73 キルテナの本性
キルテナと共同生活を始めて二日目。
段々と彼女のことが分かってきた。
いや、あっちが本性を出してきたというべきか。
どうやらキルテナはずっと猫を被っていたようだ。竜のくせに。
リズテレス姫と違い、私には殺す気がないと気付いたんだろう。
緊張が解け、急に馴れ馴れしくなった。まるでエレオラさんだ。うーん……、もっとひどいかも。
まあ一言で言うと、かなりうっとうしい。
「ここのご飯、うまいけど量が全然足りないぞ。なあ、トレミナ、昨日の店にパンを食べにいかないか? いいだろ、なあ?」
寮の食堂で夕食をぺろりとたいらげたキルテナ。
私の腕をカクカク揺らしてせがんでくる。
「私、まだ食べてるから。寮母さんが気を遣って多めに入れてくれたでしょ」
「でも全然足りないんだよ。なあ、行こう。なあ」
「私、この後勉強したいから。一人で行ってきて、ってできないか」
「できないんだよ。なあ、行こう。なあ、なあ」
……うっとうしい。
きついのは彼女と二十メートル以上離れられないことだよ。日課のランニングも向こうが嫌がったので、昨日の夜は断念せざるをえなかった。
一時的に誰かに代わってもらおうと思っても、キルテナ(人型)より強くないと危険なので、ナンバーズクラスでないと無理、という話になる。
今日と明日、学園はお休み。明後日、ジル先生に相談してみよう。
この二日間は我慢するしかない。
「分かったよ。私が何か作ってあげる」
「トレミナ、料理できるのか?」
「できないけど、やってみる。食べたら大人しくしててね」
「私を満足させることができたらな。言っておくが、ちょっとやそっとの出来じゃ私は納得しないぞ」
……うざい。
とりあえず寮の台所に移動し、残っている食材を確認。
ご飯はある。あとは、ハム、卵、玉ねぎ、ピーマン。
焼き飯でいいか。
では、人生二度目の料理、始めます。
まずは、ハム、玉ねき、ピーマンをみじん切りに。
シュカカカカカカカカッ!
「なんて包丁さばき! 抜群の安定感! かつ目にマナを集中させないと見えないくらい高速だ! マジで素人か! トレミナ!」
大袈裟だよ、キルテナ。
次に、大きめのフライパンに油を引いて火炎板に……、もうちょっと火力がほしいかな。強火で一気に仕上げた方が美味しいと思うんだよね。
どうしよう。火霊を操れる四年生呼んでこようか。
待てよ、確か……。
「キルテナ、レゼイユ団長と戦ってる時、前脚に炎纏ってなかった?」
「ああ、〈火の爪〉だ」
「じゃあ、これの火力、ちょっと上げられる?」
「造作もない。神の技を見せてやろう」
言うことがいちいちうざいけど、お願い。
彼女が手をかざすと、火炎板の火が一回り大きくなった。
言霊もなしに。やっぱり神技はすごく応用が利くね。
改めてフライパンを火炎板に乗せ、順番に材料を投入。
短時間で仕上げに掛かる。
ジャッ! ジャッ! ジャッ! ジャッ! ジャッ!
「なんてフライパンさばき! 米が宙を舞っている!」
だから大袈裟だって、キルテナ。普通に炒めてるだけだよ。
味付けは、鳥ガラスープの素、鰹だしの素、醤油とお酒を少々、すりおろしニンニク、最後に塩で調整。
完成っと。
どうぞ、召し上がれ。
「うまいっ! 米はパラパラでありながらも内部にしっかり水分を閉じこめている! 味付けも絶妙! これは金の取れる焼き飯だ! いや! いくら払っても食べられない焼き飯だ!」
本当に大袈裟なんだから。と私も一口味見。
うん、なかなかの出来だね。
キルテナは空になった皿を掲げた。
「トレミナ! お前は神か!」
神はあなただよ。おかわりね。
夢中で焼き飯をかきこむ少女を見て、ふと。
「キルテナ、コーネルキアの守護神獣になる気になった?」
「……む、無理だ。どれだけ焼き飯を盛られようと、無理だ……」
結構、揺らいでるよね?
キルテナはちょっとウザゴンです。
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