67 トレミナ先生
いよいよ今日から新たな一年が始まる。
騎士としても、学生としても、だ。
まず騎士としての話から。
コーネガルデ騎士団にとっても今日は大きな節目の日。
学園を卒業した約八百人が加わり、三千人を超える規模になる。当然ながら、全員が基礎からしっかり学んだマナの使い手。
リズテレス姫の精鋭部隊構想が着々と進行中なんだけど、ちょっとありえない状態になりつつある。
通常、コーネルキアのような小国では、マナを習得しているのは親衛隊なんかの十人程度なんだよね。大国でも百人いるかどうか。
つまり、軍隊としてはもう世界最強と言っていいと思う。
神々と戦うんだから、これくらいでちょうどいいのかもしれない。
そんな最強の軍隊に加入する約八百人は、姫様から一人一人頭に剣を乗せてもらう。何時間も掛かるけど、一生の思い出なので全員やってあげるらしい。
私の叙任式、手早く済まされたわけじゃなく、あれがノーマルだったようだ。
結局、一番気の毒なのはセファリスということ。
その姉は例によって一昨日さらわれてから帰ってきていない。
何となく、今回は前より長い訓練になりそうな気がするよ。お姉ちゃんには新たな一年も節目もあったものじゃない。
ちなみに、私は今日の叙任式には出なくていいと言われている。
騎士の仕事も要請があった時に動けばいいそうなので、普段は学生として過ごすことにした。
というわけで、ここからは学生としての話。
「本日からこちらのトレミナ先生が指導員に加わります。皆さんご存知でしょうが、トレミナ先生はナンバーズ。敬意を持って遠慮なく相手してもらいなさい」
ジル先生は四年生達を前に、三年生の私をそう紹介した。
……なぜ、こんなことになったのか。
思い返してみても全く分からない。
今朝、普通に登校し、クラス割りを見て新しい教室に入った。
すると、ものの数分でジル先生が呼びにきて、言われるまま学園所有の黒煌合金武具を装備。そして、ついてくるように言われ、現在に至る。
「先生、どういうことですか」
「トレミナさんはこの学園で私に次ぐ実力者なのですから、こちら側に立つのは当然でしょう。座学や技能、精霊に関しては私がマンツーマンで教えてあげますから、一緒に実技の指導に当たってください」
「だったら、あのクラス割りは何です?」
「籍だけ置く感じですね。それにあなた、教えるのは結構向いていますよ」
そうでしょうか。まあ、やるだけやってみます。
四年生の実技では、通常の訓練用武具(鉄や木素材)を使った授業の他、騎士と同じ姿で手合わせをする授業もある。生徒達も私同様、学園の武具を借りて身につけていた。
ジル先生や他の教員達が生徒の相手を始めたので、真似して私もやってみる。
最初の人は男性。見た目的にはもう騎士と変わらない体格だ。四年だから大体皆そうなんだけど。
あっちと同じマナ量にして打ち合い開始。
やはりと言うべきか、学年末トーナメント(四年生の方)で戦った人達と比べると、マナの操作技術がつたない。
具体的に言ってあげた方が分かりやすいかな?
「今の攻撃から防御に移るところ、もう少し判断を早くした方がいいです。
同じタイミングで反撃しますからやってみてください。
――そう、――そうです。
いいですよ。この調子でいきましょう。
――――。
あ、その攻撃は踏みこむ足にもっとマナを回した方がいいです。
気持ちさっきの五割増しで。
――はい、いいですね。
断然重くなりましたよ。この調子です」
手合わせが済むと、私の周りには人だかりが。
皆さん、どうしたんですか。
「トレミナ先生! 次は私と!」
「いや! 俺とお願いします! トレミナ先生!」
遥かに年上の人達から先生と呼ばれるのは変な気分。
しかし、この状況はいったい……。
「皆、分かっているんですよ。トレミナさんとの打ち合いが上達の近道だと。冷静に考えながら戦うあなたのスタイルから、絶対に教えるのも上手だと思っていましたよ」
なぜか誇らしげにジル先生。
と人の壁がサーッと左右に分かれた。
このマナは覚えがある。学年一位の彼女だ。
「へへ、アタシにも一つ稽古つけてくれよ、トレミナ先生」
授業にかこつけて教師をボコボコにしようって魂胆の不良。
にしか見えないんですが、エレオラさん。
果たして、ヤンキーに目をつけられたトレミナ先生の運命は。
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