72 この世界と世界樹から来た竜
私はキルテナさんを連れて寮の自室に戻ってきた。
「この部屋は私ともう一人で使っているんですけど、今はいないからそっちのベッドで寝てくれていいですよ」
セファリスはもう二週間も帰ってこない。
ジル先生によれば、今はドラグセンにいるらしい。騎士になって早々、ハードな任務に就いているようだ。いや、訓練だっけ?
何にしても、その内強くなって戻ってくるだろう。
ベッドに座ったキルテナさんは、確認するように布団に手を沈めていた。
「やはりこの国の民は皆、こんなにいい暮らしをしているのか……」
「ドラグセンってあまり豊かじゃないんですか? 大国なのに」
「大国なのは軍事力ゆえだ。財政は非常に苦しい状況にある。だからコーネルキアの経済力が喉から手が出るほどほしいんだ。一方で、次々に新たなものを生み出すこの国の技術を警戒もしている。だが、いつまでもそう慎重にばかりなっていられないだろう」
「戦争は避けられないんですね。キルテナさん、コーネルキアの守護神獣になってくださいよ」
「……無理だ。絶対に負けると分かっている側につくことなんてできない」
ドラグセンには国を統べる五竜という恐ろしく強い神獣達がいるそうだ。かの国の軍事力とは、この五頭の戦闘力に他ならない。
それ以下のドラゴンは、彼らの力に引かれて群がっているだけなんだって。
「キルテナさんも群がっている一員なんですか?」
「し! 仕方ないだろ! 去年外界に出てきたばかりなんだ! 他においてくれる所なんて……」
同族の大先輩を頼ったというわけか。
出てきたばかりってことは、彼女は結構若いドラゴンなのかな? 人型も子供だし。
「キルテナさん、実年齢を教えてもらっていいです?」
「いいぞ。十一歳だ」
「いえ、実年齢ですよ?」
「だから、十一歳だ」
……そんなに若い守護神獣、聞いたことない。というより、その若さで守護神獣になれるわけがない。
こう思うのにはちゃんと理由がある。
「つまり、十歳で修羅の森を抜けてきたということですか?」
尋ねると、キルテナさんは初めて得意げな表情を見せた。
「私は竜族の最強種【世界樹竜】の生まれで、さらに神童と謳われた逸材だからな。五、六回死にかけたが、無事あの地獄の森を突破した!」
あ、割りとギリギリだったんですね。
順番に、まずはこの世界のことから説明するね。
私達のいる大陸には、中央に巨大な森が広がっている。神獣の森と呼ばれ、その中心にあるのが世界樹だ。
世界樹は高さ一万メートル以上ある大樹で、この半径約千キロは神獣達が子育てする保護区になっているらしい。
保護区の外側約千五百キロに渡って続くのが、世界で最も危険な超巨大ドーナツ地帯、修羅の森になる。暮らすのは保護区出身の神獣達で、齢数百歳の化け物がうようよと。弱肉強食の、まさに修羅の世界だ。
保護区を出た若い神獣は、身を潜めて生き残るのが精一杯。
まして千五百キロにも及ぶ旅なんてできるはずがない。
ギリギリでも何でも突破したんだから、キルテナさんが神童と呼ばれていたのは本当かも。
ただ、彼女はどこかコルルカ先輩に似ている。見栄を張るタイプってことだ。
たぶん死にかけたのは五、六回どころじゃない。その倍、いや、五倍くらい命の危機に瀕したはず。
ちなみに、修羅の森の外縁に広がるのが野良の森だよ。野良神達はここで生まれ、その外側、人間の世界にちょっかいを出してくる。
なので、守護神獣になるのは、保護区出身で修羅の森を抜けてきた神獣なのが一般的。黒白狼達みたいに例外もあるようだけどね。
まとめると、大陸中央には、世界樹、保護区、修羅の森、野良の森、からなる神獣の森が広がっていて、その外に人間が沢山の国を作っているということ。
コーネルキアは北西の位置にあるよ。
世界に思いを馳せていると、キルテナさんが「なあ」と。
「トレミナの実年齢も教えてくれ。どんぐりみたいで小さいから八歳くらいじゃないか? 当たってるだろ?」
「私には実年齢しかありませんし、どんぐりでもありません。キルテナさんと同じ十一歳ですよ」
「本当か。なんだ、じゃあ敬語使わなくていいよ。名前も呼び捨てで頼む」
「そうするよ、キルテナ。何だか長い付き合いになりそうな気がするし」
ようやく世界の説明ができました。
大陸はユーラシア大陸よりもう少し大きいくらい。
で、もう少し丸みがあります。
コーネルキアは大体ヨーロッパあたりに。
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