7 学年末トーナメント 開幕
学年末トーナメント、当日。
演習場のロッカールームは緊迫した空気に包まれている。生徒間で散る火花。また、学年順位の上位者は厳しいマークの対象でもあった。
私もビシバシ周囲からの視線を感じる。
と、それらとはまた別の視線が。
物陰からジル先生が手招きで呼んでいた。
「今日はいつもの手合わせよりマナの量を増やしなさい。相手の二割増しです」
「今までずっと抑えろと言っておいて、どういうことです?」
「こういう大舞台では皆張り切ります。マナの質が高まるんですよ」
「そうなんですね。でも私も張り切れば互角では?」
「断言できますよ。あなたは絶対に張り切らない。代わりに逆もないでしょうが。そうそう、大舞台が相手に逆の作用をした場合はきちんと対応するように。さもないと、あなたは人殺しに」
それはもういいです。
でも、逆って何? と思いつつ、長い通路を歩く。
試合が行われる闘技場は第一から第十まであり、一位の私は勝ち上がればずっと第一闘技場を使うことになる。
係員の案内に従って定刻通り会場に入ると、中は想像以上に広かった。すり鉢状の観客席に囲まれる形で闘技スペースがあるね。
視線を一身に浴びながらぐるりと見回す。
結構人が多い。
関係者だけの観覧って話だから、騎士の人達かな。
あ、リズテレス姫だ。
一試合目から見にきてくれるとは思わなかったよ。
これは私も張り切らないと。
ジル先生、私は絶対に張り切らないなんて。
私だってその気になれば……、あれ? どうやればいいんだろ?
まあいいか。
私、頑張るぞ。
よし、張り切った。
人生初の張り切りが済むと、ちょうど向かいの扉が開いた。
対戦相手は男性。
十代半ばだろうけど、体格はもう大人とほとんど変わらない。何度か学園で見掛けた記憶がある。名前までは知らなかった。
あ、私、組み合わせ表見てない。
それよりこの人……。
男性は見て取れるほどに緊張でガチガチだった。
さらに、彼の纏っているマナもどこか弱々しい。
「では……、始め!」
試合開始を告げる審判員の合図で、同時に駆け出す。
まず盾で相手の木剣を受けてみた。
やっぱりだ、マナの質が下がってる。
これが逆ってことか。きちんと対応しないと。
そのまま盾で押し返し、スッと彼の懐に。
木剣は使わず、素手で腹を突いて気絶させた。
一瞬で勝負がつくと、観客からは「おお」と感心したような歓声。
え? 今のでそんなに沸く?
わざわざ見にきた試合が一瞬で終わったのに?
そういえば、ジル先生が言ってたっけ。観客は皆、錬気法の修練者だから、玄人好みの試合が評価されるって。
えーっと、リズテレス姫は、
あ、立ち上がって拍手してくれてる……。
お願いですからやめてください。次期女王がそんなことしちゃうと……、
ほら、次々に腰を上げて、ああ、もう――。
五秒の試合で、観客総立ちのスタンディングオベーションをもらった。
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