68 トレミナ先生の実力
エレオラさんの武器はナックルだ。
両手の拳から小手部分まで黒煌合金のカバーで覆われている。どうやら盾の役割も果たしているみたい。
彼女は私に向かってファイティングポーズをとる。
「どうせなら技能ありの勝負にしてくれない? そっちのが燃える」
「いいですよ。その代わり、私も〈闘〉で戦いますね」
「え……、やっぱいい。やめとく」
「いいじゃないですか、そのままで相手してあげなさい。トレミナ先生の実力を示す良い機会です」
ジル先生、面白がっていますね。
近頃やたらと私で遊んでいませんか?
なんて楽しそうな顔、……ん?
先生は素の表情に変わり、「ただし」と。
分かってますよ……。〈トレミナボールⅡ〉は投げません。投げるわけないでしょう。普通の〈トレミナボール〉だって危ないのに。
でも、他の技能なら使ってもいいかな。
「分かりました。その条件で手合わせしましょう」
「っしゃ! 燃えるー!」
エレオラさんは、アタック、ガード、スピードのゲインを発動。
……私がまだ習っていないのは知っているはずなのに全強化とは。
あなた、プライドないのですか?
「実力とやらを見せてみな! 試合開始だ!」
言うが早く距離を詰めてきたエレオラさん。
繰り出される拳や蹴りを、かわし、盾で防ぐ。
マナの量は一緒なので、あちらの強化分、私の方が苦しい状況にある。だから、マナを素早く移動させることで補っているよ。
剣を振り始めてからインパクトまでの間に、マナを防御仕様から攻撃仕様へ。
ガキィィン!
両手でガードしたエレオラさんの体を一メートルほど弾き飛ばした。
観戦中の生徒達から「おお……」と声が。
「ちっ! さすがだトレミナ先生! だてに先生やってないな!」
うん、ついさっきなったばかりだけどね。
チンピラ女子はさらに後方へと跳び退いた。
「雷霊よ、アタシの体に宿れ! 〈サンダーアーツ〉!」
ほう、彼女も全身を覆う技を。最近流行ってるのかな。
実際、理にも適っているんだけど。
近接戦闘タイプのエレオラさんの場合、攻防一体で役立つから。
再び突進してきたエレオラさんの拳を盾で受ける。
ビリビリ痺れた。
すかさず剣で反撃。手甲で止められる。
またビリビリ痺れた。
付き合ってられません。接近戦はここまでです。
パンチを盾で防ぎ、そのまま強く押し返す。
体勢が崩れた彼女の懐にスッと入る。斜め上から剣を振り下ろした。
「ぐああぁ――――っ!」
茶髪の不良娘、大地に伏す。
が、すぐに起き上がった。
まあ、今のはそれほどマナを込めてないので。接近戦では私に分があると伝われば充分。
「このアタシが近接で全く敵わないなんて、さすがトレミナ先生だよ……。だったらこれならどうだ! 雷霊よ! アタシの拳に宿れ!」
おや? 今度も雷属性?
「食らえ! 〈爆裂雷撃連射パンチ〉!」
戦技なのに大声で叫んだ。そういえば、さっきの〈サンダーアーツ〉も戦技だね。私は人の趣味をとやかく言わないよ。
「オラオラオラオラオラ――――ッ!」
エレオラさんは右手で高速ジャブ。
雷の弾丸が私に向かって次々飛んでくる。
これ、たぶん彼女のオリジナル技だと思う。ネーミングがあれだし。
けどなかなかの威力だ。おそらくエレオラさんは一属性しか取ってないタイプ。その分、完成度を高めているんだろう。
あと、彼女の特性なのか、攻撃の一瞬だけマナの質が上がる。気合を込めてる、というやつかな?
この辺りが学年一位の秘訣に違いない。
同級生の人達では、彼女の技を凌ぐのは難しいはず。
でも、まだ改善の余地はある。
盾で防御しつつ、私は剣にマナを集める。
そして、タイミングを見計らって放った。
〈オーラスラッシュ〉。
武器を用いるだけで仕組みは〈トレミナボール〉と同じなので、できるかなとやってみたら、できたよ。ただし、マナは抑え目。
「ぐああぁぁ――――――っ!」
茶髪の不良娘、再度大地に伏す。
剣を収めた私は彼女の前で屈んだ。
「今の爆裂なんとか、結構隙間がありましたよ。クランツ先輩の似た技を受けましたけど、あちらは一発一発しっかり狙ってきていました。雑になってはいけません。学年一位の自覚を持ってください」
「……はい、トレミナ先生。精進します……」
たぶんトレミナはもう学年末トーナメントには出場しません。
審判員をしているかも。
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