。


「ぐおおっ! な! 何だこれは――!」


 彼女は必死に抑えこもうとするも、球の勢いは全く衰えず。


 もう充分だね。ここで消滅、


 ……あれ?

 ……できない。

 どうしてだろ……、あ。

 キルテナが自分のマナでボールを覆ってるからだ。私のコントロールが遮断されちゃってる。

 やばい。マナの膠着状態で彼女はもう動くこともままならない。

 キルテナ、死んじゃう。


「も! もうダメだー! 最期にもう一度トレミナの焼き飯が食べたかった!」


 昨日、色んなごちそう食べたでしょ。なぜ私の焼き飯なの。

 そんなこと言わなくても、見殺しになんかしないよ。

 助けるには、もうこれしかない。

 手首の制御リングに手を添えた。


 キィィィィン!


 キルテナのリングが粉々に砕け、その体が光に包まれる。

 瞬時に大きく広がったかと思うと、そこには体長四十メートルを超える巨竜が。


 と〈トレミナボールⅡ〉が前脚を弾いた。

 深緑の鱗に覆われたドラゴンは、ズズン! と倒れこむ。


「トレミナさん! どうして解除したのですか!」


 校舎からジル先生が叫びながら走ってくる。


「すぐに仕留めないと! 風霊よ!」

「待ってください。大丈夫ですから」


 私がそう言った直後、ドラゴンの巨躯はこつぜんと消えていた。

 とぼとぼと金髪の少女がこちらに歩いてくる。


「……トレミナ、私がバカだった。……助けてくれて、ありがとう」

「キルテナ、コーネルキアの守護神獣になる気になった?」


 彼女は発しようとした言葉を寸前で飲みこみ、数秒の間が空いた。


「……少し、考える時間がほしい」


 無理、とは言わなくなったね。

 とりあえず、帰ったら焼き飯を作ってあげようかな。

次話、ついにお姉ちゃんが帰ってきます。

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― 新着の感想 ―
[一言] やっぱトレミナボールⅡヤバいな
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